普通だった少年の憑依&転移転生物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【ハリー・ポッター】編
184 吸魂鬼(ディメンター)
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
「……今日も楽しかったな」
アニーを【隠れ穴】に誘って早一ヶ月、8月31日の晩。
今年も例年──長男のビルがホグワーツに入学して以来の例年の通り、ウィーズリー家の住居である【隠れ穴】では慎ましやかながらパーティーが開かれた。
本来なら去年や一昨年みたいにビルとチャーリーは──ビルはエジプト、チャーリーはルーマニアに居るはずだが今年は俺達、ホグワーツに在学中の下四人に合わせてギリギリまで一緒に居てくれた。
(……たった一週間だったが、やっぱり日本は良かったな…)
元々、賞金の使い道はエジプトのビルの元で滞在すると云う案も在ったが、俺は〝日本の魅力について〟父さんに〝ふかぁ~く〟語り──悪い言い方をすれば唆し、行き先は日本と云う事にした。
……日本では、前にアニーに語った様に、色々あったが詳しくは割愛。……ただ、父さんを始めとして皆の様子を見ていた限りでは大変良かったのだろうだと思う。
日本にはもちろんの事ながら全員──ビルとチャーリーを含めた全員で旅行に行った。〝ガリオンくじグランプリ〟の賞金でビルとチャーリーの休みを買ったと云われても、強ち間違っていない。
……お陰で賞金の殆どが泡となって消えたが、元々が泡銭だったので痛くも痒くもなかった。
(シリウス・ブラックはアズカバンから無事(?)脱獄したみたいだな。……自重を止めてガリオンくじを買って──“有言実行”を使った甲斐があったな)
楽しかったパーティーに思いを馳せるのそこそこに、俺はベッドに背中から倒れ込みながら内心でそうごちる。
〝ガリオンくじグランプリ〟を当てたら【日刊予言者新聞】で報道されるのは──前々から母さんや父さんが羨ましげに語っていたから知っていたが、その記事──もといピーター・ペティグリューが〝偶然〟、シリウス・ブラックの目に入るとは思ってはいなかったのでそこは“有言実行”によって〝必然〟にした。
……ちなみに…
―〝どうやって当てたか〟──ですか? ……普通にくじを買って当てましたが──あ、でも強いて云えばスキャバーズ──家で飼っている12年も生きているネズミのお陰かもしれません。……1~60のうち、スキャバーズが不意に示した枚数くじを買ったら最後のくじで当たりましたからね。……スキャバーズは指が一本欠けてますが大事な家族ですよ―
俺を取材した【日刊予言者新聞】の記者にはこう騙ったものだ。……もはや〝どうやって当てたか〟──と云うよりかはスキャバーズの話になっているのはご愛敬。
……それから、もちろん〝1~60云々~〟と云うエピソードも嘘で、普通に1セット──1ガリオン分のくじを買っただけである。
閑話休題。
(……明日は順当にいけば吸魂鬼に出くわすハメになるのか…)
そんな事を考えながら意識を沈めていったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ごめんごめん、ウィーズリーおじさんと話し込んでいたら遅れちゃった」
「別に構わないわ。スリザリンの生徒とコンパートメントが一緒でなければいい話だから」
〝ホグワーツ特急〟の通路をアニーが謝りながら歩き、そんなアニーをハーマイオニーが慰める。
時間は午前の11時を少し過ぎた頃。アニーは父さんと──おそらくだがシリウス・ブラックについて話していたので、俺達三人はコンパートメントを占拠しそびれてしまった。
……そうなれば人の居るコンパートメントを使わせてもらう事にもなり…
「……ここを使わせて貰おうか」
列車の通路を歩きまわりやっと見付けた三人分以上の空きがあるコンパートメント。そこにはマントにくるまって寝息を発てている人が居て──俺は〝その人〟の正体について予想出来ていた。
……その〝予想〟を〝確信〟に変える為にコンパートメント内を見渡し、〝その人〟の物と思われるバッグを──そして、バッグに記されていた名前を見て確信した。
([R・J・ルーピン教授]ね──まぁ、予想通りか…)
アニーとハーマイオニーもルーピン先生に気付いた様だ。
「[R・J・ルーピン教授]…?」
「新しい〝闇の魔術に対する防衛術〟の先生よ、きっと」
「……まぁ、教師が居なくて宙ぶらりんな教科は〝闇の魔術に対する防衛術〟だけだからな。……大方ダンブルドア校長が新しく雇ったんだろう」
そんな風にルーピン──ルーピン先生の名前を確認しつつ、ルーピン先生が本当に眠っているのを確認しながらアニー、俺、ハーマイオニーの順にそろりそろりそろり、と、シートに腰を掛ける。
「……ねぇ、ロン。そこの──ルーピン先生は寝ているの?」
シートには、俺がルーピン先生の隣に──アニーが俺の対面に座る様な形となったのは良かったが、アニーが〝探り探り〟といった体で口を開いた。……俺はアニーのその質問に一つだけ首肯で返すとアニーはまたもや〝探り探り〟とな体で話しはじめた。
「……なら良かった──と云うのも、二人に話しておきたいことがあるんだ」
「アニー…?」
昨晩の事もあり、俺はアニーの話したい事の内容が〝シリウス・ブラックについて〟の事だと予想出来ているが、ハーマイオニーは予想の[よ]の字も出来ていないのかアニーの言葉を聴く体勢となる。
「ハーマイオニーはシリウス・ブラックがアズカバンから脱獄した事を知ってるよね」
「当たり前よ。……【日刊予言者新聞】もそうだけど、マグルのニュースにすらとりざたされていたもの」
ハーマイオニーは頷きながらそう──〝当然の事だ〟と言う様に語り、更には「……さすがにマグルのニュースには〝どこから脱獄したか〟は情報が無かったけどね」と付け足す。
ハーマイオニーそう付け足したところで歓迎していなかった闖入者がコンパートメント内に入って来た。
――「おや、ウィーズリーのこそこそ君じゃないか」
闖入者──ドラコ・マルフォイは、何時ものごとくビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルを宛らガキ大将の様に携えていた。
闖入もそうだが、それと同時に放たれる俺を──もとい、ウィーズリー家を侮辱する言葉にアニーとハーマイオニーの顔が判りやすく鬱陶しげに眉を寄せる。……特にここ一ヶ月家に来ていたアニーの〝寄せられ具合〟が秀逸だったが、マルフォイはアニーの変調には気付かず更にウィーズリー家の事を貶す。
マルフォイの目線はすぐにマントにくるまって寝ているルーピン先生を捉えた。
「そいつは誰だ?」
「R・J・ルーピン。多分〝闇の魔術に対する防衛術〟の新しい教授じゃないか? 知らんけど」
マルフォイはルーピン先生にそこまでの興味を持たなかった様で、「ふぅん」と短く言葉を切って人を小馬鹿にするような顔をそのままに口を開いた。
「ところで、日本はどうだったかい? ……この夏小金を手にしたウィーズリー君?」
「……中々良かったよ、マルフォイ。特に和食が逸品だったな。……あれは煮るだけ焼くだけ揚げるだけのイギリス料理には出せない味だったね」
マルフォイの挑発にクラッブとゴイルは俺を嘲笑するが、俺はマルフォイの挑発に乗らず、今にも杖を抜きそうなアニーとハーマイオニーをアイコンタクトで制しながらやんわりと返す。
……言外に〝日本の料理を食べた事が無いなんて人生の半分は損してるね〟と皮肉を込めるのも忘れない。しかしマルフォイはそんな俺の皮肉には気付かず…。
「……こんな腰抜けは放っておいて、行くぞクラッブ、ゴイル」
俺が挑発に乗らなかったからか、不機嫌そうに鼻を鳴らしたマルフォイは、馬鹿笑いしだしたクラッブとゴイルを引き連れて、そう──負け犬の遠吠えが如しに吐き捨ててコンパートメントから退室して行った。
………。
……。
…。
「……ロン、良かったの?」
「……ロンが止めなきゃボクが黙らせてたのに…」
「あんな──挑発にすらなってない言葉に反応して〝ウマくない〟状況に陥ったら、それこそ〝コト〟だから良いんだよ」
マルフォイ達がコンパートメントから消えて幾ばくかして、ハーマイオニーとアニーが杖腕を元に戻しながら俺を慮る様に俺に訊ねてきたので、俺は混じりけの無い真意を二人に明かす。
「それより、〝シリウス・ブラックについて〟の話だろう?」
「それもそうだね──でもどこまで話したんだっけ」
「アニーが話したのはシリウス・ブラックが脱獄したところまでだよ」
マルフォイの闖入で話がすっかり消えかかっていたが、元の話に戻す為にアニーへそう言葉を向ける。アニーはマルフォイの登場で寄せられていた眉を戻しては話し始めた。
………。
……。
…。
(……もう直ぐ〝やつら〟が来るか…)
アニーの話した内容はやっぱり〝シリウス・ブラックが脱獄した理由〟についての事だった。そしてそれからローブに着替えたりと何時間も経過していて、もう列車の外は真っ暗だった。
ちょうどその時は三人の間には語り種も尽きていて、頭の隅っこで〝やつら〟──吸魂鬼について考えていた時、不意にそれは起こった。
「へぁっ!?」
「きゃっ!? 何よ!?」
〝ホグワーツ特急〟の急ブレーキ──プラスアルファで停電。外ももう暗かったのでコンパートメント内も真っ暗である。
(……来るか…?)
「……取り敢えず俺が〝灯り〟になろうか──“光よ(ルーモス)”」
「ありがとう、ロン。……でも何があったのかしら?」
「フレッドとジョージが何かやらかしたとボクは見るよ」
明かりを点けてやれば、急ブレーキの影響でシートから滑り落ちていたハーマイオニーとアニーはシートに座り直す。軽口が聞こえる辺り、そこまで取り乱してはいないのが判る。
……ついでに列車の周りを囲み始めている、〝とてつもなく穢れた〟──そうとしか表現しようがない気配を持つ生物にもだ。
(……これは…っ。……バジリスクよりは辛うじて安全だから今年は〝気配察知〟を止めておくか…)
吸魂鬼の放つあまりにもあんまりな気配に、吸魂鬼に出逢う前からそう決意して早速──もはや自動でやっていた〝気配察知〟をやめたら、気分が大分楽になった。
バジリスクなら時々──それも一体だったので我慢出来た。しかし吸魂鬼は駄目だった。……常時ゴキブリに身体中を這い回られているような気分だったと云えば、俺の決断も理解を得られるだろう。
……もちろん【ホグワーツ魔法魔術学校】の敷地内に入って来ないと云うのが前提だがダンブルドア校長が吸魂鬼を敷地内入れる事を善しとしないだろうと云う、打算もある。
(来た…っ)
僅かに空いていたコンパートメントのドアの隙間に、長い──ゾンビの様な、指が掛けられたのが判った。……アニーとハーマイオニーもそれに気付いたのか息をはっ、と、呑む。そこで俺も二人に指示を出す事に。
「アニー、ハーマイオニー、杖、用意しておけ」
「判ったわロン。……ところで──ねぇ、あれってもしかして」
「ボクの予想が正しいなら──吸魂鬼」
「なら…」
「だったら…」
「“守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)”!!」「“守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)”!!」
コンパートメントのドアがジリジリと開かれ──遂に吸魂鬼の全貌が露となったその瞬間、〝先手必勝!〟とばかりに、アニーの杖からは銀色の〝牝鹿〟が──ハーマイオニーの杖からは銀色の〝川獺〟が飛び出し、吸魂鬼を通路の遥か彼方へと押しやった。
「食っとけ」
魔法力──精神力の回復には甘いものが取り敢えず効くのが判っているので、アニーとハーマイオニーにスニッーズを渡しておく。
「それと遅ようございます。ミスター・ルーピン、ミスター・ルーピンもどうぞ」
……〝コンパートメントに居たもう一人〟──〝R・J・ルーピン教授〟にも忘れずに。
SIDE END
ページ上へ戻る