| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ガールズ&パンツァ― 知波単学園改革記

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三話 訓練です!

 
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!お願いします!
 

 
 

 昨日、千冬たちが試合をした演習場では多く戦車が縦横無尽に走っていた。

 知波単学園の練習は厳しいことで有名だが今日は違っていた。





「4号車!何やっている!しっかり当てろ!何している8号車!?そんなもんにも当てられんのか!3号車!もっと速く走れ!ジグザグに走れ!のろのろ動くな!そんなんだから黒森峰の砲弾なんかに当たるんだ!11号車、12号車、13号車はお互いの位置を確認しつつ敵を見つけろ!14、15号車!もっと速く走れ!!」



 今日は、一段と厳しく激しかった。


 そして、今日の練習を指揮している人物というのは………



「千冬、そんなに一気にできるわけないでしょ?私たち以外みんな初めてなんだから……」
「でも石原も山口もできてるよ?8号車!さっさと当てろ!」

 千冬は監視塔の上から練習の指揮を執っていた。
 本来なら隊長である西が指揮を執るのだが今日は千冬が指揮を執っていた。


 なぜ千冬が指揮を執っているのかというと…………













 試合が終わりチハの車内から外に出た千冬たちは、多代たちが乗るケニをじっと見ていた。

「出て来ないね……」

 千冬が呟くように言った。
 そう試合が終了してから十分以上が経過しているのにもかかわらずケニからは多代たちの姿は現れなかった。

「死んじゃった?」
「姐さん、あんなんで死ぬわけないっすよ。…………ないよね?」
「私に聞かないでよ………」

 小百合と莉乃が話しをしているとケニからが多代たちが出てきた。

「生きてたみたいですね。こっちに来ますよ」

 真衣が言うように多代たちはまっすぐ千冬たちのもとへ歩いて来た。三人ともしっかり歩けているので怪我はしていないようだ。

 そのまま千冬たちの傍まで近づいて来た多代たち。

 そして多代は千冬の目の前に立ち、千冬の目をじっと見つめていた。右目は眼帯で隠れているので、左目だけを見つめるという形になっていた。
 千冬も多代の目を見つめ返した。身長差があるので千冬は少し上目遣いになりながら見つめていた。

「………楽しかった?」

 先に口を開いたのは千冬だった。千冬の言葉に多代は少し驚いた表情をしたが、すぐに笑いながら答えた。

「ああ、楽しかったよ!」
「よかった!」

 多代の答えに千冬は満面の笑みになりながら多代の手を握り、握手をした。多代はいきなり掴まれたことに、驚いていたが千冬は気にすることなく手を握りながら言った。

「今度は、一緒に戦おうね!」
「……そ、そうだな!」

 多代は、戸惑いながらも返事を返した。

「これから、よろしくね!」

 そう笑いながら言う千冬の顔は、戦車に乗っていた時と比べると実に年相応の女の子の笑顔だった。その顔を間近で見ていた多代は、少し顔を赤らめた。















 それから戦車回収車が到着し、多代たちが走行不能となったケ二と共に回収されたのを見届けた千冬は、チハに乗り込み小百合に倉庫に戻るように言った。


 倉庫に着くと試合を見ていた莞奈や先輩たち後輩たち、多くの隊員、そして試合の審判をしていた西が待っていたのだが………



「よくやったぞ栗林!」
「栗林、やはりお前も知波単魂を持っていたんだな!」
「見事な突撃だったぞ!」
「先輩殿!とてもカッコよかったであります!」

 千冬は、おもに先輩たちからお褒めの言葉をいただいていた。千冬はもともと待ち伏せという知波単学園で言うところの”卑怯な戦法”で試合を決するつもりだったが、多代が『栗林流』を知っており、待ち伏せに乗ってこないと判断し突撃したまでで、本来は先輩方に待ち伏せ戦法を見せたかった。

 千冬が浮かない顔でそう考えていると……

「それは……どうも……」
「どうした?もっと胸を張れ!お前は知波単魂を我々に見せてくれたんだ!」
「いや……先輩方に見せたい戦い方ではなかったので………なんと言いますか……」
「そうなのか?しかしなぜ真正面から突撃しなかったんだ?」
「そんなことしたら奇襲にならないでしょう………」
「奇襲………?」

 奇襲という言葉に多くの隊員が首を傾げた。勿論その中に莞奈たちは含まれていない。その光景を見て思わずため息をついてしまった千冬は、何かを決意したかのように首を傾げた隊員たちに向けて言った。

「明日から私が練習の指揮を執ります!よろしいですか!?西隊長!?」
「えっ!?いや……なぜ急に栗林が練習の指揮を執る……」
「い・い・で・す・ね!?」
「わ、わかった……」

 急な言葉に西は戸惑いながらも理由を聞こうとしたが、大声で迫りながら言う千冬の顔を見て思わず頷いてしまった。














 千冬が練習風景を見ながら昨日の出来事を思い出していると隣にいた小百合が話しかけてきた。

「姐さん、大丈夫っすか?ボーっとして?」
「大丈夫だよ、少し考え事をしていただけだから……」
「それならいいですけど……ところでこの練習っていつまで続けるんすか?」
「んー……じゃあ……あの静止目標に各車が、行進間射撃で一発でも命中させれたら、次は座学をやろうかな?」
「わかりました!じゃあ、あたしは会議室で準備してきますね!」

 そう言うと小百合は監視塔からはしごを使い降りて、校舎に向かって走って行った。

「……心配だから真衣も行ってくれる?」
「わかりました!小百合殿の援護に向かいます!」

 そう言うと真衣は監視塔から飛び降り、凄まじい足の速さで小百合に追いつき一緒に校舎へ向かい始めた。

「真衣って何であんなに速く走れるんだろう……?」
「100m17秒って言ってたわよ……」
「……絶対本気出してないよね……」
「そうね……」

 真衣の走りを見て思わず言葉を口にしてしまう千冬と莉乃だった。












 一時間後、全車両が行進間射撃で目標に命中させたのを見届けた千冬は、全隊員に戦車を倉庫に戻してから、会議室へ集合するように命じた。




 会議室には、大きなホワイトボードに教壇、人数分のイスなどが用意されており、先に来ていた小百合と真衣が指示を出しながら席に座るように促していた。
 最前列には、莞奈、靖香、若菜、和佳子の四人、その隣に多代、巴、朱音の三人、さらにその隣に西、玉田、細見の三人が座っていた。

 座っている隊員のほとんどが疲れた顔をしているのだが、莞奈たち四人だけは、猛練習の後にも関わらず疲れた表情一つ見せない。
 多代たち三人も多少疲れた表情を見せるも、他の隊員たちよりは遙かに元気であった。西は隊長として元気に振る舞っているがどう見ても、から元気であり玉田、細見も西と似たような感じである。


 千冬と莉乃が入って来ると静まり返った。多くの者は不安な顔となりながら千冬の事を見つめていた。

「では、これから座学を始めたいと思います!まず先の練習の評価を致します」

 千冬が宣言するように言うと、ついさっきまでしていた練習の評価をし始めた。

「まず、ここにいる多くの隊員がやったことのない事をやらせました。最初は戸惑いもあったでしょうが、皆さんよく短時間で行進間射撃をやってのけました。これはすごい事なので皆さん誇りを持ってください!練度はまだまだですけどね!」

 千冬がそう言うと、多くの隊員の顔が少し緩んだ。

「次は戦術についてです!まずお聞きしたい。突撃以外の戦術が思いついた人がいたら挙手してください!」

 挙手したのは、莞奈、靖香、若菜、和佳子、多代、巴、朱音のわずか七人だけで他の隊員は西を含めて手を上げなかった。

 その光景を見て千冬はハッキリと言った。

「これが知波単最大の弱点です!先輩方には申し訳無いが突撃戦法だけでは、どこの学校にも勝てません!何故なら我々が突撃することを敵は戦う前から知っているからです!知波単最大の弱点、それは突撃戦法以外の戦い方を知らないという点です!馬鹿正直に敵の目の前から突っ込めば砲撃を受け、接近する前にこちらが全滅します!」   

 千冬が一気に言うと、玉田、細見を筆頭に多くの反論が上がった。しかしそれを無視して千冬は話を進めた。

「まず、突撃以外の戦術をお教えします。まあ……今からお教えするのは、私の実家の流派である『栗林流』というとてもマイナーな流派の教えです。まず『栗林流』の説明からさせていただきます。『栗林流』とは戦後にできた比較的新しい分類に入る流派で、私の祖母が『硫黄島の戦い』での防御戦術を元に生み出したました。徹底した防御、敵に多大な出血を強いて、陣地を死守し、強力な相互支援、最後の一両となろうとも敵を攻撃し続ける……簡単に言えば防御専門の流派です。ここまでの事で質問はございますか?」

 区切りがよかったので一旦質問を取ると、西が手を上げた。

「一つ気になったのだが……」
「どうかしましたか?西隊長」
「ずっと気になっていたのだが……栗林は、あの栗林忠道大将の子孫なのか?」

 なぜかワクワクした表情で質問してきた西に対し、苦笑いをしながら千冬は答えた。

「残念ながら苗字が同じだけで何の関係もございません……」
「そうか……」
「いえ、よく言われるので……」

 何故か会議室が静寂に包まれた。どうやらみんな、栗林が子孫だと思っていたらしい。  

「き、気を取り直して続けます!さっきも言いましたが『栗林流』は防御専門の流派なので防御戦術しか教えていません。しかし攻撃戦術が無いわけではありません。あえて教えないでいるだけなのです。これは門下生が自分の力だけで戦術を生み出して欲しいということで、教えなかったみたいです。祖母はよくこんなことを言っていました『考えるのをやめない。思考を止めない。柔軟な考え方を常に持つ。これらができればどんな敵にも負けない』と。皆さんは、できてますか?伝統に捕らわれていませんか?一回、伝統を忘れて良く考えてみてください。自分の頭で考えてみてください」





 そのあとは、奇襲や待ち伏せなどを簡単に説明して今日の座学は終了した。初めての練習、慣れない座学が続いたので会議室にいた全員がトボトボと重い足取りで会議室を後にした。莞奈たちと多代たちは元気だったが。



「疲れた………」
「お疲れ様、はい麦茶」
「ありがとう……」

 莉乃が渡してきた麦茶を一気に飲み干すと、千冬は疲れ気味な口調で言った。

「改革って大変だね……」
「そうね……でもそれを承知でこの学園艦を来たんでしょ?」
「それはそうだけど……ここまで頭が固いとは思わないよ……一年生の時、初めて教わったの覚えてる?突撃だよ?最初からそんなこと教えられて、しかもそれしか教えていないから突撃だけしかできなくなるんだよ………」
「まあ……あれは引いたわ……基礎も何もなしに突撃だけ教えられてもね……」
「はぁ……実家にいた頃が懐かしい……みんなで何も考えずに戦車を乗り回していた頃が懐かしい……」
「夏休みまで我慢しなさい」

 懐かしそうに思い出しながら話しをしていた千冬だったが莉乃にツッコミを入れられるのであった。それでも話を続ける千冬。

「実家に帰ったら母さんが作ってくれたカレーを食べるんだ……」
「……聞いてる?」
「それで……千雪と遊ぶんだ……あぁ……北海道に帰りたい………」
「お~い!しっかりしなさ~い!現実に戻ってきなさ~い!」

 遠い目をしながら話をする千冬の耳元で叫ぶ莉乃だった。
















 会議室の片付けが終わり、各自自分の寮へ帰って行った。
 千冬と小百合は、スーパーで買い物を済ませた後、寮へ帰宅した。夜ご飯を食べ終わったあと突然、小百合が言った。

「姐さんは、知波単のことが好きなんですか?」
「………どうしてそんなこと聞くの?」
「会議室の片付けの時に聞いたんですよ」

 千冬は少し俯きながら、答えた。

「好きだよ……だけど……やっぱりプラウダと比べちゃうんだよね……」
「そう簡単に上手くいくわけないですよ。知波単のやり方を無理やり変えようとしてるんですから」
「でも母さんは、私が今やってる事をプラウダでやったよ!母さんが出来たなら私にもできる!」
「じゃあ頑張ってください。姐さんならできますよ。そのためにあたしたちが居るんですから」
「………小百合、ありがとう!」

 小百合の言葉に素直に礼を言うと同時に抱き着いた。小百合は、慣れたように千冬の背中をさすりながら言った。千冬の顔は子供のような顔となっていた。

「それは良かった。あたしはどんな時でも『千冬』の味方だからね。だから一緒に頑張ろう?」
「うん!」

 しばらくその状態が続いたが10回ほど背中をさすった後、千冬は小百合から離れた。

「落ち着きましたか?姐さん?」
「ありがとう。今度こそ大丈夫」

 さっきまで子供のような顔が一転していつもの真面目な顔に戻っていた。

「私は、この学園を……知波単学園を強くするために来たんだ」

 千冬がそう言うと小百合も真面目な顔となった。



 小百合が千冬に問う。

「強くしてどうするんですか?」

 千冬が答える。

「黒森峰……いや『西住流』を打ち破る」

 またしても小百合が問う。

「なぜ『西住流』なんですか?」

 千冬が答えた。

「母さんの仇だからだ」

 続けてこう言った。

「『西住流』を打ち破るのは、我々『栗林流』の使命だからだ」


 そう言い切った千冬の顔は、何かを決意した顔となっていた。







 それからすぐにこんな情報が真衣によって千冬にもたらされた。


『大洗女子学園に西住みほがおります。そして次の対戦相手はプラウダ高校』


 それを聞いて千冬は、言った。




「今のプラウダが『西住みほ』に勝てるとは思えない。何故なら彼女は『軍神の娘』だからだ。『軍神』を倒すのは『鬼神』の役目、『軍神の娘』を倒すのは『鬼神の娘』の役目だ。来年が楽しみ」

 そう言いながら彼女は笑った。



「彼女は私が倒す」



 ハッキリと強い、口調で言った。その顔は笑ったままだった。
 とても可愛らしくもどこか恐怖を感じる笑顔だった。



 
 

 
後書き
励みになるので、ご意見ご感想ご批判等を首を長くしてお待ちしております。  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧