ガールズ&パンツァ― 知波単学園改革記
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第五話 プラウダです! その2
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!お願いします!
プラウダの演習場を縦横無尽に駆け巡る戦車たちがいた。
ソ連が誇る第二次世界大戦の最優秀戦車の一つにも挙げられるT-34が四両、それに追われる形となって走っている車両が六両いた。
追われている車両は快速戦車であるBT-7が三両、同じく快速戦車のBT-5が二両、そしてT-34をそのまま小さくしたかのような形をしているT-50が一両といった編成だった。
カタログスペックでは追いかけるT-34の方が圧倒的有利ではある。
その光景を演習場に建てられた監視塔から眺めている少女たちがいた。
「……焦ってるように見えるね。あのT-34たち」
「焦ってるのよ、なめてかかった結果がT-34を六両も失う大損害、しかも相手は自分たちよりも劣る戦車に加え全員が一年生……これで負ければ先輩としてのメンツが丸つぶれ。嫌でも焦るでしょうね」
「それでも四両撃破してるじゃない。でもいいの?T-34に乗ってるの二年生でしょ?次の隊長候補とかいるんじゃないの?」
「今の二年生には居ないわ。むしろ一年生にも勝てない連中の中に隊長候補がいる方がおかしいわよ」
千冬、真衣、カチューシャ、ノンナが一年生対二年生の模擬戦を見ていた。
なぜこういう状況になっているかというと、千冬たちが格納庫に着いた頃には模擬戦が始まっていた。模擬戦の理由は単純で、どちらの方が強いか、というものだった。
「しかし一年生にしては練度が高いね」
「当然よ!このカチューシャが直々に訓練したんだから!」
「それとアーニャが一年生を引っ張っていることも大きいですね」
「千雪が一年生の中心になってるのね……じゃあT-50に千雪が乗ってるのね」
千冬がそういうとノンナは少し驚いた顔をした。
「よくわかりますね?」
「ノンナだって分かるでしょ?T-50の命中率と回避率が異常だもの。少なくとも私たちが見始めてからは被弾していないし全て当ててるよ」
T-50は今のところ一発も直撃弾を受けていないし、逆にT-50から放たれた砲弾は全てT-34を捉えていた。
「千雪は射撃が上手だからね~」
「そうですね。小さい頃から見ていましたが私よりも才能はありますよ」
「ノンナだって十分上手だよ」
「ありがとうございます。しかしまだ彼女は幼いですから、これからに掛かっているでしょう」
「一人の砲手として終わるか、それとも一人の指揮官として終わるか……千雪は両方やりそうだけどね」
「そうですね」
千冬とノンナが話をしていると、その話の話題となっている千雪が乗るT-50が突然反転し、T-34の集団向かって突進し始めた。
傍から見ればたかが軽戦車一両が中戦車、しかもT-34四両の中に突っ込んでいくのは、ただの自殺行為にしか見えないだろうがそれは違った。少なくともこのT-50は例外に分類される動きをした。
T-34四両は停車させ、まっすぐ突っ込んでくるT-50めがけて一斉に砲撃をした。しかし全て外れた。正確に言えば全て避けられたのに他ならなかった。
T-34の砲撃を全て避けたT-50は、そのまま直進し、すれ違いざまに接射で一両のターレットリングを撃ち抜き撃破。
さらに後ろを取られたもう一両が機関部に直撃弾を受け走行不能となった。
残り二両のT-34は頭に血が上ったのか後ろに離脱していったT-50を追撃しようと車両を反転させた。
それを待っていたのかBT-5、BT-7が一斉に反転しT-34の後面に向かって砲撃を始めた。
しかもその砲撃は一両に集中していた。
さすがのT-34も五両の砲撃が集中すれば多少の損傷を受ける。しかもエンジンが置いてある後面をさらしていれば損傷は拡大する。
この砲撃で一両が撃破され、残り一両となった。
最後の一両となったT-34は、後ろからの砲撃に対応しようと砲塔を後ろに向ければT-50が突っ込んできて至近距離からの接射を受ける、かと言って後ろのBTを無視できない。
T-34が取った選択はT-50を先に撃破することだった。
T-50が反転しまっすぐ突っ込んできた所を絶対必中の距離で砲弾を放つ。そう考えていたらしいが案の定T-50は真正面から突っ込んできた。
T-34はすぐさま停車し、じっと距離が縮まるのを待っていた。
距離が縮まり100mほどにまで縮まるとT-34は砲撃しようとした。
がそれは出来なかった。
T-50に集中し過ぎてBTシリーズ五両に接近され過ぎていた。
そのままBTの集中砲火を浴び遭えなく撃破され、模擬戦は終わった。
「残念だったね二年生たち」
「アーニャがあんな連中に負けるはずないわよ!」
口では残念と言っているが、思いっきり表情が満面の笑みの千冬と、胸を張りながら自分のことのように自慢するカチューシャ。
そんな二人をすぐ傍から見ていた真衣とノンナは同じことを思っていた。
((なんて分かりやすいんだ……でもそこがカワイイ))
二年生のT-34を撃ち破った一年生は格納庫に向けて戦車を進めていた。
その帰り道で砲塔ハッチから上半身を出しながら戦車長たちが会話をしていた。
「ふぅ~何とか勝てただ……」
「これもアーニャのお陰だな!」
「そうだなぁ~!」
「んだんだ!アーニャが居なかったら私たち負けてただ!」
「ありがどな!アーニャ!」
皆が賞賛と感謝の声を送る相手はT-50のハッチから顔を出し可愛らしい笑顔になりながら手を振りそれに答えた。
その黒く美しいセミロングの髪が風に揺られている姿を見ると、初めて彼女を見た者は、先ほどの模擬戦でT-34を四両も撃破した車長にはとても見えないし、ましてや砲手も務めているとは誰も思わないだろう。
どこかのお嬢様のような雰囲気まで醸し出していた。
彼女の顔からは、つい先ほどまで激しい試合をしていたとは思えないほどに落ち着いていた。
しかし彼女には欠点がある。お嬢様のような雰囲気を一撃で木っ端微塵にできる程の欠点がある。
「大口叩いた割にはクソ雑魚だったね。あんな先輩が居たなんて悲しいな~私。まあ、あんな雑魚共はさっさと消えて欲しいけどね~。無能すぎるでしょ?いくらなんでも」
口はもの凄く悪いことである。
しかしカチューシャやノンナの前では一切そう言った、はしたない言葉は使わないが、ノンナは小学校、カチューシャは中学校からの付き合いなので二人はこの事を知っている。
言わなくなったのは高校からで理由は、カチューシャとノンナに成長した姿を見せるためと、ノンナのようなクールな性格になりたいがゆえに二人の前ではそう言った言動は控えている。ちなみに髪型がセミロングなのはノンナがセミロングなので真似たためである。
「あ、相変わらずアーニャは厳しいんだな……」
「ニーナは優しすぎるんだよ。あんなクズ共には慈悲など必要ないし、端からかける気もないし、あんな無能はさっさと居なくなってほしいね。この世から」
「そ、そっか……」
これには思わず千雪以外の全員が苦笑いした。
何の躊躇も恐れもなく先輩の悪口を言えるのはプラウダ高校では千雪ぐらいなのだ。
「さて……そろそろ格納庫に着きますよ。皆さん、模擬戦お疲れさまでした。カチューシャ隊長には私が報告してくるので皆さんは、車両の整備点検をお願いします。ニーナ、後の事は任せたよ」
「了解しただ!」
格納庫に着くと千雪は直ぐにカチューシャの居場所を先輩から聞き、そこへ向かった。
たどり着いた場所は監視塔の最上階にある展望室。
千雪がドアをコンコンッとノックをすると中から返事が返ってきた。
「誰?」
「アンナです。同志カチューシャ隊長」
「そう、入っていいわよ」
「失礼します」
千雪がドアを開けると、そこで目にしたものは……
「千雪、久しぶりだね!」
自分に向かって両手を広げながら突進して来ている姉、千冬の姿だった。
「姉ちゃん、そろそろ抱き着くのやめてくれる?」
「千雪はめんこいね~」
「聞いてねえしこの姉……」
千冬は、千雪の後ろから抱きついており、千雪は、千冬よりも身長が低く、さらに抱き着かれることで千冬の体重の負担がかかり重いので嫌そうな顔をしているのだが、千冬は全くもって話しを聞いていなかった。
「同志アーニャ、報告を」
「ハッ!カチューシャ隊長が来られる前に我々、一年生が自主練習を行っていたところに、二年生の先輩方が我々を鍛えてくださるということで合同練習を行った次第であります」
カチューシャに命じられると千雪はハキハキとした口調で何故二年生との模擬戦に至ったかを簡潔に報告した。
「つまり………二年生が仕掛けてきたのね?」
「そうです」
カチューシャが千雪の目を見ながら問いかけ、千雪はハッキリと答えた。
「………そう、じゃあ二年生の処罰はこちらでやっておくわ。ノンナ、処罰の内容は任せたわよ」
「わかりました」
「……一年生は?」
「別に何にもないわよ?売られた喧嘩を買って返り討ちしただけでしょ?それに……」
カチューシャは紅茶を飲みながら、ノンナに指示を出し、千雪の質問に答えた。
「無能な二年生より、優秀な一年生を守る方が、プラウダの為になると思ってるから。でも喧嘩を売られたなら買って叩き潰しなさい!いいわね?」
「ハッ!!!」
カチューシャの言葉に、千雪は、満面の笑みになりながら元気よく返事を返した。
「では、ニーナたちが待っていますのでこの辺で失礼します!」
「まだ話は終わってないわよ?アーニャ」
満面の笑みのまま姉を振りほどき、部屋を出ようとした千雪をカチューシャが引き留めた。千雪の顔は満面の笑みから、疑問に満ち溢れた顔へと変わっていた。
「他に何かありましたっけ?」
「今度の試合の事よ」
「……準決勝の事ですか?」
試合の話になった途端に千雪の顔からは疑問がなくなり、無表情となった。
姉である千冬から見れば絶対にノンナの真似をしているようにしか見えなかった。ちらりとノンナを見ると、ノンナも困った表情をしていたので、いつもこのような顔をするらしい。
「そう、準決勝よ。準決勝では十五両まで車輌を参加させれることができるわ。アーニャは、一年生だけど1回戦、2回戦に参加したはよね?」
「はい。T-34/85で参加しました」
「そこでもう一組一年生が操る車輌を参加させたいのよ。誰が良いと思う?」
カチューシャの質問に千雪は、即答した。
「KV-2を操っているニーナたちが良いと思います。理由は、先の模擬戦の際、私が作戦を立案しましたが、実行したのは、ニーナであります。彼女は、的確なタイミングで指示を飛ばせてましたし、度胸もありました。決して二年生のような無能ではありません。次の試合に当たり、強力な戦力となります。理由は以上です」
「そう……」
千雪の答えを聞き終えるとカチューシャは顎に手を当て少し考える素振りを見せた。
「……このことは追って知らせるわ。訓練に戻っていいわよ」
「失礼します」
そう言うと千雪は深々と一礼し、部屋から出て行った。
千雪が階段を下りる足音が完全に聞こえなくなると、千冬が口を開いた。
「……千雪ってあんなに真面目に喋れるんだ……」
「何で驚いてるのよ!?あなたの妹でしょ!?」
「いやだって、中学まであんなんじゃなかったし、実家に居るときだってあんなんじゃないんだよ?そりゃあ驚くよ。あとノンナみたいな髪型だったね」
「入学式の時はあのような髪型ではなかったんですよ……腰まで届くポニ―テールだったんですけど私とあった次の日には、あのような髪型になっていたんです………」
「………ノンナの影響、受けすぎだね………まあ……可愛いからいいけど!」
千冬の発言にカチューシャとノンナは大きくため息を吐くのであった。
「これをどうぞ」
「ありがとう。ノンナ、小百合たちも喜ぶよ」
千冬はノンナからお土産が入っている紙袋を受け取った。
「カチューシャ、準決勝、見に行くからね。油断しちゃダメだよ」
「分かってるわよ!このカチューシャが負けるはずないわ!」
「………そっか、なら良かった」
胸を張りながら自信満々に言うカチューシャを見て千冬は心配になったが、あえてそれを言うのはやめた。
「じゃあそろそろ行くね。暇な時にまた遊びに来るから」
「その時は事前に連絡しなさいよ」
「わかってるよ。じゃあ、またね」
そう言うと千冬は真衣と共に定期船に乗り込んだ。
自分の母校、知波単学園へ戻るために
その顔は先程の笑顔の面影を一切感じさせない、無表情となりながら帰路へと着いた。
後書き
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