普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
187 〝形態模写妖怪〟
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
ハグリッドの初めての授業は恙無く──ヒッポグリフの〝バックビーク〟が、マルフォイが何故か大人しかったので処刑の憂き目に逢うこともなく終わった。
……一応、初っぱなからヒッポグリフを見せてきた──初めての授業でさじ加減が判らなかったであろうハグリッドには進言しておいた。……今回は全員無傷で授業わ終える事が出来たものの、誰かしらが〝うっかり〟と無作法にヒッポグリフへと近付いたりしてしまう可能性もあったからだ。
〝魔法生物飼育学〟の、ハグリッドの初めての授業の顛末はさておき、俺達──もとい、アニー、ハーマイオニー、ネビルの関心は〝闇の魔術に対する防衛術〟に移っていた。
〝闇の魔術に対する防衛術〟の授業が始まる前、前倒しで教室に訪れていた俺を除く三人は、〝ルーピン先生について〟いろいろと話し合っていた。
「ルーピン先生──今年の〝闇の魔術に対する防衛術〟の先生はどんな感じかな」
「……〝ホグワーツ特急〟での事を思い出す限りだと、ルーピン先生は素敵な先生だと思うわ」
「ニンニク臭がしなかったりピクシー妖精を怒らせなかったりする先生なら誰でも良いよ…」
ネビルは不安げに、ハーマイオニーが〝今か今か〟と待ちわびながら声を弾ませ、アニーはクィレルはともかくとして──ロックハートにされた事を思い出したのか辟易としながら語っている。
……そして、〝ルーピン先生〟の教師としての資質を予想出来ているので──三人の会話を一歩引いた立ち位置で聞いていた俺にもその話題がハーマイオニーから回される。
「……ロンはルーピン先生についてどう思うかしら」
「ルーピン先生ねぇ…。……俺の所感はハーマイオニーと大体一緒だよ。……吸魂鬼に襲われたあとの対処も知ってたしな」
「そうよね!」
〝我が意を得たり〟とハーマイオニー。……実際、〝ホグワーツ特急〟で吸魂鬼に邂逅した時、チョコレートが吸魂鬼に幸せな気分を吸われた時にの対処てして有効だと云う事を教えてもらったのだから、〝闇の魔術に対する防衛術〟の教師としての資質は十分にルーピン先生は備えているのだと推測出来る。
……尤も、アニーとハーマイオニーが吸魂鬼を追い払ってしまったので、ルーピン先生の見せ場的な意味に於いては微妙になってしまったが…。
閑話休題。
そして、そうこう──羽ペンと教科書を机上に広げはじめている内に、教室にルーピン先生が入ってくるのが判り、俺は三人に視線と顎先でルーピン先生が入室した事を示唆しては雑談を止めさせる。
「やぁ、皆──ああ、このクラスは初めてだったね。私はこの──〝闇の魔術に対する防衛術〟で授業を受け持つこととなったリーマス・ルーピンだ」
ルーピン先生は皆に見える様に位置に行き、皆の視線を受けながらこう口を開いた。
「ところで──教科書を前以て準備してくれていた勉強熱心な皆には悪いんだけど今日は教科書を使わないから鞄の中にしまってもらおうか」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
〝職員室〟──と云えば、〝授業を受け持っていない教師の大半が詰めているところ〟となイメージを抱いていたのだが、この学校の教師の人数を両手で指折り数えても一往復も出来ないくらい──つまりは20人もいないので、授業中ともなれば閑散としていて、今回に限ればスネイプ先生が一人で居るだけだった。
……そう、〝初回サービスの実地訓練だ〟とばかりに連れてこられたのは職員室である。
スネイプ先生は、ネビルの顔を見るや否やネビルに向けて嫌味を言いながら職員室から立ち去るも、ルーピン先生はスネイプ先生をやり過ごし──そして更に、職員が使用しているだろう年季の入っているのが、その見てくれからでも判る箪笥の前に連れられる。
「この洋箪笥の中にはボガートが入っているんだ。……昨日、偶然先生の一人が見つけてね、授業の教材に使えると思ってその先生にそのまま閉じ込めておくように頼んでおいたんだ。校長先生を通してね」
杖で洋箪笥を叩くと箪笥はがたがた、と揺れる。そしてルーピン先生はそんな箪笥を黙らせるかの様に、「ボガートについて知っている子は居るかい?」と訊いてきて、ちらほらと──ネビルも含めて挙手される中、挙手が一番速かったハーマイオニーを当てた。
「ハーマイオニー、説明頼めるかな?」
「ボガートは〝形態模写妖怪〟ともよばれ、物陰などの暗いところを好みます。そして、ボガートを本当の姿を知る者は居ません何故なら、ボガートは直ぐ様〝ボガートを見た人間が一番怖いと思うもの〟に変身してしまうからです」
「はは…。ありがとう、ハーマイオニー。よくぞ説明してくれた。グリフィンドールに10点」
ルーピン先生に当てられたハーマイオニーは、「はい、先生」と前置きすると、一息にボガートの大まかな生態を語った。……ルーピン先生は苦笑いしてハーマイオニーを誉めると、ハーマイオニーは自身が喋り過ぎたと思ったのか、頬を染めた。
「そう、ハーマイオニーが説明してくれた通り、ボガートの本当の姿を知る物は、ボガートが本当に瞬く間に変身してしまうので居ない。……そして、そんなボガートを撃退する簡単な呪文が有るんだ。それを今から皆に伝授しよう」
皆、興味深げにルーピン先生の話に聞き入っている。
……それもそのはず、職員室に向かう道中、ポルターガイストのピーブズがフィルチ管理人に対しての悪戯をしているのを見掛け──更には、珍しい事に教師であるルーピン先生の事をむかつく口調で揶揄するピーブズをルーピン先生自身が呪文1つで華麗に撃退するのを見て、皆がルーピン先生に対しての心象を改めたからだ。
「ボガートを退治する方法は幾つかある。その内の一つ──それは〝笑い〟だ」
「笑い…?」
「そう、笑いだよシェーマス。……ボガートが見た人が一番怖いと思うものに変身してしまうのであれば、滑稽な姿に変えてしまえばいい。……そうだな──ネビル。ネビルが一番怖いと思うのはなんだい」
「へっ? 僕?」
いきなり水を向けられたネビルは〝あー〟とか〝うー〟とか〝そのー〟とか誤魔化そうとしていたが、ルーピン先生は誤魔化せないと知ったのか、恥ずかしげな笑みを見せながら小さな声で「スネイプ先生」と答えた。……これには皆して笑った。
「スネイプ先生か──確かに恐ろしいね。……さて、話はちょっと変わるけど、ネビルはおばあさんと二人暮らしだったね」
「はい、でもおばあちゃんに変身されるのも嫌です」
またどっ、と笑いが起こる。
「はは…」
(……ボガート──かぁ…)
皆してネビルを笑う中、俺もネビルの発言に笑みをこぼしながら〝とある事〟を考えていた。思考の原因は勿論ボガートの事──そして、〝俺が一番恐れているもの〟についてだ。
(まさか蜘蛛じゃあるまいし…)
ふと浮かぶ案を蹴る。……蜘蛛は確かに一番の嫌悪対象ではあるが〝恐いか?〟と聞かれればそうでも無い。指先一つ──もとい、杖先一つの〝死の呪文〟で蜘蛛など一発KOだからだ。
(さてさて──鬼が出るか蛇が出るか…)
その時の俺はよもや本当に〝蛇〟が出るとは思いもよらなかった。
SIDE END
………。
……。
…。
SIDE アニー・リリー・ポッター
「いいかい、ネビル──それから皆。……私は今からこの箪笥を開ける。するとそこからスネイプ先生が出てくると思うからネビルのおばあさんの服装を思い浮かべ、杖を向けながらこう唱えるんだ──“ばかばかしい(リディクラス)”とね」
ネビルへの弄りが収まった頃、頃合いを見計らっていたかの様にルーピン先生はネビルへとネビルのおばあさんの格好ゆ訊いてからそうボク達へと語りかける。
そして、ルーピン先生から教えてもらった呪文を自身へ覚え込もうとしているのか、ところどころから「“ばかばかしい(リディクラス)”」との声が上がっている。
ルーピン先生は皆が呪文を復唱しているのを満足げに確認しては、トップバッターに定めたネビルに向かって改めて確認して──戦々恐々としていたネビルだったが、ついぞ腹を据えた。
「それじゃいくよ──せーのっ!」
開け放たれた洋箪笥。のっそりと出てきたのはネビルの言葉通り、スネイプ先生である。ネビルは短く悲鳴を上げるも直ぐに平素の表情に戻った。
「──っ、リ、“ばかばかしい(リディクラス)”!」
――パシンッ!
ネビルの呪文はボガートに正しく効いたのだろう。スネイプ先生に扮したボガートは、小気味の良い音と共に、ネビルが先ほど口にしていたおばあさんの服装を着こんでいた。……もちろんそれには〝スネイプ憎し〟なグリフィンドール生は大爆笑の渦だ。
……ちなみにボクはスネイプ先生に対してそこまで──ダーズリー家から連れ出してくれた恩人でもあるので、そこまで嫌悪感は抱いていない。……なのでボクからしたら現状は苦笑いしか出来ない状況だったりする。
閑話休題。
「よくやった、ネビル! さぁ並んで! 皆でボガートなんか退治してやろう!」
………。
……。
…。
あれから始まったボガートいじめ。ボガートいじめは順調に進み、残すところボク、ロン、ハーマイオニーだけとなった。
「アニー!」
ルーピン先生によばれ、もはやへとへととなっているボガートの前に踊り出る。ボガートは小気味良い音と共に〝それ〟へと姿を変えた。
……〝夥しい血を流している何か〟を押し潰している鉄骨だった。一瞬何が何だか判らなかったがラベンダーから上げられた短い悲鳴で、状況を理解してしまう。
「……っ」
〝ボク〟の主観では数年前の嫌な光景が半狂乱になりそうな程にフラッシュバックされる。……しかし、辛うじてだが──そうなりそうな感情を抑えることが出来た。
「……“ばかばかしい(リディクラス)”」
「よくやったアニー、ロン!」
ルーピン先生に促され、箪笥の前から退きロンと交代する。その際、ロンに肩を叩かれると──ロンが何かしたのだろう、一気に気が楽になった。
……その時ふと思う。
(ロンの怖いものって何だろう…?)
ロンはよく〝出来ないことあまりない〟と諧謔を込めながら豪語しているが、ロンを見ていると強ち間違いじゃないように思える。……だから、〝ロンが恐れているもの〟というのが気になったのだ。
ロンは、ボクがポストに変えてやったボガートの前に立つ。するとボガートは忽ち、また乾いた小気味の良い音を発てながら〝それ〟に変化した。
「……うそ」
〝それ〟を見て思わず溢す。
〝それ〟の容貌は簡潔に述べるのなら、〝烏の羽を持ち十字架に磔にされているラミア〟と云う表現が一番近かった。……しかしボクは〝それ〟がラミアだとは思わなかった。〝それ〟はもっとおぞましいものだ。
ロンの様子を見れば、ロンは滝の様に汗を流していた。……そんなロンの反応見て、〝それ〟の正体に行き着く。
(あれは多分、≪神の悪意≫──サマエル)
ボクは【ハイスクールD×D】なアニメを見たことがないから判らないがついこの前、【ハイスクールD×D】を修行合間の休憩がてらロンから借りていたので文章上の特徴から直ぐに思い付いた。
「……“ばかばかしい(リディクラス)”」
ロンは、さっきのボクと同様に〝何とか〟といった具合でサマエル・ボガートに杖を向けそう唱えるとボガートは〝バシッ!〟と鞭で叩かれたような音と共に、蛇柄の財布となった。
そしてロンはハーマイオニーと立ち代わる様に、箪笥の前から離れた。よくよくロンの顏を確認すれば汗がうっすらと残っているのが判り、まだ完全には退いていないようだった。
それもそのはず、サマエルは≪神の悪意≫の他にも≪神の毒≫──そして、【ハイスクールD×D】な世界に於いては≪龍喰者≫とも呼ばれるほどの存在だ。
ロンは転生に次ぐ転生で、ほぼドライグと同調していて〝人型のドラゴン〟とも云える存在へと昇格した事はロンから聞いている。……なのでロンからしたらサマエル──≪龍喰者≫は天敵なようである。
青い顔そのままにこちらにやって来たロンを元気付けて、〝闇の魔術に対する防衛術〟の授業は終わった。
SIDE END
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