真田十勇士
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巻ノ八十五 猿飛大介その七
「思い出してな」
「そのうえで」
「日々お墓に参らねばな」
「そうせずにいられませぬか」
「高野山からは離れた」
このことは確かだ、今実際に父と共に九度山にいる。
「しかしな」
「それでもですな」
「よくして頂いたご恩、忘れられぬ」
そして助け出せなかった悔恨、これもあってだ。
「日々参らせてもらっておる」
「そうなのですか」
「そうじゃ、もうどうにもならぬがな」
「若しもです」
ここでだ、大介はこんなことも言った。
「関白様がご健在なら」
「それならばじゃな」
「もっと言えば大納言様もおられれば」
「今の様にはな」
「豊臣家もなっていませんな」
「そう思う、今の大坂の主は茶々様じゃが」
「それがしもここに来るまでに聞きました」
伊予から九度山に入るまでにだ。
「茶々様はです、何かと」
「言われておるな」
「はい、我が儘といいますか」
「不都合なことをじゃな」
「申されてばかりだとか」
「あの方はそうした方じゃ、政のことも戦のこともな」
そのどちらもというのだ。
「全くわかっておられぬ」
「左様ですな」
「あの方が大坂の主であられると」
「大坂は危ういですな」
「危うい方に危うい方にとな」
「進まれていますな」
「危うい、右府殿は決してじゃ」
家康、彼はというと。
「豊臣家を滅ぼすおつもりはない」
「そうなのですな」
「うむ、天下人であられてもな」
「豊臣家を滅ぼすまでは」
「お考えではない」
このことだ、幸村はわかっていて言った。
「決してな」
「国持のですか」
「大名として扱われるおつもりじゃ、官位もな」
「高く」
「別格として扱われるおつもりじゃ」
それはというのだ。
「大名の中でもな」
「そう思いますと」
「間違わなければな」
「豊臣家も安泰ですな」
「その筈じゃ、しかしな」
どいうもとだ、また言った幸村だった。
「茶々様はわかっておられぬ、そしてじゃ」
「周りの方々も」
「わかっておられないか止められぬ」
大坂にいる者達もというのだ、今現在。
「それが出来る方々が残っておられぬ」
「大坂には」
「だからよくない、あのままでは」
「やがてはですな」
「自らじゃ」
それこそというのだ。
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