お江戸

「そうするんんだよ、それでな」
「働く時は働くだな」
「働きもそれぞれで江戸一だ」
「おめえも俺もだな」
「そうだよ、俺はこれでも商いでもな」
「江戸一だな」
「今度のれん分けっていうか前の番頭がのれん分けした店にな」
　そこにというのだ。
「婿に来てくれって言われててな」
「その店をだな」
「兄貴の店以上の大店にしてやるぜ」
「頑張れよ、俺だってな」
　権太も笑って応える。
「一応寺の坊主だからな」
「だからだな」
「生まれはあれだけれどな」
　住職の隠し子だというのだ。
「それでも坊主としてな」
「遊びつつだな」
「ちゃんと学んでもいくぜ」
「それはいいことだな」
「ああ、これでもお経は読んで生臭ものは食わねえ」
　そうしたことは守っているというのだ。
「それで女色はな」
「一応はだな」
「隠し子だから俺もそういうのはいるさ」
　そこは笑って言う。
「しかしな」
「自分で抑えてだな」
「やってるさ、寺の中にはそういうのがいてもな」
　つまり女がだ。
「それでもな」
「外で遊ぶのは男だな」
「ああ、稚児だ」
　そちらの遊びを主にしているというのだ。
「あくまでな」
「俺はどっちもだがな」
「吉原にも行ってるそうだな」
「ああ、また行くぜ」
　笑ってだ、太之助は権太に言った。
「それで酒も馳走も楽しんでな」
「女と床に入ってか」
「楽しむぜ、俺が吉原に入ったら」　
　それこそとだ、太之助は笑って話した。
「煙管が飛んできて大変なんだぜ」
「助六みたいにか」
「だからこの格好なんだよ」
　助六そのままだというのだ。
「この通りな」
「言うな、じゃあそのもて方見せてもらえるか？」
「おう、今度行く時一緒に行くか」
「そうだな、けれど俺はな」
「外ではだな」
「稚児遊びだからな」
　寺の者としてそちらを楽しんでいるというのだ。
「そこはわかってくれよ」
「わかってるさ、じゃあな」
「ああ、今度行こうぜ」
　吉原にとだ、二人は蕎麦を威勢よく食いながら話をした。そのうえで実際に暫くして夜に吉原に行くぞ。
　すぐにだ、太之助の言った通りにだった。
　彼が吉原の中を歩くと店の女達が次から次にと親し気に煙管を渡してきた、太之助は共にいる権太にその煙管達を見せて一本一本吸いつつ言った。
「どうだよ」
「ああ、嘘じゃなかったな」
　権太もその煙管達を見つつ言った。
「もてるな」
「どうだよ、このもて方」
「助六程じゃねえがな」
　それでもというのだ。
「もてるな」
「そうだろ、この通りな」
「男前でしかもな」
　権太はさらに言った、夜の江戸の町の中に浮かび上がる左右の遊郭達はどの店も見事に着飾った白い花魁達が座っている。蝶や花の様に艶やかな花魁達、赤い店の中に照らされている彼女達も見つつ。