魔法少女リリカルなのは『絶対零度の魔導師』
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
アージェント 〜時の凍りし世界〜
第一章 《凍てつく白銀の大地》
圧倒的被害
アースラの艦体に激震が走る。艦内で集束砲を、それも武装隊やなのはとフェイトとの戦闘で放出されていた魔力を全て集束させたような代物を放ったのだから当然と言える。
「エンジン出力低下!高度維持出来ません!」
「レーダー、航法、火器管制、軒並みダウンしています!」
「負傷者多数!医療班は直ちに現場へ急行して下さい!」
暁人の砲撃の余波によりアースラ艦橋は大混乱に陥っていた。
「なのははどうなった!?」
「安否不明!通信、依然不通です!」
「警備・防犯システムもダウン!」
「不味いな……スノウスフィアの状態は?」
「……駄目です、モニター出来ません。」
「クロノ君……」
「………はやて、艦橋を頼む。」
時空管理局次元航行艦隊所属次元航行艦アースラ艦長、クロノ・ハラオウン。実戦に出るのは実に一年と半年振りであった。
「………ぅ……ああ……。」
「……呆れた奴だ。気を失ってた方が楽だろうに。」
暁人の切り札である集束砲《アヴァランチブレイカー》は只の純粋魔力砲ではなく、無数の氷塊を織り混ぜている。現になのはには単純魔力ダメージの他、無数の打撲や裂傷、骨も数本折れている。
なのは自身、これより酷い傷となると二年前、無茶を重ね過ぎて撃墜された時ぐらいだ。
しかしなのははまだ意識を保っていた。冷気で感覚が麻痺しているのか痛みはなく、出血もそこまで酷くはない。だが、体には全く力が入らず、立つ事すらままならない。
「……だ…め。行かせ、ない。」
しかし、そんな体でもなのはは諦めない。あの魔力の奔流の中でも手離さなかった相棒に魔力を集める。
当然、そんな無茶が利く筈もなく、傷口からの出血が増し、状態は悪くなる一方だ。
「おい、そんな事やったら死ぬぞ。」
「……ぜっ……に、行か……い……。」
敵とはいえ殺す気はない暁人が制止するが、その目は半ば虚ろになっており、執念だけで意識を保っていると悟る。
「……不屈の心とは良く言ったもんだな。」
呆れ半分で呟いた暁人はハボクックを一振りし、フェイトと同じ様になのはを凍結させた。
「……譲れないものがあるのは、お前達だけじゃ無いんだよ。」
一瞬後には完全に意識を切り換え、自身の開けた大穴、つまりスノウスフィアの保管場所への最短距離を歩き出した。
辿り着いたのは、アースラの危険物保管庫。スノウスフィアはケースに納められているが、警備システムは既に機能していない。
「これで『五つ目』だな。」
その時、先程から小刻みに震えていたアースラが一際大きく揺れた。
「っとと……あまり持ちそうにないな。さっさと脱出るか。」
「その必要は無い。」
「っ!?チッ!!」
突如飛来した魔力弾を、咄嗟に氷の盾を生成して防ぐ暁人。貫通性の魔力弾は鋼鉄並みの強度がある暁人の氷を半ば近くまで穿ち、停止した。
「……誰だ?」
「この艦の艦長、クロノ・ハラオウンだ。大人しく武器を捨てて投降しろ。」
「……素直にそれを聞くとでも?」
「思ってないさ!《ブレイズキャノン》!!」
クロノの放つ砲撃を、今度は受け止める事なく回避する暁人。
「温度変換……。」
高熱の砲撃魔法。明らかに暁人を凍結系の魔導士と意識したものだ。
「《アイシクルハープーン》、貫け。」
「《スティンガーショット・ヒートスタイル》!」
熱気と冷気が激突、氷が蒸発し、水蒸気が再び凍り、白煙が立ち込める。それを切り裂き突進するのは暁人。
「ハボクック!」
〈Aye sir.〉
氷の刃を伸ばし、槍と化した杖を振るう暁人。
「ーーー《雪月花》!!」
超速の三段突きが空気を凍らせ、白き尾を引きながらクロノを襲う。カートリッジを使用し増幅された魔力を全て身体強化に回すこの技はベルカ式の騎士すら圧倒する。
しかし、相手は名うての提督。カートリッジで強化された膂力に押されながらも、三連撃全てを的確に見切り、手にした杖で弾く。
暁人の攻撃を受け止めたデュランダルに重たい氷塊が付着しているが、次の瞬間には全て砕け散り、またハボクックの穂先にもひびが走る。
「振動破砕……ますます厄介な。」
クロノの魔法《ブレイクインパルス》は魔力を高速振動に変換し、身体又はデバイスの接触で対象を破壊するものだ。必然、実体としての性質を持つ氷とは相性がいい。
「……悪いが、お前みたいに巧い奴と準備無しに相手をしている時間は無いんだ。逃げさせてもらおう。」
「させると思うか!」
暁人の宣言に逃すまいと貫通魔力弾を準備するクロノ。しかし、
「すると言った。《ホワイトアウト》」
先の戦闘でフェイト相手に猛威を振るった範囲魔法。詠唱無しのために先程のような威力は無かったが、視界を遮るには十分であった。だが、
「見えないなら虱潰しに撃てばいい!《スティンガーブレイド・エクスキューションシフト》!!」
クロノの周囲に無数の、それこそ百ではきかない数の魔力刃が展開された。数えるのも馬鹿らしい程の魔力刃が360°に放たれた。
「…上が空いてるぞ?」
「わざとやってるんだよ!」
跳躍し頭上をとった暁人と予め読んでいたクロノが互いにデバイスを振りかぶる。
「《セイクリッドスピア》!!」
「《銀嶺白夜》!!」
二つの白い魔力の刃が激突し、辺りに衝撃波が疾る。ダメージは、暁人でも、クロノにでもなく。別の物に出た。つまり
ドゴォォォン
アースラを激震が襲う。今までの揺れとは明らかに違う。高度が下がっていくのがここからでも分かる程だ。
程無くして……
『クロノ君!何しとんのや!?さっきの衝撃で航法系のシステムが全部ダウンしてもうたで!!」
艦内放送ではやての声が響く。
「……行った方がいいんじゃないか?」
「クッ………覚えておけ、必ず捕まえてやる。」
「………それは、無理だな。」
暁人が走り去っていくのを、クロノは悔しそうな顔で見送り、自身も艦橋へと急ぐのだった。
第9管理世界《アージェント》における連続ロストロギア強奪事件に関する中間報告
発生期間:新暦70年11月7日〜
対物被害
S級封印指定ロストロギア《スノウスフィア》×4
EC級次元航行艦《ベルツ》大破轟沈
LS級次元航行艦《アースラ》中破
護送用装甲車両(完全破壊×1・大破×2・損傷×2)
人的被害
第292陸士部隊(現地駐留):損耗率92%
第43空戦武装隊(現地駐留):損耗率79%
第121武装隊(ベルツ座乗):損耗率86%
第19武装隊(アースラ座乗):損耗率87%
非戦闘員(現地・派遣部隊混合):67名
以下魔導師ランクA以上の人物を記載
ディートラ・ゲール三等陸佐(ランクA+)
第292陸士部隊隊長
グリニダ三等空尉(ランクA)
第43空戦武装隊所属
アルノール・レーナルト提督(ランクAA)
次元航行艦《ベルツ》艦長
ナノハ・タカマチ一等空尉(ランクAAA+)
戦技教導官(アースラに出向中)
*現在入院中
フェイト・T・ハラオウン執務官(ランクAAA+)
執務官(アースラに出向中)
《ベルツ》は修復不能と判断され放棄
《アースラ》は現地雪原に不時着、《アージェント》内のドックにて修理中
犯人の素性は未だ不明。推定魔導師ランクはS+。単独犯としては史上類を見ない、圧倒的な被害が発生している。さらなる戦力の派遣を求む。
新暦70年12月24日 報告者 クロノ・ハラオウン
しんしんと降りしきる雪。白峰家には世界の混乱とは裏腹に、非常に和やかな空気が流れていた。
「氷雪、プレゼントだ。」
本日はクリスマス。本来アージェントには無い文化だが、ミッドチルダを経由して地球から流れてきていた。
「ありがとう……。」
因みに暁人が愛妹に贈ったのは本。それも15冊程のシリーズものだ。体の弱い氷雪は滅多に外に出られない為に、必然的にこういった室内で楽しめる物を贈っていた。
「お嬢様ー!私からはコレです!」
ミミが氷雪に渡したのはセーターだ。手編みのそれには魔法を使った細工がしてあり、常に空間中の魔力を吸収して簡易のバリアジャケットになるという機能を備えてある。
氷雪がニッコリと笑顔を浮かべる。が、暁人はどこか浮かない顔だ。
「……お兄ちゃん?どうした…の?」
「いや……ごめんな?氷雪が本当に欲しい物を贈ってやれなくてさ。」
「……ううん。大丈夫……いつか必ず…良くなるから。」
「………。」
暁人は知っている。氷雪の病気は時間が解決してくれるものでは無いと。それどころか、放っておけば……最悪のケースも想定しなくてはならない事も。
「……きっと、来年の今頃には、元気に外を走り回ってますよ!ね、ご主人様?」
「……そうだな、何を後ろ向きになってるんだか。」
そう、故に暁人は決断した。氷雪の病の、その元を絶つと。そのためなら、管理局だろうが世界だろうが敵に回すと。
(……だよな、ハボクック?)
口には出さず、心の中で相棒に問い掛ける暁人。それに応える様に、首から下げたペンダントが僅かに光った気がした。
「お兄ちゃん……ミミ……これ、私…から。」
氷雪が取り出したのは二つの蒼氷色の半透明なクリスタルだ。
「……これは、」
「お守り代わりに……って思って。」
二人共に見た瞬間に分かった。これは氷雪の魔力の結晶体だ。アイスブルーは氷雪の魔力光の色である。さらには意識しなくても感じ取れる高密度の魔力。しかし……
「氷雪……平気なのか?」
氷雪の病名は『特異性魔力循環障害』。リンカーコアの異常により、発作的に体内の魔力循環が上手くいかなくなる病気だ。発作の起こるタイミングは全くのランダムだが、魔力が安定状態にあればあるほど起きにくくなる。
しかし何の因果か、氷雪には膨大な魔力が備わっている。魔力は大きい程に制御が難しくなるため、氷雪は魔法を使うほどに発作のリスクを負う事になる。
故に暁人は、最低限を除き魔法は殆ど教えてこなかった。その氷雪が魔力の物質化という複雑な術式を行使したのだ。暁人が心配にならない筈が無かった。
「うん……平気。制御は…エヴァさんに手伝って貰ったの。」
安心させる様に笑顔で応える氷雪。たしかに顔色は悪そうには見えない。
「………その…ダメ、だった?」
「……いいや。氷雪が俺達に作ってくれたんだろう?大切にするよ。ハボクック。」
〈Aye Sir.〉
ハボクックが本体部分を展開し、その柄の先端近くに結晶を取り付ける。
「どうだ?」
〈No,problem.〉
少し離れた暁人はハボクックを一振りする。重心バランスも特に変わった様子はない。
暁人は一つ頷き、ハボクックを待機形態に戻す。その中心には蒼銀の結晶が輝いていた。
「ありがとう……氷雪。」
暁人は胸の相棒を握りしめる。必ず、氷雪を救ってみせる。そう、改めて心に誓いながら。
後書き
総魔力量の比較
暁人を100とした時
なのは→130
フェイト→120
はやて→150
氷雪→320
です。氷雪は魔力量だけなら超絶チートのSSSランクです。
ページ上へ戻る