風魔の小次郎 風魔血風録
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85部分:第八話 聖剣伝説その八
第八話 聖剣伝説その八
「よく来てくれました。お話のことですが」
「私を雇うと」
彼は傭兵である。だからここに呼ばれた理由はわかっていた。
「そういうことですね」
「その通りです」
「今我等は周辺地域の制圧を目指している」
壬生が武蔵に対して述べてきた。この時武蔵は超長ランだがズボンは黒だった。そこが壬生達夜叉一族と違っていた。
「それの達成の為に御前の力を借りたいのだ」
「報酬ですが」
また夜叉姫が言ってきた。
「貴方の望むだけ」
余裕のある笑みと共の言葉であった。
「それでどうでしょうか」
「悪くない話です」
武蔵にとって。金は必要なものだ。それならば断る道理もなかった。
「こちらこそ是非」
「はい、それでは宜しく御願いしますよ」
「夜叉の同志としてな」
こうして武蔵は夜叉一族に雇われた。夜叉姫の部屋の前の階段を下りているとそこに壬生がやって来た。そのうえで武蔵に対して声をかけてきたのである。
「武蔵」
「壬生攻介だな」
「そうだ」
まずは武蔵に対して名乗った。
「話は聞いている。夜叉一族随一の剣と氷の使い手だそうだな」
「それはこちらも同じこと」
壬生は気品のある笑みと共に武蔵に応えてきた。どちらかといえば忍というよりも武士のそれに近い笑みである。
「最強の傭兵だったな」
「最強かどうかは知らないが腕には自信がある」
こう壬生に答えてみせた。
「その腕を借りたいのだ」
「無論。報酬の分は働かせてもらう」
「妹さんの為にか」
「何っ!?」
妹と聞いて武蔵の顔が一変した。急激に強張ったものになる。
「何故そのことを知っている」
「御前の身元調査なぞ我等夜叉にとっては造作もないこと」
壬生は平然とした顔で涼しげに応える。
「そういうことだ」
「一つ言っておく」
だが今の壬生の言葉で武蔵の顔がさらに険しいものになった。
「絵里奈に手を出せば御前等全員」
「安心しろ」
しかし壬生はここで微笑んでみせた。
「我等夜叉は子供には手は出さぬ」
「・・・・・・本当か?」
「少なくともこうした時には嘘は言わぬ」
こうも言ってみせる。
「それは安心しろ」
「・・・・・・わかった」
「しかしだ」
そのうえで壬生は話を変えてきた。
「何だ?」
「面白いものだな」
「面白い!?」
「そうだ。御前にも人の心があるのだとわかってな」
そのことを武蔵に言うのだった。
「幾多の戦士を倒してきた御前にもな」
「・・・・・・それが忍の世界ではないのか」
武蔵は表情を消して壬生に応えた。
「倒し倒されることこそが」
「その通りだが御前に関しては色々と噂があったからな」
「噂か」
「冷酷非情な傭兵だとな。だが人の心もあったか」
「そう考えたいのならそう考えていればいい」
それには構わないことにしたのだった。
「俺は仕事を果たして報酬を手に入れる。それだけだ」
「そうか」
「明日から早速働かせてもらう」
こう述べて壬生に背を向けた。
「それではな」
これが武蔵と壬生の出会いであり誠士館に雇われたはじまりであった。竜魔を前にしてそのことを思い出していたのであった。
「もっともそれを貴様に言うつもりはない」
「どうでもいいことだ。貴様の事情についてはこちらも何の興味もない」
竜魔もこう返す。
「別にな」
「では。はじめるぞ」
「うむ」
まずは武蔵が剣を突き出してきた。しかしそれは竜魔の身体をすり抜けただけだった。
「むっ!?」
「まずは見事と言っておこう」
剣を通り抜けた竜魔の身体が消えた。それと共に何処からかその声が聞こえてきた。
「小次郎の左脚を貫いただけはある」
「今の俺の突きをかわすとはな」
「こちらとしてもやられるつもりはない」
その言葉と共に何かが動いた。
「今度はこちらの番だ」
そう言うと突如として武蔵の頭上に姿を現わした。見れば宙に浮かんでいる。
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