英雄
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第五章
「そうしたいです」
「そうなんだね」
「教師として」
この資格を活かしてというのだ。
「困っている人達の場所に赴きたいです」
「そうですか、ではです」
「はい、すぐに願書を書かせてもらいます」
「いえ、まずはこの事務所の所長にお会いして頂けますか」
「所長さんにですか」
「そうしてくれますか?」
受付の人はマルコにこう言った。
「まずは」
「そこで願書をですか」
「はい、お願い出来ますか」
「それでは」
いきなり願書を書かせてもらうつもりが意外な展開になったと思った、だが所長室に案内されると三十程度のブロンドの髪の女がいた。長い睫毛に黒い瞳に紅の唇の艶やかな女だ。
その女はだ、まずは名乗った。
「レナータ=フレーニといいます」
「ここの所長さんですね」
「はい、どうしてこちらに来られたのですか?」
「実は」
マルコはフレーニに自分が何故ここに来たのか、そして自分のこともどうしたいのかも熱く話した。そしてだった。
フレーニにだ、強い声で言った。
「是非僕を」
「困っている人達のところにですね」
「行かせて下さい」
頼み込んで言った。
「そうさせて下さい」
「お気持ちはわかりました」
フレーニはマルコの言葉を受けてまずは頷いた。
しかしだ、すぐにこう言ったのだった。
「ですが今は協力隊で派遣する人員は足りています」
「では順番待ちですか」
「はい、そして」
「そして?」
「実は協力隊のイタリアでのスタッフが不足していまして」
「このイタリアのですか」
「派遣するべき人は足りていますが」
満員だというのだ、そちらは。
「しかし現地のスタッフがおらず」
「事務や支援の」
「はい、そうした人達が」
「お医者さんや先生がいても事務員や作業員の人がいないんですね」
「そうした状況です」
わかりやすく言えばというのだ。
「今現在の我々は」
「そうなのですか」
「それで貴方今お仕事は」
「まだ在学中で」
「決まっていないのですね」
「就職はこちらのつもりでした」
協力隊で海外の困っている人達のところに行くことだったのだ。
「そうでした」
「そうでしたか、それでは」
「それでは?」
「我が協力隊のイタリアスタッフとしてです」
「就職をですか」
「されてはどうですか?」
「あの、僕は」
どうしてもとだ、彼は難しい顔で言った。
「それは」
「そのお考えはないですか」
「僕は外に行きたいんです」
困っている人達のところにというのだ。
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