嫉妬を止めて
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第三章
「何時でも何処でも誰とでもだ」
「堂々と闘って」
「勝つ」
「だからデビューして間もないのに」
宏伸は高校卒業と共にプロレスジムに入った、高校時代からその巨体と怪力は有名で仇名はキングコングだった。
「もうメインになろうとしてるのね」
「ああ、凄いだろ
「別に」
彩は誇らしげな兄に冷めた目で返した。
「思わないわ」
「おいおい、そこでそう言うのか?」
「そうよ、何でレスラーなのよ」
「格好いいだろ」
「何処が?」
これが妹の返事だった。
「レスラーなんて」
「これでも子供達に大人気なんだぞ」
「雑誌でも乗ってよね」
「プロレス雑誌でもな」
「若きヒーローなのね」
「やがてベルトも取る」
チャンピオン、それになるというのだ。
「それでその賞金で御前にもご馳走してやるからな」
「フルコース?」
「いや、鍋だ」
そちらだというのだ。
「どんな鍋でもたらふく食わせてやるからな」
「どうせちゃんこでしょ」
宏伸がよく食べている鍋だ、レスラーとして身体作りの為に食べているのだ。肉も魚も野菜も果物もいつも大量にバランスよく食べている。
「いつもの」
「だから何でもだ」
「それかバイキングか」
「ああ、どっちかだ」
「別にいいわよ」
彩は冷めた目のまま兄に返した。
「そんなの」
「いやいや、チャンピオンになったらな」
「それ位はっていうの」
「そうだ、何しろ俺はレスラーでお兄ちゃんだからな」
だからとだ、宏伸は彩に笑って言った。
「それ位は何でもないさ」
「チャンピオンになったら」
「好きなものをたらふく食わせてやるからな」
「全く、全然ね」
「全然、何だ?」
「才色兼備でも芸術家でも可憐でもないわね」
「ははは、レスラーだ」
そうしたものでは全くないとだ、宏伸は笑って返した。
「リングの侍だ」
「お兄ちゃんの通称ね」
「そうだ、だからな」
「才色兼備でも芸術家でも可憐でもないの」
「女の子らしさは無縁だ」
「全く、学校の成績もよかったから」
実は宏伸はそうだった、成績は学年で十三番だったのだ。百五十人の学年の中で。
「進学したらよかったのに」
「大学には興味なかったからな」
「だから卒業と同時にあったのに」
「入門したんだ」
今所属しているプロレス団体にというのだ、八条プロレスという新日本プロレスと並ぶ日本屈指の団体である。
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