ワルツは一人じゃない
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章
「ここオーストリアの人ばかりでしょ。通う学校だって」
「ああ、それはな」
「高校もそうなってるわ」
「ドイツ語喋れなくて周りはオーストリア人ばかりで。しかも」
尚且つだった。それに加えて。
「日本の文化も御飯もなくて。生きていけるのかしら」
「日本のお料理はお家で作るからね」
母が娘を宥めにきた。
「安心しなさい」
「だから。安心できるならこんなこと言わないから」
本当に不安だった。今の由実は。だが、だった。
それでもだとだ。彼女は不安を言っていった。
「生きていけたらいいけれど」
「とりあえず家に入ろうか」
これ以上外にいても仕方ないと思ってだ。父がこう提案してきた。
「今の家にな」
「ええ。どんなお家なの?」
「マンションの一階でな」
そこがだ。彼等の新しい家だというのだ。
「広くて大きいいい家らしいな」
「へえ、そうなの」
母はそうした家と聞いてだ。期待を感じて言った。
「だったらいいわね」
「ああ。日本のマンションよりずっと大きいらしいな」
「オーストリアってお家の環境はいいのね」
「日本は狭いからな」
狭い場所に人が多い。日本の特徴の一つだ。
「だからそこはどうしようもないさ」
「そうよね。まあとにかくね」
「ああ、家に行こう」
こう言ってだ。父は自分の妻と由実をそのマンションに連れて行った。そのマンションは確かに立派で欧州らしい趣のあるいい家だった。だが、だった。
由実はその家にいても不安で仕方がなかった。何を食べてもだ。
それでだ。その見事な家でも言うのだった。
「大丈夫なの?この街にいて」
「おいおい、本当に心配性だな」
「まだ言ってるのね」
「だって。私学校に行ってもよ」
由実はまだ高校生である。その立場から言うのである。
「日本人殆どいないでしょ」
「まあオーストリアだからな」
「それはね」
「本当に言葉もわからないから」
このこともだ。不安で仕方がなかった。
「それに友達だっていないし。完全に一人なのよ」
「けれどな。日本人学校もな」
「それもね」
「それザルツブルグにないの?」
この街にそれはあるかというのだ。両親に真剣な顔で問うた。
彼女は今は家野中のリビング、日本のそれとは比較にならないまでに見事な内装の部屋に立派なソファーに座ってそのうえでだった。
話をしている。だがそれでも由実はそうしたものを見ずに両親に言うのだった。
「私本当に一人だから」
「満員だったんだよ」
「定員一杯だったの?」
「そうだよ。だからな」
そのせいだとだ。父は娘に言った。
「御前は普通の。この国の高校に通うことになったんだよ」
「何よそれ、理不尽よ」
「気持ちはわかるが仕方ないだろ」
「こっちの高校に行っても」
「ああ、まあひょっとしたらいいことがあるかも知れないからな」
「悪いことが起こりそうだけれど」
そのことが不安で仕方なかったのだ。今の由実は。
だからこそ言うのだがそれでもだ。結局言っても仕方のないことだった。
由実が学校に通う日が来た。転校早々だ。
言葉がわからなかった。一応ドイツ語は勉強をはじめた。だが。
ネイティブでそのまま進められる授業は全くわからなかった。まるで異次元にいる様だった。
それが彼女を余計に不安にさせた。その結果だ。
完全にクラスで一人になった。黒髪に黒い目のアジア系の娘も彼女だけだった。他は誰もがブロンドだったりブラウンだったりだ。髪はそうで目も青や緑、グレーだ。
そして皆背が高く鼻が高い。それでドイツ語を喋っているのだ。そんな中にいてだ。
由実は孤立してしまった。クラスに、いや学校にも街にも馴染めなかった。ドイツ語の勉強も進まない。それで学校に帰るとだった。
ページ上へ戻る