| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

マクロスフロンティア【YATAGARASU of the learning wing】

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

試練

 
前書き
前半は原作四話の模擬戦闘。ラストは思い付きです。 

 
「レイヴン2よりデルタ1へ。ポイントP-21を通過、これより演習宙域に入る。」

『デルタ1了解。到着次第、演習を開始してください。』

ファイター形態のVF-25/adが二機、デブリ帯を抜けて虚空を駆ける。方や漆黒、方や紫紺、二機の垂直尾翼には鴉のエンブレムが描かれている。

「クレイの奴がいればずっと楽なんだが……」

『仕方ありませんよ、クレイさんの機体は負荷が大きいんですから。』

「そうは言ってもなぁ……」

今日はアルトの奴の最終入隊試験を兼ねた模擬戦闘の日だ。スカル小隊には対戦相手はピクシー小隊だと伝えてある。急な変化に対応するのも実戦では重要なスキルだ。

しかし、クレイの機体がオーバーホール中なので、俺とフィーナの二人だけ。対するあいつらはアルト、ミシェル、ルカの三人。賭けのレートは7:3で向こうが有利だった。

「そろそろ、か。ルカのレーダーに捕まる前にバラけるぞ。」

『了解!』

「……作戦は覚えてるよな?」

『バッチシです!』

「だと、いいけどな。」

作戦は簡単だ。俺がストライクパックの本領である突進力を活かして撹乱、アルトとミシェル達を分断する。アルトにはフィーナが当たり、俺はミシェルとルカを相手にする。一見すると二対一だが後衛タイプの二人だ。正面からぶつかれば勝てない相手じゃない。

だが、フィーナはかなりドジな所がある。上手くいけばいいのだが。……考え過ぎか?

「じゃ、行く……避けろ!」

『へ?キャア!?』

青い閃光が疾り、咄嗟に機体を捻ったその翼端を掠めるようにして過ぎていく。ミシェルの狙撃だ。

『っ、どうして!?』

「ルカのゴーストだ!姐さん……知ってて黙ってたな。」

何て事はない。俺達も試されていたという事だ。

無人戦闘機ゴースト。ルカの乗るイージスパック装備のRVF-25にはその管制ユニットが組み込まれており、三機のゴーストX-9をコントロールしている。

因みにそれぞれにシモン、ヨハネ、ペドロと愛称が付いているのだが正直見分けがつかない。

先程、一瞬だが視界の隅に捉えた。

「チッ……レイヴン4、突っ込むぞ!こうなったら乱戦にして隙を見て分断する!」

幸い、ミシェルの狙撃は俺に集中しており、フィーナが突撃するには問題ないだろう。

「行くぞ……逃げんなよ!」

フルスロットルで前進。狙撃弾を紙一重で躱しつつ、ミサイルの射程に入る。

「ぶちかませ!」

『行っけぇぇぇ!!』

全弾発射(フルバースト)。どうせ一発も当たらないだろうが、隙が作れればそれでいい。乱戦に持ち込めばこっちのものだ。

「フィーナ!」

『はい!早乙女さん、付き合ってもらいます!』

……誤解を招くぞ。

ともあれ、当初の作戦通り分断には成功した。次は……っと!

「この距離でその長モノは悪手だぞ。……って、分かってるよなそんな事は。」

視認できる距離まで接近すればミシェルの狙撃ライフルは取り回しの利かない正しく無用の長物と化す。

が、ミシェルにはほとんどそれしか打つ手が無い。この辺りは前衛がいればそれほど問題にならないんだが……容易く引き剥がされる様では前衛失格だな。

バトロイドに変形し、出力を押さえたレールカノンを照準、単独での戦闘力の低いルカは後回しにミシェルを狙う。

二発、三発と続く射撃を岩塊の裏に回り込んでそれを回避するミシェル。岩肌にペイントの花が咲き、反対側から飛び出したミシェルからの応射を躱す。

「っとと。そういやいたな、お前ら(ゴースト)。」

突如三方から襲い来る機銃弾。ルカからの援護だ。やはり先に墜とした方がいいか?

ファイターに変形し、引き剥がそうと試みるがピッタリ付いてくる。デブリの隙間をすり抜けつつ限界まで出力を落としたビーム砲を後方に向けて放つ。一撃、二撃、三撃目で漸く一機に直撃、撃墜判定を得る。

「こっのヤロ、腕上げたな?」

明らかに以前より操作が上手い。これは一筋縄では行かなさそうだ。

その時、

『きゃあ!?……あうう〜〜〜。』

「……おいフィーナ?」

『やられちゃいましたぁ〜〜。』

完全に計算が狂った。一対三か……ちと厳しいな。だが……

「まあ、先輩の意地って物もあるからなぁ!!」

そう簡単に諦める事は出来はしない。

精々足掻かせてもらうとしよう。

そう思った矢先だった。

機体が突如警報を鳴らす。

「何だ喧しい!!」

『付近にデフォールド反応!これは……ビクターです!!』

「んなっ!?」

見ると、あの深紅の大型バジュラが突撃してくる。見たところ単独の様だが……なんて間の悪い!!

完全に模擬戦のみを想定していた為に実弾兵装は全てペイント弾しか装填していない。エネルギー兵器は出力を戻せば使えるがそれでもビーム砲とレーザー機銃しかない。

周辺警戒をしていたピクシー小隊が来るまで五分、どうにか注意を引き付けるか。

『うおぉぉぉ!!!』

と、思った矢先にアルトが突撃していった。って、お前武器は……アサルトナイフ!?正気かよ!?

「……あっっっのバカが!お前ら下がれ!俺が連れ戻す!!」

あとでオズマ少佐の説教だな。尤も……この場を生き残れればの話だがな!!

「アルト!上官命令だ、スッこんでろ!!」

『俺は……俺は逃げない!うおぉぉぉぉぉ!!』

アサルトナイフにピンポイントバリアを纏わせ果敢に……いや、この場合は無謀に突撃するアルト。案の定、と言うべきか受け止められ、吹き飛ばされる。

「言わんこっちゃない……この!!」

連装ビーム砲でこちらに注意を引く。すると何処から出してるのか、ミサイル状の物体を大量に射出して攻撃してくるバジュラ。

チャフをばらまき回避、宇宙にいくつもの光の華が咲く。それを引き裂く様に背中の重粒子ビーム砲が放たれ、間一髪回避する。

「っぶねぇな!!」

ビームに沿うよう突撃、降り下ろされる鉤爪をガウォークに変形し、急制動をかけて空振りさせる。

その隙をついてバトロイドに変形し直し、素早く上方に回り込み、アサルトナイフを引き抜く。

「その砲身、邪魔だろ?」

背面に背負ったビーム砲、その砲身を半ばで切断、さらに砲身の付け根にナイフを突き立てる。

「おまけ、だ!!」

刺さった箇所に三門のレーザー機銃を叩き込む。が、

「…浅い、か!」

撃破とまではいかず、動きこそ鈍くなったがまだ息がある。

「しぶといな……んあ!?」

突然の接近警報。アルトが上から突っ込んでくる。VF-25の手にはゼントラーディが遺したと思われる推定数千年前のライフルを持って。

って、おいおいおい……まさか!?

『墜ちろォァァァ!!』

雄叫びと共に俺が傷を付けた部位にライフルを捩じ込むアルトのVF-25。そして、そのまま零距離でトリガーを引き絞る。

バジュラが爆炎へと変わり、その余波はVF-25を呑み込む。光が収まったそこには、半壊状態となりながらも重要部位は無事守られた白と赤の機体が漂っていた。

「……全く、お前って奴は………。」

どうやら説教は長くなりそうだ。










「馬鹿野郎が!」

アイランド1に帰投するなりオズマ少佐の鉄拳制裁を受けるアルト。まあ今回の件は完全に自業自得な為、特に擁護する気はない。むしろもういっぺん殴られろ。

「俺達は何の為に高価な装備を与えられていると思ってる。言ってみろ!」

「戦う為だ!」

「違う!生き残る為だ!」

アルトはパイロットを目指した経緯が経緯な為に非常に反骨精神旺盛だ。何を言ったって必ず反抗してくるだろう。長引きそうだな、これは。

「だが俺は、現にバジュラを倒した!」

「結果論だ!そもそも武器も勝算も無しに敵に突っ込むなんぞ自殺行為だ!それにお前は、仲間まで危険に曝したんだぞ!」

危険に……まあ確かに、牽制しつつ後退するつもりがあいつのせいで正面からぶつからなきゃいけなくなったし。

手持ちの札でもやれない事は無かったが、リスクに見合わないことこの上なかった。

「第一、数千年も昔の、まともに動作するかも分からない骨董品を使うなんて何を考えている!」

「心外だな。」

突如、『頭上から』声が降ってくる。次いで大きな足音。

「ゼントラーディの武器なんだ。たかだか数千年でつまらん動作不良など絶対に起こしはしない。」

「……牽引ご苦労、クラン。」

「気にするな。新入りの面倒を丸投げした詫びだ。」

深紅のクァドランから降り立つ青髪の女性のゼントラーディ。ピクシー小隊の隊長であるクラン・クラン大尉だ。一応、俺やクレイの同期に当たる。

戦場に遅れて駆け付けたクランに、アルトのVF-25を運んで貰ったのだ。

「……まあいい。翼、巻き込まれたお前としてはどうだ。何か言うことはないか?」

……なるほど、口で言っても聞きそうにないから俺に丸投げですか。少佐も随分と無茶を押し付けてくれる。

仕方ない。ここは一つ、当事者として言い聞かせてみますか。

「……アルト、お前は戦いが怖いか?」

「………平気だ。」

「そうか、俺は怖い。」

アルトの奴、鳩が豆鉄砲食らった様な顔してるぞ。そんなに意外か?

「怖いからこそ、危険には敏感になるし、何よりこうして生きて帰ってこれる。……戦場で逸るな、死ぬぞ?」

「っ!?………。」

或いは図星だったのか、俺の言葉に一瞬体を硬くしたアルト。

「それで、どうだ?模擬戦の対戦相手から見てコイツは。」

……まあ聞かれるだろうとは思ってましたよ。

「そう、ですね。前衛の癖に後衛とあっさり分断され過ぎですし無策の突撃も単純思考故のもの。はっきり言って未熟、の一言に尽きます。」

取り敢えず落とす。容赦なく、ばっさりと。いかに図太いアルトと言えども流石に堪えた様だ。

「ですが、度胸はありますし……一対一でフィーナを撃墜する腕前もまあ、本物でしょう。素質もある。」

「……結論は?」

「実戦に放り込んで一度死にかけでもすれば、かなりまともになると思います。」

「フッ、容赦がないな。いいだろう。早乙女訓練生!」

「は、はい!」

「最終入隊試験の結果を言い渡す!」










「「「「「カンパーイ!!!」」」」」

アイランド1内にある中華料理店『娘々』。今日、ここはS.M.Sの貸し切りになっている。理由は……言わなくても分かるだろう。

「スカル4、早乙女アルト准尉ねぇ。」

クレイがどこかからかうような表情で呟く。そう、アルトの正式入隊が確定したのだ。

「で、実際の所はどうなんだ?先輩としては。」

「……まだ精神的な幼さが目立つな。まあ普通の17歳と言えばそうなんだけどな。」

「………?じゃあなんで合格にしたんだ?」

「センスと度胸は本物だからな。……下手に宙ぶらりんにしとくと余計な事を起こしかねない。」

「余計な事ってどういう……?」

フィーナも会話に加わる。そうだな、ちょっとクイズでも出すか。

「フィーナ、才能がある、自信がある、そんな奴が場所を与えられない。加えてそいつは反骨精神の塊だ。さて、そいつはどうすると思う?」

「えっと……実力を認めてもらおうとする?」

「そうだな。で、それを認めさせるには実戦が一番な訳だ。そして格納庫には予備機としていつでも出撃可能なVF-25Aが常時置いてある……ここまで言えば分かるな?」

フィーナが俺の言わんとする所を理解したのか難しい顔で頷く。そう、一番怖いのは反発して予備機か何かで勝手に出撃される事だ。

戦場において無能な味方、邪魔な味方は強力な敵より忌々しい。敵なら墜とすだけだが、味方はそうもいかないからだ。

アルトが勝手に出撃して墜ちそうになり、それを庇って誰かが死ぬ……一番避けたいパターンがそれだ。

ならば、多少未熟でも正式に役割を振ってやった方が落ち着くだろう、というのが試験官だった俺と、オズマ少佐や姐さんといった隊長陣の共通意見だ。

視界の端にはアルトに忠告をしに行ってミシェルにからかわれ、結果、いつも通りの夫婦漫才を繰り広げる幼女化、もといマイクローン化したクランの姿が見える。

「……時にフィーナ。」

「はい!翼さ……ん……?」

俺の顔を見たフィーナが瞬時に顔を強張らせる。

「ん?どうしたフィーナ。凄い汗だが。」

「い、いえ!?これは……」

「………」

「………………あの、翼さん?」

「何だ?」

「…………何でそんなにキレイに青筋が浮いてるんですか?」

「心当たりは無いか?」

「…………………」

「今日の模擬戦、あっさりアルトの野郎にやられてたよな?」

「……そ、それは……そのぉ……」

「………………(ジロリ)」

「うう………は、はい……」

「……………罰走。明日Exギアの動力切って格納庫二十周、三十分以内だ。いいな?」

「………え、それ、どう考えても無理……」

「い、い、な?」

「は、ハイ!?フィーナ・コルネイユ少尉、了解しました!!」

翌日、フィーナはどうにか、格納庫二十周をやり遂げた。タイム28分47秒はS.M.S新記録として、その後一週間程話題となった。 
 

 
後書き
レイヴン小隊のパーソナルカラー
翼→黒地に蒼
クレイ→黄土色
フィーナ→紫地に白
アリーナ→銀灰色

フィーナのVF-25F/adの配色パターンはアルト機と、翼のVF-25E/adの配色パターンはオズマ機と同じです。(つまり翼の機体には鴉のエンブレムが背面に大きく描かれている。) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧