| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ八十八 村上武吉その三

「しかしな」
「慢心せずにですな」
「満身は絶対にいかん」
 幸村はそこは釘を刺した。
「わかっておるな」
「殿がいつも我等に言われていますな」
「拙者自身にも言っておる」
 外ならぬ自分自身にもとだ、幸村は海野に話した。
「慢心はならぬとな」
「そうですな、確かに」
「人は慢心すればそこに隙が出来てな」
「隙が出来ればですな」
「そこから崩れてじゃ」
「滅びますな」
「だからじゃ」
 それでというのだ。
「慢心、奢りや昂りともいうがな」
「そうしたものは持ってはならぬ」
「そうじゃ」
 海野にあらためて言った。
「そこは守る様にしておる」
「左様ですな」
「己自身が誰よりもな」
 何といってもというのだ。
「注意しておる。常にな」
「殿だからですな」
「拙者が慢心しては御主達も巻き込む」
 そこから生じる隙にというのだ。
「だから常に戒めておる」
「まさに常に」
「そうしておる、ではな」
「はい、これよりですな」
「村上殿をお探しして」
「そのうえで」
「お会いしようぞ」
 こう話してだ、幸村主従は村上が何処にいるのか探した。すると二人の忍としての資質がここで見事に発揮された。
 二人は草木の声を聞いてだ、すぐに言い合った。
「わかったな」
「はい」
 海野は主に毅然とした声で答えた。
「今しがた」
「そうじゃな」
「あの方は今は萩におられますが」
「今はじゃ」
「しかしお屋敷は違います」
「別の場所にある」
「しかしじゃ」 
 それでもとだ、幸村も言うのだった。
「今は萩におられる」
「ならばな」
「すぐに萩に向かいましょう」
 海野は勇んだ声で言った。
「急げばです」
「お会い出来る」
「だからこそ」
「急いだ方がよい」
 幸村も言った。
「萩におられてもな」
「あくまで今はで」
「じきにお屋敷に戻られぬやも知れぬ」
「だからこそ」
「すぐに萩に向かいじゃ」
「お会いしましょうぞ」
 二人で話してだ、そしてだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧