英雄伝説~灰の軌跡~
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外伝~メンフィル・エレボニア戦争の和解調印式~ 第4話
~グランセル城・会議室~
「次に第五条についての詳細な説明をお願いします、シルヴァン陛下。」
「了解した。――――遠回しな言い方は止めて、ハッキリ言わせてもらう。今回のエレボニアの内戦、このままでは最終的に現在も抵抗をしている正規軍が全て制圧され、エレボニアの覇権を貴族連合軍が握り、エレボニア皇家は貴族連合軍の大義名分として利用され続けるだけの存在になるとメンフィルは判断している。現に内戦勃発から既に1ヵ月以上経っている状況で残存している正規軍は反攻作戦に移る所か貴族連合軍を迎撃する事すらにも限界が来ている状態で、皇族に関してはオリヴァルト皇子とアルフィン皇女を除けば全員貴族連合軍によって幽閉されている。」
「そ、それは…………」
「…………………」
クローディア姫の問いかけに対して答えたシルヴァンの推測を聞いたダヴィル大使は複雑そうな表情で答えを濁し、アルフィン皇女は辛そうな表情で黙り込んでいた。
「そしてエレボニアの覇権を貴族連合軍が握る事になれば、エレボニア帝国は今回の和解調印式で我々が調印する予定の和解条約書の無効を主張し、条約内容を一切守らない所か、今回の戦争によって受けた被害に対する”報復”として我が国との戦争を続行する事は目に見えている。よって、我等メンフィルとしてもエレボニアの内戦は正規軍―――いや、エレボニア皇家に勝利してもらう必要がある為、反乱軍である貴族連合軍を制圧できる力も無いエレボニア皇家に代わって内戦の終結方法をメンフィルに委ねてもらう必要がある為第五条の内容となった。」
「……つまり第五条の内容を直接的な言い方にするとエレボニア帝国の内戦にメンフィル帝国が介入する事を了承しろと言う事でしょうか?」
シルヴァンの説明を聞いてある事に気づいたエルナンはシルヴァンに確認し
「簡単に言えばそうなるな。」
「なっ!?シルヴァン陛下!お言葉ですが、他国の内戦に介入するなんて一種の”内政干渉”ではありませんか!」
「………今回の両帝国の間に起こった戦争で既に貴族連合軍に大打撃を与えたメンフィル帝国が内戦に介入すれば確実に貴族連合軍を制圧する事はできるでしょうが………内戦を終結させたとしてもエレボニア皇家―――いえ、エレボニア帝国の権威は地の底に落ちる事になるでしょうね………」
「そ、そんな………」
「シルヴァン陛下!確かに今は貴族連合軍の猛攻に対して正規軍や皇子殿下達は苦しい立場ではありますが、不幸中の幸いにも今回の貴国との戦争によって貴族連合軍は旗艦である”パンダグリュエル”を失った事に加えて”総参謀”のルーファス卿、そして”領邦軍の英雄”と称えられたオーレリア将軍を含めた領邦軍の精鋭部隊が戦死した事によって、貴族連合軍は大打撃を受けました。貴族連合軍が大打撃を受けた以上、内戦の状況も確実に変わり、皇子殿下達は大打撃を受けた事によってできた貴族連合軍の隙を逃さず、かつて”百日戦役”で劣勢だったリベール王国軍がメンフィル帝国が現れるまで”大陸最強”を誇っていたエレボニア軍を撃退したようにいつか必ず貴族連合軍を制圧すると信じております!ですから、どうか我が国の内戦への介入はご勘弁下さい……!」
エルナンの言葉にシルヴァンが同意するとクローディア姫は反論し、重々しい様子を纏って答えたアリシア女王の推測を聞いたアルフィン皇女は表情を青褪めさせ、ダヴィル大使は血相を変えて必死にシルヴァンに嘆願した。
「フン、逆に聞かせてもらうが現状のエレボニア皇家側のどこに勝ち目があるのだ?肝心のユーゲント皇帝と帝位継承権第一位を持つセドリック皇太子は幽閉の身、抵抗している正規軍は補給の関係等で抵抗する事すらも厳しくなりつつある状況、オリヴァルト皇子に直接協力している勢力は”光の剣匠”とB級正遊撃士が一名、そして一部の士官学院生達と教官のみと結社”身喰らう蛇”を含めた裏世界の使い手達も加勢している貴族連合軍に対して戦力があまりにも貧弱過ぎる。」
「確かにダヴィル大使の仰る通り貴族連合軍は我が国との戦争によって大打撃を受けましたが、オーレリア将軍同様”領邦軍の英雄”と称えられている”黒旋風”ウォレス・バルディアス准将は健在の上、単騎で正規軍を制圧する事ができる貴族連合軍の”切り札”――――”蒼の騎士”や”裏の協力者達”の半数はまだ健在ですよ。」
「それとダヴィル大使は”百日戦役のように”と口にしたが、あの戦争はそちらのリベールの守護神―――”剣聖”カシウス・ブライト准将が立案した反攻作戦によって戦局が大きく変化し、その結果リベール王国軍はエレボニア帝国軍を見事撃退する事ができ、リベールの滅亡を防ぐ事ができた。対して現状の内戦のエレボニア皇家側の状況を考えればカシウス准将のような勇将が存在するとは到底思えないな。」
「ぐっ…………」
「………………」
シルヴァンとセシリアの説明と結論に対して反論できないダヴィル大使は唸り声を上げ、アルフィン皇女は辛そうな表情で黙り込んでいた。
「……女王陛下、失礼を承知で申し上げますが発言の許可を頂いても構わないでしょうか?」
「カシウスさん……ええ、是非お願いします。」
その様子を見守っていたカシウスはアリシア女王に発言の許可を取った。
「……ありがとうございます。シルヴァン陛下、確かに12年前に起こった”百日戦役”は私が発案した作戦によって最終的にエレボニア帝国軍を撃退する事ができましたが、その作戦を考え、実行するまでに約2ヵ月はかかりました。それにエレボニア帝国軍を撃退できたのは私だけの力ではなく、リベールを愛する多くの勇士達の活躍によるものです。対してエレボニア帝国の内戦は勃発してからまだ1ヵ月しか経っておらず、エレボニア皇家側は”猛将”と名高いクレイグ中将やエレボニアで5本の指に入ると言われているアルゼイド子爵やヴァンダール中将も健在の上暗殺されたオズボーン宰相直属の優秀な部下達―――”鉄血の子供達”も健在で、”鉄血の子供達”も内戦を終結させる為にエレボニア皇家側に協力していると聞き及んでおります。ですから、エレボニア皇家側の敗北が濃厚と決めつけるにはまだ早計ではありませんか?」
「確かにカシウス准将の言っている事にも一理あるが、”百日戦役”でリベールがエレボニアを撃退できたのは”リベールという国が一致団結した”からだ。内戦は言葉通り国が分裂した事によって、起こった国内の戦争だ。加えて正規軍の大半はエレボニア皇家ではなく、”鉄血宰相”―――”革新派”が掌握していた。そんな状態でエレボニア皇家側が一致団結して、貴族連合軍を制圧できるとはとても思えないな。」
「そこに補足させて頂きますが、”百日戦役”にてカシウス准将が発案した作戦は戦争中であるにも関わらず当時警備飛行艇という”新兵器”を開発する事ができました。対して今回の内戦でエレボニア皇家側は”新兵器”を開発できるような余力がない事に加えて貴族連合軍側には警備飛行艇を開発したラッセル博士と並ぶ”三高弟”の一人であるシュミット博士が協力しているとの事です。戦力、士気に加えて技術面でも劣っているエレボニア皇家側が貴族連合軍に対する起死回生の発案をできるとは到底思えません。」
「それは……………」
「カシウスさん………」
(あ、あのカシウスさんでも反論できないなんて………)
(さすがにエレボニア皇家側の状況があまりにも悪すぎるから、先生がフォローできなくても仕方ないわ……)
シルヴァン達に意見をしたカシウスだったがシルヴァンとセシリアの正論に反論する事ができず、その様子をクローディア姫は心配そうな表情で見守り、信じられない表情をしているアネラスの小声の言葉にシェラザードは疲れた表情で答えた。
「……シルヴァン陛下、第五条の内容の一部――――『リィン・シュバルツァーに適した”騎神”を見つけた際はリィン・シュバルツァーに贈与する事を認める事』について七耀教会として質問があります。この”騎神”という存在は確か貴族連合軍の切り札である”蒼の騎士”と呼ばれている人形であり、その人形は”古代遺物”の可能性があると情報が入っているのですが………?」
「やはり聞いて来たか。それで?七耀教会は何が聞きたいのだ?」
カラント大司教の問いかけに対してシルヴァンは不敵な笑みを浮かべて問い返した。
「まずこの”リィン・シュバルツァーに適した騎神”という文についての詳細な説明をして頂きたいのですが。」
「言葉通りの意味だ。エレボニアとの戦争の最中に”騎神”の歴史を受け継ぐ一族の者に接触する機会があってな。その者の話によると”騎神”は”起動者”という存在がいなければ起動できず、そしてリィン・シュバルツァーがその”騎神”を動かす事ができる”起動者”の一人との事だ。」
「今回の戦争に色々な縁があるリィンさんが貴族連合軍の切り札である”騎神”という存在を動かせる事ができる存在だなんて………」
カラント大司教の質問に答えたシルヴァンの説明を聞いたクローディア姫は複雑そうな表情で呟いた。
「ちなみに”リィン・シュバルツァーに適した騎神”はエレボニアの代わりにエレボニアの内戦を終結させるエレボニアのメンフィルに対する”報酬”代わりだ。”騎神”は起動者がいなければ動かないただの巨大な鉄屑なのだから、内戦と今回の我が国との戦争によって疲弊したエレボニアとしても大した痛手ではないだろう?」
「そ、それは………」
「………………」
シルヴァンに問いかけられたダヴィル大使が答えを濁している中アルフィン皇女は複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「……シルヴァン陛下、メンフィル帝国はリィン・シュバルツァーさんが動かす事ができる”騎神”をどうするおつもりなのですか?」
「フッ、当然今後の新兵器開発の為に利用し、かつ”騎神”の起動者は次期クロイツェン州統括領主のリィンである為クロイツェン州の防衛力を高める兵器としても利用するつもりだ。」
「…………やはり”騎神”―――古代遺物を軍事利用するおつもりですか。シルヴァン陛下、古代遺物を利用する事は禁じられ、そして古代遺物を発見した際は七耀教会が回収するという”盟約”を各国家は結んでいます。まさかメンフィル帝国は”盟約”を破るおつもりですか?」
アリシア女王の質問に対して答えたシルヴァンの答えを聞いたカラント大司教は厳しい表情でシルヴァンに問いかけた。
「破るもなにも、その”盟約”とやらを結んでいる国家はリベールやエレボニアのような”ゼムリア大陸に存在する国家”。異世界の国家である我等メンフィルは七耀教会と”盟約”を結んでいないのですから、七耀教会にメンフィルが手に入れた古代遺物について意見する権利―――ましてや回収する権利はありませんよ?」
「………ッ……!」
セシリアの反論に対してカラント大司教は唇を噛みしめて厳しい表情でシルヴァン達を見つめていたが
「―――そもそも『”騎神”が古代遺物でない事を七耀教会が認めている』のだから、今更七耀教会が”騎神”についてどうこう言う権利等ない事が理解していないのか?」
「……七耀教会が”騎神”が古代遺物でない事を認めている………?それは一体どういう事ですか?」
シルヴァンの指摘を聞くと困惑の表情でシルヴァンに問いかけた。
「では逆に聞かせてもらうが…………七耀教会―――いや、”星杯騎士団”は何故貴族連合軍の切り札である”蒼の騎士”と呼ばれている”騎神”を回収、並びに”蒼の騎士”の”起動者”を抹殺する所かそれに類似した行動を一切しない?」
「!!そ、それは…………」
「”星杯騎士団”……?あの……その”星杯騎士団”とは一体どういうものなのでしょうか……?」
「御二方の口ぶりからすると七耀教会に属している組織のように聞こえますが………」
シルヴァンの指摘に目を見開いたカラント大司教が顔色を悪くして答えを濁している中シルヴァンの口から出たある言葉が気になったアルフィン皇女は不思議そうな表情で訊ね、ダヴィル大使は戸惑いの表情でシルヴァン達を見つめた。
「―――その様子だとどうやらさすがのオリヴァルト皇子もダヴィル大使はともかく、妹姫にも”星杯騎士団”の存在を教えていなかったようだな。セシリア、二人に”星杯騎士団”について軽く説明してやれ。」
「かしこまりました。―――”星杯騎士団”とは古代遺物の調査・回収を担当している七耀教会の”封聖省”に所属している組織でして。古代遺物の回収の際に古代遺物を隠し持って利用している者や古代遺物を狙っている者との戦闘の発生、そして古代遺物自身が危険物の可能性もある等様々な”荒事”が発生する事が考慮され、”星杯騎士団”に所属する神父、シスターは非公開ではありますが相当な凄腕―――最低でも正遊撃士クラスの使い手達が所属しているとの事です。」
「そ、そのような組織が七耀教会に………」
「!そ、そう言えばお兄様が王太女殿下達と共に巻き込まれた”影の国”事件で七耀教会の神父やシスターの方とも協力したというお話を聞いた事がありますが、もしかしてその神父の方達も”星杯騎士団”の方なのですか……?」
シルヴァンに促されたセシリアの説明を聞いたダヴィル大使が驚いている中ある事に気づいたアルフィン皇女は信じられない表情でクローディア姫に視線を向けて問いかけた。
「え、えっと……それは………」
アルフィン皇女の問いかけに対してクローディア姫はカラント大司教を気にしながら答えを濁したが
「………殿下の仰る通り”影の国”事件でオリヴァルト皇子殿下達が出会った神父達は”星杯騎士団”に所属する者達です。」
「カラント大司教………」
カラント大司教が疲れた表情で答え、カラント大司教の様子をユリア准佐は心配そうな表情で見つめていた。
「それともう一つ。”星杯騎士団”は古代遺物の調査・回収以外にも”特殊任務”を担当しています。恐らく”星杯騎士団”に相当な使い手達が求められる理由はどちらかというとその”特殊任務”の為かと思われます。」
「”特殊任務”、ですか………?」
「!ま、まさか………!」
「シルヴァン陛下、セシリア将軍閣下!その”特殊任務”の内容を皇女殿下達にお教えするのはどうかご勘弁下さい……!」
セシリアの説明にアルフィン皇女が不思議そうな表情をしている中セシリアが話そうとしている内容に気づいたクローディア姫は血相を変え、カラント大司教は表情を青褪めさせてシルヴァン達に嘆願した。
「その”特殊任務”の内容をアルフィン皇女達も知らなければ、話が進まないのだが?そもそも二人は一国の大使と皇族なのだから本来なら、”星杯騎士団”について知る権利があるだろうが。」
「そ、それは………」
シルヴァンの正論を聞くと反論できず、黙り込んだ。
「説明を続けます。その”特殊任務”とは”後戻りできない大罪人”――――七耀教会が”外法認定”した人物の殺害です。」
「何ですと!?」
「ま、まさか七耀教会がそんな事をしていたなんて……!―――!も、もしかして女王陛下やお父様もご存知なのでしょうか……!?」
セシリアの答えを聞いたダヴィル大使は驚きの声を上げ、信じられない表情をしていたアルフィン皇女はある事に気づくとアリシア女王を見つめた。
「…………ええ。七耀教会と”盟約”を結んでいる国家の元首や国王は当然”星杯騎士団”の存在や彼らがどのような”任務”を行っているのかも存じております。私の跡継ぎであるクローディアにも”異変”や”影の国”の件がなければ、いつか私の口から教えるつもりでした。」
「お祖母様………」
「陛下……」
「………………」
アルフィン皇女の質問に重々しい様子を纏って答えたアリシア女王の様子をクローディア姫とユリア准佐は辛そうな表情で見つめ、カシウスは重々しい様子を纏って目を伏せて黙り込んでいた。
「―――話を騎神の件について戻す。貴族連合軍は言うまでもなく反乱軍。加えて”蒼の騎士”の”起動者”は”帝国解放戦線”のリーダーだ。」
「なっ!?」
「ええっ!?て、”帝国解放戦線”というのは”西ゼムリア通商会議”を襲撃したエレボニア側のテロリストではありませんか……!そのテロリストのリーダーがリィンさんと同じその”騎神”という存在の起動者の一人なのですか!?」
シルヴァンの説明を聞き、ユリア准佐と共に驚いたクローディア姫は信じられない表情でシルヴァン達に訊ねた。
「はい。なお、余談になりますが帝国解放戦線リーダー―――クロウ・アームブラストはオリヴァルト皇子殿下がトールズ士官学院に設立した特科クラス”Ⅶ組”の一員でもあったとの事です。」
「ええっ!?そ、それは本当なのですか!?」
「……………はい。」
セシリアの説明を聞いて驚いたクローディア姫に視線を向けられたアルフィン皇女は辛そうな表情で頷いた。
「”蒼の騎士”を現在利用している起動者は内戦を引き起こした反乱軍に所属し、更にはエレボニア全土でテロ活動を行った事に飽き足らず”西ゼムリア通商会議”でもテロを起こすという国際犯罪を行ったテロリスト達のリーダーであり、その者は現在もなお反乱軍の勝利の為に”蒼の騎士”―――”騎神”を軍事利用し続けている。仮に”騎神”が古代遺物であるとしても、その”騎神”を現在悪用している起動者はどう考えても”外法認定”されて当然の存在だと思われるのだが?」
「そ、それは…………」
「もし七耀教会が”騎神”が古代遺物であると主張するのであれば、”星杯騎士団”がまずすべき事は現在も騎神を悪用し続けている起動者を抹殺し、”蒼の騎士”を回収並びに封印する事だが、”星杯騎士団”は今までそれを行わなかったのだから、七耀教会は”騎神”は古代遺物ではないと認めている―――違うか?」
「…………………陛下の仰る通りです。」
「カラント大司教………」
(”星杯騎士団”の件を口にしたのは、今回の件で”封聖省”を煽り、”星杯騎士団”に”帝国解放戦線”のリーダーを抹殺させる為か………!)
シルヴァンの正論に反論できないカラント大司教は頭を項垂れさせ、その様子をユリア准佐が心配そうな表情で見つめている中シルヴァン達メンフィル帝国の真意に気づいたカシウスは厳しい表情でシルヴァン達を見つめていた。
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