世界をめぐる、銀白の翼
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第三章 X《クロス》
蒔風
他者によって現界していた、主を失いし羽根
その羽根に皆の願いが共鳴し、「彼」という存在をこちらに引く。
だが、彼の現界の主軸になったのは、間違いなく「奴」だった。
「奴」は主人公を殺すことで世界のバランスを崩して破壊、食らうことで吸収し、そのエネルギーで己の世界を復活させようとしている。
しかしその対象は決して主人公でなくともよい。
それに準ずる人物でも、別にかまわないのだ(得るエネルギーは多少減るが)
かつて観鈴を狙った時がこの場合だ。
だが、「奴」はここから軌道に乗ったという。
わざわざ蒔風を呼び戻したのだ。
彼が、そこまでしてエネルギーを求めた理由
それは―――――――――
「オラァ!!!」
「だぁっ!!」
ゴッ・・・パァン!!!
「奴」と蒔風の拳が正面からぶつかり、周囲に波状衝撃を飛ばして止まった。
地面には円形に模様が浮かび、さらなる一撃でそれもまた変わっていく。
そこからの攻防はまるで手足が鞭のように見えた。
実際には様々な打ち手が飛び交っているのだが、あまりの速さに残像が起こって両者の四肢は鞭のようにしか見えなかったのだ。
スパァン!!と両者の拳がぶつかって弾け、お互いに地面を滑るように後退、距離を取る。
が、その直後「奴」が蒔風の周囲を動きだし、無数の残像となって一気に蒔風へと襲い掛かって行った。
「ぬ・・・ァあっっ!!!」
その残像に向かって、蒔風が構える。
腰を落とし、両拳を左右の腰に沿えて呼吸を深く取り、一気に吐き出して拳を放つ。
「雷光拳・無限突破!!!」
一回突き、それを戻す。
ただそれだけの動作が、雷旺と絶光の力を持った拳で行うことで、凄まじい衝撃波となって一気に「奴」の残像を叩いていった。
だが、その中に「奴」はいない。
それに感づいた時にはすでに「奴」の攻撃は行われていた。
ボッゴォッ!!
「奴」が地面から飛び出しながらのアッパーを蒔風に放ち、それを回避した蒔風の頬がうっすらと斬れる。
蒔風は回避のために仰け反った身体で、そのまま足を地面から離し「奴」の体を挟み込んだ。
その瞬間、身体に回転を効かせて「奴」を頭から地面にたたき込もうと落としに掛かる。
が、「奴」とてそれに対処できないということはない。
頭から落ちる「奴」が、手を頭の上にあげて逆立ちのように地面を掴んだ。
ギュゥゥウウウウ!!!と「奴」の腕が衝撃を受け止めようと曲げられていき、ついに
「オォおうぁ!!!」
「うあっ!!?」
「奴」が逆立ち状態で回転し、逆に蒔風を地面に叩きつけようと仕掛けた。
その勢いに蒔風はとっさに足を話すが、地面に叩きつけられるのは免れない。
ズダンッ、ザッ、ガガガガガガッッ!!!
体が叩きつけられ、そこから受け身を取って体制を整え、地面を膝立ちで滑る蒔風。
頭からうっすらと血を流すが、蒔風もただ投げられたわけではない。
この回転合戦の中で、「奴」の頭に爪先を叩き込んでいる。
「奴」も頭から流れてくる血を拭い、地面にビシャ、と払って蒔風へと向く。
「おい・・・お前、変わったな」
「・・・・・そんな世間話してる暇はない」
「いやいや、かなり重要な話だ。お前、どうしてこんなに「お前」なんだ?」
「ッッ!!!!」
蒔風の言葉に、「奴」が息を止めて一気に上空へと飛びあがって行く。
蒔風も開翼してしてそれを追っていくが、「奴」の放つ波動砲で阻まれる。
そして、地面から蒔風が十メートルほど、「奴」はさらにそこから十メートルは上にいるところで止まった。
「言ったろ・・・暇はないんだ。終わらせんぞ!!!」
「奴」の身体から漆黒のエネルギーが噴き出、それが頭上に集まって球体へと形を変えていく。
それに対し蒔風が開翼、金の粒子が一気に展開された。
蒔風を包むよう、球状に回っていくその粒子は、さながら地球の大気の流れでもあらわしているかのよう。
「奴」の黒球の大きさは今までの比ではない。
さっきまでのはサッカーボールほどだったのが、今は直径三メートルはあろうかという大きさ。
「あの大きさ・・・・まずいぞ!?」
「それを食らったら終わりだ!蒔風!!」
地上にメンバーが叫ぶ。
あれは自分たちのほとんどを沈めた技だ。
しかも、あの大きさではいかに蒔風でも・・・・・!!
「大丈夫だ」
だが、彼に一切の不安はない。
そうしているうちに「奴」が蒔風の斜め上から黒球を振りおろし、叩きつけるかのように投げ放って来た。
大気を焦がし、空間を削るような回転をしながら、黒球が蒔風に迫って着弾する。
蒔風も粒子でそれを受けるが、さすがに重すぎる。
「は・・・どうやらテメェが復活したとき、俺の中の管理者の力が配分されちまったようだが・・・・それなら大本のスペックの違いだ。やっぱ勝つぜ!!」
「奴」が叫ぶ。
その通り、「奴」の中に流れていた管理者の力は、今は平等に二人の物となっている。
そうなれば後は大本のスペックの差。
蒔風は「奴」に劣る。
しかし
「俺には、この力がある」
バサ・・・・・
「皆が願い、思ってくれたこの希望は・・・・・」
ギャォッ!!!
「その差を補って、なお余りある!!お前一人では、勝ちえない!!」
ドォオオオ!!!!!
蒔風の粒子と、「奴」の黒球がせめぎ合う。
黒い衝動と、黄金の粒子が散って行って火花を散らす。
そこに向かって腕を伸ばし、叩き潰そうとする「奴」が、切迫するその状況を見て、悲痛な声を上げて叫んだ。
「俺だってなァ・・・・背負ってんだよ・・・・」
ググッっ・・・・
「消えちまったオレの世界を!!!何人もの人間の存在を!!!失っちゃいけなかった仲間たちを!!!!俺はそれを取り戻さなきゃならないんだ!!!!」
「・・・・・・」
「アイツらがまだオレの中にあるうちに、俺は世界を食らわなきゃいけねぇんだよォォォおオオオオオオ!!!!」
ごァッッ!!!
互角だったエネルギーが、蒔風に向かって押し返される。
それを聞き、蒔風が悲しそうにポツリとつぶやいた。
「そうか・・・お前の世界は、もう・・・・・」
ドォッ!!
「お前となってしまっているんだな?」
「ァッッッ!!!」
それを指摘され、「奴」が一瞬ひるむ。
そして、一瞬のうちに蒔風の粒子が「奴」の黒球を引きずり込んで、粒子の流動が高速のモーター音のようなものを鳴らしながら回転し始めた。
「だったら・・・・テメェがそれを背負わないで、どうするんだよ!!!」
ドンッッ!!!!
蒔風の翼が、一回だけ大きく羽撃たき、それに合わせて粒子の球体が「奴」に向かって放たれた。
そのエネルギーは「奴」に向かって真っすぐに突っ込んでいき、「奴」はそれを両手で受け止めようとするが、ズルリと飲まれて―――――
「おォォォオオオオオオ!!?」
ガォォォゥゥゥゥウうううううう・・・・・・!!!!!
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「が・・・・は・・・・」
ザシッ
「へ・・・来たかよ」
倒れる「奴」が「EARTH」内のちょっとした木々の中で上体を上げようとするところに、蒔風が降り立ってきた。
周囲には誰もいない。
「やれよ・・・だがな、また戻ってきてやる。そしたら今度こそ・・・・・」
「今度はない。そうだろ?」
「・・・・・」
「お前の中の「世界」は、すでにほとんどがお前の力と成ってしまっているはずだ」
「・・・・クソ・・・」
「奴」の中には、彼が元いた世界が渦巻いていた。
だからこその狂気、安定しない心情、容易に自分らしからぬ行動をとる。
その代償として、己を見失い、目的のためだけに爆走する。
しかし、ここまで「奴」という中にあって、その世界はただの力として還元されてしまっていた。
もう今更エネルギーを得ても、世界はかつてあった姿そのままには戻らないだろう。
だからこそ、彼は最大限のエネルギーを欲し、自らを主軸としてでも蒔風を呼び戻したのだ。
そこまでせねば、もはや元には戻らない。
「そうだ・・・次はない・・・・!!」
ガッ!!!
「だから!!俺は今に懸けるしかねぇんだよ!!!」
「奴」が立ち上がり、蒔風の胸ぐらをつかんで叫ぶ。
その顔は地面の方を向き、どんな顔をしているのかわからない。
そして、蒔風の顔を見上げてなおも叫ぶ。
「見ろ!!最初はメチャクチャだった俺も、今じゃこんなに「俺」だ!!世界の構成なんて、もう5%もない!!少しでもあるうちに、俺は取り返さなきゃならねぇんだ!!それがたとえ、誰かを殺してしまうという道であってもだ!!!」
そう、かつての「奴」は、すでにほとんど「マイカゼシュン」にまで戻っていた。
世界の構築に気付きながらも、現状が最高として特に動こうともしなかった青年。
さらなる高みのために、主人公を殺そうだなんて露とも思っていなかった男だ。
“LOND”の言葉に翻弄され、操られるかのようにその世界を手に懸けた男。
「“LOND”の野郎の言葉に我を見失ったのは俺の責任だ。そこを言い逃れする気はない。だから!!!だから俺がやらなきゃならない!!俺はどんなものを背負ってでも、世界を取り戻さなきゃならないんだよ!!!」
「・・・・・できない」
「ッ・・・・お前らの世界だってきちんと戻してやる・・・・このままにして返す。俺ならそれができる!!なぁ・・・・お前、主人公なんだろ?だったら、だったら俺の世界も救ってやってくれ・・・・・!!!」
「俺は・・・・・世界を救ったことはある。だが、その原点は世界のためじゃない」
蒔風が言う。
自分は世界のために戦った。しかし、それはあくまで結果でしかない。
「自分の世界の仲間のため。ほかの世界の仲間のため。自分の味方をしてくれる管理者のためだ。そのために世界を救わなきゃならないから、救っただけだ。だから、今度も」
「・・・・・・そうかい・・・」
「今、お前の世界はお前の記憶の中にしかない。精一杯思い出せ。そして忘れるな。一つたりとも忘れるな。それがお前が背負うべきものだ。人殺しなんてそんなもんより、もっとずっと、お前は重いものを背負っていくべきなんだよ」
「・・・・忘れるなと?記憶の中で反芻し、決して届かぬ夢を見ろと?」
「お前も・・・・マイカゼシュンであるなら・・・・・!!!!」
蒔風が拳を握る。
「それを乗り越えて」
ギチリと蒔風の手が握り締める自らの握力で拳を固め
「強く・・・・この世界で生きやがれ!!!」
そして、その拳が「奴」の顔面をとらえ、ど真ん中に命中する。
「ゴッ!!?」
その一撃で、「奴」の体がすっ飛び、ゆらりと消えていく。
それに対し、蒔風が指差して言った。
「残った世界も使い果たし、きちんと「お前」として帰ってこい。お前が背負うのは、それからだ」
「・・・残酷だな・・・主人公」
「奴」がいう。
それはなんと、残酷なことなのだ、と。
だが、蒔風は首を横に振ってそれを否定する。
「いいや、残酷なのは、俺じゃないよ」
そういって、踵を返す蒔風。
そして斜め下を見ながら、吐き捨てるようにこういった。
「残酷なのは、世界だった。最初から、最期まで」
「・・・・そうか」
背後から、「奴」の気配が消える。
そして、その場所に一滴のしずくが、ぽたりと垂れて行った。
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「終わった」
「そ、そう・・・・」
「ん?どうした?」
林から出てきた蒔風に、皆が集まってジロジロとみてくる。
当の本人は最初からいたようにあっけらかんとしているし、どうにも現実感がわかないのだ。
「えっと・・・・・本物?」
「当たり前だ。お前らの願いが呼んだんだろうが」
「消えない?」
「消えない消えない」
手をひらひらと振って、蒔風がにやりと笑ってそう言う。
そして、全員が声をそろえて蒔風に叫んだ。
「「「「「「おかえり!!!!」」」」」」
「おう、ただいま」
蒔風舜が帰ってきた。
長く長く続いた、一つの因縁に終止符を打って。
直後、メンバーが次々に蒔風へと飛び込んでくる。
笑う者、泣く者、なぜか怒っている者
それらに押しつぶされ、蒔風が呻いた。
「俺の背負うもの、か・・・・・重いなぁ」
to be continued
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