普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
192 侵入者シリウス・ブラック
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
「ああいうのを〝天啓〟っていうんだろうな」
「……ロン、もしかしてトレローニー先生の言った言葉を信じるの?」
トレローニー先生の〝予言〟で妙な雰囲気となってしまったクリスマス・パーティー。談話室の暖炉を三人で占領しつつ俺がそんな事を呟けば、意外なものを見るような目で俺を見る。
―〝闇の帝王は、友もなく孤独に、朋輩に打ち棄てられて横たわっている〟―
―〝その召使いは12年間鎖に繋がれていた。明くる年、6が双子になりし日の宵、その召使いは再び自由の身となり、ご主人様のもとに馳せ参ずる。闇の帝王は、召使いの手を借り、より強大により偉大な存在となりて再び立ち上がるであろう。その宵、月満ちし宵なり〟―
トレローニー先生は全く覚えていなかったが──以上が、トレローニー先生がアニーにもたらした予言で、〝前編〟が〝お辞儀さん(ヴォルデモート)〟の憐れな憐れな現状に触れていて、〝後編〟で〝召し使い(ピーター・ペティグリュー)〟の脱走と脱走する理由、脱走の時期を教えてくれている。
「〝6が双子になりし日の宵〟って6月6日の夜って解釈で良いのかな。……〝12年間鎖に繋がれていた召し使い〟は…」
「ああ。〝闇の帝王〟は間違いなく〝名前を云ってはいけない例のあの人〟だろう」
一応の用心として、ハーマイオニーを信用していない訳ではないが──ハーマイオニーの前でもピーター・ペティグリューについて口外しない様に頼んであるアニーは言葉を選びつつ確認してきた。
云うまでも無いだろうがアニーの改めての確認には〝闇の帝王〟なついてすっぽ抜けていたので──また一応の用心として注釈を入れておく。
……しかし〝占い学〟が好きではないハーマイオニーからしたら俺達の会話の大半を占めている状況が好ましくなかったらしく不満げに口を開いた。
「……私、〝占い学〟ってやっぱりいい加減で不明瞭な分野だと思うわ」
「ボクはそこまで嫌いじゃないだけどね、占い…。あんまり言いたくない言い方だけど、〝教師が良くなかった〟ってな風に犬に噛まれた気分で我慢するかだね。今年いっぱいまでは」
アニーはそうハーマイオニーを慰める。……ハーマイオニーはそう言うが、俺としてはピーター・ペティグリューを脱走させるべき月日が来年の6月6日だという事が判ったので万々歳だった。
「……まぁ年明けて6月6日になってみりゃあ判ることだ。……来年の6月6日に何も無かったら、その時改めて〝占い学〟に関しての愚痴を聞こう」
納得た様子を見せないハーマイオニーをとりあえずそう宥めておいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
グリフィンドールのクィディッチの二戦目を明後日に控えた今日、俺は今も尚俺の身体を駈け上がり、頭上約1メートルのでふよふよと念動力で浮いているケージ目掛けて突撃をかまそうとしているオレンジの毛玉と格闘していた。
<なーぉ>
「いや、〝なーぉ〟じゃないから。それにスキャバーズも食いモンじゃないから」
しっし、と、オレンジの毛玉──ハーマイオニーの飼い猫であるクルックシャンクスを遠くやろうするもクルックシャンクスは取り付くしまも無く、その視線は俺の頭上で固定されたまま。
(……ま、保護呪文を掛けてあるんだがな)
猫に語っても栓無き事なので口にしない。……その上アホみたいに莫大なエネルギーを〝譲渡〟してあるのでクルックシャンクスがケージにアタックしても、蛙の面に小便だろう。ケージを開けるには〝倉庫〟に入っている鍵を以て開ける以外の方法はなかったりする。
……故にクルックシャンクスが〝誰かさん〟に唆されていようと、ケージの南京錠を開けるのはまず不可能なのだ。
クルックシャンクスの変調──スキャバーズを襲う様になったのはいきなりの事だったので、ハーマイオニーには悪いがクルックシャンクスに〝開心術〟を使わせてもらった。
その結果判ったのは、〝クルックシャンクスが〝大きな黒い犬〟と幾度か接触している〟と云う事。
(……十中八九、ありゃあシリウス・ブラックだよなぁ)
そんな事を考えながら今日も今日とてクルックシャンクスとじゃれ合うのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
またもやアニーがクィディッチで活躍して──180対30と云う大差でハッフルパフ・チームを降した夜、グリフィンドール寮の談話室では盛大なパーティーが開かれた。
パーティーの中心である場所──フレッドとジョージが特に盛大にアニーを讃えている場所からいっそ三歩ほど引いたところでそのどんちゃん騒ぎをハーマイオニーとネビルと共に、時々拍手を送りながら見ていた。
……俺、ハーマイオニー、ネビルは先に──今日の訓練の時に祝ってある。もちろんの事ながら前に行われたスリザリン戦でも一緒だ。
そしてパーティーの熱もほどほどに冷め、皆ちらほらとベッドに上がっていき自然と騒ぎも収束していったので俺達もそこそこのところでベッドに上がった。
ベッドに転がりながらまだ残っていたパーティーの熱を冷ます様に考えを巡らすのは〝シリウス・ブラックについて〟──ではなく〝ネビルについて〟である。
(……そういやネビルが合言葉のメモを落としてたなぁ…)
何日か前、カドガン卿の前でうちひしがれていたネビルを思い出す。
現在暫定的にグリフィンドールの寮への入り口を護っているカドガン卿はしょっちゅう合言葉を変えるので一年生を中心に合言葉のメモ──隠していたみただが持っていた知っている。
ネビルはそのメモをを落としてしまったらしく、もうそのメモはクルックシャンクスを通してシリウス・ブラックの手へと渡っている公算が高い。
(……まぁ今回ばっかりはその〝うっかりさ〟に感謝だな──お?)
「……来たか──シリウス・ブラック」
ネビルのうっかりに内心で感謝しつつ“忍びの地図”を淡く光っている杖先で照らしつつ捲っているとふと[シリウス・ブラック]の名前を見つけた。
合言葉のメモがネビルからクルックシャンクスへ──そしてシリウス・ブラックへと渡ってしまっている可能性を考慮していたのでネビルが合言葉のメモを落として以来、こうやって小間切れに〝地図〟を確認していた甲斐があった。
深夜という事もあって、夜間の見廻りなのか──[アーガス・フィルチ]とある以外は誰もほっつき歩いていないので、[クルックシャンクス]を先導に、[シリウス・ブラック]の名前がグリフィンドール寮への道程を真っ直ぐ──それこそ我が家歩く様な速調でやって来る。
[シリウス・ブラック]の名前がグリフィンドール寮の談話室への隠し扉が在るところで着く。しかしぱっと談話室へ侵入してくると思っていたのだがそうではなく…
(よし…)
「〝いたずら完了〟」
“忍びの地図”を手早くしまい、杖の明かりを消してシーツに潜り込む。杖は持ったまんまだ。
……この前アニーと一緒にルーピン先生とピーター・ペティグリューについての話が終わった時に俺が提案した作戦──所謂〝釣り〟だ。
“忍びの地図”を〝倉庫〟に仕舞ってから数十秒。俺が居る部屋に誰かが入ってくる様な気配がした。地味に時間が掛かっていたのは順繰りにメモを読んでいたからだろう。
(後少し…後少し…)
気配の主が一歩二歩と俺のベッドに近寄って来るのが判る。枕元に〝猫ほどの大きさの何か〟が乗ってくる、大きさとその臭いからして〝それ〟がクルックシャンクスなのだと暫定した時──遂に〝そいつ〟が俺の被っていたシーツに手を掛けて…
(今だっ!)
――“麻痺せよ(ステューピファイ)”!
〝そいつ〟がシーツをひっぺがしたその刹那、〝それを待っていた〟とばかりに放った〝失神呪文〟の呪詛が〝そいつ〟を貫いた。俺の〝失神呪文〟をもろに受けた〝そいつ〟はベッドに力無く倒れ込んでくる。
「……全く、俺が男だったから──〝理由〟を知っていたから良かったものの…」
俺はそんな風に呟きながら倒れ込んできた〝そいつ〟を危なげない様にキャッチして、体を入れ換える様にして〝そいつ〟を仰向けに寝かせる。
そんな事をした──塒へと侵入してきた不届き者に寛大な処置をしている理由は2つある。……1つ俺は〝そいつ〟に悪感情が──一握ばかりの〝呆れ〟は有れど、ほとんど世間が懐いている様な〝恐怖〟やら〝畏怖〟が無かったから。一応顔を確認したかったからだ。
「“光よ(ルーモス)”──うわぁ」
杖の明かりで照らされた先の〝そいつ〟の顏を見て思わず呻いてしまう。俺の覚えのあるのは12年前のアズカバンに収容された時に撮られたであろう軽く窶れた写真だった。それでもその容姿にはまだクールさが見れた。
……しかし今の〝そいつ〟──シリウス・ブラックは変わり果てていた。……骨格標本にわずかばかりの肉と皮を張り付けて、頭から昆布を垂らしただけと言われても信じられるほどだった。
「“拭え(テルジオ)”“清めよ(スコージファイ)”“裂けよ(ディフィンド)”」
あまりにも見ていられない様相だったので、シリウス・ブラックの身体を応急処置として〝清め〟〝拭って〟おいた。序でに伸び放題だった髪の毛も軽くしておく。
「後は──っ、おっと、ちゃんとこいつの〝正体〟を知っとかないとな」
もう1つ必要なシークエンスがあったのを思い出す。
――“開心”!
〝開心術〟を使い、正式に〝シリウス・ブラック〟について知っておく。……脳内に〝識っていた〟情報が流れ込んでくる。
……おまけとばかりにピーター・ペティグリューに対しての感情──もしくは激情まで流れ込んできたので、俺自身もその激情に充てられそうになったが無理矢理鎮静させる。
「何はともあれ──シリウス・ブラック、ゲットだぜ」
<なぁーぉ>
俺の諧謔に反応してくれるのはクルックシャンクスだけだったので、何処と無く虚しく思えた──早く春が来てほしいといつになく思ったそんな夜の出来事だった。
SIDE END
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