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真田十勇士

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巻ノ八十六 剣豪その四

「ですから他の者にとです」
「そうされますか」
「実は今この道場に食客が一人いまして」
「食客ですか」
「はい」
 そうだというのだ。
「その御仁を今から呼びますので」
「ではその御仁と」
「手合わせをということで」
「わかりました」
 幸村は男に確かな声で応えた。
「さすれば」
「はい、これより」
「その方とお願いします」 
 こうしてだ、幸村達はその浪人と会うことになった。二人は男にまずは道場の中庭に案内された。道場では若い男達が何十人もいて稽古に励んでいた。
 それを見てだ、根津は幸村に言った。
「どの御仁もです」
「熱心に鍛錬をしておるな」
「はい、そしてです」
「よい腕をしておるな」
「そう思います、ただ」
「我等程はな」
「到底ですな」
 確かにいい腕をしているがというのだ。
「そうですな」
「うむ、強いことは強いが」
「それなりですな」
「免許皆伝までは至らぬ」
 どの者もというのだ。
「まだな」
「左様ですな」
「はい、皆筋はいいのですが」
 主もこう言うのだった、二人に対して。
「ですが」
「それでもですな」
「この道場のどの御仁も」
「免許皆伝とまではです」
「至っておらぬ」
「そうなのですか」
「まだ若いです」
 どの者もというのだ。
「そしてそれがしはです」
「貴殿は、ですか」
「お二人のお相手をするには歳を取り過ぎました」
 それでというのだ。
「ですから」
「そういう訳ですか」
「はい、お断りしました」
「そうでしたか」
「貴殿等は一体どういった修行を積まれたか」
 こうもだ、主は言ったのだった。
「わかりませぬが相当ですな」
「十八般をです」
 武芸のそれをとだ、幸村は答えた。
「それに若い頃より励んでいて」
「十八般全てにですか」
「はい」
 まさにというのだ。 
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