普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
183 アニー、13歳になる
SIDE アニー・リリー・ポッター
今日の月日は7月31日──つまりはボクの誕生日。……否、たった今8月1日となったので〝誕生日だった〟と云う表現が正しいか。
ボクが泊まらせてもらった去年とは違い──ウィーズリー一家のエジプトで働いているらしい一番上のお兄さんのビルとルーマニアでドラゴンキーパーをやっていると云う二番目のお兄さんのチャーリーがいるので今夏はジニーの部屋で眠る事になった。
耳をすませばジニーのすぅすぅ、といった大人しめな寝息が聞こえてくる。
……そしてボクはと云うと…
(眠れない…)
ボクはと云うと──まだ誕生日パーティーの熱が抜けていなかったのか、どうにも眠れない夜に懊悩としていた。
〝針の筵〟とすら云えるようなダーズリー家で暮らしていたので、枕が変わったから眠れない──なんて事は、ホグワーツに行く前からしてありえない。
(……一旦トイレにでも行こうかな)
ジニーを起こしてしまわない様にもぞもぞ、していると心無しか尿意がせり上がってきたので、取り敢えずトイレに行ってまだ起きているであろうウィーズリーおばさんに水でも貰い、また寝直そうと考えたボクは、やはりジニーを起こしてしまわない様にそっと部屋を出た。
………。
……。
…。
(……ん? あれは…?)
用を済ませ、おばさんに某かの飲み物を貰おうとリビングに近寄った時、リビング前の扉に耳を張り付かせている人の姿があった。
咄嗟にそれが〝盗み聞き〟と云う──些か誉められた行為ではあに行為だと気付いたボクはその下手人を、確かめてやろうと近付いた。
……その時は大方フレッドかジョージのどちらかの──〝いつものおふざけかな?〟でも思っていたが、僅かに開かれているリビングの扉から洩れている光は、意外な人物が下手人であったと教えてくれた。
下手人の正体はロンだった。
「……ん、アニーか」
あまりに珍しい事だったので、ボクも扉の向こうで、誰と誰がどんな会話をしているのかが気なりちゃんとロンの姿が見えるところまで近付く。
……そして、あわよくば〝盗み聞き〟なんてしているので、出来れば驚かしてやりたくなり、そっと──〝気付かれないように〟と一縷の望みをかけるもロンに近づくが、ロンはとりわけ驚いた様子も見せずボクに気付き──〝盗み聞き中〟だったからか、小声で話しかけてきた。
ロンはちょいちょい、と手招きをしてボクを呼びつける。……するとロンにいきなり頭を撫でられた。……さすがに親だった事があるからか、ロンのその手付きは、ランスロー・ダーウェルみたいに怜悧な顔付きとは似合わず妙に優しいので、頬に熱が集まるのが判る。
……それが俗に云う〝ナデポ〟だという事が判ったのだが、この──〝アニー・ポッターの肉体〟は他人に撫でられ馴れていないし想いを寄せている人からの行為だったので、〝気恥ずかしさ〟もそうだが──やはり〝嬉しさ〟の方が先立った。
「……むっ、どうしたのいきなり…?」
気恥ずかしさを誤魔化す様に投げ掛けたその疑問に、ロンは〝口を動かさずに〟答えた。
『……あーあーあー…。……今は〝PSI(サイ)〟──〝心波〟でアニーの脳内に話し掛けているんだが、聞こえてるか?』
(……こいつ直接脳内に…っ)
『……とりあえずは聞こえてるようだな。……さて、アニーは次にこう──〝どうして俺がそんな事を?〟と考えるだろうから、俺が先に〝こんな事をした理由〟について教えよう』
ボクの諧謔に、ロンは呆れながらもそんな事をしでかしていた理由を語りだす。……〝どうして盗み聞きなんかしていたた理由〟──それも確かに気になっていた事なので沈黙で話の先を促す。
『……父さんと母さんが、どうにもアニーに関係ありそうな事を言っててな。……アニーは〝シリウス・ブラック〟って名前聞いた事が無いか?』
「(……〝シリウス・ブラック〟…? マグル13人を虐殺してアズカバンって監獄にぶち込まれた大量殺人だったっけ──それもたった1つの呪文で)」
紙面の向こうから激しく喚いている写真がイヤに印象的だったので〝シリウス・ブラック〟については何となくだが覚えていた。……ハーマイオニーにも奨められた【二十世紀の魔法大事件】【闇の魔術の興亡】等の色々な書物で〝シリウス・ブラック〟の名前が散見されていたのもある。
……そしてその〝シリウス・ブラック〟の代名詞と云えば≪闇の帝王の腹心≫や≪〝名前を言ってはいけない例のあの人〟の右腕≫──と云った、主にヴォルデモートが関連しているものだった。……他にも≪13人殺し≫と云うのもあったか。
『そうそう、〝その〟シリウス・ブラックだ。……で、この扉の向こうで話されている話ってのはシリウス・ブラックが脱獄したって話だよ』
「(……ふーん。……でもそれって、要は動物園から人喰いライオンが逃げ出したって話なだけでしょ?)」
【ホグワーツ魔法魔術学校】に入学する前の約10年を、〝あの〟──〝普通の人間〟を自称するダーズリー一家の下で過ごしたので、どうにも〝凶悪な魔法使い〟と云うのが想像しにくかったボクは、そんな──間の抜けた考えになってしまう。
『巨大な猫ならまだ可愛げがあるんだけどな…』
「(いやいや…)」
ロンがボクを和ませようとした冗句かと思ったが──ロンの語りぶりからしたら、どうにも違うらしくて…。
『……どうにもシリウス・ブラックはアニーを殺す為にアズカバンから脱獄したと云われている』
「(ボクを──ねぇ…?)」
〝≪闇の帝王の腹心≫とすら呼ばれているシリウス・ブラックが〝アニー・ポッター〟を殺す理由〟──いろいろと考えてみたら一つの推論に至った。
「(……シリウス・ブラックは≪闇の帝王の腹心≫と云われるくらいだ。大方の理由としては〝ヴォルデモートが凋落した原因であるボクへの──〝アニー・ポッター〟への復讐〟ってところかな?)」
『それが母さんと父さん──そしておおよその魔法使い、魔女の見解だよ』
ぱっ、と思い付く可能性をロンに陳述すれば、どうやらボクの推論は的を射ていたようで、ロンは〝おおよそ〟とつけながら話を終わらせる。……〝おおよそ〟と付けた事から、〝ロン個人の見解〟とは違うことが窺える。
「(……ちなみに〝ロン個人〟の見解は?)」
『シリウス・ブラックはまぁ、無視してOKだと思っている』
ボクとハーマイオニーに吸魂鬼くらいにしか大した効果が無い〝守護霊の呪文(パトローナス・チャーム)〟を前以て仕込んでいるくらいには心配性なロンからしたら、それは意外な言葉だった。
その根拠について気になったが、〝全く〟と云えるほどシリウス・ブラックを擁護出来る情報が無いこの状況でロンがそんな事を言う理由は、一つくらいしか思い付かなかった。
……〝知識〟である。
「(その根拠は〝知識〟かな?)」
『Exactly(イグザクトリィ)──その通りにございます』
「(……そして、アズカバンから逃げ出したってことは〝看守〟も──あ、だからロンはボクとハーマイオニーに〝守護霊の呪文(パトローナス・チャーム)〟を…?)」
『重ねてExactly(イグザクトリィ)──その通りにございます』
ロンが〝守護霊の呪文(パトローナス・チャーム)〟をボク達に授けてくれた本当の理由に思いいたり、腑に落ちた。……腑に落ちたところでドアの向こう──リビングから怒号が聞こえてきた。
――「なりません!! ……アニーにシリウス・ブラックが脱獄したことをつたえるなんて、どうかしています!」
――「……判っておくれよ、モリー。……どうにも魔法省──とりわけファッジ大臣は難色をしめしていたが、そんなものはクソくらえだ」
――「今回は私もファッジ大臣と同じ意見です、アーサー」
――「アニーには知る権利──いいや、知る必要があるんだ」
――「アニーはまだ子供なのよ。……無駄に怖がらせる必要がどこにありましょうか…」
――「もうアニーは13歳だ。……13歳のどこが子供だと云うのだね?」
ウィーズリーおじさんのその一言を最後に、リビングから聞こえていた夫妻の会話が止まった。……リビングの空気は大層淀んでいるだろうと云うことが扉を隔てているここの場所からでも判る。
……どう語り出したら良いかと迷っている内に、そんなボクに先んじてロンがボクに語り掛けてきた。
『……もう、各々の部屋に戻ろうか』
そう言ってロンは、またボクの頭を撫でる。……すると何だか身体がじんわり、と暖かくなってきて、心無しか目蓋も重くなってきた様にも感じた。
『今、〝仙術もどき〟でアニーの〝気〟を──と云うより、交換神経の働きを抑制させたから、その内副交感神経の働きも活発になるだろうさ。……たぶんぐっすり眠れるはず』
「(……凄いね…)」
地味に驚くべき事をロンは何気なく言うが、今のボクは〝驚愕〟よりも〝睡眠〟の方を大事にしていたらしい。
『それじゃ──良い夜を、アニー』
「(お休み、ロン)」
階段をロンに手を引かれながら上り、ボクもまたジニーの部屋にお邪魔する。……その日はロンの云っていた通り、ぐっすりと眠る事が出来たのだった。
SIDE END
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