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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第88話 魔界衆との戦い(その参)

十兵衛の網傘はすでにぼろぼろになっていた。が、それでも、網傘をかぶったままで魔界衆4人を倒したのだから、この男の強さは、脅威である。
 三階に到着した十兵衛は、美しく女性と見間違えるような2人が並んで仁王立ちしている姿をみた。
「十兵衛先生、ここから先は通しません」
 白い着流しの着物を着た美青年が言った。
「次はお主か、坊太郎」
 十兵衛は、田宮を見てため息をついた。そして、坊太郎の横にいる少年を見た。
「して、お主は?」
 十兵衛は、少年に問いかけた。
 その少年は、十兵衛が見たことがない服装だった。それは、水色に白い山のだんだら模様の上着だった。
「私は、元新撰組の沖田総司と申すものです。剣豪・柳生十兵衛と死合えるが出来ると思うと嬉しくて血が泡立つ思いです」
 沖田は少年らしい屈託のない笑みを浮かべた。その瞬間、陽炎のように沖田の姿が揺らめいたと思ったら、すでに十兵衛の目の前に現れた。
(速い!!)
 十兵衛も素早く刀を抜いた。が、そこから再び素早い突きの攻撃が十兵衛を襲う。
「ぐt!!」
 なんとか沖田の攻撃をしのいだが、着物と薄皮一枚の傷を数か所受けた。と同時に田宮もまた十兵衛へ向かって走り出そうとしていた。
 十兵衛は、それを見るや被っていた網傘を田宮に投げつけた。
「無駄です」
 田宮は、その網傘を粉みじんに切り裂いた。
「田宮殿、気をつけろ!!」
 沖田の怒鳴り声が聞こえた。それは、十兵衛が網傘を投げると同時に田宮に向かって走り出していたからだった。
 居合の剣は、一撃必殺。ひとたび鞘から剣を抜いたのなら相手を必ず仕留めなければならない。だが、田宮の剣は疾風のように速く、一度抜けば何発斬ることができる。が、十兵衛は、鞘に刀を収めるところに隙があると考えた。
 それゆえの虚を突いた攻撃だった。が、鈍い金属音を残しただけで田宮を倒すことが出来なかった。
「さすがは、坊太郎。先ざしの小立で居合を行い、我が剣の衝撃を抑えたか」
 十兵衛は、つばぜり合いの状態でにやりと笑った。
「フフ。先生こそ、我が突撃と居合を網傘で止めるとは流石です」
 田宮も同じようににやりと微笑んだ。
「ですが、先生。敵は私だけではありませんよ」
(しまった。もう一人いたな)
 十兵衛は田宮の言葉で焦りを感じた。なぜなら、沖田と言った少年の突撃の速さと突きの速さは今もって味わったからだ。
 気づいた時には、すでに沖田は突撃してきていた。
(やられる!!)
 さすがの十兵衛も覚悟を決めた。が、その時、十兵衛の背後で刀が交わる金属音が聞こえた。
(どうやら助かったようだ)
 十兵衛の背中に久しぶりに感じる冷たい汗が流れた。
「誰だ?貴様は?」
 小立に力を込めて十兵衛の剣をはじき間合いを取った田宮が怒りの声をあげた。
 その姿は沖田と同じくだんだら模様の衣装を羽織っていた。
「まさか、、、、、、」
 沖田もまたその姿に驚きを感じていた。
「元新撰組副長・土方歳三。縁あって柳生十兵衛三厳殿に助太刀致す」
 生前、柳生家から典太を借りて使っていたが、今は自身の愛用を手に沖田の攻撃をすべて受けきっていた。
「まさか、土方さんも転生してくるとはね。しかも、再び相交えることができるなんて嬉しいかぎりです」
 沖田は、にやりと笑った。
「いいや、お前の相手は俺ではないよ、総司」
 それを聞いていた十兵衛は自らに傷を負わせた沖田という少年と死合いたいと思っていた心境を見破られたように目を大きく見開いた後、にやりと土方に笑ってみせた。
「な、十兵衛先生は私が倒すのだ」
 田宮は土方と名乗った男にいった。
「いいや、坊太郎。俺はこの沖田という少年と死合う。斬られたままでは俺の面子が立たん」
「そうですね。どうやら田宮殿は、この土方が怖いらしいようです」
 十兵衛の言葉を継いで土方は、皮肉めいた笑みを浮かべ言った。
「調子に乗るなよ、小僧!!この私がどこの馬の骨からわからん者にやられる訳なかろうが」
 田宮の目が怒りで吊り上っている。
「俺からみれば田宮殿の方が小僧にみえますがね」
(大胆不敵。かつての剣豪・田宮坊太郎を小僧扱いするとはな)
 十兵衛は田宮を挑発し続ける土方歳三という男の度胸に感心した。
「き、きさま!!」
 田宮は刀に手をかけ、間合いを詰めようと走りだす体制をとった。が、田宮より先に土方が走り出した。
「ばかめ!!自ら間合いに入ってくるとは」
 田宮の居合は、まさに疾風。一度抜けば十兵衛の網傘と同様粉みじんに切り裂かれるだろう。が、抜くことが出来なかった。
 田宮流抜刀術の特徴は、通常の刀の柄の長さより3寸長い。
 そこに利点があり、弱点でもあった。
 土方は、そこを突いた。柄の先端部を足で抑え、抜けないようにしたのだった。
 これには、田宮も驚かざるを得なかった。そして、その一瞬を逃さず、土方は田宮の身で腕を切り落とすと大量の血が田宮の腕から噴き出した。と同時に土方は田宮を脳天から斬り伏せた。
 田宮は、信じられないといった風に目を見開き前のめりに倒れこんだ。
「はは、やるな」
 十兵衛はその決着を見るやにやりと微笑んだ。
「さすが、土方さんだ。では、こちらもやりあいますか、野獣十兵衛殿」
 沖田は低い体勢に構え刀を地上と水平に構えた。が、その瞬間、身体が動けなくなっていた。
 それは、柳生十兵衛という男の強すぎる剣気というもののせいだった。
 十兵衛が発する気によって、沖田の目にはものすごく巨大な姿にみえた。
  確かに沖田は、今まで人斬りと言われた者達や討幕の志士たちと対峙し、負けることなく切り倒して来た。
 土佐の岡田以蔵、薩摩の中村半次郎両名ですら、沖田に出くわしたら逃げろと言わしめるほどであった。が、十兵衛のような強烈で圧倒的な剣気をもった者は、いなかった。
 だから、その剣気に充あてられたとき、沖田総司ともあろう者もまた恐怖し、ひるんみ固まってしまったのだった。
 気づいた時には、すでに十兵衛は目の前にいて、後ろへ飛びかわそうとしたが、時すでに遅かった。
 沖田の体は、十兵衛に切り刻まれ、ばらばらにされて決着がついた。
(あの、総司を一瞬のうちに切り倒すとは、さすが柳生家嫡男・柳生十兵衛三厳殿)
 土方の背中に冷たい汗が流れていた。
 
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