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艦隊これくしょん 災厄に魅入られし少女

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第三話 本土からの使者

 
前書き
文章におかしな部分があるかもしれませんが、よろしくお願いします。 

 
日本の九州地方にある長崎県の佐世保市内。その街中に凰香達はやって来ていた。
凰香はいつもの服装だが、時雨、榛名、夕立達艦娘達は自分達の正体がバレないようにするために、いつもと違う服装に変装していた。
時雨は首口の広い白いシャツに赤い線の入っている白い襟の付いた黒のノースリーブの薄い上着、黒のチェックのスカート、そして首にはいつも付けている赤いネクタイを直接緩く付けた服装だった。
夕立は裾口がギザギザ状になった薄い黄色のシャツに白い線の入った赤色のパーカー、黒の無地のスカート、そして首にはいつもの白いマフラーと首当てを付けていた。
そして榛名は黒い長袖のワンピースに白いカーディガン、そしていつものカチューシャの代わりに白い花の飾りが付いた白色のカチューシャを頭に付けた姿をしていた。
防空棲姫は今回は実体化するとさすがに大騒ぎとなってしまうので、四人だけが姿を見えるように幽体となっていた。
なぜ凰香達が佐世保市にいるのかというと、それは数時間前にまで遡る。


………
……



「……まずいわね」

旧泊地の食堂の厨房にて、凰香は冷蔵庫の中を見ながらそうつぶやいた。それを聞いた夕立が凰香に聞いてくる。

「凰香さん、どうかしたんですか?」
「食料が少ないのよ」
「食料が?」

凰香の言葉を聞いた防空棲姫が冷蔵庫の中を覗き込む。

「あらほんと。確かに少ないわね」
「まあ新たに榛名と夕立も来たんだから、仕方のないことだよ」

そう言った防空棲姫に食器を洗っている時雨が苦笑いしながらそう言った。時雨の言う通り、新たに増えた榛名と夕立もまたかなりの量を食べるため、今まで以上に食料の消費量が増えた。まあ、それは時雨の言う通り仕方のないことなのだが。
すると、食器を片付けていた榛名が凰香に聞いてきた。

「食料はあとどのくらいもちそうなのですか?」
「……魚と野菜は問題ないけど、米や肉、塩以外の調味料などはもってあと4日ってところかしらね」

凰香はそう言って冷蔵庫の扉を閉じる。そして四人に言った。

「本土に買い物に行くわよ」
「「え!?」」

凰香の言葉に榛名と夕立が驚いたような表情になる。

「……何かおかしいことでも言った?」
「い、いえ。凰香さんが街に行こうなんて言うとは思ってもいなくて……」
「私達だって買い物するために街に行くわよ。あまり出歩きたくないだけ。……まあ、今回は他の用件もあるんだけど」

凰香はそう言うと、食堂の出入口へと向かう。そして食堂を出る瞬間、凰香は時雨達に言った。

「私は船の準備をしておくから、時雨達も準備しておいて。榛名と夕立は………とりあえず夕立は時雨から、榛名は防空姉から服を借りて着替えて」
「はい」
「わかりました」

凰香がそう言うと、榛名と夕立が頷く。それを見た凰香を食堂から出ると、本土へと出かけるために使う小型の船を調整するためにかつて艦娘が出撃する時に使っていた出撃ゲートへと向かうのだった。


………
……



「それにしても驚きました。凰香さんが船を運転できたなんて」

佐世保市の市街地を歩きながら、榛名がそう言った。旧泊地からここの港まで小型の船で来たのだが、そこまで凰香が運転してきたのだ。
凰香は歩きながら言った。

「別に艤装を装備して移動してもよかったけど、それでも騒ぎになるし、船の免許は取っておいても問題はないから」
「でもいろいろと面倒なんじゃないですか?ほら、個人情報とか」

時雨の隣を歩く夕立がそう言ってくる。すると、ふよふよと宙を浮いている防空棲姫が言った。

「今のご時世、そんなものはほとんど機能していないに等しいわ。………それにほら」

防空棲姫がそう言って、大型家電店のショウウィンドウのテレビを指差す。凰香達がそっちの方を見ると、そのテレビには連日流されている『佐世保第十三鎮守府の不正事件とそれに関係するニュース』が流されていた。

『尚、黒夢凰香ちゃん当時6歳は未だに行方不明でーーーー』
「………気に入らないね。探す気もないのにこれを流すなんてさ」

ニュースを見た時雨が忌々しそうにつぶやく。そんな時雨に凰香は言った。

「仕方ないわ。それが仕事なんだから。………それよりも、早く買い物を済ませましょう。買うものは食料の他に生活用品もあるから、かなりの量になるわよ。特に榛名と夕立のものを買わないといけないからね」
「夕立と榛名さんの、ですか?」
「ええそうよ。この先ずっと時雨や私のものを借り続けるのも何かと不便でしょ?あまり高いものは買えないけど、ある程度は買い揃えるつもりよ」

夕立の言葉に防空棲姫がウィンクして答える。
すると榛名が言った。

「あの…ありがとうございます。何から何まで」
「別にいいわよ。さあ、そろそろ行くわよ」

凰香はそう言うと、時雨達を引き連れて大型ショッピングモールへと入り、買い物を始めた。
そこから凰香達は数時間かけて夕立と榛名の服や小物、日常用品、そして最大の目的である食料を買い、買い物を無事終える。
買い物を無事終えた凰香達は現在カフェで一休みしていた。

「やれやれ、これだけ多いとさすがに疲れるね」

時雨がエスプレッソを一口飲んだ後、ふうと一息吐いて言った。時雨の言う通り、凰香達の座っている机の周囲にはたくさんの袋が置かれていた。
すると、紅茶を飲んでいた榛名が申し訳なさそうに言った。

「……ごめんなさい、榛名達のために」
「ああ、誤解させてしまったようだね。ここまで多いのは久しぶりだったからね」
「そうだったんですか」

時雨の言葉に、夕立がそうつぶやく。時雨と同じくエスプレッソを飲んでいた凰香はそこで夕立が目の前にあるストロベリーパフェに手をつけていないことに気がついた。

「夕立、食べないの?」
「え、いや………」

凰香にそう聞かれた夕立がなんて答えようか迷った表情になる。
それを見た凰香は夕立に言った。

「………食べたいなら食べればいいじゃない。誰もあなたを責めないんだから」

凰香はそう言うと、スプーンを手に取ってストロベリーパフェを一口すくう。そしてそれを夕立の前に持ってくる。夕立は少し驚いたような表情になるが、やがて目を閉じて口を開けスプーンにすくわれたストロベリーパフェを食べる。すると夕立はすぐに目を開いて驚いた表情になった。
それを見た凰香は夕立にスプーンを渡す。夕立はスプーンを受け取ると、がっつくようにストロベリーパフェを食べ始めた。それだけストロベリーパフェが美味しかったのだろう。

「あらあら」

それを見ていた防空棲姫が笑い、時雨と榛名も微笑みながら夕立を見る。三人に見られていることに気がついた夕立は口にアイスを付けたまま恥ずかしそうに顔を赤くさせた。
そんな微笑ましい一時を過ごした後、凰香達は旧泊地へと帰っていった。


………
……



凰香達が佐世保市から旧泊地へと戻ってくる頃にはすでに日は傾き、夜になろうとしていた。

「凰香さん、今日は何から何までありがとうございました」

出撃ゲートから食堂へ向かっている途中、榛名がそう言ってくる。
凰香は歩きながら言った。

「別に気にしなくていいわ。これからは榛名達にも街に行ってもらうからね」
「はい、わかりました!」

凰香の言葉を聞いた夕立が珍しく元気よく答える。どうやらストロベリーパフェを食べて少し明るさを取り戻したらしい。
だが次の瞬間、凰香は食堂へと向かう足をピタリと止めて立ち止まった。それにつられて時雨、榛名、夕立もその場で立ち止まる。

「凰香さん、どうかしましたか?」

榛名が首を傾げて聞いてくる。
凰香は榛名の言葉に答えるようにつぶやいた。

「………誰かいる」
「……うん、僕も見えたよ」

凰香がそう言うと、時雨も視線を鋭くして言った。
榛名と夕立には見えていないようだが、執務室や食堂などがある建物の扉の前に二人の人影があるのだ。一人は白い軍服に身を包んだ黒髪のポニーテールの女性で、もう一人は茶髪のショートカット、榛名と同じ白い巫女服のような服に黒い帯、緑色のタータンチェックのスカートに茶色のブーツの女性だ。おそらく白い軍服の女性は海軍の軍人で、もう一人はその秘書艦を務める榛名と同じ『金剛型高速戦艦』の艦娘だろう。
すると向こう側も凰香達に気づいたのか、こちらに向かって歩いてくる。それを見た時雨が持っていた袋を地面に置いて、太ももに付けていた鞘からコンバットナイフを二本抜き取る。二人には見えないであろう防空棲姫も四基の高角砲型生体ユニットを装備する。
だが次の瞬間ーーーー

「比叡お姉様………?」
「比叡、さん………?」

ーーーー榛名と夕立が目の前にいる艦娘を見てそうつぶやく。凰香が二人の方を向くと、二人は目を見開き信じられないといった表情で目の前にいる艦娘を見ていた。
すると目の前にいる艦娘が突然走り出した。凰香と時雨はすぐに構えるが、目の前にいる艦娘は凰香と時雨を通り過ぎた。
そしてーーーー

「榛名……!夕立ちゃん……!」

ーーーー目の前にいる艦娘がそう叫ぶと、榛名と夕立に抱きついた。

「よかった……!生きてて、本当によかったよお………!」

榛名と夕立に抱きついた艦娘がそう言って、嗚咽を漏らし始める。
すると榛名も涙を流して言った。

「比叡お姉様も…どうして……?だって、あの時…粛清された……はずじゃ………!」

そう言って榛名も嗚咽を漏らし始める。夕立に至っては涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていた。
そんな三人を見て時雨が言った。

「……えっと、これは一体どういう状況なのかな?」
「私が知るわけないじゃん」

時雨の言葉に凰香はそう答える。
すると目の前にいる白い軍服の女性が言った。

「……ふむ、どうやら『感動の再会』というものだな」
「………誰ですか?」

凰香は警戒しながら女性に聞く。すると白い軍服の女性が言った。

「ここで私が何者なのかを答えてもいいが、立話するのもなんだ。中で話をしようではないか………黒夢凰香君?」
「「「!?」」」

白い軍服の女性の口から出た自分の名前に、凰香、時雨、そして防空棲姫の三人は驚愕する。凰香達は目の前にいる女性の前で一度も自分の名前を口に出していない。それにもかかわらず、白い軍服の女性ははっきりと凰香の名前を言った。

(こいつは一体何者……?)

凰香は疑問に思ったが、白い軍服の女性の言う通りここで立話をしていても仕方がない。

「………榛名、夕立、あと名前のわからない艦娘さん。感動の再会もいいけど、そろそろ中に入りましょう?」
「そ、そうですね!」
「ぽ、ぽい!」
「う、すみません」
「気にしなくていいよ」

申し訳なさそうにそう言う艦娘に、コンバットナイフを鞘に納め買い物袋を拾い上げた時雨がそう言った。
凰香達は扉を開けて中に入ると、榛名と夕立に買ってきた荷物を仕舞うのを頼み、凰香は白い軍服の女性と艦娘を連れて執務室へと向かう。その後ろを時雨と防空棲姫がついてきていた。
凰香達が執務室の中に入ると、凰香は白い軍服の女性と艦娘をソファに座らせ、凰香と時雨はその対面に座った。すると扉が開いて人数分の湯呑みを載せたお盆を持った榛名と夕立が入ってきた。

「どうぞ」

榛名がそう言いながら湯呑みを目の前に置いていく。そして全員の前に湯呑みを置くと、榛名夕立は凰香の後ろに控えるように立った。
凰香は湯呑みの中のお茶を一口飲むと、白い軍服の女性に言った。

「………で、あなたは一体誰ですか?」
「私の名は『海原凪(うみはらなぎ)』。地位は少将。横須賀第二鎮守府の提督を務めているものだ。そしてこの子は私の秘書艦を務めてくれている金剛型高速戦艦の二番艦『比叡改二』だ」
「比叡です。どうかよろしくお願いします」

海原少将がそう自己紹介すると、比叡が頭を下げてくる。
すると防空棲姫が真剣な表情で凰香に言ってきた。

「……凰香。この女は海軍のトップの一人よ」
「!」

防空棲姫の言葉を聞いた凰香は軽く驚く。すると時雨が海原少将に言った。

「それで、海軍の元帥がここに何の用かな?」
「なに、少し君に頼みたいことがあるのさ」
「私に?」

凰香は首を傾げた。なぜ海軍の将校である彼女が、ただの一般人である凰香に頼み事をしてくるのかがわからなかったからだ。それは凰香だけではなく、時雨と榛名、そして夕立も戸惑った表情を浮かべていた。
すると次の瞬間、防空棲姫が真剣な表情のまま実体化して凰香達の前に姿を現した。
当然彼女達からすれば突然何もない空間から『災厄』こと防空棲姫が姿を現したように見える。そのため比叡は驚愕し、海原少将は驚愕しなかったものの表情を強張らせていた。

「………はじめまして海原凪少将。私は防空棲姫。『災厄』と言った方がわかりやすいかしら?」

防空棲姫が笑いながらそう言うが、警戒心を剥き出しにしているため、眼は全く笑っていなかった。
すると、防空棲姫の姿を見た海原元帥が言った。

「……驚いた。まさか『災厄』が本当に生きていたとは」
「あら、やっぱり海軍の中では私は死んだことになっているのね」
「ああ。だが艦娘達が『街中で防空棲姫の姿を見た』と恐がってしまっているのでね。半信半疑であったが、艦娘達の言っていたことは本当だったようだ」

海原少将が苦笑いしながらそう言ったものの、顔には冷や汗を浮かべていた。
それを見た防空棲姫が言った。

「まあ今の私はこの子の保護者みたいなものだから、こちらからあなた達をどうこうするつもりはないわ。………でもあなたの言う『頼み事の内容』によっては、ただでは済まさないわよ」

防空棲姫がそう言って、四基の高角砲型生体ユニットを出現させる。高角砲型生体ユニットは目の前にいる二人を威嚇するように唸り声を上げる。
すると海原元帥が言った。

「……そうか。とりあえず私が君に頼みたいことの内容を話すとしよう」

海原少将がそう言って、湯呑みの中のお茶を一口飲む。そして口を開いて言った。

「……君は佐世保第十三鎮守府を知っているかな?」
「………!」
「「「「!?」」」」

海原少将の口から出た予想もしていなかった言葉に凰香はピクリと反応し、時雨と防空棲姫、榛名と夕立は驚愕する。
佐世保第十三鎮守府………それは時雨を除いたメンバーにとって忌まわしき場所である。
凰香は佐世保第十三鎮守府の元提督が立てた作戦によって家族と友人、そして自身の右腕を失い、防空棲姫は仲間と自分達の恩人を傷つけられ、榛名と夕立はあの鎮守府の中で恐怖によって支配された。
時雨も直接の関わりはないものの、凰香を傷つけられたことで怒りを抱いていた。
すると凰香達の反応を見た海原少将が言った。

「……知らないはずもないか」
「………ええ。忘れるわけないわ」

海原少将の言葉に防空棲姫が忌々しそうにそう言った。実際、凰香達は二度とその鎮守府の名前を聞きたくなかったのだが、ここであの鎮守府の名前が出たということは海原少将の頼みたいことにあそこが関わっているのだろう。
凰香はそのことを海原少将に言った。

「……あの鎮守府の名前を出したということは、あなたの言う頼みたいことに関わっていると見ていいですね?」
「察しがいいな。凰香君の言う通りだ」

海原少将が頷き、凰香達を見回してから口を開いて言った。

「黒夢凰香君、君に『佐世保第十三鎮守府の提督になってもらいたい』」
「………はい?」

海原少将の頼みたいことの内容を聞いた凰香は耳を疑った。
この女性は一般人である凰香に佐世保第十三鎮守府の提督になれと言ってきたのだ。これにはさすがの凰香も耳を疑わざるをえなかった。
すると時雨が言った。

「……海原少将、君は何を言っているんだい?今あの鎮守府に提督はいないけど、なぜ凰香があの鎮守府の提督にならなければいけないんだい?」
「いい質問だ、時雨君。君の言う通り、今あの鎮守府には提督がいない。………だが、問題はこのあとなのだ」
「どういうことだい?」

時雨が首を傾げる。
すると海原少将が湯呑みの中のお茶を一口飲んで言った。

「……あの愚か者が更迭された後、大本営から新たな提督が着任するはずだったのだ。しかし、そこで問題が起きてしまった。………佐世保第十三鎮守府に所属する艦娘がその提督を『半殺し』にして追い返してきたのだ」
「な、なんですって……!?」
「ど、どういうことですか!?」

海原少将の言葉を聞いた夕立が驚愕し、榛名が海原少将に詰め寄る。
すると比叡が榛名に窘めるように言った。

「榛名、落ち着いて」
「……ごめんなさい、比叡お姉様」
「いや、いい。君がそうなるのも最もだ」

申し訳なさそうにする榛名に海原少将が気にしていないというような感じでそう言う。そして少し間を空けてから言った。

「私は半殺しにされた提督に事情を聞いた。するとその提督は艦娘に『自分達は人間達に協力する気も関わる気もない。鎮守府は自分達だけで運営するから、必要以上に手を出すな。また、少しでも不穏な動きを見せたらどうなるか………わかるよな?』と、『提督代理』を名乗る片言を使う艦娘に言われたそうだ」
「そんな……金剛お姉様、どうして………」

海原少将の言葉を聞いた榛名が信じられないといったような表情になる。
すると海原少将が言った。

「榛名君と夕立君を除いた君達ももうわかっていることだと思うが、この比叡もあの鎮守府に所属していてな。あの愚か者の恐怖に耐え切ることができずに鎮守府を脱走し、仲間である艦娘に粛清されたのだ。まあこの子は奇蹟的に轟沈せずにボロボロの状態で私の鎮守府の前に倒れていたところを、私達が助けたというわけだ。
「とはいえこの子も我々人間にかなりの恐怖心を抱いてしまってな、私達にあの鎮守府での出来事を話そうとしてくれなかった。そしてこの子がその話をしてくれたのは、榛名君と夕立君があの鎮守府から脱走した直後………つまり防空棲姫を撃破してから10年後だったのだよ」
「……ごめんなさい。私がもっと早く話していれば、こんなことには………」

海原少将が話し終えると、比叡が今にも泣き出しそうな表情で謝ってくる。
それを見た凰香は言った。

「……もう過ぎたことだからいい。それよりもなんで一般人の私に頼んでくるの?正規の提督なんてまだたくさんいるでしょ?」
「それなんだが、その事件以来誰もあの鎮守府に着任したがらなくなってしまってな。今現在艦娘達だけで運営している状態なのだ。だが、あそこは他の海域に比べ強力な深海棲艦が出現しやすい。そのため司令官無しでは苦しいところがある。だから提督を着任させなければならないのだ」
「それはわかってる。私が聞きたいのは、『どうして私がその鎮守府の提督にならなければいけない』ということよ」

凰香は海原少将にそう言った。すると、海原少将が言った。

「簡単な話さ。君と佐世保第十三鎮守府は深く関わっているからね」
「関わっているって……確かに私はあの鎮守府の元提督に家族と友達を殺されて、右腕も失わされたけど………」
「いや、それだけではない」

次の瞬間、海原少将が信じられないことを言った。

「……君の父親は私の先輩であり、『佐世保第十三鎮守府の初代提督なのだよ』」
「「「「「!?」」」」」

海原少将の口からでた衝撃的な事実に、凰香達は驚愕する。
それもそうだ。凰香の父親が海原元帥の先輩であり、あの鎮守府の元提督だったということを、娘である凰香自身知らなかったのだ。だが海原元帥の言う通り、確かに凰香と佐世保第十三鎮守府は深く関わっていた。
すると時雨が海原少将に言った。

「それは……本当のことなのかい?」
「ああ、本当だ。私が凰香君を知っていたのも、まだ幼い凰香君と会ったことがあるからね」

海原少将がそう言ってくる。しかし表情は真剣そのものなので、本当のことなのだろう。
すると防空棲姫が比叡に聞いた。

「……比叡さん、あなたは凰香の父親に会ったことがあるの?」
「……はい、よく知っています」
「……そうなの」

比叡の話を聞いた防空棲姫が今度は凰香の方を見て言った。

「……凰香、どうするの?どうやらあの鎮守府とあなたには深い因縁があるようだけど」
「…………」

凰香はすぐに答えずに海原少将を見た。すると海原少将が言った。

「……どうかあの鎮守府にいる艦娘達を救ってくれ。この通りだ」

海原少将がそう言って、次の瞬間凰香達に頭を下げてきた。海軍のトップの一人が一般人の少女に頭を下げるなど前代未聞だ。榛名と夕立、時雨と比叡、そして深海棲艦である防空棲姫までもが頭を下げてきた海原少将に眼を丸くしてしまっている。
だが海原元帥がそこまであいてくるということは、それだけ艦娘のことを大切にしているのだろう。
しかし、凰香はすぐに首を縦に振ることができなかった。それもそのはず、凰香にとって佐世保第十三鎮守府に所属する艦娘は親と友人の仇だ。その仇を救ってほしいなど、都合の良すぎる話だ。
凰香は少し間を空けてから、海原少将に言った。

「………少し考えさせてください」
「……わかった。では、明日改めて聞かせてくれ」

顔を上げた海原少将が頷く。凰香が時計を見ると、時刻はすでに20時を回っていた。

(もうこんな時間)

凰香がそう思っていると、防空棲姫も同じことを思っていたらしく、海原少将と比叡に言った。

「……さて、今日はもう遅いからお二人ともここに泊まっていったらどうかしら?ここから横須賀に戻ってまたここに来るのも大変でしょ?」
「そうなると思っていたから、一泊する準備はさせてもらっていたよ」
「……準備のお早いことで」

笑いながらそう言う海原少将に、凰香は呆れたようにそう言って立ち上がる。そして全員分の夜ごはんを作るために食堂の厨房へと向かっていった。


………
……



いつもよりもさらに多い人数で食事をした後、凰香は一人で露天風呂に入っていた。

「はあ………」

凰香は湯に浸かり、ため息を吐いたあと夜空を見上げた。夜空には星々がキラキラあと輝いており、普通なら『綺麗』だとか『美しい』と感じるのだろうが、今の凰香にはほとんどの感情が無いため星々を見ても何も感じなかった。
それよりも、今の凰香の頭の中は先ほどの件で埋め尽くされていた。

(佐世保第十三鎮守府の提督になるか、否か………)

海原凪少将が頼んできた内容。それは自分達の運命を大きく狂わせた鎮守府の提督となり、そこに所属している艦娘を救うというものだ。
普通なら海軍の正規の提督を着任させるものだが、佐世保第十三鎮守府の艦娘はずっと苦しめられてきたために人間そのものを敵視してしまい、提督を着任させることができない状態となってしまっていた。
そこで海原少将はあの鎮守府の初代提督の娘である凰香に頼んできたというわけだ。

(父さんがあの鎮守府の元提督だったなんて………)

凰香は衝撃的な事実に驚きを隠せなかった。自分が覚えている限りに父親は軍人らしいところはなく、どこにでもいるような人だった。おまけに言えば、海原少将が凰香が幼いときに会ったと言っていたが、凰香にはそちらも覚えがなかった。まあ凰香が幼い頃だったというので、凰香が覚えていないだけなのだろうが。

(私は一体どうすればいいんだろう………?)

凰香が深海棲艦の右腕を夜空に向かって伸ばしながらそう思っているとーーーー

ーーーーガラララーーーー

脱衣所と繋がっている引き戸が開き、黒髪を結い上げバスタオルに身体を包んだ海原少将が入ってきた。

「ほう、これは立派な露天風呂だな。ぜひ私の鎮守府内にも造りたいものだ」

海原少将はそう言うと、身体を洗ってから湯に浸かり、凰香の隣に座る。

「……なるほど。それが君の今の右腕か」

海原少将がそう言って凰香の右腕を見てくる。凰香は右腕を湯の中に沈めて言った。

「……醜い?それとも怖い?」
「まさか。君の右腕は醜くも、強くもないさ」

海原少将がそう言いながら凰香の右腕を取って触れる。海原少将の突然の行動に凰香は思わず固まってしまった。このような行動をしたのは防空棲姫と時雨以外で初めてだったからだ。
凰香が何も言わずに固まっていると、海原少将が首を傾げながら言った。

「む?どうかしたか?」
「い、いえ。………それよりも聞きたいことがあるんだけど、なんで私が『黒夢凰香』だってわかったんですか?」

凰香は海原少将に聞いた。
凰香は海原少将に一言も自分の名前を言ってはいないし、鎮守府の門や玄関に表札を掛けてもいない。それにもかかわらず、海原少将は凰香の名前を知っていたのだ。
すると海原少将が言った。

「………あの愚か者が更迭された日、あの鎮守府で行われていた多くの不正が判明してな、その時に君達の乗った船を誤って砲撃したことも判明したのだ。佐世保第十三鎮守府は私が担当することになってな、すぐに捜索隊を派遣し、そして五人分の遺体が発見された。その時にその遺体が先輩達だと知ったのだよ。
「だがどうしても君の右腕以外の遺体だけが見つからなかった。ほとんどの者は君も死んだと言っていたが、私は君も死んだとは思えなかった。そこで私は奇襲作戦が行われた日の風速、風向、潮の干満などを計算し、君がこの旧泊地に流れ着いたと仮定した。そして私の予想は的中したというわけだ」
「……なるほど、そういうことだったんですね」

海原少将の言葉を聞いた凰香は納得した。
海原少将は凰香が生きているということを前提として動いた。だから凰香を見つけることができたのだ。

(ほとんどの人が私を捜そうともしなかったのに、この人は最後まで捜してくれたんだ………)

凰香がそう思っていると、不意に海原少将が凰香を抱え、膝の上に乗せてきた。

「わっ。……いきなりどうしたんですか?」

凰香は驚いたような声をあげたあと、後ろを向いて海原少将に聞いた。すると海原少将が不思議そうに首を傾げながら言った。

「何って、昔みたいに君を抱きかかえただけだが?」
「はあ、そうですか………」

海原少将の言葉を聞いた凰香はそう言った。とはいえ、凰香は幼い頃のことはほとんど覚えていない。そのため海原少将の言葉を聞いても凰香はそこまで何も思わなかった。

「そんな直立不動でなくとも、私にもたれかかってもいいのだぞ」

海原少将がそう言って凰香を抱き寄せてくる。そのため凰香の背中に二つの柔らかいものが当たるが、凰香にはそれが懐かしく感じられた。
凰香は海原少将に抱き寄せられたまま夜空を眺めるが、不意に海原少将に聞いた。

「……あの、提督だった頃の父さんってどんな人だったんですか?」

凰香は幼かったために父親のことをあまり覚えていない。そもそも凰香は父親が提督だったことすら知らなかった。そのため、凰香は提督だった頃の父親を知りたいと思ったのだ。
すると海原少将が懐かしむように言った。

「そうだな………先輩は一言で言うなら正義感の強い人だった。艦娘達と共に常に最前線で戦い続け、市民を守り続けていた。時には上官の命令を無視しては罰として反省文を書かされていたな。
「……そして何よりも、先輩はとても優しい人だった。艦娘を兵器としてではなく、一人の人間として扱っていた。そのため、多くの艦娘に慕われていたよ」
「そうだったんですか………でも、どうして父さんは提督を辞めたんですか?艦娘に嫌われていたわけでもないのに」

凰香は一番気になっていたことを海原少将に聞いた。
話を聞く限り父親は艦娘に慕われていた。それなのに提督を辞めた理由がわからなかった。
すると海原少将が少し間を空けてから言った。

「………とある作戦で、先輩の艦隊が深海棲艦の奇襲を受けてしまってな、その艦隊の旗艦であり秘書艦だった艦娘が深海棲艦の砲撃から先輩を庇ってな。先輩は軽傷で済んだが、艦娘の方は修復不能にまで大破してしまった。
「それで艦娘は解体され、先輩は責任を取って提督を辞めたのだ。……そしてその後任になったのが、あの愚か者だったのだ」

そう言って海原少将が話し終える。凰香はしばらく黙っていたが、やがて両手の拳を握り締めて海原少将から離れるように立ち上がる。そして海原少将の方を向いて静かに口を開いた。

「………どうして、奇襲作戦が行われることを父さんに言わなかったんですか?あなたが父さんにそのことを伝えていればこんなことにはならなかったのに」

声はいつも通りではあるが、凰香の眼は赤く染まっていた。それだけ凰香は無意識に怒っていた。
無理もない。あの時海原少将が事前に父親にこのことを伝えていれば、家族も友人も死なずに済んだのだ。
すると海原少将が言った。

「……言い訳になってしまうが、あの奇襲作戦はあの愚か者が私達に報告せずに行ったもので、私達は奴が防空棲姫を沈めたという報告を聞いた時に初めて知ったのだ。そして、その時から先輩と連絡を取ることができなくなった。当初は旅行にでも行っているのだろうと思っていたが、10年過ぎても連絡が取れなかったから、さすがにおかしいと思い始めたのだ。……そしてその時に比叡が教えてくれたのだよ。あの鎮守府で行われていたことを」
「……比叡さんが?」
「ああ。比叡はボロボロの姿で私の鎮守府の前に倒れていてな。かなり衰弱もしていたから、すぐに治療をしてなんとか一命を取り留めたよ。とはいえ意識を取り戻しても私達人間をかなり怖がってしまっていてな。私にはおろか艦娘達にすら警戒してしまい口を開こうともしなかった。そして10年が過ぎた頃に私が佐世保第十三鎮守府の初代提督の後輩だということを知ってくれてな。やっと心を開いてくれた。そして佐世保第十三鎮守府で行われていたことを私に伝えてくれたのだ。だからあの鎮守府で行われていた不正を暴き、あの愚か者を更迭することができたのだ」
「……そうだったんですか」

海原少将の言葉を聞いた凰香は怒りが収まったわけではないものの、とりあえず納得はした。事実が暴かれるのが遅くなってしまったのは、比叡が他人を怖がってしまい佐世保第十三鎮守府で行われていたことを話すことができなかったからだ。
とはいえあの男が更迭されても手遅れである。佐世保第十三鎮守府の艦娘達はすでに人間を敵と認識してしまっている。そのため、多くの提督があそこに着任することを拒否してしまっている。
それに何よりも、凰香自身あそこに着任することに抵抗があった。その理由は、あそこに着任したら自分がどうなってしまうのかがわからないからだ。
凰香にとって、あそこは仇である艦娘達がいる鎮守府だ。今は復讐しないと言っているが、もしあそこに着任してしまったらどうなってしまうのかがわからなかった。
すると凰香の考えていたことを見抜いたのか、海原少将が言った。

「……あそこに着任するのが怖いのか?」
「………そうかもしれない」

凰香は海原少将の言葉を素直に認めて言った。

「あそこは私達にとって最も忌まわしい場所。そこに行ったときに私自身がどうなってしまうのかがわからないから怖い………だと思う」
「………そうか」

凰香の言葉に海原少将が小さくつぶやく。凰香はそのまま座り込んで湯に浸かり始めた。
しばらくお互いに何も話さずに黙っていたが、やがて海原少将が口を開いて言った。

「………そういえば先輩がよく口にしていた言葉があったな」
「父さんが?」
「ああ。『艦娘は兵器でも部下でもない。艦娘は大切な家族だ。そして、家族を護るのが俺のやるべきことだ』と言っていたよ」
「!」

海原少将の言葉を聞いた凰香は眼を見開く。その言葉は凰香が榛名と夕立に言ったものと全く同じだったからだ。

(父さんも私と同じことを言ってたんだ………)

凰香がそう思っていると、海原少将が立ち上がって言った。

「君が提督になりたくないのなら、それはそれで構わない。でも、もし君の心の中にまだ艦娘を助けたいという想いがあるのなら、どうか彼女達を救ってあげてほしい」

海原少将はそう言い残すと、そのまま脱衣所へと向かっていった。
一人残った凰香は夜空を見上げた。

「………悩むなんてらしくないわね、凰香」

不意に誰かにそう言われる。凰香が声のした方を向くと、そこにはいつの間にか防空棲姫が湯船に浸かっていた。

「防空姉………」
「どうするの?あなたが艦娘達を助けたいのなら私も協力するし、あなたが艦娘を助けないのなら私は何もしないわ」
「……こういうとき、父さんならどうするかな………?」
「さあ?私はあなたの父親がどういう人なのかわからないから何とも言えないわ」
「……そうだよね」
「でも、何も迷うことなんてないんじゃないの?」
「!」

防空棲姫にそう言われた凰香はハッとした。
そうだ。艦娘を助けるのに何を迷うことがあるのか。かつて自分達を砲撃した榛名を凰香は迷うことなく助けた。そして佐世保第十三鎮守府の艦娘達を助けることも何ら変わりない。

(迷うなんて、私らしくない)

凰香はそう思うと、湯船に浸かっている防空棲姫に言った。

「……ありがとう防空姉。おかげで覚悟が決まったわ」
「あらそう。まあ、それは明日あいつに言いなさいな」
「うん、そうする。じゃあ、私は先に寝てるね」
「ええわかったわ。私はもうちょっとここでゆっくりしてから行くから」
「わかった」

凰香は頷くと、露天風呂から上がって脱衣所へと入る。そこで身体をタオルで拭き髪を乾かすと、服を着てから脱衣所を出る。そして凰香はかつてのここの提督の自室と思われる現寝室に戻ると、服を脱ぎ捨てて寝間着に着替える。そして三人は並んで寝れるほどの大きなベッドに潜り込み、すぐに眠りにつくのだった。


………
……



海原少将旧泊地に来て翌日、凰香は窓から射し込む日射しによって眼を覚ます。時計を見ると、時刻は8時を指していた。防空棲姫と時雨はすでに起きているのか、ベッドの上には凰香以外誰もいなかった。

(起こしてくれればいいのに……)

凰香はそう思いながら起き上がると寝間着を脱ぎ捨て、いつもの服と籠手を身につける。着替え終えると凰香は寝室を出て朝食を食べるために食堂へと向かった。
そして食堂にたどり着くと、そこにはすでに防空棲姫、時雨、榛名、夕立、海原少将、そしてその秘書艦である比叡が集まっていた。

「おや、遅い起床だな」
「私は軍人なんかじゃないんだけど」

凰香はそう言うと、海原少将の前の席に座る。すると本日の朝食の係である榛名と夕立が白いごはんと味噌汁、焼き塩鯖を人数分運んできて凰香達の前に置いていく。
そして運び終えた榛名と夕立が席に着いたとき、凰香は海原少将を見て言った。

「……海原少将、昨日の話だけどあの鎮守府に行くことにするわ」

凰香がそう言った瞬間、防空棲姫を除いたこの場にいる全員が驚いた表情を凰香に向ける。そして海原少将が嬉しそうに言った。

「そうか!あの鎮守府の提督になってくれるのだな!」
「いいえ、提督にはならないわ」

凰香がそう言うと、榛名が首を傾げた。

「え?あの鎮守府に行くということは、提督になるんじゃ………」
「私は『提督にはならない』。あくまで『提督の仕事をする』だけよ」
「……なるほどな。何にせよ、彼女達を助けてくれるというのならこれほど嬉しいことはないよ」

凰香の言葉を納得したのか、海原少将は嬉しそうに頷いて言った。
すると防空棲姫が口を開いた。

「………海原少将、私もこの子について行かせてもらうわ」
「防空棲姫さんもか?」
「ええ。この子の意志は私の意志。凰香が彼女達を助けるというのなら、私は凰香に力を貸す。それでいいわね?」

防空棲姫が微笑みながらそう言うが、眼は全く笑っていない。その言葉は半分ほど『脅迫』とも言えるような気配が滲み出ていた。
すると海原少将が頷いて言った。

「私は構わないよ。むしろそれを決めるのは凰香君だ。私はそのことに口を出すつもりはさらさらないよ」
「あらそう。………じゃあ凰香、私もついていくからね」

海原少将の言葉を聞いた防空棲姫が凰香の方を向いてそう言ってくる。
もちろん、凰香の中には防空棲姫を旧泊地に置いていくという選択肢は最初からない。
凰香は防空棲姫に言った。

「わかった。ありがとう防空姉」
「凰香、僕もついて行かせてもらうよ」

凰香がそう言ったとき、黙っていた時雨が口を開いた。
すると海原少将が時雨に聞いた。

「時雨君、君も行くのか?」
「うん。僕は凰香を絶対に護ると決めているんだ。だから僕もついていく」
「なるほど。まあさっき防空棲姫さんに言った通り、それを決めるのは凰香君だ。とはいえ、答えは決まっているようなものなのだがな」

海原少将がそう言ってフッと笑うと、凰香の方を見てくる。海原少将の言う通り、凰香の答えは決まっている。
凰香は時雨に言った。

「ありがとう時雨。よろしくね」
「別に気にしなくていいよ。……ところで、榛名さんと夕立はどうするんだい?」

時雨が榛名と夕立に聞く。
榛名と夕立にとってあそこはトラウマの場所であり、艦娘達を裏切って脱走してしまった場所である。そんな地獄のような場所に戻りたくもないだろう。

(多分向こうの艦娘達もこの二人のことを恨んだりしているだろうから、連れていくべきではないわね)

凰香がそう考えて榛名と夕立に言おうとしたとき、榛名が先に言った。

「………榛名は凰香さんについていきます」
「ゆ、夕立も凰香さん達についていきます!」

榛名に続き夕立までそう言ってきた。
これにはさすがの凰香も耳を疑ってしまい、榛名と夕立の方を見る。すると榛名が言った。

「榛名達は凰香さんに助けていただきました。ですから、榛名は凰香さんの力になりたいんです」
「………本当にいいの?あそこはあなた達にとって地獄だし、あの子達はあなた達のことを敵視していると思うわ。それでも行くの?」

比叡が真剣な表情で榛名に聞く。この中であの鎮守府のことをよく知っているのは比叡だ。そして二代目提督が更迭された後の鎮守府の状況も知っている。だからこそ自分の妹である榛名とその大切な人である夕立を心配しているのだ。
すると榛名が真剣な表情で言った。

「……比叡お姉様、榛名は凰香さんの力になりたいんです。そのためならどんなに辛いことがあっても耐え抜いてみせます」
「夕立も同じです。夕立も凰香さんの力になりたいんです。だから凰香さん、夕立達も一緒に連れていってください」

夕立が凰香にそう言ってくる。榛名も凰香の方を向いて頭を下げてくる。二人ともどうやら本気で凰香についてくるようだ。
凰香がどう答えるのかが気になるのか、防空棲姫と時雨、海原少将と比叡が凰香の方を見てくる。凰香はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いて言った。

「………そうね。あなた達がついてきてくれるのは心強いわ」
「!それじゃあ………」
「うん。榛名、夕立。私からもよろしくお願いね」

凰香がそう言うと、榛名と夕立が嬉しそうな表情を浮かべて頭を下げる。
こうして凰香達は傷つけられた艦娘達を救うために、佐世保第十三鎮守府へと向かうことを決意したのだった。 
 

 
後書き
それでは、ありがとうございました。 
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