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ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜《修正版》

作者:カエサル
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SAO編ーアインクラッドー
  10.ぶつかり合う特異能力

 

 二〇二四年十月十九日 第五十五層・グランザム

「キリト君。欲しければ剣で二刀流で奪いたまえ。わたしと戦い勝てば、アスナ君を連れて行くが良い。だが、負けたら.……君が血盟騎士団入るのだ」

「いいでしょう。剣で語れというのなら臨むところです。デュエルで決着をつけましょう!」


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 二〇二四年十月二十日 第七十五層・コリニア

「もう〜! バカバカバカなんであんなこと言うのよ!」

 アスナが怒っている。だが、それはどこかキリトに怒っているためか可愛らしい。
 本当、あのときから考えたらありえない。

「悪かった。悪かったって、つい売り言葉に買い言葉で」

 キリトは申し訳なさそうに謝っているが今回に関してはかなりまずい状況だ。
 キリトがヒースクリフと戦う理由は、アスナを賭けて戦うらしい。勝てばアスナとのパーティーが続行、負ければキリトが血盟騎士団に入る、それが条件だ。
 どんなラブコメだよ、とツッコミたくなる展開だ。
 父親が娘はやらんと言ってるのと変わらない、と内心思っているが口に出せばアスナに何を言われるかわからないので言わないでおこう。
 だが、どこか引っかかる点がある。
 まるでキリトが二刀流を使うタイミングを見計らっていたかのようだ。

「こないだ、キリト君の二刀流とシュウ君の手刀を見た時は、別次元の強さだって思った。それは団長のユニークスキルだって」

「まぁ、俺も何度か真近で見たよ」

「確かにあのユニークスキルは、俺たちのとは、また系統が違うな」

 血盟騎士団団長、ヒースクリフが持つユニークスキル《神聖剣》。攻防自在の剣技。その攻撃の強さもだが特に防御力が圧倒的すぎる。

「団長のHPバーがイエローゾーンに陥ったところを見たものはいないわ。あの無敵っぷりはゲームバランスを超えてるよ」

 イエローゾーンに突入したところを見たところがない時点で確かにゲームバランスがおかしくなってしまう。それこそ茅場晶彦が選んだ最強のプレイヤーといっても過言ではないはずだ。

「どうするの? 負けたら私がお休みするどころか、キリト君が血盟騎士団に入らなきゃならないんだよ」

「まぁ、簡単に負ける気はないさ」

 キリトの言葉に迷いは感じられなかった。
 確かに相手がSAO内で最強のクラスのプレイヤーだ。
 しかし、それはキリトも同じことだ。
 キリトは立ち上がるとスタジアムに向けて歩き出した。

「頑張ってね、キリト君」

「負けんじゃねぇぞ」


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 スタジアムを包むのはボルテージはこれでもかというくらいに最高潮だった。満員のスタジアム。ローマ帝政期に造られた円形闘技場を思わせる形状をしたコロッセオ。その中央に立つ赤と白をベースにした防具を纏うプレイヤー。

「すまなかったな、キリト君。こんなことになっているとは知らなかった」

「ギャラはもらいますよ」

「いや、君は試合後は、我がギルドの団員だ。任務扱いにさせてもらおう」

 ヒースクリフの絶対的な自信。

【デュエル申請受託しますか?】の文字が空中に浮かび、それを了承し、初撃決着モードを選択。
 空中に浮かぶ、六十の文字、それが刻々と減っていく。それが0になれば、デュエルが開始される。
 キリトが背中の二本の剣を抜き去るとほぼ同時にヒースクリフも十字の盾に納められる剣を引き抜く。
 静寂の中、開始時間を示すタイマーの音だけが鳴り響く。

 そして……ついにその時がくる。
 《二刀流》対《神聖剣》の戦いが。
 ……タイマーが0となりSTARTの文字が浮かび上がる。

 開始と同時に仕掛けたのはキリトだった。
 地を蹴り、一気に間合いを詰める。
 ───二刀流突撃技《ダブルサーキュラー》
 右の剣が盾に拒まれる。
 だが、それにコンマ1秒遅れで左の剣がヒースクリフの身体へと襲いかかる。
 だが、それを読んでいたかのように左の剣も弾く。
 その後も連続攻撃を繰り出すも意図も簡単にこいつはガードしてくる。盾で視界が封じられた一瞬、剣が姿を現し、襲いかかってくる。二本の剣でそれを防ぎ後ろに飛ぶ。
 続いてヒースクリフが仕掛けてくる。
 剣からの攻撃予測して意識を集中させる。
 だが、ヒースクリフは剣ではなく盾で殴打してくる。予想外の攻撃に反応しきれずキリトは吹き飛ばされる。
 これがユニークスキル《神聖剣》。攻防自在の剣技。ヒースクリフにとっては盾はただの防御のための道具ではないようだ。
 二本の刃で盾と剣を防ぎ、距離をとり、再び二刀流突撃技《ダブルサーキュラー》を放つ。
 だが、今度は盾でいとも簡単に受け流される。

「素晴らしい反応速度だな」

「そっちこそ、堅すぎるぜ」

 激しい打ち合い。二本の剣でヒースクリフめがけて攻撃を次々と放つも盾がそれを拒む。
 ───まだだ……まだ上がる!!
 激しい打ち合いの中でヒースクリフの顔から先ほどまで感じられた余裕が消えたように感じた。

「おりゃぁぁぁ!!!」

 《絶対防御》を誇るヒースクリフを超えるためには、単純な速さでは勝てない。システムによるアシストを受けた剣技でなければ超える事はできない。
 ───二刀流上位剣技《スターバースト・ストリーム》
 青眼の悪魔のHPを削りとった最も信頼する剣技だ。
 ヒースクリフの盾をエリュシデータとダークリパルサーの刃が連続で襲いかかる。
 いくら《絶対防御》といえど、十六連撃を完璧に防げるわけがないどこかで確実に隙が生まれる。
 ───そこをつけば、勝てる!!
 星屑の剣撃が絶対防御へと次々と打ち込まれる。連続攻撃の中、ついにチャンスが生まれる。ヒースクリフの盾が弾かれる。ついに盾とヒースクリフの間に空間が生まれる。
 その空間めがけて漆黒の刃を振り下ろす。
 だが、急に時が止まったような変な感覚を覚える。だが、それは動きが止まっただけではなかった。ヒースクリフの持つ盾が徐々に生まれた空間を埋めていく。
 ───なに!?
 次の瞬間、振り下ろされた剣は盾に防がれる。
 その瞬間、大技を放った技後硬直が身体を襲う。その隙をついてはヒースクリフの剣がキリトの脇腹を貫いた。

 空中に【WINNER ヒースクリフ TIME:1:31】の文字が浮かび上がる。

 スタジアムが歓声の包まれる。
 ヒースクリフの顔を見上げると勝者の表情ではなかった。まるで禁じ手を使って勝利したものの表情に見えた。


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「……キリトが負けた」

「これが団長の本気」

 初めて見たヒースクリフの本気にシュウとアスナはただ驚くことしかできなかった。
 だが、何かがおかしい。そんな言葉にし難い違和感がシュウの中にはあった。
 キリトは疲労しきった表情でスタジアムの内部へ戻ってくる。
 そして一言、

「シュウ……やつはなにかがおかしいぞ」

 そんな言葉を残して奥へと消えていった。
 直接戦ったキリトならシュウよりも多くの違和感を感じているはずだ。だが、それは今のキリトには追求できそうにない。
 ならば、取ることどうは一つだ。

「キリトのこと頼んだぞ。ああ見えてあいつ落ち込んでると思うからよ」

 アスナはうん、と小さく頷いてからキリトの後を追っていく。
 一人残されたシュウ。壁に背を預けたままでメッセージウィンドウを開いてとある人物へと向けて文章を送る。

【話がある。今夜、コリニアの闘技場にて待つ】


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 昼間の大騒ぎが嘘のように静まり返ったコリニアの闘技場。
 その中央に黒衣の槍剣士は立っていた。くるかもわからないある人物を待っていた。
 確証はない。だが、シュウの誘いに乗ってくるという気がしていた。
 シュウはあいつの事があまり好きではない。だからこそ、奴が現れるという気がする。
 なぜならシュウの悪い予想は大体当たるからだ。

「全く、時間も指定しないで呼び出しとはこちらとしても困ってしまったよ」

 静寂が支配していた闘技場に声が響いた。
 やはり現れた。
 ザッ、ザッ、っという鎧が擦れ合う音とともに闘技場の奥地。夜の闇の中から現れたのは、白と赤の鎧を身にまとったプレイヤー。SAO最強とも呼ばれる《血盟騎士団》団長、ヒースクリフ。

「それは悪かったよ、団長殿。そういうそっちこそ連絡もなしとか最大ギルドの団長さんが不味いんじゃないの? ちゃんとホウレンソウはしないと」

 確かにそうだな、とわずかに笑いを浮かべるヒースクリフだったがすぐに真剣な表情へとなり、

「それでわたしこんなところに呼び出したのはこんな話をしに来たわけではないのだろ?」

 早く本題に入れという事か。
 シュウは小さく呼吸をしてからヒースクリフを睨みつける。

「あんたの行動が少し気がかりでな」

 ヒースクリフは無言のままシュウの言葉に耳を傾ける。

「ほとんどが形にできないようなものばっかりだったがここに来てようやく言葉にできそうなのが出て来たんだよ」

 シュウは右手を前に突き出して人差し指をあげる。

「まず一つ目、キリトが《二刀流》を初めてボス戦で使ったタイミングでのキリトへとデュエルの申し込み」

 中指を立てる。

「二つ目、さっきキリトとのデュエル中に感じた違和感」

 さらに指を立てる。

「三つ目、これは二つ目に似たよった感覚だがあんたのユニークスキル《神聖剣》の異常さだ」

 するとヒースクリフはわずかにため息を漏らし、

「しかしシュウ君、先ほどあげた三つもほとんどが君の感ではないか。確証をつくものは何もない」

 その通りだ。
 今まであげた三つも結局はシュウが感じていること。具体的な言葉になっているだけで何がどうという確証はどこにもない。
 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
 シュウはこの直感を信じてこなかった。それが招いた結果がいくつもあった事件の数々だ。
 だからこそ、今度こそ自分を信じてみるしかない。

「確かに確証はない。だから……」

 シュウはメニューウインドを開いて指の震えを抑えながら空中に浮かび上がったウインドを押した。

「ほう……これは予想外だね」

 ヒースクリフの目の前に浮かび上がる。
 初撃決着モードのデュエル申し込みの表示だ。
 SAOのデュエルには、三種類存在する。初撃決着、半減決着、完全決着の三種類だ。
 基本的に力試しのデュエルでは、初撃決着モードを選んで行われる。このゲームが本来の機能を持っていれば完全決着モードをとるのだが、それはただの命がけの戦いとなる。半減決着モードにしてもクリティカル判定が出てしまうと相手のHPを全損させてしまう恐れがあるためほとんど使用されない。
 そこで消去法で初撃決着モードがデュエルでは選ばれる。しかし、初撃決着といっても一撃でも受ければ終了というわけではなくHPがイエローゾーンに突入するか、強攻撃を受けるかすると終了する。

「そうか? 確証がねぇなら直接自分の手で確かめるのが手取り早い」

「だが、わたしには君と戦う理由がない。ただの力試しというのであれば、わたしもそこまで暇というわけではない」

 ヒースクリフがいいえのボタンに手をかけようとした。

「なら俺が負けたら《血盟騎士団》にはいってお前の兵として攻略に参加してやる」

 シュウの言葉に動きを止める。

「そうすれば好き勝手に暴れまわってたキリトと俺の両方を手中の中におさめられる。あんたとしては悪くない条件じゃないか?」

「確かにそれはこちらとしてはいい条件だが、君のメリットはそれに値するのかな」

 ああ、とだけ小さく答えた。
 そうだ。この想像が正しいのであれば、こんな茶番に意味なんかない。だが、確証が持てない以上勝手なこんな形を取るしかなかった。
 ヒースクリフはわずかに笑みを浮かべてデュエル申請、初撃決戦モードを了承。
 すると六十の文字が空中へと浮かび上がる。
 その瞬間、真っ暗だった闘技場の中心に明かりが灯される。
 0になればデュエルがスタートし、ヒースクリフと剣を交えることになる。
 最強の剣士。こんな世界、こんな状況じゃなければ楽しんで戦えた。しかし、今はそんな感情よりもシュウが抱いた不信感の方が膨れ上がっていく。
 時が一刻一刻とその数字を削っていく。
 そして……ついにその時がくる。
 《手刀術(シュウ)》と《神聖剣(ヒースクリフ)》がぶつかり合う時が。
 ……タイマーが0となりSTARTの文字が浮かび上がる。

 そして戦いの火蓋が切って落とされた。


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 始まったと同時にシュウは動く。
 右腕の肘から先を一直線に伸ばす。それは黄金に光を放つ剣へと姿を変える。
 左腕を身体より前で構え、刀身を横に向ける。身体が一瞬軽くなる瞬間、地を強く踏み込み動いた。
 ───手刀上位剣技《太刀風》
 手刀がヒースクリフへとめがけて突進。
 しかし巨大な盾によって受け流される。それと同時に背中から片手剣を抜き取るモーションを利用して肩に担ぎ上げ、右足が地面に着くと同時に方向転換する。技後硬直が身体を襲う前に片手剣のスキルが起動する。
 ───片手剣突進技《レイジスパイク》
 片手剣の基本的な技。モーションも大きく対人戦では読まれやすい。だが、意表を突いた攻撃にはそんなことは関係ない。
 しかし、攻撃を予知していたかのようにヒースクリフの身体はシュウの方へ向いている。
 片手剣の突進も難なく盾に阻まれる。
 そこまで予知しきれていなかったシュウは次の動作へと繋げることを考えていなかった。
 技後硬直がシュウの身体へと襲いかかる。単発技なため時間にしてわずかに二秒。
 しかしヒースクリフが攻撃するには十分な時間だ。右手で持っていた剣を振り下ろす。シュウに斬りかかる寸前で技後硬直が解ける。無理やり手刀を振り上げる上へと弾き、後ろへと飛び退いた。
 間一髪のところだった。ソードスキルでなかったのが幸いだった。あの状態でソードスキルを放たれていれば確実に押し負けていたに違いない。
 シュウが体勢を立て直す前にヒースクリフが接近し、上から振り下ろされる剣。不恰好な状態からヒースクリフの剣を受けたせいでかなりの重さだ。
 そこから激しい攻防戦が繰り広げられる。しかし、一切としてヒースクリフをHPを削ることができない。
 これが《絶対防御》呼ばれるSAO最強のプレイヤーの実力。
 ───それならこれでどうだ!
 片手剣がヒースクリフの盾に触れる寸前。手を離し、事前に開いていたメニューウインドウを殴りつけた。先ほどまでオブジェクト化していた片手剣が光となってる消えたと同時に右手に新たに真紅の槍が出現。
 槍へと変わったことでそれに合わせるためにヒースクリフがわずかに後退した。
 ───その瞬間を待ってた!!
 右手に持つ槍を後ろへと引き身体へにシステムの力を感じると同時に右足を力いっぱい踏み込み、一気に間合いを詰める。
 ───槍重突撃技《ゲイボルグ》
 連続的な攻撃で崩せなくとも強力な一撃なら対応はできたとしても隙が生まれるのには変わりない。
 やはり、ヒースクリフはわかっていたとでも言うように盾を地面と設置し、吹き飛ばされるのを回避する。
 だが、ヒースクリフとしても重い一撃を受けた後にすぐさま切り返すことはできない。
 シュウは槍を右手から左手に持ち替え、後方へと飛び退いた。つま先がついたとほぼ同時に跳躍するように正面に向けられる盾の横へと回り込んだ。ヒースクリフの表情からはわずかに驚愕を浮かべている。
 ───手刀五連撃技《五連星》
 星を描くような連続の斬撃。一撃目の斬撃を盾が間に合わないのかわずかに状態を反らせて回避する。しかし続く二撃目は回避しきれずにわずかに腕をとらえた。三撃目以降はヒースクリフの盾によって阻まれた。
 シュウは技後硬直の前に後方へと飛び退いた。
 ヒースクリフも体勢を立て直すために追撃はしてこない。

「これが《槍剣使い》繰り出す連続スキルか。実に素晴らしい」

「あんたその防御力こそなんだよ」

 わずかだが、ヒースクリフの防御の謎がわかってきた。
 先ほどの一連の攻防の中でシュウがヒースクリフの盾を破ったのは手刀の一撃のみだ。それ以外の攻撃は全て防がれた。
 では、《五連星》とそれ以外のソードスキルの違いとは何か?
 いや、そうではない。《五連星》を打ったタイミングとの違いは何があった。まだ確証があるわけではない。しかし、ヒースクリフはシュウが放つソードスキル、ソードスキルへのモーションを知っているということだけはわかる。
 だからこそ、あいつはモーションから事前に何が来るかを予知することができる。《五連星》を放ったタイミング。あの瞬間は、わずかではあったがヒースクリフは盾によって視界が狭くなっていた。
 だから、シュウのモーションに気づくことができなかった。もしくは《手刀術》のソードスキルを知らない。
 前者であれ後者であれ、この想像が事実ならばヒースクリフの《絶対防御》を打ち砕ける。
 シュウは槍を後ろへと引き絞り、右足を前に出すと同時に前方へと投げた。
 ───槍投撃技《レイヴァテイン》
 真紅をまとった槍は空を裂き、ヒースクリフへと一直線に突き進む。
 ヒースクリフは回避するのではなく槍の軌道上に盾を割り込む。直撃させて槍を弾く気だろう。
 回避するにも弾くもどちらでもいい。わずかな時間が稼げればいい。
 槍が盾へと激突する。わずかに後退するヒースクリフ。それを確認したとともに《クイックチェンジ》によるワンタッチでスキルウインドウの武器を手刀術のみとなる。その瞬間、弾かれた槍は消滅し、シュウの両腕が黄金の光に包まれた。
 ユニークスキルは、それそのものが単体で強力な力を持つスキル。シュウは疑問を持ったのは、ヒースクリフの《神聖剣》、キリトの《二刀流》はそれそのものが固有のスキルだ。なのに《手刀術》は他の武器と合わせることで力を発揮するスキル。最初はそれがこのユニークスキルの特徴だと思っていた。
 だが、それは違っていた。手刀術は単体のスキルで他の武器と合わせることではなく、単体でこそ真の力を発揮するスキルだったのだ。
 両腕に手刀を纏わせた状態を人前で行うのはこれが初めてだ。ならばヒースクリフとてこちらのモーションから技を完全予知するのは難しいだろう。
 重心を落とし、両腕を翼のように左右に広げる。左右の黄金の刃が紅蓮の炎を纏う。

「 ……鳳凰刃!!」

 ───二手刀上位剣技《鳳凰刃》
 鳳凰。それが飛ぶとき雷、嵐も起きず、草木さえも揺れないとされる平和の象徴。それを考えれば《柔》よりはどちらかといえば《剛》のこの技には合わぬ名だ。炎を纏い、地と空を縦横無尽に全方位から攻撃を行う手刀剣技。
 スキルの起動とともに地を踏み込む。それは一瞬で数メートルはあったヒースクリフとの間合いを詰める強力な突進技。右翼の紅蓮が神聖剣の盾への中心を捉える。
 本来ならば、ヒースクリフ本体を狙ったほうがいいが、相手が相手だ。それに今までの戦いの中でヒースクリフといえども重攻撃に対しては防ぐしかない。仮に避けたとしても鳳凰の前では、無意味だ。
 ヒースクリフは、わずかによろけながらも初撃目を防ぐ。次に左翼がヒースクリフ本体を狙う。体勢を崩しながらも盾で受け流される。
 逆に流されたのを利用してシュウは上空へと飛び上がる。空中で右腕を振るいシステムアシストの力を借りて無理矢理軌道を変更する。
 身体に捻りを加えてヒースクリフの真上へ。それと同時に身体をシステムの力がシュウの身体を落下させる。
 重攻撃となった左翼の紅蓮がヒースクリフめがけて振り下ろされる。それすらも盾で防がれる。だが、それによって完全に体勢を崩した。
 十字の盾は大きく弾かれ初めてヒースクリフの全身が姿を現した。

「うぉぉぉぉ───ッ!」

 右翼がヒースクリフの身体へとめがけて突き刺される。
 勝利を確信した。
 その時だった。

「────ッ!?」

 目の前で起きていることを理解ができない。
 手刀が突き刺さる寸前。時が止まったような感覚がシュウを襲った。剣が、手刀が、身体が、全てが止まっている。だが、その中でヒースクリフの盾だけがゆっくりと手刀の方へと近づいてくる。
 完璧にヒースクリフの盾は弾いた。あの状態からシステムのアシストなしで防御姿勢に入るのは不可能。
 いや、あの状態から防御スキルにはいれるスキルがあるわけがない。仮に《神聖剣》のスキルだとしてもありえない。これではゲームバランスが崩れてしまう。

 ───ゲームバランスが……崩れる。

 その瞬間、全てのピースが繋がっていく。
 ───キリトがこのタイミングで呼ばれたわけ。
 ───HPがイエローゾーンに突入したところを見たものが誰もいないわけ。
 ───全ての攻撃に盾で対応できるわけ。
 ───そして……この状況のわけ。

 手刀は十字の盾によって阻まれた。それとともにシュウの右腕は大きく跳ねあげられる。
 次に左翼のモーションに移行しようとするがそれよりも早く長剣がシュウの身体を突き刺した。
 それとともにHPはイエローゾーンに突入し、デュエルの終了を告げる音が静寂のコロシアムに鳴り響いた。

「……あんたは何者だ。……ヒースクリフ」

 その問いには答えることなくヒースクリフは背中を向けて闘技場を後にしようとする。途中で足を止めたヒースクリフはわずかにだけこちらを振り向いて、

「……君は血盟騎士団にはふさわしくはない」

 その言葉だけを残して闘技場を後にした。
 一人残されたシュウは震えていた。先ほど一瞬だけ見えたヒースクリフが笑っているように見えた。
 それが意味することがわからずにシュウは震えるしかなかった。

 ヒースクリフの強さの理由がなんとなくわかったシュウであったがそれ以上に敗北したという感覚だけが残った。
 そして闘技場の灯りは消えた。 
 

 
後書き
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