決して折れない絆の悪魔
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罪と罰
「ミカ、何喰いたい」
「くらげの酢の物」
「だから渋いっつの」
一夏とミカは自分達に割り振られた部屋へとやって来ていた、本来は学生寮の一室を使う筈だったが久世とサムスが学園に話を付け空いている教員室を使えるようにした。加えて二人が出来るだけ疲れを癒せるように工事まで依頼した、世界で唯一男でISを使えるのだからこの位融通を聞かせろと言った結果であった。元々広かった教員室は二人が生活するに困らないつくりになっていた、特に風呂場は男である二人が足を伸ばせるほどの浴槽に変えられていた。
部屋に入った二人は荷物を置き適当にくつろいでいた。一夏は学園に来るまでに買ってきた食料を冷蔵庫に入れつつミカに献立のリクエストを尋ねつつコメを磨ぎ、ミカは院長から新しく受け取った漢字ドリルに取り組んでいた。
「何で副代表についたの」
「んっ、戦いたいから、だけど」
「他には」
「……ったく相変わらわずの野生の勘だな。そうだなぁ……完全に気分だな」
磨ぎ終わったコメを炊飯器にセットしボタンを押す。メロディを背中に受けつつ魚を捌く、次々と下拵えを終わらせながら口は動いていく。
「未来院の事はこれからも少なからず話題に上がるだろう、悪く言う奴も言うかもな。だけど副代表っていう肩書があれば合法的に決闘に持ち込んでボコれるかもしれないじゃん」
「上手くいくの?」
「行かなきゃアリーナに誘い出してボコるからいいよ」
「そっか」
何やら物騒な会話をしている二人、そんな時に扉がノックされる音がする。一夏はミカに視線を向けてみるが横に首を振られる、それは一夏とて同じである。学園入学二日目に早退してからずっと未来研にいた自分達に接点を持っている生徒などいない。教師の千冬と真耶ならあり得るかもしれんが……扉を開けてみるとそこには
「こ、こんにちわ……」
震えた身体を抱きしめるようにしている女子生徒が一人、先程ミカにボッコボコにされたセシリア・オルコットが其処に立っていた。一夏はゆっくりとドアノブに力を込め直し―――
扉を閉めた。
「え……ええええっっ!!?!何故お閉めになるんですか!?何か今失礼な事を私しましたか!?」
「未来院の事、侮辱したろ」
大きな声が一瞬にして静まり返った、あの戦いの元凶は彼女が未来院の事を悪く言ったから。だからこそ二人は戦ったのだ、だから話す価値などないと考えている。しかしセシリアは再度声を出した。
「こ、此処に来たのはお二人に、お詫びを言いたいからなのです……」
「詫び?」
「はいっ………お願いしますどうか、御開け下さい……。謝罪したいのです……」
「……(聞くだけ聞いてやるか)」
溜息を付きつつ扉を開けて彼女を中へと入れる。もしも何かアクションを起こしてくるようならガンダムの一部を展開して対応すればいい、彼女を奥まで連れて行くとミカは顔を上げてセシリアを見た。試合の時の戦いぶりがフラッシュバックしたのかフラッと身体が揺れるが直ぐに持ち直す。
「何の用」
「この度は……本当に、申し訳御座いませんでした……!!」
セシリアはその場で膝を付き頭を床に付けて謝罪した、土下座だ。まさかイギリス人である彼女がこれをするとは思わなかったのか一夏は呆気に取られた、ミカは全く動揺していないが。
「私が言った言葉はもう撤回出来ません、貴方方にとって未来院という場所がどれほどに大切な場所である事も理解せず侮辱してしまった事申し訳ございませんでした……!!!」
「随分虫が良いんだね、ロクでもない人間の集まりだとか言ってたのに」
「………っ、未来院の事、自分で調べました……」
「そう」
セシリアは唯震えていた、ミカの強さだけではなくその怒りに。そして何故自分がここまで恐ろしい目に合ったのかを辿り未来院を侮辱したからと理解した、そして自分は未来院の事を全く知らない事を知り調べた。
「如何思ったの」
「言葉を、失いました……。私は女が強いの当然だと、男は弱いと思っていました、ですが……強いのではなく唯、傲慢なだけだと解りました……」
生まれて来たのが男だからという理由で捨てられた孤児、社会問題にも発展している。その孤児の殆どが人身売買されている、それも恐ろしく安値で。不良品の欠片などが安値で売られている事からつけられた総称がヒューマン・デブリ、人として扱われず所有物として扱われる子供達……。
未来院の創設者である未来 久世はそんな子供たちを引き取り我が子として育てている、その優しさと愛の大きさにセシリアは驚いたがそれ以上にヒューマン・デブリの事が衝撃的であった。生まれて来た我が子をあっさりと捨てる親がいる、そして捨てられた子どもたちは奴隷同然として扱われ人として扱わない、そんな子供達が生き抜く術は殆どが少年兵しか無い事に……。
「そして、以前三日月さんは仰っていられました。生きていくだけで精一杯だと」
「ああ、俺もヒューマン・デブリだった」
中東で少年兵として生きていたミカは、戦闘中に仲間とはぐれ怪我をしていた。もう死ぬのかと思った時、久世と出会った。怪我を治療した上に温かいスープとパンをご馳走してくれた、そんな大人に会った事など無かったミカにとって衝撃だった。
『ねぇ……オルガ、達にも食べさせてあげて……』
『オルガ?君のお友達?』
『うん……皆、にも……』
そう願った、自分だけではなく仲間にもと。失礼かもしれないが心からそう思った、久世はミカを抱きしめて仲間の元がいるであろう場所へと案内して貰った。そこは小さな民間軍事会社(PMC)だった。大人達は子供達だけ危険な戦場で戦わせ、自分達は警備などの安全な仕事ばかりで私腹を肥やしていた。久世は現在はアメリカで活躍しているガイに協力を要請し、そこから子供たちを全員救い出し
『今日から皆私の息子です。さあ銃を捨てなさい、子供にそんなものは似合わない』
「俺達を息子として引き取った」
「そんなことが……」
「未来院はそんな子供達が大多数さ、他にも両親が死んで身寄りが無くなった子供だとか」
久世の行動は偽善かも知れない、ミカたちを救い出してもヒューマン・デブリなど他にも幾らでもいると。だが彼は声を大にしてこう言い返すだろう、だからと言って今手を差し伸べれば人として生きられる子供を見捨てろというのかと。彼はこれからも子供を救い続ける、自分の手が届き力の限り。話を聞いていたセシリアは瞳からぽろぽろと涙を流していた、心の奥底から漸く出来たのだ。自分がどれだけ愚かな事を言ったのかと。
「でもさ、俺もうどうでもいい。アンタの謝罪とか、どうでもいい」
「そ、そんなぁ……如何しても、許して貰えないのですか!!?」
「許すとかじゃない、俺の気はもう済んでる」
「……えっ……?」
涙で顔がクシャクシャになっているセシリアは思わず気の抜けた声を上げてしまった。
「アンタ、また未来院悪く言う気あんの」
「あ、ありません、ある訳がありません…!!だって、だって……」
「ならいいよ。今度言ったらもう容赦しないから」
「……感謝いたします……ッ!!!」
先程より深く頭を下げた、もうこれで良い。自分の気持ちを彼は受け取ってくれたのだから、もう満足だ……と。セシリアはもう一度頭を下げてから部屋を出た、これから部屋に戻って山のように課された始末書と課題をしなければならない。
「全くお前って優しいのか酷いのか解らないな」
「そうかな」
「そうだよ、あれだって結局関心が無くなったってだけだろ」
ミカはセシリアの事を許したわけではない、あくまで許容し関心を無くしただけ。セシリアの謝罪の言葉など受け取っていない。
「そういえば彼女、一応代表候補に残ったらしいな。まあ本国からこっ酷く怒られた上に山のように罰が出たらしいけど」
「へぇ、登録抹消じゃないんだ」
「父さんが改善の余地があるなら抹消は無しで良いって言ったんだと。まあ彼女自身BT適正が高いって話だからイギリスからしても手放したくないだろうし」
後日セシリアは髪をバッサリと切ったショートヘアーとなって1組の教室の中で土下座をしてクラス全員に謝罪した、その姿と行動に全員が驚きその誠意を理解し謝罪を受け入れた。
後書き
セシリアへの罰則
:今学期の間成績を学年主席に居続ける事。
:未来 一夏、未来 三日月への謝罪と賠償。
:代表候補生再教育プログラムを2ヶ月受講する事。
:再教育プログラム中に出される2ヶ月分の課題を1か月で完遂する事。
これらが達成されなかった場合、代表候補生資格は剥奪される。
次回予告からセシリア退場するって予想した方も多かったんじゃないでしょうか。
まだ出ます。正直まだ使いたいのとイギリス的にもBT適性が高い彼女を代表候補生から外すのは惜しいと考えるんじゃないかなぁと思いまして。
それにセシリア自身も女尊男卑の被害者のように思えまして、こういった思想から抜け出して改めて行くっというキャラも必要だと判断してこうしました。
???「悪魔の名を冠するIS
バルバトス、アスタロト。ソロモン72柱の2柱。
悪魔は聖なる物とも捉えられる、フェニックスがいい例だ。
悪魔が齎すのは破壊か?それとも
次回、決して折れない絆の悪魔、第12話
希望の家
未来を作る場所に巣くう悪魔……面白いな」
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