二人の騎空士
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The fate episode
二人目の騎空士
進行度 5/7
前書き
「ジータァ!」
「さんをつけろよデコスケ野郎!」
私は剣を抜き天上へ向ける。
「私の元へ集え!」
――号令をかける。これこそが私の団長としての命令だ。
私の背後で着地音が連なる。一つ二つではない幾つもの連なる足音。一旦止んだと思えばまた新しく連なっていく。それは集まった団員がこの艇にいるとは限らない故にである。
団員は最低限の戦力を艇に残し休暇や修行、その他諸用を寄港中に行う。団として一年中拘束するわけにはいかないので道理である。
しかしながら、この号令に限って言えばそうではない。個人よりも団を優先しなければならないような場合にのみ使われる、絶対の使役令だ。
「これより我が団はグランを討伐する。一切の手加減は要らない。全力をもって彼の者を討伐し、グランサイファーへ凱旋する」
背後から数多もの雄叫びが連なる。
「かかれ!」
私の左右を抜けて、団員たちがグランへと殺到する。あるものは剣を掲げあるものは槍を構えあるものは銃の引き金に指を添えあるものは詠唱を始める。――それを、グランは諸手を広げて待ち受ける。その顔はこれ以上無いってほどに歪んだ笑みを浮かべていた。
「マルドゥーク」
グランの声は小さく、距離のある私には届かないはずなのに、それは間近で言われたように聞こえた。
マルドゥーク。ある村の祠に封印された星晶獣の名前だ。彼の星晶獣は人を操り、凶暴性を増すという。もしや。
「下がってください!」
そのある村出身であるスーテラが全員へ警戒を促す。団員各々が歩を止めるが、グランはそれを見て笑みを深くし、指を振った。
「ジータを団長とする者共! お前達を操ろう等という小細工は毛頭するつもりはない。安心したまえ。心を変えるはただ一人」
歪んでいた笑みが薄れていく。……新しく浮かぶは、愉快という笑み。
「復讐に心狂うた男は何でもするぞ。心しろ。これからお前達の前に立つのは、精神が肉体を凌駕した獣だ」
グランが剣を抜く。しかし団員が怖じる事はない。血気盛んに挑む。
……それが続いたのは、僅か三分。三分間の内にグランは重傷を三つ負っていた。まず一つ、スーテラの放った矢が右太ももを貫通している。二つ、ネツァワルピリの槍で左脇腹を穿たれている。三つ、ユイシスの剣で右肺は完全に使い物にならなくなっている。重症でこの三つ。細かい点を見れば数本の指は無く、右頬と耳は削がれ左腕はまる一面を火傷が覆っている。右足の甲は魔矢で風穴が開いてる。――誠に死に体、いつしんでもおかしくはない。いや既に死んでいるだろうその体で、しかしながらグランは未だに立っていた。彼の周りには数多の人、人、人。その誰もが地面に伏している。
重傷を負わせた三人以外にも、倒れる者たちは猛者ばかりだ。星晶獣シュヴァリエに主と認められ、絶大な力を誇るヴィーラ。真に選ばれた弓兵しか扱えぬという魔弓の担い手メーテラ。修験を重ね素手で万物を破壊すると謳われたガンダゴウザ。ある国の救国の騎士と崇められるジークフリート。
それだけではない。枚挙に暇がないほどの古強者共が倒れているのだ。しかもその全てにおいて驚愕すべきことが、その全員が骨折など重傷は負いつつも、まだ脈があるということだ。
殺さなくてもいい程に実力が離れていた、という事だ。
今立っているのはグランと私、そして数人。ククルやリリィを始めとする非戦闘員や女子供、戦意が折れてしまった者達だ。例外としてはアレーティアとアルルメイアか。
「此度の戦、私が挑んでも無意味さ」
私に見られていることに気づいたアルルメイアは肩をすくめた。アルルメイアは非常に優秀な戦闘員だ。しかしながら、彼女の特異とする未来予知で無意味と知っているならば、確かに挑みもしないだろう。
「貴方は?」
アレーティアに話しかける。アレーティアは齢を重ねているものの団内でも一二を争う実力を持つ剣士であり、彼を知る人間からは剣聖という二つ名さえ付けられている。
「歳を重ねると、戦わずとも色々分かるものじゃ。勝ち負けだけではなく、あの坊主の思いも、嬢ちゃんの思いもな。儂が挑むだけ時間の無駄というものよ」
そう言うとアレーティアは剣を鞘に収めた。
「後で退団でも何でもするといい。しかしな、儂は儂が戦うと決めた者としか戦わん」
そう言うとアレーティアは艇へを足を向けた。それにアルルメイアも連なる。
「私以外の全員を艇に収容して。全員の治療も。後、今後一切の攻撃を行わないように通達もしておいて」
二人の背中に言葉を投げれば、アルルメイアは神妙な面持ちで振り返った。
「どういうつもりだい?」
「私は全力を持ってして彼を殺す。下手は割り込みが来たらその人も殺しかねない。それに、彼の究極的な目的は私の殺害のはず。私が殺されたら彼の敵対心を煽るようなことはしないで。何としてでも生き延びるよう策を尽くして」
アルルメイアは暫く思案してから、分かったとだけ呟いてグランから比較的離れた負傷者たちの元へ向かった。
私は堂々と、同時にゆっくりとグランの元へ向かう。グランは自身へ襲いかかる団員を倒しきってから、ずっと立ち尽くしたままだった。
「どうだった、私の団員は」
声をかければグランは漸くといった具合に此方を見た。よく見ればいつの間にか傷は塞がっている。自身の魔術で直したのだろうか。
溜息が出かかる。この三分がどれ程の激闘だったかは筆舌に尽くし難い。グランが放った魔術の数も十や二十ではすまない。しかしまだ彼は重傷を治療できるだけの魔魔力を持ち得ているのだ。
「半分は一年前のお前よりも弱かったな」
「復讐は簡単そう?」
「簡単には終わらせない。何のために奴ら全員を生かしたと思っている。今からの殺し合いを見せるためだ」
そう言ってグランは自身の剣を仕舞うと、傍に倒れているユエルの元へ向かう。
「寝ているんじゃない、此方を見よ」
そう言って うつ伏せのユエルを蹴って仰向けにする。
「グラン!」
「皆の者、此方を向け! 此度の殺し合いを見よ! お前達の団長のとの本気の殺し合いをしかと眼に焼き付けろ!」
叫んだグランは、傍に落ちているユエルの双剣を拾い、片方を私へ投擲した。
剣の重量はそれ程ではない。現にこの剣の持ち主であるユエルはこの剣を普段逆手に構えている。……しかしながら、彼が投擲した剣はククルの持つ拳銃の銃弾と然程変わらぬ速度を持っていた。腹に当たれは臓物を鳳仙花の如く弾け飛ばせ、頭に当たれば花が咲こう。
回転しながら近づく剣の持ち手を握り、肩に担ぐように減速させる。その間にグランはもう一本を振りかぶる。そして二人同時に、相手に向けて剣を投擲。剣は同じ速度で互いに近づき互いの中点ですれ違い相手の元へ飛翔する。そして二人同時に持ち手を掴み無力化して自身の武器にする。
二人同時に一歩を踏み出し、投擲。互いの剣が届くまでに一歩進み掴む。そしてそれが出来なくなるところまで近づくと、二人合わせたように剣を逆手に構えて斬りつける。
――それは、演舞のようだった。思えば当たり前だろう。彼と私は幼い頃からずっと互いに稽古を付けていたのだから似通うに決まっている。否、似通うという程度ではない。正しく一緒。一年前まで毎日していた稽古のように、合わせ鏡が如くに剣を振る。
私が彼の速度に追いつけなくなれば、隙を突くように空いた左手で魔術を練る。しかしグランはそれを読み、距離を取りつつ私の放つ氷の魔術を避ける。
グランが下がった先で地面を見ず拾うは長槍。私も合わせて地面に転がる長槍を足で弾き空中で掴んで構えた。
団員が使う槍に明瞭な規格は存在しない。軍属であったものだけではないので当然だし、人によっては特注という人間も居た。そもそも、それが槍であるかという部分も曖昧だ。
槍とは手に持つ、投げるどちらにしても刺す武器である。その前身となった鉾は刺すだけではなく薙ぐものでもある。団内で刺すのみの用途で使う人間は以外に少ない。それは一つに魔族に使うからという理由がある。
槍が嘗て戦争で一世を風靡した理由にその扱いやすさがある。人と人とが殺し合う時、下手に薙ぎ払うよりも突いた方がよっぽど簡単で強いのだ。しかしながら相手が魔族となると、威力が乗る薙ぐ、という動作が有効な攻撃手段となる。つまり団員たちが持つ『槍』は鉾としての性質を持つ物が多い。刺すことに特化した細い先端ではなく、重い刃をつけてあるだ。
グランは此方の胴目掛けて薙ぎ払いを放つ。純粋な筋力差は言わずもがな。加護や魔術で押し返そうとも先の双剣の打ち合いでそれも叶わぬと知っている以上此方は絡め手を講じるほかはない。
グランの槍を受け止めるではなく流すように下へと逸らす。私の槍のほうが先端が軽く扱いやすいのは、この場合良かったと思うべきか。……脛に痛みが走る。相手の間合いを計り損ねたか。一寸ばかり槍が長かったようだ。
なればと相手が切り返すより早く此方は突く。否、切り返してはいない。突くと分かって予め逸らすように槍を構えていた。本当に、互いの手がわかっている。
機会を逃さず、刺突を繰り返す。対する相手は私の突く位置を正確に読み一打、また一打と綺麗に逸らす。私が無理をしようとすれば、相手は待っていたとばかりに槍を離し懐へ飛び込んでくる。武人としては絶対に有り得ない動作。しかしながら、素手でも相手との間合いを殺す魔術を使えるのならば、起死回生の一手を賭けるのに十分な動作。常人であればグランの魔術によって死ぬであろう。しかし私はグランの反撃を更に読んで魔術を使う。
……どちらがどちらの行動を読んでいるのか分からなくなる。この動作全てが、嘗てやったことがあるのだから。
魔術を込めた素手の殴り合いも数手で距離を取り、今度は落ちているククルの銃を互いに拾い同時に駆け出す。銃の加害距離はかなり遠長い。グランとの銃撃戦は練習できないので初めてだが、棒立ちで早撃ち、という勝負を好まないのはグランも一緒のようだ。
近くの森に入り、木で姿を隠しながら蓮根式の弾倉を横に出す。弾は……三発か。相手が何発か分からないのが辛いが、やるしかない。
後書き
Q,金田ァ!
A,さんをつけろよデコスケ野郎!
Q,本文中にはネタはないの?
A,「来いよド三流」等のセリフを入れたかったのですがボツに。ですが「――それは、演舞のようだった。」付近はFate stay nightの「―――それは、神話の再現だった。」や他のゲームの文から取っています。双剣を投げ合うシーンはニンジャスレイヤーが元ネタです。槍と鉾のくだりも元ネタのゲームをやったことがあるならわかるんじゃないですかね。
Q,なんでアレーティアとアルルメイヤは戦わなかったの?
A,アレーティアは息子の心以外なんでも読め、アルルメイヤは未来幻視が出来る(ルリアノート)ので、グランやジータの心情を読み未来を幻視したので戦う必要はないと判断したのでしょう。
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