機動戦士ガンダム・インフィニットG
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第十一話「狙われた一夏」
前書き
一夏って、シスコンうんぬんよりもクールな年上の女性が好みかもね☆
目が見えない。何かが視界を遮っている。そして、目の前からオチャラケた女の声が一夏の名を呼ぶ。
「イッ君~! ようやく捕まえたよ~!!」
「こ、ここは……どこなんだここ!?」
目隠しをされ、両手首に手錠をかけられた一夏は、恐怖に見舞われ立ち尽くしている。
だが、次の瞬間に目を覆う布と前手の手錠は足元に転がり、彼の拘束は解けた。そして、目の前には、一夏自身が最も嫌っているあの物体「IS」が見つめていた。待機状態であるISは甲冑のように手足、胴のアーマーが積みあげられている。白銀のISだ。
「イッ君、これこれ! このISに触ってみて?」
「……!」
その声は、自分が最も毛嫌いしている人物の一人で、嫌いな姉の親友……
「た、束さん!? どうして!?」
「だってぇ~! イッ君が束さんの作った、この『白式』に乗ってくれないんだもーん!」
と、束はウルウルしながら自分の背にあるその白式という待機状態のISを指した。
「何度言おうと、俺はISには乗りませんし、そもそも『男』である俺がISに乗れるわけないじゃないですか」
「ところがどっこ~い!!」
束は、そういって軽々と待機状態の白式を抱えて一夏の近くへ置くと、「えい♪」と一夏の背をドンと押したのだ。
「うわっ……」
咄嗟に、白式の冷たい装甲に手をかけてしまった。その途端、一夏はまばゆい光に包まれた。その気は、ユニコーンを纏ったときの感じとは違い、強い自尊心と可憐さが彼の脳内をよぎった。男である彼にとっては不愉快だった。
そして、光が収まった先に映し出される己の姿に、一夏は衝撃と共に絶叫を挙げた。
*
「……ッ!?」
ガバッ……と、一夏は寮のベッドの上で目を覚ました。嫌な夢だと彼は額を抱える。
――朝から嫌な夢を見ちまうなんて……
どうか、正夢にならないことを願おう。
「該……は、もう先に行っちまったのか?」
隣のベッドで寝ていたルームメイトの該は、先に起床して部屋から出ていったようだ。別に、今日は休日ゆえジュドーの友人らと遊びに行ったに違いない。自分も、今日ぐらいは「寝る曜日」にせず、気分転換に外へ出ることも悪くはない。
そんなとき、突然部屋を激しくノックする音が聞こえた。それに対して一夏は咄嗟に身を隠した。この強烈な気配と感じは彼女しかいない。
「一夏ッ! 共に道場へ……あれ? いない!?」
そう、一夏を剣道の稽古に付き合わそうとして毎週の休みや、ひどいときは平日の早朝になると、こうして箒が道着に着替え、竹刀を片手に押しかけてくるのだ……
「むぅ……!」
見たところ、室内に一夏の姿は見当たらなかった。箒は、彼が自分よりも先に出ていったことと感じて、この部屋を後にした。彼女が部屋を出て数十秒後、一夏がベランダから姿を現し、ホッと胸をなでおろした。
「ふぅ~……アブねぇアブねぇ! 危うく、地獄の特訓をさせられるとこだった」
箒の鍛錬に付き合わされると、ぜったいスパルタになってしまう。これだけは唯一この学園生活の中で避けたい習慣の一つである。
「さーて、箒も行ったことだし? 今日だけは有意義な一日にするぞ!」
背伸びをして、一夏は私服に着替えると、そのまま箒に見つからないようこっそりと学園を出た。
彼が向かった市街地は、反IS思想の強い男女平等区域の街である。そこには、女尊男卑の光景もなく、第三者としても気軽に行きかうことができる。
とにかく、今日は久しぶりに訪れたのだから適当にブラブラしまわって気の赴くままに楽しもうとした。
この街は、今も男女平等の光景は正常である。列に並んでも女性が男性の前に割り込んでくることもなく、パシリにされて走り回る男性もいない。ここは、世界では珍しい唯一の憩いの場である。
しかし……
「……?」
一瞬、背後から謎の不愉快を感じた。強烈な負の念が一夏の中を過ぎった。
――感じる……
ふと、気づかれぬよう一夏は背後へ振り向く。そこには、黒いフードを纏う小柄な一人の少女が人ごみからこちらを見つめている。偶然目があったのか、不愉快が一気に高まった。
――間違いない……
一夏は、そのまま気づかれぬよう自然と歩く素振りを見せて背後から迫る少女から逃れようとした。場合によっては殺気すらも感じるのだ。さらに、その少女からは自分が嫌う姉と同じ風格と執着した何かも感じとれた。
――姉貴と、関係があるのか……?
背後から迫る強烈な終着のオーラに、一夏は額にわずかな汗を浮かべた。そして、平常を保っていた彼だが、ついには早歩きから、小走りへ、そして人ごみをかき分けて走り出してしまった。このまま、歩き続けていたらヤバい。そう思ったのである。
彼は、そのまま走り続けて、とある裏路地へと逃げ込んだ。ここまで来れば見つけられないと思ったのだが……
「貴様が、織斑一夏か?」
「ッ……!?」
その声と共に殺気が現れた。振り返れば、あの少女が仁王立ちしている。
「だ、誰だ……?」
「キサマごときに名乗る名はない。ただ言えることは……」
すると、少女は太もものケースから一本のコンバットナイフを取り出し、その刃を彼に向けだした。
「……今すぐ、IS学園を去れ! さすれば、命は取らぬ」
「な、何だって?」
「これは、警告だ。これ以上……教官に近づくな!」
――教官?
その言葉に、一夏は目を細める。もしや、彼女から発せられるこの感覚と言い、さてはあの鬼姉貴と何らかの関係があるのか? しかし……
「ふざけるな! こっちは、学校の都合で来てんだ。そんな横暴がまかり通るとでも思ってんのかよ?」
「なら、仕方がない……」
次の瞬間、少女は一瞬で彼の間合いまで詰めると、一夏の鳩尾へ拳を突いた。
「うぅ……!」
鳩尾を抱えて膝をつく一夏に、少女は容赦なく鉄拳を加え続けた。蹴られ、殴られを繰り返されて一夏は瞬く間に傷だらけになってしまった。
――つ、強い……!?
「その程度か……」
そして、少女の踵が一夏の肩へ振り下ろされるが。
「……!」
直観と察知で、相手の動きを見抜いた一夏は少女の攻撃をかわしてすぐさま距離を取った。
――なんだ……一瞬、動きが見えた?
「ほう……? そこそこ、だな」
「くぅ……」
しかし、一夏は距離を取ったとはいえ相手に背を向けて逃げ出す力は残されていなかった、全身打撲と傷だらけの彼にそんな体力はない。
「返答しろ? 今すぐIS学園から……教官の元から去れ!」
「何なんだよ……アンタ!?」
「言ったはずだ。キサマごときに名乗る名はないと……!」
そう言って、少女は一夏のもとへ歩み寄るが、そんな少女の背後から突然の殺気と声が飛び込んだ。
「下らん私情で一般市民に蛮行をふるうとは、強化人間の風上にも置けぬな?」
「……?」
もう一人の、若い女性の声が少女を制止させた途端。少女の後頭部を前者らしきものの回し蹴りが襲い、少女は痛手を受けた。
「ぐぅ……何者だ!」
少女が振り返ると、そこには彼女よりも背の高い大人びた若い女性、それも紫色の軍服を着た軍人らしき女が構えている。
「キサマごときに名乗る名はない……」
「ッ……!!」
しっぺ返しに言い返され、激怒する少女は冷静な態度とは裏肌に次々と手足を用いた格闘を繰り出して女性に襲い掛かるが……
「甘い……」
一発で見切った女性は、少女の手首をつかむと、そのまま一瞬で彼女を地面に押さえつけた。一夏は、そんな女性の型を目につぶやいた。
「あ、合気道……!?」
「この少年に手を出すというのなら、こちらも本気をもって実力行使を行う……それを避けたいなら、貴様の方こそ立ち去れ」
「ぐぅ……!」
苦虫をかみしめた少女は、そのまましぶしぶと走り合った。一夏にこう言い残して。
「私は……私は認めない! お前のような奴を……!!」
――何なんだ? アイツは……
「奴に品性を求めるには絶望的だな……」
立ち去った少女の後を睨むと、女性は一夏の方へと歩み寄り、尻餅をついた彼にソッと手を差し伸べた。
「立てるか……?」
無表情な顔をは対照的に、声は優しく一夏へかけられた。
「あ、ありがとうございます!」
立ち上がり、服を叩いて、一夏はもう一度彼女に礼を言った。
「本当に助かりました!」
「気にするな。これが私の任務だ……」
「え?」
一夏は、首を傾げた。
「申し遅れた。私は、ジオン公国軍特務部隊所属のマリーダ・クルスだ……」
「と、特務部隊!?」
そんな一夏は、ふと彼女の「袖」にある部隊マークを見た。そしてこう叫ぶ。
「も……もしかして、貴方は『袖付き』部隊の人なんですか!?」
一夏は、目を輝かした。「袖付き」、それは連邦軍から呼ばれている仇名であり、その部隊の建員らの制服にはそれを象徴させる特徴的な袖がある。これは「結束」という意味を現しているが、部隊の人間からしてその仇名は余り好きではないのであった。無論、マリーダも表情を曇らせてしまうありさまだ。
「すまないが……あまりその名で呼ぶのは慎んでもらえないか?」
「あ、すみません……生の隊員にあえてつい嬉しくなって」
今や、袖付きはジオン屈指の先鋭特務部隊として海外からも憧れの目を向けられているという。
「悪気がないことはわかっている。次からは、特務部隊と呼んでくれ?」
「は、はい……って、えっと……マリーダ……さん?」
「どうした?」
「あの……」
一夏はようやく本題を問う。
「その、どうしてジオンのあなたが俺を?」
「……それは、テム・嶺博士とジオン・連邦政府からの依頼だ」
「そ、そうだったのか……?」
「それよりも、一夏?」
「は、はい……?」
「今から学園へ戻り、お前の寮へ私を案内してくれないか?」
「え、いい……ですけど?」
「うむ……」
そういうなり、マリーダというこの袖付きこと特務の女性軍人は一夏の後を歩いて、ふたたびIS学園へ戻った。
途中、正門の前で見知らぬ女を見て警備員の女が警戒したが、マリーダは懐から取り出した入校許可書を見せて、あっけなくこの場をパスした。
「一夏、もう帰って来たのか?」
「あれ? 一夏君、そちらの方は?」
途中、廊下でアムロと明沙と行き会った。
「ああ、こちらはマリーダさん。危ないところを助けてくれたんだ」
「ジオン軍の人……あ、袖付き!?」
と、アムロ。再びマリーダが不機嫌になる。
「アムロ、袖付きじゃなくて特務部隊って呼でくれって?」
「あ、すみません……!」
「気にするな。その仇名で呼ばれるのが当然なくらいだからな」
――カッコよくて綺麗だな……
アムロは、そんなマリーダをまぶしく見た。当然、後ろから明沙が白い目で見る。
二人と別れて、さらに寮に向けて廊下を歩いた……が。
「カミーユ! アンタって人は……!!」
「しょ、しょうがないだろ!?」
目の前の寮から勢いよく飛び出してきたのは、カミーユと最近になって少々遅れてきた彼女のファだった。聞くところによると、カミーユが声もかけずにうっかりシャワー室を除いてしまったらしい。まだ、ルームメイトが隼人だったときの名残があるようだ。
「あ、ファさん……」
「い、一夏君! ご、ごめんなさい……こんな格好で」
バスタオルを巻いた状態で部屋から出てきてしまったためにファはとっさに両肩を抱いた。
そのあと、ファはカミーユを引っ張って部屋に戻し、お仕置きの声がドア越しから聞こえた。
「お騒がせしてすみません。一様、僕のクラスメイト達です」
「にぎやかで何よりだな……」
そこから沈黙が続きながら、ようやく一夏の寮へとたどり着いた。彼は、マリーダを招いて、該のベッドへ座らせた。
「えっと……一様ここが、俺の部屋です」
「税金の無駄遣いだな……」
「ははは……」
ジオンの軍人からしても、やはり無駄に金をかけすぎているとしか思えなかったようだ。シャワー室に2台もあるパソコン。そして、アンティークなランプ……まるで、ホテルのようだ。
「MS学園の寮と比べて、正直どちらがいい?」
「まぁ……ここの寮も高級でいいですけど、やっぱりMS学園のほうが落ち着きますね?」
「そうだな……確か、一般の寮と変わらないのだったな? MS学園の寮は」
「ええ、そうですよ?」
「ほう……」
「と、ところで……本題って、何ですか?」
部屋に連れてきたんだし、そろそろ本題を離してもいいんじゃないかと一夏は思った。
「そうだったな……織斑一夏」
と、マリーダは立ち上がった。
「今日付けて、私は貴殿の側近の護衛を担当することになる、マリーダ・クルスだ。改めてよろしくな?」
「へぇー……えっ!?」
一夏は、立ち上がるともう一度彼女に問う。
「ど、どういう意味……」
「言ったとおりだ。私は、今日からお前の護衛を行うことになった」
「だ、だからって……そんな!?」
「何か、問題でも?」
「ありますよ! 大ありですよ!? 第一、ここはIS学園ですよ? ジオンの人がこんなところに居たら……」
「安心しろ。別にお前がIS学園にいるまでの間だ……」
「そういう意味じゃなくって……」
そのとき、床をドンドンと音を立てて勢いよくこちらへ歩み寄るもう一人の姿が現れる。
「一夏ぁ!!」
箒であった……
「げっ……!?」
こんな時にと、余計にややこしくなる展開に一夏は額を抱えた。
「ようやく探したぞ!? 鍛錬を怠うとは良い身分だな!?」
「一夏、この者は誰だ?」
と、ここでマリーダが箒に目を向けた。
「ああ、こいつは篠ノ之箒。俺の幼馴染の一人です……」
すると、マリーダは彼女の苗字をきいて目を険しくさせた。
「篠ノ之……? もしや、あの篠ノ之束の関係者というのではあるまいな?」
「……!」
そのとき、箒は眉間にしわを寄せるマリーダに不愉快を感じた。そんな箒を見て一夏は慌てて間に割って入った。
「ま、マリーダさん! 一様そうですけど、今では関係ないんですよ? ほら、ドクターTって今は行方不明じゃないですか?」
一夏の必死な顔での説明に、
「まぁ……そうだな? 失礼した」
やはり、ジオンの人たちはみな束に対して憎悪を抱いているのだろう。無理もない。実は、過去にドクターTこと篠ノ之束はISテロを集わせてジオン公国を奇襲させたことがある。
ジオン軍は大打撃を受け、市街地にも少なからず被害をもたらした。後にISテロらはジオンの軍事施設から出撃したキュベレイマークⅡの特殊部隊によって瞬く間に殲滅されたという……
「一夏、この人は……?」
と、今度は箒がマリーダに向けて怪訝な目を向けた。
「箒、こちらはジオン軍のマリーダさん。さっき、危ないところを助けてくれた恩人なんだ。」
「じ、ジオンだと!?」
とっさに、箒は竹刀の先をマリーダに向けて叫びだした。
「仮想敵国である人間で、それも軍人がこのIS学園へ何の用で来た!?」
「箒! いくらなんでもマリーダさんに失礼だぞ? 本当にこの人は俺を不審者から助けてくれて……」
「一夏、もういい。よせ……」
と、マリーダは一夏を制止させて、彼に代わって彼女自らが箒に説明した。
「身構えはやめてほしい。私は、織斑一夏の護衛として彼に付き添っているだけにすぎない。これいって、彼を異性の対象としているわけでもない故、誤解もしないでもらいたいな……」
「なっ……別に私は!」
咄嗟に赤くなる箒を見て、マリーダは図星と悟った。
「まぁ、俺がIS学園にいるまでの間だからさ? そこは勘弁してくれよ? 箒」
「い、一夏がいる間だと……!?」
箒は、別の意味で驚いた。本当は、一夏がいるまでの間を図って、彼に思いを告げようと企んでいたのだが……
――やはり、誤解されているな……
マリーダは、そんな嫉妬の目を隠せないでいる箒を見て呆れた目をした。
「……あ、そうだ! もうすぐお昼ですよね!? マリーダさん、一緒に昼ごはんでも食べませんか!? 箒も一緒に……」
「フンッ!!」
だが、箒は不機嫌になり、一夏達に背を向けると何処かへ行ってしまった。
「今は、そっとしておいてやれ? 私は、携帯食で済ませる故問題ない」
と、マリーダは懐から携帯食を取り出した。
「え、そんなの食べたら栄養が偏りますよ?」
「問題ない。数カ月も携帯食が続いたこともある。今さら抵抗はない……」
「で、でも……」
「一夏、その心配りだけは有難く受け取ろう。私も、さすがにIS学園の学食を堂々と食べれる立場の人間ではないのでな」
「……」
しかし、一夏としては納得がいかなかった。その後、一夏はマリーダと共にIS学園の学食へ向かう。だが、周囲の目線はどうも耐え難いものだった。助け船として、一夏はMS学園の生徒たちを集めさせて、事情を話すとともに協力を要請した。
「一夏の護衛で?」
ジュドーがきょとんとした。
「詳細な理由を知りたいんですが……」
と、カミーユ。一夏も、なぜ自分を護衛するのか、その詳細をまだ聞かされていない。
「そうです。どうして、マリーダさんは俺を?」
「ああ……一夏が所持しているユニコーンというG兵器についてだ。ジオンと連邦が共同で開発した極秘の機体の一つでもある。ちなみに、嶺アムロの機体も純連邦だが同じように極秘の機体だ。しかし、テム博士によって解読不能なブラックボックスの機能が搭載されているため問題はないが、一方のユニコーンにはその機能が乏しい。よって、IS学園に滞在中、一夏の身に危険な迫らぬよう私が護衛につくこととなった……」
その説明を耳に、周囲はそこそこな納得を得た。
「そうだったのか……でも、IS学園にまで来て俺の護衛はともかく、よくIS学園の人間が許可しましたね?」
「ISも、MSも、それなりにうまく付き合わなくてはならないようだからな? 何があっても、関係の悪化が原因による『戦争』だけは避けたいのだろう……」
と、マリーダ。確かに一理ある。
「ん? じゃあ……マリーダの姉ちゃんが一夏の部屋に来るってこったぁ、俺はどうすうんだ?」
そこで、ようやく該が気づいた。
「ああ、お前は隼人の部屋へ行くようにとのことだ」
「じゃあ、俺はどうなんだ?」
ジュドーは最終的に一人余ることになった自分のことを問う。
「ジュドーは、フォルド教員と一緒になるようだ」
「うっそぉ~!! 嫌だよ! 教員とだなんて……ましてやフォルド先生とだろ?」
別に、フォルド先生は生徒からは好感のある人材だが、鼾と寝相が最悪で有名なのだ。
それに、寮の中でも教員と寝るのだって抵抗がある。
「どうせ寝るなら、ノエルちゃんとがよかったな~?」
「ま、なんとかなるさ? それよりも……マリーダさん?」
そう、カミーユはふと彼女の手元を見た。
「どうした?」
「飯……食わないんですか?」
「ああ、問題ない。携帯食で済ませるつもりだ」
「そんな! 体壊しますよ?」
「いつものことだ」
「俺、マリーダさんの持ってくる」
と、カミーユは背からは外れてマリーダの食事をとりに行った。
「あ、待て……」
呼び止めようとするも、カミーユは行ってしまった。
「気にしなくてもいいですよ? マリーダさん。俺たちの仲間ってことなら学園側も文句は言いませんから」
隼人は、そういってマリーダに言うと、こう続けた。
「そういえば……マリーダさんの事はMS側の先生も知っているのかな?」
「心配いらない。あらかじめ貴殿らの教員に連絡を取っておいた……」
そういうものの、そんな彼女の背後からある人物が気安く声をかけてきたのだ。
「ヨッ! 彼女? 君、どこの娘?」
フォルドである。軽く、ナンパ男である彼はクールなマリーダを一目で気に入り、後ろから彼女の肩を掴んだのである。
「ふぉ、フォルド先生!」
隼人が止めるも、フォルドは無視してナンパし始めた……が。
「フン……」
マリーダは自分の肩に添えられたフォルドの片手を掴むと、それをグイッと捻り回した。
「い、いてててて!!」
「軍人ともあろう者が、気安く話しかけるな……」
「な、なにすんだよ!?」
「何事ですか? フォルド先生!」
そこへ、近くの席で食事していたマット達が集まってきた。どうせ、ふぉるどの事だからISの教員にナンパとかして、トラブルを巻き起こしていることしか予想がつかなかったが……しかし、彼らはフォルドと生徒たちと一緒に居るその女性を見たとたん、全員がピシッと敬礼をしだした。
「あ、ありっ……?」
そんな状況を、フォルドはあんぐりとしていた。そんな彼の頭上をルースのゲンコツが降下される。
「この馬鹿! なに、ジオンの将兵を口説いてんだ!!」
「え、え!? そうなのか!?」
動揺するフォルドだが、そんな彼の非礼を即座にマットは謝罪した。
「連邦政府軍立MS学園教官のマット・ヒーリィです。同僚の非礼、お許しください」
「ジオン公国軍特務部隊のマリーダ・クルス中尉だ。気にすることはない……」
「じ、ジオン……あ、もしかしてアンタ袖付きか!?」
と、フォルドも彼女の姿を見てそう叫んだ。
「……それがどうした?」
もちろん、マリーダさんは不機嫌になる。どの所、フォルドも一夏のことで説明を受けて何かと納得してくれた。
「なるほどなぁ……で、学園にいる間は一夏の護衛ってやつかい?」
「そうだ。作戦行動中は私をジオンの兵士だからと言って気にせずに接してくれて構わない……」
「そうか! じゃあ……」
「ナンパ以外ではな?」
「ちぇっ……」
「当たり前だろ、フォルド」
と、ルース。
その後、教員との挨拶も改めたマリーダは一夏との食事を終えて部屋に戻った。部屋に戻ったら戻ったで、自分とマリーダの二人きりという現状に、一夏は耐え切れなかった。
こんなクールな女性ともに一夜を過ごすとなると緊張してしまう。護衛してくれるとはいえ、やはり思春期の男子はそう思ってしまうだろう。
「どうした? 一夏……」
それも、下着の上にワイシャツを着ただけのマリーダが、先ほどからこちらをちらちら見る一夏に首を傾げた。
「そ、その……寝間着は?」
「これだが?」
「い、いや……それは少し」
「何だというんんだ……ん?」
そのとき、ふと彼女の太ももに巻き付くベルトフォルダーに収納された携帯から音が鳴った。
「こちら、マリーダ……」
『マリーダ! そんな格好して見知らぬ男と寝るなんて俺は許さんぞ!?』
「マスター……?」
『マスターはよせ! それよりも、もっとマシな寝間着はないのか? パジャマなりあるだろ!?』
「も、申し訳ありません……しかし、そんなに必要なのでしょうか?」
『大ありだ! お前はまだ18なんだぞ……!?』
「しかし……任務上、年齢に制限などは……」
『とにかくも、もっと違う寝間着を選べ!』
「も、もうしわけありませんマスター……」
『ハァ……そのマスターだけはやめろ?』
「なんだ……?」
なにやら、仲間との通信を終えたようだとマリーダの背後から一夏がつぶやいた。
「マリーダさん……誰と話してるんですか?」
「ああ、マスターとだ。私の隊長だよ」
「へぇ……」
つまり、自分たちとの行動がそのマスターとやらに監視されているというのか? なら、こちらとて精神的にきついような気がする……
「じゃあ……おやすみなさい」
「ああ……私の分のスペースも空いているか?」
「へっ!?」
「私は、お前の護衛をするために同じ寝床へ入るのだが……」
「ダメです! それ、めっちゃダメな展開ですから!?」
「何故だ?」
「何故もヘチマもないです! 頼みますから、隣のベッドで寝てください?」
「……わかった」
理解してくれたのか、マリーダは大人しくベッドに入ると静かに寝息を立てた。
――やっと、寝てくれたか? つーか、いくらなんでも男女七歳にしてこれはないわ……
いくらなんでもあって間もない人と添い寝なんて今の自分には度胸がなかった。それが、あくまでも護衛だと言われてもだ……
そして、一夏も時期に眠りについた。
「……?」
一夏が眠りについたところで、先に寝付いたはずのマリーダが突然目を開いた。
「甘いな……?」
そう、彼女は先に寝たのではなく、先に寝るフリをしたのだった。そして、彼女は気づかれることなくそっと一夏の元へ歩み寄る……
「……!」
「……」
不機嫌な一夏の後ろをマリーダが気まずそうに歩く。
「すまない……しかし、これも護衛でだな?」
「いくらなんでもやりすぎですよ!」
「す、すまん……」
――童貞には刺激が強すぎたか……?
そう思いつつも、マリーダはどうにか許して護衛を再開できる機会をうかがう。なにせ、一夏を胸元へ抱き寄せるような態勢で一緒に寝ていたから無理もない。
「……トイレ行きますんで、頼みますから用をたしてるときは覗かないでくださいね?」
「わ、わかった。いくら私でもそれは……」
「……」
やや、信用できないも一夏は近くのトイレへと向かった。
「まったく……そもそも、本当にユニコーンってそんなに凄いレアなのか?」
ガンダムタイプとはいえ、ガンダムとは思えぬ真っ白で地味な機体だ。一角獣を思わせる額から突き出たアンテナが特徴としか言えない。武器はガンダムシリーズ同様の威力の高い装備だが、本当にそれが「ガンダム」と言えるかと言えば抵抗のある形で会った。
「まぁ、マット先生らがガンダムって言い張ってんだし? ガンダムにしとくか? 確か、シロー先生のEZ―8だってV字アンテナないし、それみたいなもんかな?」
例題を並べれば簡単だった。そうだ、そうにちがいないと。彼は適当に疑問を言いくるめてトイレから出ようとしたのだが……
「……?」
壁際に、何やら不思議な現象が起こった。壁から光の裂け目が現れたのだ。当然一夏は目を丸くして茫然とした……が。
「うわっ!?」
その裂け目から飛び出した謎の片腕が彼の胸倉をつかみ、そしてその裂け目からのぞく光のかなたへと引きずり込まれてしまったのだ……
*
「う、うぅ……」
暗い、目に何かされている。目隠しだ。
「あれ……?」
両手首が前手に手錠をかけられている。両腕を左右に広げようにもチェーンがビンと張って金属のあたる音しか聞こえず、それ以上は広げられない。
「なんだ……マジで何なんだ!?」
何がどうなっているのか、さてはあの時のように……
数年前の誘拐時のように!? と、彼は当時のトラウマを思い出した。そして、あの時見た夢のデジャブ―が蘇る。
姉が強引に嫌がる彼をISの世界大会モンド・グロッソへ招待させた時のことだ。千冬の優勝を妨害すべく彼は誘拐され、暗闇の中で拘束され監禁された。時期に姉が試合を放棄してまで助けに来てくれたが、あの時の怖さと無念と悔しさは忘れられなかった。
「やっほー! イッ君♪」
目隠しの向こうから、オチャラケた女の声が一夏の名を呼ぶ。
「イッ君~! ようやく捕まえたよ~!!」
「こ、ここは……どこなんだ!? 束さん!!」
目隠しをされ、両手首に手錠をかけられた一夏は、恐怖に見舞われ立ち尽くしている。
だが、次の瞬間に目を覆う布と前手の手錠は足元に転がり、彼の拘束は解けた。目の前は真っ白な空間が後代に広がっている。
そして、目の前には、一夏自身が最も嫌っているあの物体「IS」が見つめていた。待機状態であるISは甲冑のように手足、胴のアーマーが積みあげられている。白銀のISだ。
「イッ君、これこれ! このISに触ってみて?」
「……!」
その声は、自分が最も毛嫌いしている人物の一人で、嫌いな姉の親友……
「た、束さん!? どうして!?」
「だってぇ~! イッ君が束さんの作った、この『白式』に乗ってくれないんだもーん!」
と、束はウルウルしながら自分の背にあるその白式という待機状態のISを指した。
「何度言おうと、俺はISには乗りませんし、そもそも『男』である俺がISに乗れるわけないじゃないですか」
「ところがどっこ~い!!」
束は、そういって軽々と待機状態の白式を抱えて一夏の近くへ置くと、「えい♪」と一夏の背をドンと押したのだ。
「うわっ……」
咄嗟に、白式の冷たい装甲に手をかけてしまった。その途端、一夏はまばゆい光に包まれた。その気は、ユニコーンを纏ったときの感じとは違い、強い自尊心と可憐さが彼の脳内をよぎった。男である彼にとっては不愉快だった。
そして、光が収まった先に映し出される己の姿に、一夏は衝撃と共に絶叫を挙げた。
「う……嘘、だ……!」
――嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!!
こんな事実。俺は死んでも認めない! そう、認めるものか! 今まで、MSだけを信じて生きてきたのに、こんな事実は……
「パンパカパ~!! おめでとうイッ君? 今日からイッ君は晴れてIS操縦者だよ♪」
「そ、そんな……!」
膝がおち、一夏は愕然と言葉を失う。
「これで、よーやくイッ君をISに乗せられるねぇ~!」
「そ、そんな……」
その時だった。一夏の頭上より巨大な爆発と共に直径数メートルの穴が白い天井から空き、外部からのぞく蒼空と同時に一人の何者かがロープを垂らし潜入してきた。
「ドクター・束、よくも一夏を……!」
マリーダであった。あの後、一夏が束によって裂け目の中へ吸い込まれてしまった現場へゆき、まだわずかに残る裂け目の箇所から得た粒子を頼りに同じ波数をたどって高度一万メートルの上空に浮かぶ巨大な球状の浮遊物体を捉えたのだ。
「あれー? もしかして、あんときのプルシリーズかな?」
「黙れ……!」
マリーダは銃を束へ向けるが、束は余裕の笑みを浮かべていた。
「あんとき、ジオン本土を奇襲した際に邪魔してきたニュータイプ部隊の一人?」
「だったらどうした……!?」
「死ね」
「……!」
咄嗟にマリーダは自らのMSを展開しようとしたが、途端に体の自由が利かなくなった。
「!?」
彼女の背後から巨大な十字架が現れ、それにマリーダの身体は貼り付けられてしまい、それは高い位置まで浮上してしまった。
「マリーダさん!? 束さん、マリーダさんを解放してください!!」
「だってぇ~? 束さんの邪魔ばーっかすんだもん! プンプンッ」
「くそっ……どうすれば!」
束の言う通りに従わないとマリーダに何をするかわからない。かといって……
一夏は、束を見た後振り返って宙に浮く十字架のマリーダを見上げた。そして、しばしの間をおいてから彼は決心して束にこう言い出した。
「……では、束さん?」
「んー?」
一夏は決意した目で束に言った。
「……俺と勝負して、俺が勝ったらマリーダさんを解放してください。負けたらお好きなように」
「一夏! お前、自分が何言っているのかわかっているのか!?」
拘束されたマリーダは叫んだ。しかし、一夏は一歩も引かない。
「マリーダさん、大丈夫です。もし負けたら負けたで何とかなりますよ?」
「一夏! 私のことは構わず、ユニコーンを展開して脱出するんだ!」
「あの束さんが、そうやすやすと逃がしてくれるはずがないでしょ? こうなれば、勝負するしかないんです。……俺、『男』ですから」
「一夏……」
「うんうん! いーよ♪ じゃあ、早いとこやろっか!」
すると、束は数体の無人IS「ゴーレム」を一体を召喚させた。一夏も、ISを脱ぎ捨てるとユニコーンになり、右手にビームマグナムを握る。
――もう……あの時のような思いはごめんだ!
あの時のようにただただ無力と悔しさを味わうのだけは嫌だった。当時の回想が、一夏の頭をよぎる。
「それじゃあ、レディー・ゴー!!」
束の合図でユニコーンとゴーレムの格闘が始まった。
「来たっ……!」
ユニコーンへ突進するゴーレムに、ビームマグナムを放つがゴーレムはその巨大な両椀部でガードしつつ構わず突進してくる。そして、間合いを取られた途端にゴーレムの巨大な拳がユニコーンに襲い掛かる。
「……!」
とっさに、一夏は左腕の盾を用いてガードに入るがそれでもパワーはけた違いであり、ダメージは受けずともその力によって後ろへ飛ばされてしまう。
「一夏! ゴーレムにはビームサーベルで対抗するんだっ!!」
マリーダが助言を渡すも、バツの字のテープが現れて彼女の口元をふさいでしまった。
「はーい、攻略本はだまれー!」
もごもごと、口元をもがくマリーダに束が割って入った。
「ビームサーベルか!」
確かに……ビームサーベルなら至近距離で扱うゆえに威力は強力だ!
ユニコーンはバックパックからサーベルの一本を手に取ると、それを両手でがっちりと構えた。ユニコーンの武器全般は攻撃力に特化しているため、ましてやビームサーベルも威力を重視した大出力の武装のため、これを片手で支えるにはかなり難く安定できない。
「このっ!」
しかし、襲い来るゴーレムの攻撃をかわし、反撃に両椀部を切断して、赤く燃えるサーベルの先をゴーレムの腹部へ突き刺し、貫いた。
勝負は一瞬で着いた。やや緊張気味なのか、一夏の呼吸は荒かった。
「か、勝ったか……?」
「ノン! ノン! これから第二ラウンドだよ~?」
「えっ!? そんな……」
言っている隙から、束の周辺にはいくつものゴーレムが召喚された。一対複数の形で勝利しろというのか。
「束! キサマには、騎士道と武士道がないのか!?」
口部の中に忍ばせておいた携帯用の刃物で口元を封じるテープを切り裂たマリーダがフェアな戦況を選ばぬ束に叫んだ。
「あーもう! うっさな~? 束さんは、イッ君が欲しいの~!! そのためなら意地でも勝っちゃうもんね~♪」
「卑怯者め……!」
しかし、現状はいくつものゴーレムがユニコーンを囲っていることに違いない。どうみても、主導権は束にあるとしか見れなかった。
「何とかする……!」
一夏は、第二ラウンドを受け入れた。しかし、四方八方より襲い掛かるゴーレムの連携攻撃は避けきれるものではなかった。
「ぐあぁ!」
次々と、ゴーレムの巨大な拳がユニコーンの白い装甲を傷つけ、へこませ、ダメージを与え続ける。
「くぅ……さすがにきついか!」
「一夏! くそっ……!!」
十字に拘束された体をもがこうとあがくマリーダであるも、彼女の拘束はびくともしない。
こうして、なす術もないまま一夏がやられるのを指をくわえてみるよりほかないのか……
「イッくーん? ギブったらいつでも言ってね♪」
「ま、まだだ……勝負はこれからです!」
しかし、こうもゴーレムの連携攻撃を食らえばさすがにユニコーンの耐久率も危うくなる。
――ちくしょう……! 俺には無理なのか……?
背後からゴーレムに殴り飛ばされ、白い床に叩きつけられた。ゆっくりと立ち上がろうともその隙さえも与えずにゴーレムの猛攻が増していく。
――誰一人も守れずに、ここで終わっちまうのかよ……
再び、あの時の暗闇の光景が彼の頭をよぎった。暗い空間に監禁された自分を……
「……まだだ」
しかし、その回想が彼を振るい立たせる。もう、あの時の無力は味わいたくない!
「俺は……! 俺は、もう……」
傷だらけになりながらも一夏こと、ユニコーンは立ち上がり叫ぶ。
「……負けたくないんだッ!!」
よろめきながらも、ユニコーンは立ち続ける。
「イッ君? もーギブっちゃいなよ? さもないと、イッ君のほうがもたないよ~? ねぇ、ギブっていく? ギブって!」
そんな一夏の態度は、彼女から見て単なる踏ん張りしか見えないと束当人は余裕の笑みであった。
「ノーコメントです」
「あっそー?」
そして、四方より蹲るユニコーンへゴーレムが一斉に襲い掛かった……が、否。
「……!?」
ユニコーンと融合する一夏に、突如異変が起こった。ユニコーンの周囲より強大なエネルギー派が発生し、襲い来るゴーレムらはそれを浴びると一斉にショートしだし、次々が床へと倒れた。
「な、なにっ?」
束は、突然起こったその光景に目をやや大きくさせた。
「ついに、目覚めたのか……デストロイドモードに」
マリーダはその光景をしかと目に焼き付けた。
一夏の、ユニコーンは宙へと浮上し、その純白に覆われた機体の至る箇所の装甲が次々とスライドしだし、そこから紅い部位が露出し、そして一角獣を思わす額の角のアンテナは縦に割れてガンダム特有のV字アンテナ、そして真っ白の顔の装甲も形を変え、ガンダム本来の素顔があらわとなった。
「え? うそ!? うそ!? ひょっとして、二次移行なの!?」
MSに何ら興味なく、むしろ敵視している彼女にとっては予想外の展開で会った。
ユニコーンガンダム・デストロイドモード。ユニコーンガンダムの本当の姿であるこれは、機体のリミッターを解除し、本来の性能を全力で引き出した「野生」の姿である。
「やっば~……」
束は、また新たなゴーレムの部隊を召喚した。
「第二ラウンドだ! いや、第三ラウンドか?」
一夏は、もう片方のビームサーベルを引き出し、両手に二刀のサーベルを構えた。
ゴーレムの第三派も続けて襲い掛かる。しかし、それを優雅にかわしつつ、次々とゴーレムの一団を両腕のビームサーベルでバサバサと斬り倒す。
ユニコーンモードでの姿ではサーベルを一本に両手で支えていたが、デストロイドモードはそのサーベルを片手で軽々と振り回しているのだから、この違いは一目瞭然にわかる。
そして、気づいたときにはすでに目の前のゴーレムは残骸と化していた。
「う、うそ……!」
今度こそは、目を丸く見開いた束であった。そして、そんな彼女に一夏が言う。
「約束です。マリーダさんを返してください」
「う、うぬ~……! どうして、イッ君は束さんやISのことが嫌いなの~!?」
「嫌いですよ? だって、ISは女しか乗れないんでしょ? MSは平等なのに」
「だって! だって!! イッ君はISにも乗れるんだよ!?」
「俺だけ乗ったら、不公平でしょうが?」
「そんなのカンケーないしー!」
子供のように怒る束に、一夏は呆れてユニコーン越しの頭を抱えた。
「まったく……兎に角も、マリーダさんは返してもらいますからね?」
「で、でも~? あの時の交渉はプルシリーズは返しても、イッ君のことは含まれていなかったよ? ってことは、イッ君はこの場所から帰れないってことになるんだよね~?」
「あ、そっか……まぁいいや、なら自力で帰ります。今の俺なら安易なことですし」
「うぅ……!」
しかし、これでは納得のいかない束はフッとてレポートして、十字架に貼り付け中のマリーダの隣へと浮上し、マリーダに人参を象った銃を向けた。
「じゃー、いう通りにしないとこのプルたんが無事じゃなくなるよ~?」
「そ、そんな……! いくらなんでもそれは卑怯ですよ!?」
「だって~? 束さんはどうしても、イッ君が欲しいんだも~ん!!」
「くぅ……一夏! 私のことは構わずに先に行け!!」
だが、マリーダはそう一夏に叫んだ。しかし、一夏はためらう。
「そんなことできるわけないじゃないですか!?」
「私のことなど忘れろ! 私など……任務遂行でしか存在が許されないただの人形だ!!」
「それは違います!」
一夏は怒鳴った。それにマリーダはやや驚く。一夏は、続けた。
「誰にだって、命があるから生きてるんだ。あなたはマシーンなんかじゃない!」
「一夏……」
「束さん! いい加減にしないと俺、怒りますよ!?」
「え~……!?」
その時である。マリーダの手足を拘束する帯が頭上より降り注ぐ無数の刃物によって切り裂かれ、マリーダは中から降ってきた。
「あぶなっ!」
それに察知した一夏は、ユニコーンの両手で彼女を受け止める。彼女を救った刃物、それは角錐状の形状をした黒い刃物、「クナイ」であった。
「やっと来たか……!」
マリーダは、ホッとしたかのように自分が穴を開けて天井を空を見上げる。そこには軍服を纏い、背には日本刀、そしてドイツの国旗を模様した覆面に素顔を覆う謎の男が仁王立ちしていた。
「遅いぞ……シュバルツ」
かすかにも、マリーダは笑んだ。
「だ、だれぇ~!!」
突然の招かれざる存在に束はさらに驚いた。覆面の男は、そこからロープも使わずその身で飛び降り、何事もなく着地した。
「私は、ドイツ代表のガンダムファイター。シュバルツ・ブルーダーと申す。これより、義によって織斑一夏とマリーダ・クルスの両名を救出に参った!」
「はぁ~! ドイツのファイター!? んなの聞いてないし!?」
さらに、束は残存のゴーレムたちを召喚させて襲わせるが、ユニコーン以上の素早い身のこなし、それもMSを纏わない生身の人間が真剣を引き抜いて次々と肉眼では捉えられぬ速さでゴーレムを残りを切り裂いていくではないか!
「す、スゲェ……!」
ただただ、その戦いぶりに見とれることしかできない一夏にマリーダが言う。
「あれが……ドイツのガンダムファイター、シュバルツ・ブルーダーだ。彼が来ればもう安心だ。早く私たちもここを出るぞ?」
「はい、でも……シュバルツさんは?」
「彼なら心配いらん」
「一夏、マリーダ! ここは私に任せろ!?」
そういい、シュバルツは煙玉を床に投げつけて周囲をかく乱させた。そのすきに、一夏はユニコーンのブースターを吹かしてマリーダと共に天井の穴へと脱出した。
「うぅ~! どうしてドイツのゲルマン忍者が来るの~!?」
「篠ノ之束! 貴様の野望は、いつか必ず打ち砕いて見せる!!」
ふたたび、シュバルツは煙玉を投げつけて姿を消した。
*
「シュバルツって人……大丈夫かな?」
空中から地上の学園敷地内へ着地した一夏は、ユニコーンモードに戻った機体を解除して、マリーダを地におろした。
「すまないな? 一夏、お前を護衛するはずが、逆に助けられた……」
「良いんですよ? 裏路地での借りは返したってことで?」
「ああ……」
そのとき、突然起こったつむじ風に二人は片手で視界をふさぐも、次にその視界に映ったの人物は、シュバルツであった。
「あ、無事だったんですね!」
「心配はいらん。それよりも、二人無事で何よりだ……」
「シュバルツ、来るのが遅すぎるぞ?」
マリーダがため息をつく。おかげで自分は死ぬような思いをしたというのに……
「すまんな? 何分、『ファントム・タスク』の本拠地を探るのに時間がかかってな」
「なに……?」
その言葉に、マリーダは目を見開く。
「詳細なことはまだ伝えられぬが、必ずも『星・G作戦』は実現させて見せる……」
――何の話をしてんだ?
二人の会話を聞、夏はうまく聞き取れなかった。
「では、マリーダは引き続き一夏の護衛を続けよとの指示だ。私はこれで失礼する」
シュバルツはそう二人に背を向けると、一夏が呼び止めた。
「シュバルツさん! 助けていただいてありがとうございます!!」
「当然のことをしたまでだ。それと先ほどのスーパーモードでの戦いぶりは実に見事だ。己を犠牲に守り抜くその雄姿は本物だ。これからも、もっと強くなりたまえよ? マリーダを十分に守ってやれるくらいにな?」
「しゅ、シュバルツ!?」
マリーダは顔を赤くした。
「ハハハ! また会おう!!」
と、シュバルツは再びつむじ風となって消えていった。
――シュバルツ・ブルーダー……あんな人に、いつかなりたい!
一夏の初めての目標の存在が見つかったのは言うまでもない。
「認めん! 私は絶対に奴が教官の弟だなんて決して認めないぞ!! どうにかして、やつを学園から引きずり下ろす手立てはないだろうか? しかし、奴には袖付きの護衛が付きまとっている。容易に近づけるものではない。どうすれば……」
「お困りのようだね?」
「誰だ!」
「僕かい? 僕は……そうだね、『ガンダム』の原点なる存在のクローンとでもいえばいいかな? 世間は僕のことを『イノベイダー』と呼んでいるけどね?」
「……私に、何のようだな?」
「君の事情を聴いてしまってね? 君にコレを授けようと思って……」
「私は、己の実力で奴を倒す。このようなものは無用だ!」
「いいのかい? 今の君は、いつまでたっても今のままだよ? どれだけ、君が強さを求めようとも、君はあのブリュンヒルデのようにはなれない。所詮君は君のまんまさ?」
「なに……!」
「彼女には実力と共に優秀な性能を誇るISがあった。ゆえに二度もわたってモンド・グロッソを制覇したのだよ? 勝負というのは百パーセントの内半分は素晴らしい力だ。そして残りの半分はそれを扱う実力が試される。君にはまだ、その素晴らしい力が乏しすぎる」
「その……力の、名は?」
「DG細胞だよ……フフフ」
後書き
次回
「その力を絶て」
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