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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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美保鎮守府NOW-Side B- PART4

 
前書き
 美保鎮守府視察一日目を終え、(不穏な)イベント盛り沢山の二日目も終えた提督一行。しかし提督の野性の勘は、何かあると読んでいたらしく……? 

 
~視察の裏で③~

『あれ、川内さんのお姿が見えませんが……どうしたんですか?』

「あいつは今頃美保の大将に張り付いてるよ。どうにも……今夜辺り何かありそうな気がしてな」

『提督の勘、ですか?』

「あぁ、勘だ」

『そうですか、なら何かしら起こるんでしょうね。ではそれは置いておいて、打ち合わせを始めましょうか?』

 普通ならば勘を頼りに兵を動かすなど愚の骨頂と思われるのだが、提督の長年の経験からなのか、それとも生まれ持った天性の物なのか、時たま提督の第六感が働く時がある。その的中率は中々馬鹿に出来るレベルではなく、特にも敵の襲撃等は高い確率で当たりを引いていた。

「そうだな、んじゃあまずはこっちの現状報告から……青葉、頼む」

「了解です!」

 青葉は軽く敬礼すると、自らの取材メモを取り出してブルネイに居る大淀と明石に説明を始めた。その間に提督は作務衣のポケットから煙草とライターを取り出し、くわえて火を点けた。大きく深呼吸をするように吸い込み、鼻から勢い良く紫煙を吐き出す。

「darling、なんだかSLみたいだヨ?」

「うるせぇ、ほっとけ」

 滅多にやらない吸い方だが、疲れたなぁと思うと無性にやりたくなってしまうのだ。タフな提督が気疲れする位、今日の美保鎮守府にはイベントとトラブルが溢れていた。

 打ち合わせを終えたのが深夜だったというのに金剛に夜の運動会をせがまれ、明け方までハッスル。ボーッとした頭で朝食を終えるとオスプレイの試乗会と地上施設の見学会だった。

「そういや、オスプレイだけじゃなく艦娘同士のリンクシステムってのもあったな?」

『え、なんです?それ』

 やはり技術屋の血が騒ぐのか、明石が食い付いてきた。

「確か、艦娘同士と支援兵器とを電子ネットワークでリンクして相互に情報とやり取りをする……だったか?」

「大体そんな話でしたね。実現には巨大な演算処理用のサーバーが要ると思いますけど」

『うっはぁ、ガチで公安9課みたいですね!でもウチの娘達でやるとしたらマジで電脳化でもしないとキツいですねぇ』

 サーバーは何とかなる、という前提で語る明石。実際その規模のサーバーを導入していそうな鎮守府に目星が付いているからである。

「ねぇ、さっきから話に付いてけないデース……」

「お前はあんまりオタク化してねぇもんな、帰ったら本とDVD貸してやっから、自分で勉強しろ」

「ハーイ」

 比叡辺りに説明させれば手っ取り早いとも提督は考えたが、奴はガチ過ぎて初心者への説明に向かない事を思い出した。




「後は米軍からの装甲車と小火器、それに対物狙撃銃に……位ですよね?午前中に紹介されたのは」

「そうだな。まぁほとんどウチにもあるような装備で、面白味が無かったのは確かだな」

 青葉の問いに、苦笑いで返す。表向きには無い事になっている装備だが、備蓄してあるのさ……色々と。実際、あの場で『興味がない』と言ったのは事実。けれどもそれは『使う気がない』からではなく、『既に保有している』から興味が無かったのだ。

『でも、あんまりウチには無かった発想ですよね?対人用の小火器を深海棲艦用に使うなんて』

「確かにな。だが、ウチには既に保有している小火器に加えて対深海用に切れるジョーカーがある」

 暫くうんうん唸っていた青葉と明石だったが、

「あ、深海鋼があります!」

『成る程、メタルジャケットを作れれば……!』

「そういう事だ。無理にアンチマテリアルを準備したりする必要もない」

 銃弾の種類の中にメタルジャケット、と呼ばれる物がある。銃弾の芯を鉛で作り、衝突時の変形を防ぐ為に真鍮で
表面をコーティングして貫通力等を高めているのだ。そしてそのコーティング用の金属を深海棲艦と艦娘に特に効果を発揮する深海鋼を用いれば、もしかすると人の火器でも深海棲艦に対抗する事すら可能かも知れん。

『早速明日から研究を始めます!楽しみだなぁ……』

 画面に映る明石の表情は恍惚としている。本当に楽しみで仕方ない、といった表情だ。

「程々ほどにしとけよ?お前の場合熱中すると本業に影響すっから」

『はーい』

 やれやれ、言う事聞かねぇなこりゃ。




「でも、今日のデモンストレーションはやり過ぎだと思いませんか?darling」

「あぁ、軍用車ぶち抜いたり沖合いにマネキン置いて狙撃した事か?ありゃあちらさんなりの牽制だろ、多分」

『牽制、ですか?』

「あぁ。こっちの狙いに気付いてるぞ、事を構えたくなかったら退いてくれってな……ま、古典的な手だよ」

 絵図を引いたのは誰か解らんが、美保提督では無いような気がしている。となると、副司令の祥高辺りが怪しいか……可能性は低いがジジィの線も捨てきれない。

「でもそんな脅しで止めるつもりはないんですよね?」

 ニヤリと笑う青葉。

「当然だろ?俺がそんな殊勝なタマに見えっかよ」

 その程度の脅しに屈するようでは、あの狸ジジィと付き合う事なんぞ出来やしない。




「あ、そうそう。昼食の後に大きな地震があって、それに乗じて深海棲艦の襲撃があったんですよ!」

『え、そうなんですか?』

「あぁ。迎撃にレールガン使われて瞬殺されてたがな」

『はい?レールガンて、またまたぁ。SFの世界じゃないんですから!』

 明石が真っ向から否定してはいるが、実際アメリカ軍は正式採用の為の試験運用位の段階にあると聞いたのが数年前。実戦配備されていても不思議はない。

「あ、それとウチから美保に近接格闘の教官を送る事になるかも知れん。選定を進めといてくれ」

『格闘の教官、ですか?』

「あぁ、ここの艦娘は遠距離からの先制攻撃が主な戦略で懐に入られてからの対応が甘い。それでウチから教官をと思ってな」

 まぁ、まだ確定の話ではない。俺が直々に教えてもいいんだが……流石に何ヵ月も留守にするわけにもいかん。

『となると……夕立ちゃんとか朝潮ちゃん、武器術も教えるなら木曾さん辺り等でしょうか?』

「まぁ、ウチの守備を緩くするワケにもいかんからな、慎重に選ぶさ」

 晩餐会という名の即席縁日の席で出た話だ、今はまだ話し半分で留めておけばいい。

「でも、美保の提督はちょっとお坊っちゃま過ぎるよネ?」

 縁日の後の一幕を思い出した金剛が苦笑している。

「あぁ、テキ屋の対応か?あんなのトラブルの内にも入らんだろ」

 俺が提案した食事会があれよあれよと言う間に屋台を組んでの縁日に化けてしまったのだ。そうなればこっち、屋台の機材の貸し出しやら何やらでそういう組織と関わりを持つ事になる。

『でもその辺は流石ですよね提督は!』

「手慣れてますもんねぇ」

 褒められてる気がしないんだが。

「まぁ、あの連中は利益があれば何でもするって連中だからな。その辺を理解してやれば上手く付き合えるさ」

 良くも悪くもヤクザってのは利益追求集団だ。金を稼ぐ為なら良いも悪いも無いって連中が多い。中には昔気質の義侠心溢れるヤクザもいるが……そんなのはこのご時世、ごく少数だ。まぁ、組織の頭なら清濁併せ飲む位の度量が無けりゃあな。

「……そういや、鎮守府の様子はどうだ?」

 ここの所打ち合わせの話はこちらからの報告ばかりで、鎮守府の様子を聞いていなかったのだ。

『皆元気ですよ。加賀さんが判子の押しすぎで腱鞘炎になりそうだとぼやいてましたが』

 そう言って大淀が苦笑いを浮かべる。と、画面の向こうの執務室のドアが勢い良く開かれた。

『大淀さん、ヤベェよ!』

 飛び込んで来たのは江風。川内が提督の護衛に就いている間、警備班を任されている娘だった。

『何です?夜中に騒がしいですよ』

『だから、緊急事態なんだって!表を陸軍の奴等が囲んでる!』

「大淀!」

『解ってます、緊急の総員起こし!警備班は相手に見つからぬように待機。門前での対応はーー…』

『私達が参ります』

『大和さん!武蔵さん!』

『折角いい酒を飲んで、気持ち良く寝ていたのを叩き起こされたんだ。ちょっと位脅かしても構わんだろう?』

 そう言って武蔵の眼鏡の奥の目がギラリと光る。あれは本当に不機嫌な時の目だ。提督は直感した。

「いい、俺が許可する。ただしこちらからは手を出すなよ?攻撃を受けた場合のみ、応戦を許可する」

 これは何か大事になってきたぞ……画面の向こうから見守るしかない提督は歯噛みしつつ、拭い去れない焦りのような物を感じていた。

 
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