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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  第100話「平穏な日々」

 
前書き
記念すべき(?)100話目。
それにしても前回の蛇足感ェ...。
前回で綺麗に終わらせられなかったので、後日談と共に平穏な日々のお話です。
 

 






       =優輝side=





「....ん....。」

 自然と目を覚まし、目覚まし時計で時間を確認する。
 ちなみに、目覚ましの設定はしているけど、大抵それより前に起きるので使わない。

「....ん?んん...?」

 起き上がり、目に入った手を見て、()は気づく。
 ...男に戻っている事に。

「...朝に女になって、朝に元に戻る...か。」

 まぁ、早めに戻ってよかったよかった。
 やはり、昨日の椿とのアレが相当効率をよくしたのだろう。
 ...結果、椿には悪い事をしてしまったという罪悪感があるけど...。

「(女同士だからノーカン...とはいかないだろうなぁ...。)」

 反応と、無意識下とはいえ僕に散々甘えてきたし...。
 ...うん、しばらくまともに口を利いてくれなさそう。

「...とりあえず、起きるか。」

 ちなみに、パジャマは普通に僕のを使っていた。
 予想していた訳じゃないが、こうして朝起きた時戻っている可能性もあったからな。
 ...寝る時はぶかぶかで不便だったな...。

「(起こさないように...起こさないように...。)」

 そして、今僕の隣には椿も眠っている。
 昨日、結局元に戻らず、寝食を共にしたのだ。後お風呂も。
 ここで起こしてしまえば...うん、ややこしい事態になる。

「よし...。」

 何とか起こさずにベッドから降り、着替えてからリビングに行く。
 まだ朝が早いから、いつもの日課を終わらせて学校の弁当を作るか。





「あ、おはよう優ちゃん。元に戻れたんだね。」

「おはよう葵。...まぁ、学校までに戻れてよかったよ。」

 日課の走り込みなどを終わらせ、弁当を作っていると葵が起きてきた。

「かやちゃんは?」

「起こす訳にもいかないから、僕の部屋で寝てるよ。」

「そうなんだ。」

 まだ起きていない所を見るに、アレが余程効いたみたいだな...。

「...そういや、今更だけどさ。葵は吸血鬼だから本来は夜型だろ?普通に早起きとかしているけど、吸血鬼としてそれは大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。優ちゃんが学校に行っている間とか、暇な時は寝てるから!」

 なるほど。...それに、式姫で吸血鬼だから、そこまで影響なかったりもするのか。

「あ、そうだ。ついでだから椿を起こしてきてくれるか?僕が起こすより、葵が起こす方が反応としてはマシだろうし。」

「そうだねー。色々あるだろうねー。」

 にやにやとしながら、葵は了承して僕の部屋へと向かった。
 ...どうなる事やら...。







「おはよう。」

 しばらくして、僕は教室の扉を開け、自分の席に座る。

「(...どうやって機嫌取ろうかな...。)」

 結局、椿とは碌に口を利けなかった。
 話しかけようとしても、露骨に避けられるし、凄い睨まれてしまう。
 どうやら、無意識下で行っていた時の事も少しばかり覚えているみたいだった。

 ...ただ、花も咲き乱れていた事から、恥ずかしさの気持ちが勝っているだけで、ただ嫌がっているだけではないのは理解できた。
 椿にとって、嬉しい事でもあったらしい。

「あ、優輝君。」

「おはよう、司。」

 ふと、そこへ司が来る。
 男に戻ったのを見て、少し驚いているみたいだ。

「...元に戻ったんだね。」

「朝起きた時にな。ただ、椿が...。」

「...結局、どうなったの?」

 他の人に聞こえない程度の声量で、司に軽く説明する。

「....と言う訳で、結局葵を通してじゃないと碌に会話できない。」

「それは...椿ちゃんも恥ずかしいだろうね...。」

 まぁ、威嚇してくる子猫みたいなもので、可愛らしいものだけどな。
 別に、嫌われた訳じゃないし。

「でも、椿ちゃんがああなるなんて...ホントに何したの?」

「...ちょっと、ここでは言えないかな...。」

「......むー...。」

 さすがにキス...それも相当アレだったから、そのまま伝える事はできない。
 ただパスを強くするためだけで、別に変な意味じゃない...と言う方が失礼か。

「(あの時は女だったから、余計に抵抗がなかったんだよなぁ...。)」

 今だと異性だから抵抗があるからな。

「...また後で聞かせてよね?」

「了解。時間があればな。」

 司はそう言ってから一度自分の席に行く。
 ...少しだけどこか不機嫌そうだったけど....椿の事かな?

「よっす優輝。まーた羨ましいなこの野郎!」

「っと、なんだよ(さとし)。別にいつもの事だろう?」

 いつもの男友達である聡が、肩を組むようにしながら僕に言う。

「“いつもの事”にできるのが羨ましいんだよ!」

「言っても、親友だしなぁ...。というか、お前にも幼馴染がいるだろう?彼女だって容姿が悪い訳ではないのに、どうしてそこまで司にこだわるんだよ。」

玲菜(れな)はただの幼馴染だし、聖奈さんは学校でも大々的に有名だからな。知名度って奴の差だよ。...多分。」

「おい。」

 玲菜は、聡の幼馴染らしく、僕も何度か顔合わせした事がある。
 学校では数少ない魅了が効かない人で、容姿も悪くない。
 ちなみに、魅了が効かない事から分かる通り、彼女には好きな人がおり...。

「聞いてるぞ、本人が。」

「え...?...げっ。」

「“げっ”って何よ!“げっ”ってー!!」

 その好きな相手が、こいつだ。時間があれば別クラスなのに会いに来るくらいだ。
 僕が言うのもアレだが、さっさとくっついてほしい。

「(ま、こういう光景が“日常”って感じがして、いいんだけどな。...最近は、そんな日常からかけ離れてたし、偶にはこういうのもいいだろう。)」

 昨日が昨日なだけに、改めてそう思えた。





「優輝君、椿ちゃんと何をしてたのか、聞かせてもらうよ。」

「...私も、気になる...。」

「そのためだけに一緒に帰ろうと言ったのか...。」

 普通に学校は終わり、放課後。
 司から一緒に帰ろうと提案され、乗ってみると昨日の事で言及された。奏も同伴だ。

「...ま、あまり人には聞かせられないから、下校中に話すのはちょうどいいな。」

 防音の霊術でも使えば他の人に聞かれる事もないし。

「さて、聞かせてもらうよ。」

「...何度も言うが、あまり言いたくないんだが...。」

 観念して話す事にする。

「前提として、これは女性の精神状態だったからこそした事であって、今はする気にはならないからな?椿にも悪いし。」

「そういえば、“恥ずかしい目”って...あの、大体察せたんだけど...。」

 話す前から二人ともある程度は察したみたいだ。
 察してたのは昨日からだけど、さらに確信が深まったようだ。また顔赤くしてるし。

「まぁ、やった事は“繋がり”を深くする事だ。“繋がり”とは、魔力のパスでも霊力のパスでも同じことが言えるし、はたまた“人間関係”でも言える。簡単に言えば、概念的な側面から“繋がり”を強くしたんだ。」

「建前で誤魔化しているように聞こえるけど、あの椿ちゃんの様子からして...。」

「...“関係”という“繋がり”を深くするために、“そういう事”をした...。」

 ...うん。二人の視線が痛い。途轍もなく痛い。

「...キスによる体液交換...それも霊力を込めて...。」

「.....やっぱり.....!」

「むぅ......。」

 ああ...二人とも不機嫌に...。
 まぁ、あの時は女同士とはいえ、いきなりキスしたんだもんなぁ...。

「あの時は女同士だったから...って、言い訳はダメだな...。...家に帰ったら、ちゃんと話をしなきゃなぁ...。」

「...今、椿ちゃんはどうしてるの?」

「葵が見てくれてるけど....。僕に対しては、碌に会話してくれないかな。嫌われているって程でもないから、ちゃんと話し合えば何とかなる...はず。」

 女心はよくわからないから、慎重にいかないとな...。

「....ずるい...。」

「えっ?奏、今何か言った?」

「....なんでもないわ...。」

 何か呟いたように聞こえたが、ふいっと顔を逸らされた。

「そ、そういえば...優輝君って、椿ちゃんの事どう思ってるの?」

「椿の事?家族と思ってるけど....って、そういう意味ではなさそうだな。」

 司の遠慮しがちな様子から、おそらく異性として...とかの部類だろう。

「...そうだな...。」

「あ、え、えっと、無理して答えなくても...。」

 手や首を振ってあわあわとする司。
 聞きたいけど、聞きたくない...そんな様子だな。

「いや、無理して...というか、今までそういうのを意識していなかったからな。」

「そ、そうなんだ...。」

 今までは生きる事や、強くなる事でいっぱいいっぱいだったからな...。
 椿とのキスも、女同士だったからあまり異性としてとかは意識していないし。

「恋愛...か。折角の転生...それも三度目の人生だし、今度こそ成就したいな...。」

「っ....!意識してる人がいるの!?」

「...!」

 ボソリと呟いた言葉に司が敏感に反応する。さらに奏もつられて反応していた。

「い、いや、だから今まで意識していなかったし、機会があればなって...。」

「そ、そっか...。」

 今度はホッとする二人。....まさかとは思うけど...。
 ...いやいや、ここで聞いて話をこじらせる訳にはいかないか。

「じゃ、僕はこっちだから。」

「あ、もうこんな所まで...じゃあ、また明日ね。」

「また明日...。」

 話も終わった所で、僕たちは別れてそれぞれ家に帰宅した。





「...さて...。」

 家の前まで帰ってきた所で、一度立ち止まる。
 本来なら、放課後から夕飯の支度までは自由時間であり、僕の場合は魔法などで出来る事の見直しや、発展をしているけど、今日は別だ。

「ただいま。」

 扉を開け、リビングへと向かう。

「あ、優ちゃんお帰りー。ほら、かやちゃん。」

「........。」

 ...うん。今朝よりはマシだけど、まだ顔を合わせてくれないようだ。

「あー、えっと...その....。」

 ...まずい、どんな言葉を掛けても椿を傷つける事になりそうだ...。

「優ちゃん、かやちゃんの事もだけどさ、この花どうしたらいいの?」

「えっ...ってうわっ!?」

 僕のいた場所からは死角となっていた場所に、大量の花があった。
 椿の喜びの感情によって出現した花のだが、あまりにも多い。

「...喜んでいるか、不機嫌なのか、どっちなんだ?」

「どっちもなんじゃないかな?とりあえず、庭にでも植える?」

 どっちもか...。それはまた難儀な...。
 ちなみに、庭にはちょうどいいスペースがあったので了解しておく。

「ほら、かやちゃん、ちゃんと自分の口から言いなよ。」

「えっ?葵、椿の気持ちがどうなのか聞いたのか?」

「まぁね。でも、あたしの口から言っても意味ないでしょ?」

 それもそうだが、この様子だと...。

「じゃあ、あたしはこの花を植えてくるねー。さすがにもったいないし。」

「あ、ちょ....。」

 しかし、態となのか葵は席を外す。そして、必然的に椿と二人きりになる。

「.....すー....。」

「...椿...?」

 僕に背を向けたまま、椿は深呼吸をし、ようやく顔を合わせる。
 だけど、視線は逸らしたまま...。

「ゆ、優輝....。」

「椿....。」

 何とか視線を合わせようとして、また逸れる。
 顔を赤くしながらも、それを何度か繰り返し、言葉を紡ぐ。
 その様子は、不機嫌と言うより、ただ恥ずかしがっているような...。

「...せ、責任、取りなさいよ...。」

「....えっ?」

 そう言って、“ボフン”とでも効果音が付きそうな程顔を赤くする。

「だ、だから!あんな事した責任、取りなさいよ!」

「...それは、言われるまでもない事だけど...。」

 ...ここまで来て、それだけで終わらす訳にはいかないよな...。

「あっ...。」

「まぁ、なんだ...。僕はまだ恋愛とか、実の所よくわかっていないし、具体的にどう責任を取ればいいのか分からないけどさ.....うん、言葉にできないや。でも、責任は取るよ。それだけは、約束する。」

 落ち着かせるために、椿を抱き寄せ、撫でながらそういう。

「ふあ....。」

「椿も、昨日のアレはどういった目的のためかは理解しているだろう?だから、そこまで気負わず...って、ちょっと無責任だけど、あまり気にしないでほしいかな。」

「むぅ...。」

 僕がそういうと、少し頬を膨らませる椿。あ、かわいい。

「...やっぱり、優輝は重要な所で女心がわかってないわ...。」

「無茶言わないでくれ...。心が読める訳でも、昨日みたいに心も女性になっている訳じゃないんだし...。」

「まぁ、無茶は言わないわ。....優輝をその気にさせるまで諦めないんだから。」

 ん...?まぁ、いつも通りの調子に戻ったみたいだし...って、なんだこれ!?

「うわぁ、また溢れてる...。」

「リビングが花畑に...。」

 葵も戻ってきて、リビングの惨状に驚いている。
 そう、椿の影響で、大量の花が出現したのだ。

「あっ!?こ、これは...!....ゆ、優輝が悪いのよ!」

「ぼ、僕のせいか...?」

 いや、まぁ、椿をその気にさせてるっていうなら、僕にも責任が...?

「...とにかく。優輝、これからはあんな事するならちゃんと言いなさいよ。あんなの、無許可も同然なんだから。だから、私もあんな態度を取ったの。理解した?」

「...あー、それは、確かにダメだな...。」

 ようやく合点がいった。というか、それを覚悟してただろ僕...。

「とりあえず、この花をどうにかしないの?」

「っと、そうだな。」

「私が出した訳でもあるし、手伝うわ。」

 その後は、いつも通り三人で夕飯の支度をしたりと、いつもの日常に戻っていった。

 ...ただ、心なしか椿との距離がさらに縮まった気がするが...。
 まぁ、悪い気はしないので、別に気にする事はないだろう。







「....的な感じで、仲直り...というか、いつもの感じには戻れた。」

「...やっぱり羨ましいな椿ちゃん...。」

 翌日の昼休み、簡潔にだが昨日の事を司と奏に話す。
 アリサとすずかもいたため、事前に軽く説明しておいた。

「二重人格になったとか、そこら辺の方があたしは気になるんだけど...。」

「神降しの際に演技した影響だな。まぁ、あれは“志導優奈”になりきらなければ大した影響はないし、特に気にする事はないだろう。」

 その神降しも早々使う機会はないはずだから、まぁ一安心だ。

「この話はもう解決したし、いいだろう。ところで、皆は霊力の調子はどうなんだ?」

「あたしはだいぶ流れがわかって動かせるようになったけど...すずかは?」

「私も同じくらいかな...?ようやく慣れてきた所。」

 アリサもすずかも、自主練でそれなりに慣れてきたようだ。
 これなら、術とかの使い方を教えてもいいだろう。

「私は...魔力弾っぽい状態にはできるかな?実用性は発揮できてないけど...。」

「...私は身体強化が半端だけどできるわ。」

 そして、魔法が使える事がアドバンテージになっているのか、司と奏は二人の上を行っており、少しの術ならある程度まで行使できるようだ。

「肝心のアリシアちゃんは?」

「アリシアは椿や葵が見ていないとダメだからな...あんまりだな。」

 昨日と一昨日は見る時間がなかったから仕方がないが。

「ま、これは地道に上達していけばいい話だ。」

 そう締めくくり、時間を確認すると同時に予鈴が鳴った。

「時間だな。片づけは...大丈夫か。」

「じゃあ、また放課後でね。」

 弁当などの片づけを確認し、僕と司は奏達と別れる。

「さっきは話に出なかったけど、今度の音楽会大丈夫かな?」

「日常に戻ったら戻ったで忙しいな...。夏休み前にテストもあるし。」

 教室に戻りながら、司とそんな会話を交わす。
 実の所、前世での合唱コンクールの経験から、魔法関連で休んでいた分の遅れは簡単に取り戻す事は可能だし、テストも僕らにとっては難しくはない。
 しかし、テストはともかく音楽会は他の人の練習(偶に指導の手伝い)に付き合わなくてはならないので、やる事が多いのには変わりないのだ。

「まぁ、僕らが小学生だった頃もこんなんだっただろ?」

「...そうだね。なんだか懐かしいよ。あの時はまだ優輝君と知り合ってないけど。」

 こういった学校行事があると、なんとなく懐かしい気分になる。
 また、“日常”に戻ってきたんだと、実感する事もできる。

「ちょうど次は練習だ。頑張るぞ。」

「うん。」

 そう言って僕らは教室に入り、午後の授業に臨んだ。







「ただいまー。」

 音楽会の練習も終わり、放課後になって僕は帰宅する。

「あ、お帰り優輝。」

「待ってたぞー。」

「父さん!?母さん!?」

 玄関を開けると、母さんが出迎え、それにつられて父さんも出てきた。

「管理局から暇を貰ったの?」

「ええ。クロノ君が家族と交流するのも大事だって、気を遣ってくれたのよ。」

「クロノが...。」

 連絡なしなのは驚いたが、悪い事ではないな。

「いやぁ、びっくりしたよ。いきなり家に帰ってくるんだから。」

「悪いわね。あ、お土産もあるわよ。」

「わーい!」

 葵と母さんは仲がいいみたいで、既に二人で土産について楽しんでいる。
 ...って、ちょっと待て!?

「なんか、豪華な食材があるんだけど...。」

「ああ、それか。ちょっと奮発してきたんだ。今日は豪華な夕飯になるぞ?」

 おそらく他の次元世界の食材らしきものがそれなりに並んでいる。
 どれも解析魔法を使った限り、地球の食材とあまり変わらないみたいだ。

「今日は私たちが料理するわ。優輝達はゆっくりしてなさい。」

「こういった所だけでも、親らしい事しなければな。」

 そういって、下拵えを始める父さんと母さん。
 ...まぁ、言葉に甘えて、僕らはゆっくりするか。







「さぁ、出来たわよー!」

「おお...!」

 調理が長くなる食材だったため、夕飯の時間ちょうどに完成した。
 テーブルに並べられる料理の豪華さに、思わず声が漏れる。

「それじゃあ...。」

「「「「「いただきます。」」」」」

 その言葉と共に、各々料理に手を付けていく。
 どれも美味しく、舌鼓を打っている時に、ふと気づく。

「父さんと母さん、今度帰ってこれるのっていつになるの?」

「そうね...。許可を取ればいつでもとは言えないけど、調節はできるわ。」

「どうしたんだ?藪から棒に。」

 どうやら休もうと思えば休めるようだ。

「いや、できれば学校行事とか見に来て欲しいなって。参観日とかは難しくても、音楽会や体育祭とかは見に来れるでしょ?」

「そういえばそうだな。見たのは優輝が一年の頃以来だしな。」

「日がわかったら教えて頂戴。そういう事なら休んででも見に行くわ。」

 どうやら見に来てくれるようだ。
 ちなみに、参観日などがダメなのは、学校には親がいない事が知られているため、少しでもばれるリスクをなくすためだ。
 音楽会などは参観日よりも人が密集するため、見つかりづらいしな。

「椿ちゃん達も見に行くのかしら?」

「そうね...そのつもりよ。」

「普段はあまりやる事ないからねー。偶に翠屋を手伝ったりはするけど。」

 椿と葵も見に来てくれるようだ。

「戸籍...は士郎さんが何とかしてくれたけど、資格とか他の問題でバイトすらままならないからなぁ...。」

「士郎の協力もあって、少しずつ問題も解決しているわ。」

「それまでは翠屋にお世話になるだろうけどね。」

 椿も葵も、出会った時と比べてだいぶ現代文化に慣れてきている。
 士郎さんの伝手があれば椿たちの強みを発揮できるバイトとかに就けるだろう。

「お金とかの問題は大丈夫なの?」

「何とか...って所かな?椿や葵が山菜を採ってきてくれるから、そういう時は食費が浮いたりするし、翠屋を手伝っているからお小遣いは貰ってるから。」

 できるだけ節約しているため、まだ余裕はある。

「そう...ならいいんだけどね。」

「いざとなれば頼ってくれよな?」

「大丈夫だって。」

 前世の事とかを知っても、両親は僕を子ども扱いしてくる。
 まぁ、二人にとって息子なのは変わらないからなんだろうけど...。

「...所で、椿ちゃん...。」

「な、何かしら...?」

「優輝とはどこまで進んだのかしら?」

 話が変わり、母さんが椿に話しかける。

「なっ....!?」

「どこか優輝との距離が縮まった気がするのよねー。」

「べ、別に何も...。」

 椿...それじゃあ、母さんにはバレバレだって...。

「あらあら...これは面白い事が聞けそうね...。」

「優香...ほどほどにな。」

「父さん、止めないんだな...。」

 母さんにとって、椿はからかい甲斐がある相手なのだろう。
 会う度に何かしらで弄られている気がする。

「うぅ....。」

「さぁ、詳しく聞かせてもらうわよー?」

 夕飯も食べ終わり、母さんは椿を連れて別の部屋に消えていった。

「...うん、まぁ、平和な証だな。」

「優ちゃん、誤魔化さないで。」

 いい感じに締めてしまおうと思ったが、葵に咎められる。
 昨日の今日でまた椿は辱められるのか...。

「ははは。それにしても、優輝の周りは女の子が多いな。」

「...まぁ、それで肩身が狭い時もあるんだけどね。」

 学校だとそこまでだけど、そうでない時は大抵男女比率がひどい。

「っと、聞き忘れてたけど、父さんたちは調子どうなの?」

「ん?まぁ、普通だな。特に困った事もないし、逆にこれと言った話題になるような事も起きていない。強いて言うなら今日は奮発したってだけだな。」

「そっか。」

 まぁ、“何事もない”って事だな。
 大きな事件続きだったからそういうのは新鮮だ。

「クロノ君も最近の情勢は平穏だから、特に何か起こるって事もないとの事だ。」

「しばらくは平和って訳か...のんびりできるな。」

 のんびりと言っても、日々の修練は怠らない。
 それに、アリシア達に霊術の事も教えなければな。

「ま、久しぶりに“日常”を過ごせるな。」

 少なくとも命を張るような事はないだろう。
 とりあえずは、迫る音楽会について、取り組もうと思う僕だった。









 
 

 
後書き
大宮聡(おおみやさとし)…優輝のクラスメイト兼男友達。三年間同じクラスなモブキャラ。今まで優輝に率先して話しかけていたキャラは彼である。

小梛玲菜(こなぎれな)…聡の幼馴染。優輝とは別のクラス。聡が好きなのだが、それが伝えられていない。容姿は悪くなく、所謂“クラスで3番目にかわいい”と言えるキャラ。


聡の容姿は適当な元気な少年、玲菜は茶髪のショートカットなイメージです。
日常寄りの章なので、脇役以上に出番がないキャラにも名前がつきます。別に魔法に絡んだり、逸般人(いっぱんじん)だったりはしません。至って普通の人間です。
...結局綺麗に締めれませんでした。まぁ、それでも次回は時間が飛ぶんですけど。 
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