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家守

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第一章

                 家守 
 唐代の頃にはもう科挙は存在していた、隋代からありこの頃もまだ貴族達が根強く存在していたにしろここから立身を遂げた者達がいた。そしてその立身を目指す者達もだ。
 成都から知人を頼って都の長安に出て来た李承訓もそのうちの一人だ、彼は知人の呉市章の家で文の代筆等や写経等の仕事をしつつ学問に励み科挙への及第を目指していた。 
 この日も仕事を午前中で終わらせ昼食を食べた後学問に励むつもりだった、その彼と食事を共にしながら呉は李の若々しく端整で特に眉が目立つ顔を見て言った。彼は李とは違い四角く長い口髭を生やし垂れ目である。
「今日も朝からかい」
「はい、朝飯までは学問で」
「朝飯の後はだね」
「頼まれてた仕事をしていました」
「今日は写経だったかな」
「それをしていました」
 こう言うのだった。
「すべて書いて後はお渡しするだけです」
「寺の方にか」
「そうです」
「それが随分と銭になる様だね」
「少なくとも家賃位はです」
 それこそというのだ。
「楽に稼いでいます」
「その様だね」
「それはご安心下さい、それどころか」
「その写経なり代筆なりでか」
「四書五経や老子や荘子を書くこともあります」
 こうした書もというのだ。
「これで生計もです」
「立てられるのかい」
「はい」
「字が速く的確に書けると有り難いね」
「いえ、やはり目指すのは」
「及第だね」
「それです」
 やはりこれだった、李が目指すものは。
「その為にこの家にお邪魔して学問に励んできていますから」
「だからだね」
「これからもです」
「そうか、じゃあ励んでくれ」
 呉は李の気持ちを知ってにこりと笑って応えた。
「そしてな」
「及第ですね」
「目指してくれ」
「それでは」
 昼食の麺をすすりながらだ、李は呉に笑顔で応えた。そして実際に彼は学問に励み続けた。そうして仕事も学問も励んでいると。
 ある日のことだ、李が自室で学問をしているとだ。不意に。 
 手元に小さな礼服を来た老人が出て来た、大きさは親指程だ。老人は彼が開いている書を見てそのうえで言った。
「ふむ、左伝か」
 春秋左氏伝だ、科挙の教科書にもなっている書の一つだ。
「それを読んでおるか」
「?幻か」
 李は最初老人をそうではないかと思った、だが。
 何度見ても老人はいて彼が開いている書を読んでいる、そして言うのだった。
「よい、しかしここよりも最後の方じゃな」
「最後が何か」
 李は老人の言葉を聞いて思わず言葉を出した。 
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