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ガールズ&パンツァ― 知波単学園改革記

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第四話 プラウダです! その1

 
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!お願いします!
 

 








 『西住みほ』と初めて出会った……正確に言えば初めて砲火を交えたのは、私が中学1年の時だった。
 しかし彼女は、私のことは覚えていないだろう。

 私が初めて出場した『公式』の戦車道大会………戦車道全国中学生大会の時だった……

 私は、自信があった。

 母から教わった戦術、友と共に励んで培った技術、勝利への意志。
 勝てると信じていた。勝利を疑わなかった。


 
 しかし違った。



 私は敗れた。

 完膚なきまでに叩き潰された。

 無残に敗北した。

 
 『西住みほ』に敗れた。

 何もできずに、手も足も出ずに敗北した。    

    
 走行不能にされた私は、砲塔ハッチから頭を出した。
 すると遠くだが彼女の顔が見えた。
 彼女は笑っていた。おそらくその笑みは、勝利を喜ぶ笑みだったのだろう。

 しかしその笑みを見た瞬間











 私の何かが壊れた。


 何が壊れたかは、私にもわからない。

 ただ壊れては、いけない何かが壊れた。

 それだけは、分かる。



 

 













 



「『県立大洗女子学園、20年ぶりに戦車道を復活させた県立の女子学園。一回戦で強豪サンダース大学付属高校を破り二回戦へ進出。二回戦の相手であるアンツィオ高校を破り準決勝へ進出、今大会のダークフォース的な活躍ぶりを見せており大番狂わせに期待がかかる。』こんな感じでネットでも注目されているみたいですね」
「ありがとう真衣。調べてくれて」
「この程度、お安い御用です!」

 今、私は、真衣と共にある場所へ向かっていた。

「プラウダ……勝てますかね……?あの『西住みほ』に……」
「だから『油断するな』って言いに、わざわざ向かってるの」
「そうでしたね……小百合殿たちも来れればよかったのですが……」
「ごめんね………でも私の代わりに誰かが練習の指揮を執らないといけないでしょ?だから小百合と莉乃が残ってくれたの。そのかわりお土産頼まれたど……何が良いかな?」
「ノンナ殿に聞いてみてはいかがでしょうか?」
「………そうだね。面倒だからノンナに選んでもらおう」

 私たち二人が向かっている場所……準決勝で大洗と対戦する高校……




 プラウダ高校に向かっていた。







 プラウダ高校……前回の戦車道全国大会の優勝校であり、絶対王者であった黒森峰女学園の10連覇を阻んだ学校。今大会でも優勝候補の一角に挙げられている。

 ソビエト海軍のキエフ級空母に類似した学園艦がゆっくり北の海を進んでいた。

 そしてその中心にある校舎の戦車道隊長専用の部屋に二人の少女がいた。
 一人は女性としては背が高く、もう一人は高校生としては異常に背が低く、小学生とほとんど変わらない身長しかない。


「カチューシャ、あなた宛てに電話が来てますよ」
「電話?誰からなの?このカチューシャに電話なんてダージリンぐらいしかいないわよ?」
「聞けば驚くと思いますよ?」
「驚く……?……もしもし?」

背の高い少女……ノンナから渡された受話器を受け取った背の低い少女……カチューシャは、頭にクエスチョンマークを浮かべながら言った。

『もしもし?カチューシャ?元気にしてた?』
「!……私の好きな戦車は?」
『KV‐2、お前風に言えばカーベーたん』
「私の好きな食べ物は?」
『ボルシチ』
「私の好きな花は?」
『カモミール』
「……あなた、千冬でしょ?珍しいわね。あなたが電話をかけて来るなんて」
『用件だけ言うぞ。今、そっちに向かってるから』
「……ごめんもう一度言って?」
『今、そっちに向かってるから』
「そっちって………プラウダに?」
『そう!そういうことだから!じゃ!』
「ちょ、ちょっと待ちな……最後まで人の話を聞きなさい!」

カチューシャは怒鳴りながら受話器を叩きつけるように置いた。

「もう何なのよ!?何でいきなり来るのよ!?しかも今、向かってるって、事前に連絡ぐらいよこしなさいよ!」
「私たちを驚かせようとしたのでは?」
「………もしそれだけの為に来るんだったらシベリアに送ってやるんだから……!」

怒るカチューシャをなだめながらノンナは考えていた。

 千冬とは小学校からの付き合いだが、わざわざ会いに来るということは、非常に珍しい。去年、優勝を祝いに来てくれた以来だ。プライベートで会う時もしっかりと事前に連絡をくれるし、こちらの都合に合わせてくれる。
 それなのに今回は、事前の連絡も無しに来るということは、よほど重要なことか………そんな事を考えていたが未だに怒っているカチューシャの怒りを鎮めることに頭を切り替えた。









 船の甲板に備え付けられている手すりに寄りかかりながら千冬は、間近に迫ってきているプラウダの学園艦を見つめていた。

「やっぱり北の海は落ち着くね………これで雪でも降ってれば言うこと無しなんだけど………」
「千冬殿、そろそろ着くみたいですよ。それと今の時期はさすがに降りませんよ………あっ!荷物はまとめて起きましたのであとは降りるだけです」

 千冬が呟くように言うと、甲板に上がってきた真衣がもうすぐ学園艦に着くことと、荷物をまとめておいたことを千冬に伝えた。

「今夏だからね………それとありがとう荷物をまとめてをくれて」
「いえ、荷物の量も少ないですし、これくらい大丈夫ですよ」
「そっか………早く、T-34-85が見たいな……」
「………千冬殿、我々は遊びに来たのでは無いのですから、戦車はやる事をやった後にしてください」
「わかってるよ。一言いう為だけにわざわざ来てるんだから」

真衣が注意するように言うと、千冬は学園艦を見つめながら答えた。
















 時を同じくして知波単学園では、今では当たり前になった行進間射撃の訓練を行っていた。いつもと違うのは訓練を指揮しているのが千冬ではなく、莉乃になっているという点だ。
 更に言うと小百合、莞奈、多代たちは、一年生の指導に当たっている。これは、千冬の訓練が激しすぎて一年生たちがほとんど付いて行けてなかったので、全体を見てうまくできている莞奈、多代たちが指導に当てる様にし、小百合は余ったので困っている子がいたらサポートする役を与えていた。


 演習場の監視塔から訓練の指示を出しながら莉乃は考えていた。

「………まだまだ練度が低いわね………こんなんじゃ幾ら経っても黒森峰に勝てないわね………火力も無いし……新しい車両とか買わないのかしら……?」

 彼女が悩んでいることは知波単学園の火力の無さである。知波単学園が保有する車両は、九七式中戦車の旧砲塔同じく九七式中戦車の新砲塔、九五式軽戦車を主力とし、何故か倉庫でほこりを被っていたのを多代が見つけて整備した九八式軽戦車だけと、お世辞にも火力が高いとは言えないのが現状だった。

「どこかに火力が高い戦車、落ちてないかしら……?」
「何かお悩みかい?」

 莉乃が後ろ向くといつの間にか多代が笑いながら立っていた。

「何であなたがここに居るの?一年生を指導してって私言ったわよね?」
「そう睨みながら言うなよ……一年生の指導はあらかた終わったよ。今はおチビ(莞奈のこと)が座学をやってるよ」
「本当に大丈夫なの?」
「あたいだってガキの頃から戦車道やってたんだ。教えるのは慣れてるよ」

 莉乃は、多代を疑うように睨みつけていると、多代は豊満な胸を張りながら答えた。その光景を見た瞬間、莉乃はますます不機嫌になった。

「で、なにか悩んでるのか?」

 不機嫌になっている莉乃を気にすることなく多代は話を切り出した。

「…………火力のある戦車が欲しいと思っただけよ」
「火力ね…………用意できるけどな……」
「用意できるの!?」

 思いもよらぬ答えに莉乃は飛びつく勢いで多代に迫った。

「お、落ち着けって!……用意できるけど時間が掛かる。それでも良いか?」
「じ、時間が掛かるっていつ頃までかかるの!?」
「う~ん……早くて今年の冬、遅くても来年の春頃だと思う」
「そ、そっか……でもどうやって用意するのよ?」

 莉乃がそう質問すると、苦笑いしながら多代は答えた。

「いや~それはまだ言えない」
「何でよ?」
「まだ言うタイミングじゃない」
「だから何でよ?」
「今は言うタイミングじゃないから」

 しばらくそんなやり取りが続いた。


















 場面をプラウダ高校に戻すと、四人の少女が煌びやかに飾られた内装で床には赤い絨毯が敷かれてある部屋に居た。
 一人、カチューシャは椅子にふんぞり返るように座り、もう一人、ノンナはその斜め後ろに立っている。それに対して眼帯を付けた少女……千冬はじっと椅子に座っている少女を見つめ、真衣は千冬の右斜め後ろに控えるように立っていた。

「久しぶりね千冬?今日は何の用事があって来たのかしら?」
「久しぶりだねカチューシャ。何で不機嫌なの?」
「あなた達がいきなり来るからよ!」
「そう怒らないでよ……ノンナも元気そうだね」
「そちらもお元気そうでなによりです」

 怒鳴っていいるカチューシャを尻目にノンナにも挨拶をすると、微笑みながら返事を返してきた。

「とりあえずソファーに座っていい?」
「好きにしなさい!」
「そんな怒らないでよ……身長伸びなくなるよ?」
「チビって言うな!」
「言ってないよ……」

 そんなやり取りをしつつ千冬と真衣はソファーに腰を下ろした。テーブルの上にはいつの間にか用意されていた紅茶とジャム、クッキーがあった。

「で、何しに来たの?カチューシャはこう見えても忙しいのよ?」
「お茶ぐらい飲ませてよ。あ、このクッキー美味しい……ノンナが作ったの?」
「よくわかりましたね」
「私と何年の付き合いだと思ってるの?ノンナの作ってくれた料理の味は全て覚えてるんだから。あ、お土産に何個か貰って行っていい?」
「クッキーで良いのですか?」
「ノンナ手作りクッキーなら小百合たちが喜ぶよ」
「そうですか。では用意しておきますね」
「・・・・・・そろそろ来た理由を聞いてもいいかしら?」

 カチューシャが青筋を立てながら訪ねてきた。

「あ、ゴメンね待たせちゃって。じゃあ………言うよ?」
「もったいぶらないで早く言いなさいよ」

 千冬は大きく深呼吸をし、いつになく真剣な表情になりながらカチューシャに向けて言った。


「『西住みほ』には気を付けろ、そして油断するな。以上!」


 千冬はそう言い放つと紅茶を飲んだ。もちろんジャムを舐めてから飲んだ。真衣も紅茶を飲み、ノンナはいつの間にかソファーに座りクッキーを食べていた。

「そ……それだけ?」
「そうだけど?それだけの為にわざわざ言いに来たんだよ?」

 千冬の言葉に大きくため息をしながらカチューシャは言った。

「そんなの電話で済むじゃない……なんでわざわざ言いに来たのよ?」
「お前が油断しているからだ」

 千冬の返答に一瞬ムッとした表情になったがすぐに笑いながら言った。

「聖グロのダージリンにも言ったけど、あんな聞いたこともない弱小校に負けるわけないじゃない。いくら西住流の娘がいるからって所詮妹の方でしょ?カチューシャたちが負けるなんてありえないわ」


 その言葉聞いた瞬間、千冬は眉間に皺を寄せ、怒りもしくは殺意に近いものがこもった瞳でカチューシャを睨んだ。その眼は到底女子高生とは思えない力強さがあった。

「……『決して敵を侮ってはならない。決して油断してはならない。自分の力におごってはならない』……忘れてはいないよな……カチューシャ?」

 千冬に睨まれ怯みはしたもののすぐに言い返した。

「ちゃんと覚えてるわよ!力の違いを見せつけてやるんだから!」
「………そっか。頑張ってね!応援に行くから!あ、ノンナ紅茶お代わり」

 千冬は、カチューシャの答えに満足したのか怒りを収めて笑顔になりながら紅茶のお代わりをノンナに求めた。 

 
 カチューシャは顔には出さないが内心、心底怯えていた。千冬とは中学からの付き合いだが苦手意識が強かった。
 苦手というよりも千冬に対して恐怖心を抱いていた。日常生活ではどこにでもいる元気な少女だったが、戦車に乗ると人格が変わったかのような発言や行動をするのでそれが未だに恐ろしいと思っていた。

「そう言えばカチューシャ?」
「な、なによ!?」
「千雪は元気?」
「千雪じゃなくてここでは同志アンナよ!」

 ついさっきまで怯えていたのでいきなり声をかけられ驚きながらもしっかりと答えを返したカチューシャだった。

「同志アンナね……」
「友人たちからは愛称であるアーニャと呼ばれてますよ」
「そっか……元気にやってるんだね?」
「少々元気すぎるところがありますけどね……」

 ノンナが苦笑いしながら答えるのを見て千冬は、思い出したかのように言った。

「千雪ってまだノンナの事を『ノンナ姉』って呼んでるの?」
「はい……」
「まあ千雪はノンナの事が大好きだから仕方がないよ。別にみんなの前で言ってるんじゃないんでしょ?」
「それはそうですが……」
「……やっぱり嫌?」
「嫌というか恥ずかしいです……」
「……なんかごめん……」

 少し困った表情をしながら答えるノンナに対し千雪の姉として申し訳ない気持ちになっていた。

 少し気まずい空気になっていたがその空気を打ち破ったのは以外な人物だった。

「千冬殿、T‐34ー85を見に行くのではなかったのではありませんか?」
「あ、忘れてた!カチューシャ!T-34-85見て良い?」
「何でよ?」
「見たいから」

 カチューシャが不機嫌そうに言うと千冬が即答し、しばらく睨み合いになった。もっとも千冬はただカチューシャを見ているだけでカチューシャが一方的に睨んでいるだけだが……

「………わかったわよ……正し練習の邪魔だけはしないでよね!」
「わかりました!同志カチューシャ!」
「調子に乗らない!」

 そんなやり取りをしながら4人は部屋から出て行った。






 
 

 
後書き
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