決して折れない絆の悪魔
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未来の家
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、未来、三日月。試しに飛行して見せろ」
4月後半戦、桜の花弁も散ってしまった頃だろうか。本日も鬼教官こと織斑 千冬先生による授業が開始されていた。結局1組の代表は百春に収まった、セシリアも一応候補に挙がっていたが本人がそんな資格はないと辞退した為に百春がその肩書を背負う事になった。
「遅いぞ織斑、熟練のIS操縦者は展開まで1秒と掛からんぞ」
「否俺まだ初心者……なんだけど」
「未来らを見ろ、終わっているぞ」
ISは一度最適化が終了するとアクセサリー状態となって身に着ける事がノーマル。セシリアはイヤーカフス、ミカと一夏は指輪、百春はガントレットとなっている。既に展開を済ませているセシリア、そして同じく初心者である筈の一夏とミカ。そこには自分とセシリアを蹂躙した悪魔が立っていた。兎に角百春は集中した、そして漸く白式が完全展開された。
「よし飛べ」
指示されてからの三人の行動は早かった、すぐさま飛び上がりぐんぐんと上昇し続けていく。空に遅れて百春はフラフラとしながらノロノロと続いていく。
「お二人ともお速いですのね、お見事な速度ですわ」
「そう、アンタも同じぐらいじゃん」
「私は一応代表候補生ですのでそれなりの訓練を積んでおります。しかしお二人は研究所でお母様に指導してもらっただけなのでしょう、それでこれは素晴らしいですわ」
「母さんの教え方が良かったのさ」
自分と並び飛行するバルバトスとアスタロト、彼ら曰く学園から早退してからずっと研究所で調整を兼ねた特訓をしていたらしいがそれでも僅か1週間程度の時間しかなかった筈、それなのに此処まで見事な操縦技術を会得している。これは二人のセンスが素晴らしいとしか言いようがない。それに触発されたのか負けていられないと思うセシリアは下で必死に飛んでいる百春に視線を向ける。
「普通の初心者は織斑さんのような感じですわね」
「下手なだけじゃないの?」
「お前、本当にバッサリ言うよな」
相変わらず容赦のないミカの言葉に一夏は呆れつつも笑う、彼と自分達では環境も生きて来た覚悟も違う。この力を何のために使おうとしているのかも違うのだから、同じように求めるのは酷という物だ。
「お、遅れました……」
「遅い」
「確かに遅い」
「な、情け容赦ねえ……」
「まあ初心者なのですから許容範囲ですわ、確かに遅いですが」
「お、俺に味方は居ないのか……」
ガックリ来る百春、目の前の二人の悪魔は自分になど興味はない。唯の有象無象と同じなのだ、未来院は一体どんな所なのだろうか。と激しく気になった、何故自分の元に戻ってきてくれないのか……と一夏に視線を向けるがそれ以上の事はしなかった、千冬に強く釘を刺されたからだ。
『今度未来院の事を侮辱すれば恐らくお前の命はないぞ』
『は、はぁ!?な、何でさ!!?』
『少しは考えてみろ。侮辱したら恐らく、お前を殺す気で三日月と一夏は襲って来るぞ』
一夏の戦いぶりとミカの戦いが記憶に残っている百春は震え上がった。ミカの戦いは見ただけだが凄まじく恐ろしい事は理解出来ているし一夏に関しては実際に体験している。あれが単純に二人でやられると思うと……怖すぎて気絶したくなる。だから、恐怖故に言葉を閉ざした。
「オルコット、今度俺とも試合して貰ってもいいか。ミカとだけは流石にずるい」
「はい私で宜しければ。実は私も接近された際の対処法を見出したいので」
「んじゃ申請は俺の方から出しておくわ」
セシリアはあれ以来一夏とミカにはある程度マシな対応をして貰えている、ミカには相変わらず無関心に近いが偶に気にかけてくれているようなことは帰ってくる。一夏の方は態度の改めと自分達のフォローに回っている事からか友人に近い扱いをして貰えて安心している。セシリアの当面の目標はミカとしっかりとした会話をする事だったりする。
『4人とも、今度は急降下と完全停止をやってもらう。目標は地表10cmだ』
百春が同高度に達したので千冬が新たに指示を出した。急降下からの完全停止、ISの稼働訓練にはよく用いられる方法らしい。
「んじゃ俺先に行く」
「おう」
先発はミカ、一気に急降下していき地面が迫ってくると完全に停止した。それに続くように一夏、セシリアも続いていった。
「すっげえ……」
百春はその光景に感嘆の息を漏らした、まるで流星が落ちる様を上から見ているような感覚を味わった気がした。その感覚を参考にして自らが流星になったように降下するというイメージで急降下を行ったが、結果として百春は地面へと大激突してクレーターを作り上げた。
「「「「「織斑君クラス代表就任おめでとう~!!!」」」」」
クラッカーが乱射されテープが乱れ飛ぶ、この日の夜、学園の食堂の一角では織斑 百春クラス代表就任パーティが行われていた。祝われる側の当人は全く嬉しくなかった、就任というよりは周りが辞退していって強引に押し付けられたというのが正しい。
「就任って……俺、唯ボコられてただけじゃねえか……」
本人としてはブルー、望んで就任した訳では無い。何故勝ったあの二人がやらないのかと激しく疑問に思う、ちらりと視線を向けた先では食事に励んでいる二人の姿が映っている。そしてそんな二人と一緒に居つつ紅茶を嗜んでいるセシリア、何があってあそこまで仲良くなったのだろうか……。
「なあ箒、俺も未来たちと仲良くなれないかな」
「さあな、自分で何とかしたらどうだ」
「……なんか冷たくありません?」
「知らん」
「悪くないな」
「うん、でも院長たちの方が美味い」
「それにしてもよくお食べになりますね」
二人はかなり必死に料理を口へと放り込んでいた、BLTサンドにフライドチキンにサラダ。様々な料理を次々と咀嚼し飲み込んでいく。
「バルバトス使うと腹減るんだよ」
「同じく、アスタロトの操縦には体力使うんだ」
「(全身装甲ゆえの弊害なのでしょうか……?)」
研究所で調整を行っている時からこの現象に襲われていた、ISを稼働させてから妙に空腹感に苛まれる。エミザータ曰く、全身を包むISを感覚として操れるようにしたシステムの影響で操縦後にはかなりのエネルギーを消費するのではという結論を出している。今日は授業でも使用したので余計に腹が減っている。そんな二人に近づいてくる女子生徒がいた。
「ど~も恐縮です、私2年の黛 薫子。新聞部の副部長をやってるんですけど一言でいいからインタビューさせて貰ってもいいかしら?」
「やだ、今喰ってる」
「同じく」
「えっ~そこはお願いよ、それに後でも食べられるじゃない?」
「普通取材って受ける側が優先されるもんでしょ、する側が優先権持つのは唯のマスゴミだって母さん言ってた」
ミカの言葉に黛は退かざる負えなかった、ジャーナリスト魂を持っている彼女にとってマスゴミ呼ばわれるされるのは望まない所。取材とはする側とされる側に不快感が起きてはいけないっという事を信条としている彼女にとって先程の行動は失礼でしかなかった。まず百春のインタビューをしてからいざ二人のインタビューに臨んだ。
「え~っと二人ともIS学園の印象は?」
「別に。女が一杯居る学校」
「兵器をファッションと思ってる学校」
そう告げると黛を置いて去って行ってしまった。確かに一言でいいからと言ったが本当に一言で済まされてしまった、更に内容が何とも言えない……。一夏のもだがミカの答えは……もっと記事に出来る様な物ではない。
未来院
「はぁ……」
「如何したんだ院長……って聞くまでもないか、コーヒーでも淹れるか?」
「頼みます」
院長室で眉間を揉み解すようにマッサージしている久世にオルガは心配するように言葉を掛けるがすぐさま察した、絶対兄貴関連だと。
「また、なんかやらかしたのかよガイ兄貴」
「ええ……もう頭痛いですよ、事業に成功したから仕送りの額増やすわですって……」
「おいおい……また、増えるのかよ」
未来 劾、未来院で一番の出世頭で世界中を放浪しながら築き上げたコネを利用し今現在はアメリカで大きな会社を興して活躍を続けている。フューチャーカンパニー、今では世界的に有名な会社になっている。IS産業にも手を出しているという話で未来研の大スポンサーはフューチャーカンパニーだったりもする。
「もう300万送ってこられてて困ってるのにこれ以上増やしてどうする気なんですかあのバカ息子は……」
「もういっそのこと派手に使っちまったら?」
「んな事したら余計に増額しやがりますよ……」
「……確かに、ガイの兄貴ならやりかねないな」
二人が頭を抱える中、そんな未来院を遠くから見つめる物がいた。全身を硬い外殻に包んだそれは、悪魔に似ていた。
「未来を作る場所に巣くう悪魔……面白いな」
クククッと不気味な笑いを残すとそれはすぐさま姿を消した。
―――それは新たな嵐を呼ぶものだった………。
後書き
次回予告
百春「はぁ、クラス代表なんかに就任させられるわ
一夏兄とは話せないわで最悪だわ……ってお前、鈴か!?
なんでお前がってそうだ、鈴ならわかるだろ!?
あれは絶対に一夏兄だって!!!
次回、決して折れない絆の悪魔、第13話
嵐の予感
えっなんで怒ってるの!?」
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