神隠し
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第二章
「その話はもっと早くしないか」
「すいません、まさか」
「明日だ」
「明日にですか」
「村人総出で村の周りも外も探すとしよう」
庄屋はこう伍平と彼の隣にいるいのに言った。
「そしてだ」
「つうをですね」
「探し出そう、いいな」
「すいません」
「お礼はいいさ、こうした時はお互い様だ」
だからだというのだ。
「明日の朝から探すぞ」
「それじゃあ」
「今日は家で寝るんだ」
「明日からですね」
「総出で探そうじゃないか」
庄屋もそのつもりだった、そして。
次の日の朝だ、茂吉は村人達に声をかけて回って事情を話して村人総出でつうを探した。それこそ近くの川や山の隅から隅までだ。
あらゆる家の裏や屋根の上まで探された、それを暗くなるまで続けたが。
その日も見付からず次の日もだ、つうの姿は髪の毛一本見付からなかった。それで子供の一人がこんなことを言った。
「天狗の仕業か?」
「神隠しじゃないの?」
「これだけ探してもいないから」
「それじゃないのか?」
他の子供達もこう言い出した、その話を聞いてだ。
伍平もだ、日に焼けた顔を暗くさせて丸い顔のいのに言った。
「なあ、これはな」
「神隠しだっていうんだね」
「そうでもないとな」
「これだけ探してもいないことは説明がつかないね」
「そうじゃないか?」
こう言うのだった。
「幾ら何でも」
「そうだね」
いのも否定せずに応えた。
「これは」
「神隠しだとな」
それこそとだ、伍平は女房にこうも言った。
「もうどうしようもないぞ」
「諦めるしかないんだね」
「そうだ、もうな」
「御前さん、そんなことを言ったら」
「わかってる、けれどな」
「これだけ探してもいないから」
「もう仕方ないのかもな」
疲れきったせいで諦めかけつつ言うのだった。
「つうは」
「あたしは嫌だよ」
いのは自分の偽らざる気持ちを言った。
「そんなことは」
「しかしな」
「これだけ探してもいないからっていうんだね」
「そうだ」
こう女房に言う、家の中で晩飯を食いながら苦い顔で。米に大根の葉やら人参の切れ端やらを入れた雑炊である。
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