顔はいいけれど
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第一章
顔はいいけれど
「男だろ」
「いや、女でしょ」
「やっぱり男だろ」
「絶対に女よ」
今巷でもネットでも議論が起こっていた。
歌手のジョーイ、この歌手の性別についてだ。
その外見は実に美麗だ。目鼻立ちは整いまるで彫刻の様だ。奇麗な髪に華麗なファッション、まるでこの世にはいないかの様なルックスと卓越した歌唱力で知られている。
だがそれだけで話題になっていなかった。その外見を見てだ。
誰もが首を捻って言うのだった。果たして性別はどちらなのか。
「あの声は女よ」
声はそれに聴こえる。だが、だった。
「あれ裏声だろうが」
「カウンターテナーだろ」
裏声を使って女性の声で歌う歌手だ。オペラ界では現代のカウンターテナーとして引っ張りだこになっている存在だ。それではないかというのだ。
「カウンターテナーだと男だろ」
「だからあの人男だろ」
「ジョーイは絶対に男だ」
「間違いない」
男性派はこう主張する。
「どっからどう見てもな」
「そうに決まってるだろ」
「いえ、待ってよ」
しかしだった。女性もここで反撃するのだった。
「地声、歌ってない時の声よ」
「その時の声女の声じゃない」
「だからジョーイは女よ」
「それにスカートも履くじゃない」
ステージの衣装でだ。ジョーイはスカートを履いたりもするのだ。そのファッションはビジュアル系だったりゴスロリだったりヘビメタだったり様々だ。
そのファッションも男か女かわからない。全くだった。
それでスカートからだ。女派は言うのだった。
「だから。ジョーイはね」
「絶対に女よ」
「スカート履く男なんていないでしょ」
「だからどう見ても女よ」
これでジョーイの性別は女性に傾くかに思われた。だが。
男派も反撃に出た。何とだ。
「スカートは男も履くぞ」
「キルトがあるだろ、キルト」
「あれがあるだろ」
スコットランドの民族衣装だ。タートンチェックのスカートだ。尚キルトを履く時にはその下に下着は履かない。それでめくれたら洒落にならないことになる。
そのキルトを出してだ。彼等は主張するのだった。
「ジョーイはスコットランドみたいな格好もするよな」
「それでキルトも知ってるんだよ」
「だからジョーイは男だよ」
「スカートを履いても男だよ」
「地声だってああした声の男だっているぞ」
反撃はさらに続いた。
「だからジョーイは男だ」
「絶対にそうだ」
「背も高いしな」
「一七五はあるだろ」
「背の高い女の子だっているわよ」
「そうよ。バレーのセッターでもね」
言い合いは続いた。だがどれだけ続けてもだった。
結局ジョーイの性別はわからない。しかもそれをテレビやラジオ、ネットで聞かれてもだ。本人は思わせぶりな顔で、思わせぶりなファッションと声でこう言うのだった。
「どちらでしょうね」
こう言うだけだった。不思議な笑顔で。
「わからないですよね」
「おい、自分では言わないぞ」
「これは煽ってるな」
「絶対にそうだな」
「間違いないわ」
ファン達はこのことはわかった。ジョーイがあえて性別を言わないでそれで自分に対する話題にしていることは。それはわかったのである。
だがそれでもだ。わかったことはこれだけでだ。
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