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真田十勇士

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巻ノ八十七 佐々木小次郎その五

「抑えることは出来ても」
「それでもですか」
「怪我はさせます、いえ怪我どころか」
 それ以上のこともというのだ。
「何人かしても気にしませぬので」
「その様に動かれますか」
「ああした者達でも」
「拙者もです」 
 佐々木も言うのだった。
「怪我をさせぬ様気をつけることはしませぬ」
「出来てもですな」
「そこまで考えませぬ」
 宮本と同じくそうするというのだ。
「一切」
「そうなのですか」
「全く、しかし貴殿は違いました」
「これがこの方なのです」 
 根津は幸村の素性を深く今以上に察せられることを怖れてあえて幸村を殿と呼ばずこう呼んだのだった。この方とである。
「出来るだけ相手はです」
「怪我をさせぬ」
「そうされるのですか」
「こうした時は。無駄な殺生も好まれず」
「怪我を負わせることさえも」
「好まれぬのですな」
「左様です」
 それが幸村だというのだ。
「そうした方なのです」
「仁のお心が強いのですな」
 宮本は根津の言葉を聞いてこのことを察した。
「そうなのですか」
「そうなのです、拙者達にもです」
 それこそというのだ。
「いつもお優しく」
「成程」
「我等いつも大事にしてもらっております」
「よく方に仕えておられると」 
 佐々木は根津にこう問うた。
「そう思われていますか」
「心から」
「それは何より」
「若しもです」
 根津は宮本と佐々木にあえて言った。
「お二方がこの方にお仕えしたいなら」
「それならばですか」
「お仕えされてはと」
「そうされてはどうでしょうか」
 こう誘うのだった。
「お二方さえよければ、禄は今はないですが」
「いや、禄よりもです」
 宮本は笑ってだ、根津にこう答えた。
「拙者はこちらの方にお仕えしていい方ではないですな」
「拙者もです」
 佐々木も笑って言う。
「どうも我が強く」
「貴殿の様に忠実に仕えられませぬ」
「ですから折角の申し出ですが」
「お断りさせて頂きます」
「左様ですか」
「はい、お気持ちだけ頂きます」
「その様に」
 こうそれぞれ言う、根津もそれを受けてそれ以上は誘わなかった。そしてその話の後でだ。幸村主従は姫路を後にすることにしたが。
 そこでだ、佐々木は宮本に言った。
「ではわしもな」
「これでか」
「うむ、去る」
 そうするというのだ。 
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