普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
190 とんだクィディッチデビュー戦
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
〝人の噂は七十五日〟と俗に言われているが、このホグワーツでは七十五日も経たないうちに〝シリウス・ブラックの侵入〟の話題は下火となっていた。
理由は至極単純。ハロウィーンが過ぎてクディッチのシーズンが来たからだ。
……故にスネイプ先生が〝闇の魔術に対する防衛術〟で〝人狼について〟のレポートが宿題に出された事にも腹を立たせる者はハーマイオニーくらいしか居なかった。
閑話休題。
シリウス・ブラックが〝太った婦人〟の肖像画を襲ってから、グリフィンドール寮の入り口の肖像画はカドガン卿に変えられた。……しかし、カドガン卿にはいくつかの欠点があった。
カドガン卿は甲冑を纏った騎士で──その見た目を裏切らず、騎士道精神が旺盛で──もとい〝旺盛過ぎ〟なので、誰彼かまわず、決闘を申し込んだり、最低でも日に二回もグリフィンドール寮に入るための合言葉を変えたりするので、特にネビルが頭をこんがらがせていた。……なので、グリフィンドール寮生の大体は合言葉のメモを携帯している。
……〝他の肖像画は無かったのか〟、とパーシーに聞いてみたが、カドガン卿以外の肖像画の方々が辞したのだとか。……どうにもカドガン卿以外の方々はシリウス・ブラックを恐れているらしい。
閑話休題。
「……凄い雷雨だな。今日の試合、シーカー変わろうか?」
「いいよいいよ。……ちょっとしたハードモードだと思ってやるから」
クディッチのシーズンに入り──今日はその初戦であるグリフィンドールとスリザリンの対決。
アニーは〝ちょっとしたハードモード〟と気軽に言っているが、実際のところそんな甘い話ではなくて──生憎、天候には恵まれなくて〝今回〟のシーカーであるアニーは嵐の中でスニッチを探す羽目になったのだ。
……もう11月も上旬になっていて──そもそもの気温が低いイギリスだ。雨に濡れながら高速でピッチを翔ぶ事になるので、“咸卦法”が使える俺が出ようとアニーに提案するも、アニーは俺の提案をすげなく断る。
「それにしても、いい具合に収まったもんだな──」
「……〝今のところは〟でしょ?」
トーストをかじっているアニーを見ていると、ふと先日の〝ルーピン先生の件〟を思い出し、誰に聞かせるでもなくぼやいてしまっていて、そんな俺のぼやきを聞いていたアニーはそう註釈を添える。
(……チャンスは次の〝侵入〟だな…)
二枚目となるトーストをかじりながら〝先日の件〟について思いを馳せた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……出来ればこの推論は当たっていてほしくなかったよ」
ルーピン先生は打ちのめされながらそう口にした。その呟きには〝悔恨〟〝憤怒〟〝困惑〟が詰められていて、俺とアニーは掛けるべき言葉が判らなかった。
「地図を返そう」
ルーピン先生は思い出したかの様に“忍びの地図”へと「〝いたずら完了〟」と〝地図〟を閉じる呪文を掛けて俺に“忍びの地図”を返してくる。……そしてルーピン先生は徐にスキャバーズ──ピーター・ペティグリューへと杖を向けた。
「ルーピン先生、待ってください!」
「ロン、どいてくれ」
ピーター・ペティグリュー(こいつ)にはまだ〝利用価値〟があったので、たまらずピーター・ペティグリューが──今もなお幸せそうに眠りながら入っているケージとルーピン先生の杖との間に身体を割り込ませる。
しかしルーピン先生は杖を下ろそうとはせず、俺を信じられないものを見るかの様な目で見る。ふとルーピン先生の瞳の奥に見えた〝驚愕〟について類推してみると俺自身も〝被害者〟であったことをふと思いだす。
「もう一度言う──ロン、どくんだ。私はただピーターに〝本当の事〟を訊くためにピーターに〝異形戻し呪文〟をかけるだけだ」
「……スキャバーズを〝ピーター・ペティグリュー〟に戻して──どうやって口を割らせるんですか? 恐らくですが、ルーピン先生から聞いている〝ピーター・ペティグリュー像〟ならきっと姑息にも嘯くでしょう」
「それは──確かにあり得るかもしれない…。……だがセブルスやダンブルドア辺りが“真実薬”を持ってるだろう」
(確かにな…)
ルーピン先生の返しに舌を巻きそうになる。……確かに〝薬草学〟の教授であるスネイプ先生だったら〝真実薬〟を調合出来ても可笑しくないし、スネイプ先からダンブルドア校長へと〝真実薬〟が渡っていても全然変ではなかったのだ。
「……もし〝真実薬〟をピーター・ペティグリューに使ったとしましょう。ですがその時、〝ピーター・ペティグリューは無実だった〟となったら──」
「その時は慎んでピーターからの辛苦を受けよう」
俺の半ば脅しが込められた詰問にルーピン先生は食い気味にそう返してくる──のを見て、少しだけ頭を悩ませる。
(……まだ〝ピーター・ペティグリュー(こいつ)〟は必要なんだが──どう説得したもんか…)
……と、どうやってルーピン先生を舌先三寸で丸め込み、〝ピーター・ペティグリューの扱い方〟についての話題をあやふやにしようかと頭を回そうとしたその時、アニーが「あの、ルーピン先生」と、所在なさげに手を挙げた。
「どうしたんだい、アニー」
「……まず気になったのですが、シリウス・ブラック──さん? を抜いて話を詰めていいものなのでしょうか?」
「む」「む」
アニーからの言葉はまさしく天啓で、ルーピン先生は──ついでに、ルーピン先生を丸め込もうとやっきになるあまり、そんな至極単純な事すら忘れていた俺は思わず息を呑む。
……しかしシリウス・ブラックはここはおろか、ホグワーツにも居ない。その上、数多もの吸魂鬼からも逃げおおせている指名手配犯だ。……それでも、少なくとも後一回はシリウス・ブラックがホグワーツへと侵入する事を知っていた俺は…
(……いけるか? ……いけるな)
「確かに、アニーの言う通りだ──けどシリウスは指名手配犯だ。こんな所におめおめとやって来るはずがないだろう」
「……それなんですけど、俺に考えがあります」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―〝暴れ柳〟の近くにグリフィンドールの寮に入る為のメモを〝うっかり〟と落としてしまったら、それはもう大変な事になりますよね?―
要は〝グリフィンドールの誰かに泥を被ってもらおう〟と云うのが俺のアイデアであったが、ルーピン先生は判りやすく渋面をつくっていたが、軈て俺の提案を呑んだ。
……その後部屋を出る際に〝ルーピン先生にシリウス・ブラックを迎えに行ってもらったら…〟と云う案がアニーから出るも、ルーピン先生は教師職で忙しい身なので却下しておいた。
閑話休題。
クディッチは〝クワッフル〟と云うボールと、〝ブラッジャー〟と云うボールを互いのゴールに入れ合い、点を重ねるバスケやサッカーに近いゲームで、終了の合図はどちらかのチームのシーカーが〝金のスニッチ〟を手にした時である。
〝金のスニッチ〟を手にしたチームはその時点で150点も加点されるので、その時点でスニッチを入手したチームの勝利がほぼ確定する。
……だから、クディッチではたびたび〝こういう事〟が起こり得る。
――『先制点はスリザリン! グリフィンドールにも頑張ってほしいものです。……おっとポッター選手の動きが──ポッター選手、どうやらスニッチを見つけた模様! ……ポッター選手速い速い! マルフォイ選手、ポッター選手を追うも追い付けない! もうスニッチはポッター選手の目前! ポッター選手、スニッチに手を伸ばす──取ったぁぁぁあっ!! グリフィンドール、スリザリンに140点もの大差で勝利しました! なんと開始のホイッスルより僅か10分の出来事でした!』
マダム・フーチにより開戦のホイッスルが鳴らされた──のは良かったが、終戦のホイッスルはその約10分後に鳴らされる。前例が少ない試合内容なので、グリフィンドール生の喜び様は一入だった。
その時、そんな喝采に水を差すやつらが現れる。
背筋が凍る様な感覚がした。……〝あいつら〟だ。
(……っ、来たか)
「……ロン、これってもしかして…」
「多分〝あいつら〟だ。しかもピッチの連中は杖を持っていないだろうから、用心の為にも〝守護霊の呪文(パトローナス・チャーム)〟を唱えられるよう準備しておいたほうが良さそうだ」
ハーマイオニーはその感覚──吸魂鬼の気配に覚えがあったのか、すす、と寄ってきたので舌打ちをしたくなる気分でハーマイオニーに〝もしも〟の場合に〝守護霊〟呼べるようにと提案しておく。
吸魂鬼は人の幸福な気持ちを啜って生きる、ダンブルドア校長ですら〝もっとも穢れた存在〟だと云う生き物だ。……だから、試合でその──〝幸福な気持ち〟が最高潮に達したこのピッチは吸魂鬼からしたら最高の餌場だったのだろう。
そして吸魂鬼どもは、図々しくも整列していた選手達──アニーへと向かっていきハーマイオニーが「いけないっ!」と叫ぶ。
「ハーマイオニー、〝1〟〝2〟〝3〟でいくぞ」
「判ったわっ」
「〝1〟〝2〟〝3〟…」
「“守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)”!」「“守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)”!」
呪文と共に俺とハーマイオニーから銀色の〝靄の様なもの〟が出て、ハーマイオニーの靄は川獺を──俺の靄がドラゴンを象り、瞬く間に吸魂鬼の大群を城の敷地外へと追い払った。
それから吸魂鬼が越権行為をした事によりダンブルドア校長がかんかんに怒り試合の幕は降りた。……斯くしてアニーのクディッチデビュー戦は、何とも怪事がついた終わりとなったのだった。
SIDE END
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