産女異伝
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第四章
「何か如何にでもです」
「あやかしの類が出そうな」
「そうした場所ですな」
「それは山も同じことで」
「あやかしの類が、ですか」
「よく気配を感じます」
こう作左衛門に述べた。
「人や獣でないものの気配を」
「ではやはりあやかしは」
「います」
このことは確かだというのだ。
「それは間違いありませぬ」
「そうなのですが」
「ある刀と化けものは見たことがないといいますが」
「見たことはなくともですな」
「目で見えることだけが全てではありませぬ」
人の目、それにだ。
「ですから」
「あやかしはいる」
「それがしはそう思っています」
「そうですか」
「ですから産女もです」
この妖怪もというのだ。
「おります」
「では今から」
「収めますので」
その妖怪が為すことをというのだ。
「ご安心下さい」
「それでは」
二人で川のほとりで話しつつ歩いた、すると前からだ。
話に聞く女が出て来た、白い死装束にしか見えない服を着ていて黒く長い髪はざんばらだ。そして顔は蒼白で陰気な顔をしている。手には赤子を抱いている。
その女を見てだ、作左衛門は言った。
「あれはやはり」
「間違いありませぬな」
市兵衛も言う。
「やはり」
「そうですね」
「ではです」
「これよりですか」
「話を収めます」
作左衛門に顔を向けて約束した。
「そうしますので」
「ではお願いします」
「それでなのですが」
「それでとは」
「岡松殿はです」
作左衛門、彼はというのだ。
「そこで見て頂けますか」
「何でしたら助太刀しますが」
「それがしに何かありそうならば」
「その時はですか」
「お願いします、ですが」
「そうでないのなら」
「それがしにお任せ下さい」
全てというのだ。
「そうされて下さい」
「わかりました」
作左衛門は確かな声でだ、市兵衛に答えた。
「そうさせてもらいます」
「それでは」
「ではご健闘を」
作左衛門は市兵衛を言葉で送った、そしてだった。
女の前に出た、すると女は彼に赤子を差し出して言ってきた。
「抱いて頂けますか」
「わかり申した」
市兵衛は女に確かな声で応えた。
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