鬼若子
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第二章
「あれではのう」
「では初陣はどうされますか」
「その時は」
「当たり障りのない時に適当に出そう」
これが国親の考えだった。
「そうしようぞ」
「ではその様にしますか」
「仕方ありませんな」
こう話してだ。何はともあれ元親を初陣に出すことにした。だが。
その話を聞いた旗本達は一斉に不安を感じた。それでこう言い合うのだった。
「おい、若殿の初陣が決まったぞ」
「何っ、遂に出られるのか?」
「それは厄介なことになったな」
「全くじゃ」
皆不安な顔だった。そうなることを止められなかった。
それでだ。彼等はこう言うのだった。
「遅い初陣じゃがな」
「二十二じゃからのう」
「しかしそれでも怖いわ」
「うむ、まともに戦が出来る筈がない」
「初陣で終わるのではないのか」
早速その場で討ち死にするのではないかというのだ。
「あれではのう」
「馬も槍も操れるのか」
「弟様がいつも傍にいておられるが」
「しかし駄目なものは駄目じゃ」
「うむ、どうにもならぬ者はおる」
それが他ならない元親だというのである。
「あれではどうにもならん」
「全く。困ったことになった」
「御守りもしきれるかどうか」
「わし等が全員討たれるぞ」
「とても戦にはならんぞ」
これが彼等の見立てだった。とにかく誰も元親が初陣を真っ当できるとは思わなかった。思えなかったと言ってもいい、それが彼等の考えでありだ。
足軽達も同じだった。誰もが元親を見て不安を感じていた。だが、だった。
親泰はその兄に今もだった。城の庭で槍を振るう彼にこう言ったのである。
「兄上、戦の場での槍はです」
「どうすればよいのじゃ?」
その細い身体で槍を操りながらだ。彼は弟に応えた。
「こうして突くのじゃな」
「はい、ただ兄上は馬に乗られますので」
「そこが今と違うか」
「そうです。上から相手の目と目の間を狙うのです」
「目と目の間か」
「そこは人の急所です。ですからそこを突けばよいのです」
「相手は死ぬか」
槍で突きを繰り出しながらだ。元親は弟の言葉を聞いていく。
「そうなるのじゃな」
「それで一人を倒せばです」
「さらにじゃな」
「はい、すぐに別の相手をそうするのです」
「その目と目の間を突くのか」
「そうしていけばいいのです」
「馬はどうするのじゃ」
馬に乗っているのならその馬をどうするか、それも問題だった。
「今まで通り乗ればよいのか」
「馬は従わせるのです」
そうすればいいというのだ。馬はだ。
「己が進みたい方向に意地を以てです」
「行かせればよいのじゃな」
「はい、そうです」
まさにだ。その通りだというのだ。
「そうして敵の動きをよく見るのです」
「攻める時に攻め」
「そして退く時に退くのです」
「そこは書にある通りじゃな」
「兄上は書はいつも読まれていますね」
「それだけは出来る」
如何に柔弱でもだ。それはできるというのだ。
「何を言われずともな」
「では戦の采配は書の通りにされて」
「うむ、そうするぞ」
弟の言葉に応えながらだった。元親は庭で槍を操っていた。そうして鍛錬を続けながら戦、初陣を迎えようとしていた。そうして遂にだった。
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