風魔の小次郎 風魔血風録
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124部分:第十一話 武蔵の力その九
第十一話 武蔵の力その九
「飛鳥武蔵」
彼もまた名乗った。
「既に知っているな」
「はい。そしてもう一つ知っていることがあります」
「知っている?何をだ」
「貴方がここで倒れることです」
こう武蔵に述べたのだった。
「この僕の手でね」
「そうか。ならばやるつもりだな」
「当然です。兜丸さんの仇」
強い赤い光をその目から放ちつつ言葉を続ける。
「討たせてもらいます。僕も風魔の麗羅」
「風魔の麗羅か」
「そう簡単にやらせませんよ」
こうして今度は麗羅と武蔵の闘いがはじまるのだった。そしてその時小次郎は。相変わらず壬生と激しい一騎打ちを繰り広げていたのだった。
風林火山を振るい黄金剣を突く。天が裂け地が割れる。まさにそうした死闘だった。そしてその死闘の中で両者は。互いの力量を見極めていたのだった。
「やっぱり夜叉最強の剣の使い手だけはあるってことかよ」
一旦間合いを離して風林火山を壬生に向けながらの言葉だった。
「ここまで粘るってな」
「それはこちらの台詞だ」
壬生は両手で黄金剣を下段に構えつつ小次郎を見据えながら言葉を返した。
「前に闘った時よりさらに腕をあげている。見事だ」
「褒めても何も出ねえぜ」
「褒めたのではない」
それは否定する壬生だった。
「その腕を正当に評価しているだけだ」
「そうかよ。しかしな壬生!」
構えをそのままにまた壬生に言葉を返した。
「俺は負けねえ!絶対にな!」
「面白い。ならばだ」
二人はまた睨み合う。そして互いに一歩前に出た。
「ここで・・・・・・手前を!」
「貴様を」
「ぶっ潰す!」
「斬る!」
言い合いそのうえで剣を繰り出す。だがそれは激しく撃ち合っただけでダメージを与えるには至らなかった。
両者は吹き飛び合い後ろに退く。しかし体勢は崩さず何とか着地する。そしてまた睨み合いそれぞれの剣を握り締めるのだった。
今度は壬生が一歩前に出ようとする。だがその時だった。
「壬生」
「むっ!?」
夜叉の者だった。突如として彼の横に姿を現わしたのである。
「何かあったか」
「すぐに本陣に戻れ」
「何っ、誠士館にか」
「そうだ」
彼はこう壬生に述べた。
「今すぐにだ。いいな」
「馬鹿な、今私はこの男と闘っている」
壬生は不快さを露わにして同志に言葉を返した。
「それでどうしてここから去れるというのだ。忍の闘いは」
「それはわかっている」
夜叉の者もそれは認めるのだった。
「それはな。しかしだ」
「ならば何故言うのだ」
「あの者達の姿が本陣近くに見えたのだ」
「あの者達だと!?」
「そうだ」
彼はまた壬生に答えた。
「あの銀色の髪と瞳の者達がな」
「馬鹿な、誠士館だぞ」
壬生はその流麗な顔に怪訝なものを浮かべてまた同志に言葉を返した。
「夜叉姫がおられる我等の本陣。そこに余所者が容易に近付くことなぞ」
「だからこそだ。戻れ」
同志の言葉はさらに鋭いものになってきた。
「姫様を御護りする為にな」
「姉上・・・・・・いや姫様をか」
「そうだ。わかったな」
「姫様に何かあっては我等夜叉の最大の恥辱」
主家である上杉家の末娘でありしかも夜叉の首領だ。その彼女に何かあっては夜叉にとって恥辱以外の何者でもないのは最早言うまでもないことなのだ。
「止むを得んか」
「この者を倒すことは何時でも出来る筈だ」
夜叉の者は小次郎を見据えて壬生に告げた。
「貴様の腕だとな」
「少なくとも勝負は何時でもできるか」
「そうだ」
彼はそのこともまた壬生に告げたのだった。
「だが姫様の危機はな」
「その通りだ。八将軍の復帰にもまだ少し時間がある」
従って今夜叉姫を護ることができるのは壬生だけなのだ。夜叉のこうした事情もまた壬生にはよくわかっていることだったのだ。忌まわしいことではあるが。
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