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Blue Rose

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第四十九話 受験の後でその六

「声優さんの養成学校はね」
「ないですよね」
「特に聞かないわね」
「東京や大阪だけで」
「まあ私東京はどうでもいいわね」 
 言葉に無関心さが出ていた。
「食べるものも高いし」
「あっ、そう聞いてます」
「物価が高くてね」
「食べるものもですね」
「そう、高いの」
「それが東京のネックですね」
「しかも寒いしね」
 関西や九州と比べればだ、特に冬は空気が乾燥しているうえに所謂からっ風が吹いてとかく寒い。
「あまり好きじゃないのよ」
「そうですね、私も」
「野球も巨人ばかりだし」
「それも嫌ですよね」
「巨人は正直万年最下位でいいの」
「私もそう思います」
 二人共健全な考えを持っていた、巨人なぞは未来永劫最下位でいいのだ。そもそもこの様な悪辣な手段で選手を掠め取る様なチームが賛美されていたことにこそ戦後日本のインモラルが出ている。テレビで浮気された男が悪いといつも主張しているスキンヘッドの輩は巨人以外の全てのチームを憎んでいるという。憎しみが人にとってどれだけ悪いことか、この輩の人相や品性、発言を見ていると実によくわかることだ。
「巨人が負けるといいですよね」
「負けるその姿がいいのよ」
「その通りですね」
「負けるのを見たらね」
 宇宙の癌巨人がだ。
「皆元気が出るでしょ」
「はい」
 優花はこのことについてもはっきりと答えた。
「その負ける姿を見て」
「嫌な奴等が負けたってね」
「それで御飯も美味しくて」
「気も明るくなってね」
「その日頑張れますね」
「そう、お仕事も勉強もね」
「部活も凄くやる気が出ました」
 優花は大学でも美術関係のサークルに進むつもりだ、高校時代は最後まで部活も心から楽しんでいた。
「そういうことですね」
「そう、巨人が負けるとね」
「それを見てですね」
「皆元気が出るからいいのよ」
「日本自体がよくなるんですね」
「皆明るく頑張れるからね」
「だから巨人は負けるといいんですね」
 優花もこのことがわかった。
「巨人は負けてこそいいんですね」
「勝った巨人を見ても腹が立つだけよ」
 この世に悪が栄える、これ以上の惨事があるであろうか。
「本当に巨人が負ける姿はね」
「いいですよね」
「巨人には無様な負けがよく似合う」 
 女性は笑ってこんなことも言った。
「そう言われたことがあったけれど」
「あっ、それは」
「その通りよね」
「本当にそうですね」
 優花も強く頷いて答えた。
「あのチームにはこれからも負け続けてくれないと」
「日本が元気にならないわ」
「今年は百二十敗してくれたから」
「その分景気がよくなったでしょ」
「そうでしたね」
「巨人とマスコミは弱い方がいいの」
 毎日夜の十時から不況不況とテレビで言っているのを聞いて心が明るくなる筈もない、それを毎日言っていたキャスターは年に五億のギャラがあった、不況の筈なのにマスコミにだけ金があったということであろうか。 
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