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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・20

~松風・きんつば~

「いや~ビックリしたよ。姉貴達から聞いてはいたけど、本当に料理が上手いんだなぁ、キミって」

 目の前にいる艦娘が、顔を綻ばせながらきんつばを頬張っている。短く切られた黒髪の上には、ちょこんと載せられたミニハットが目を引く。彼女の名は松風……神風型の4番艦であり、ウチの鎮守府の中では今現在一番の新人である。

「ん、まぁな。好きこそ物の上手なれって奴さ」

「あはは、謙遜のつもりかい?だとしたら大抵の女からは嫌味と取られかねないよ」

「辛辣だなぁ、オイ」

 そんな物怖じしない上にオブラートにも包む事のない松風の言動に、思わず苦笑いを浮かべる。口の悪いハネっ返りは何人も居たし、ナメた態度の輩はキチンと『教育』してきた。しかしこの松風はまたタイプが違う。竹を割ったような性格というか、良い意味で男っぽい性格をしているのだ。その為か、辛辣な口を利かれてもあまり腹が立たない。むしろ、同性との軽口の言い合いをしている気分になってくる。

「にしても、丸いきんつばなんて初めて見たよ」

「何言ってやがる、きんつばってのは元々丸いモンだ」

「そうなんだ?へぇ~……」

 きんつば、という菓子は正確には金鍔焼きという名前の和菓子である。生まれたのは江戸時代の中期・京都であるとされている。生まれた当初は上新粉(米粉)を水で練って作られた薄い生地でつぶ餡を包み、名前の通りに刀の鍔のように丸く成型して焼いた菓子だった上にその色から『銀鍔』という名前だった。

 それが西から東へと伝わり、上新粉ではなく小麦粉で生地を作るようになった。更に縁起の良い物・景気の良い物が大好きな江戸町人の気質から、『銀より金の方が景気が良い』とされて銀鍔から金鍔に名前が変化したらしい。

 今では、寒天を使ってつぶ餡を固めた物を四角く切り、小麦粉をゆるく溶いた生地を付けて焼き上げる『角きんつば』が一般的だが、これは明治に入ってから生まれた調理法である。

「ふ~ん……まぁ、美味しいからどうでもいいや!」

「おまっ……聞いといてそれかよ」

 全く、どこまでもサバサバしてて悪気が無いから手に負えない。




「そういや、松風は今ちょうどウチの基礎訓練課程が終わりかけの時期だろ?どうだ、身体に無理とか来てねぇか?」

 基礎訓練課程とは、ウチの鎮守府恒例の一ヶ月に及ぶ新人扱きである。しかも今回は霧島と武蔵が教官役というハードモード仕様である。教官役が誰でも訓練内容に差が出ないようにはしているが、それでもやはり厳しい教官が当たると必然的に中身が厳しくなるらしい。不人気なのは某ニンジャとか、その妹とか、ドSブルーとかいう陰口を叩かれ始めたらしい正規空母だったりする。※因みにだが、ドSレッドは俺らしい。なんでや。

「あぁそっか、キミが組んだんだっけ?あの訓練課程。姉貴やさっちんから聞いてたけど、あれは鬼畜だね、ホント」

 苦笑いしながらそう言って、茶を啜る松風。内容はキツいとは言っているが、冗談めかして言っているという事は特には身体に異常は来していないのだろう。まずは一安心。

「それで、訓練課程が終わった後はどうするつもりだ?」

「あぁ、メインの仕事を選ぶんだっけ?」

 ウチは規模もデカいし仕事の種類も量も半端ではない。その上『艦娘による独立自治』をコンセプトにした運営を行っている為に、規模の割には人間の職員が少ない。どうしても手の足りない整備班や食事の準備の主計課位だ。後は殆ど艦娘達の仕事で労力を賄っている。

「そうだ、仕事を大きく分ければ4つ。事務職・主計課・遠征要員・戦闘要員の4つだ」

事務職:読んで字の如く鎮守府の数字を握る。予算の都合から提督の執務の補助、艦娘達からの上申、本土との繋ぎまでをこなす。鎮守府の屋台骨。統括は大淀。

主計課:料理以外の掃除や洗濯、事務以外の雑務をこなす。主計課が確りしていないと鎮守府内は混乱する為に、雑務だからと下に見られる事もない。統括は鳳翔。

遠征要因:ウチの鎮守府だと一番忙しいのがココ。軍からの任務だけでなく、企業等からの護衛任務等も請け負っているので殆ど鎮守府に居着けない。しかし稼働率が高い分、稼ぎも良い。統括は特に決まっていないが、必要に応じて所属の軽巡の誰かが会議に出たりする。

戦闘要員:正にメインアタッカー。敵の漸減から海域の攻略、他の鎮守府との演習等々……戦闘行為を主に行う。平時は訓練をするか、能力の高い物は事務の補助をしたりしている。バトルジャンキーもチラホラ。統括は金剛。



「……とまぁ、大まかに分ければこんなトコか。勿論、手が足りなくなったりすれば事務職や主計課の連中にも出撃してもらうがな」

 元々艦娘なのだ、戦う事こそ主目的。その為の基礎として、基礎訓練課程を行っているワケだしな。

「う~ん……姉貴達は皆所属がバラバラなんだっけ?」

「あぁ、神風が事務職。春風が主計課、朝風が遠征要員だな」

「う~ん、希望としては遠征要員なんだけど……朝風の姉貴が姦しいからなぁ」

「確かにな、あの喧しい世話焼きは俺も勘弁願いたい」

 松風の姉である神風型の2番艦・朝風は、当初春風同様主計課にいた。しかし少々そそっかしく口が達者な所があった為にトラブルが頻発。鳳翔さんに『配置転換をお願いします』と頭を下げられる始末。そんな時、

『料理も洗濯も出来て、鎮守府内に居場所が無いクマ?なら遠征班でその腕を活かすクマ!』

 という天の助けのような一声。遠征班は長期の航海で無人島等に停泊する事も多く、料理や洗濯が出来る面子は大変に重宝されるのだ。朝風本人は

「しっ、仕方無いわね!私の力が必要なら行ってあげない事もないわ!」

 とツンデレを発揮していたが、デカい態度を取った事で神風に頭を叩かれていた。実際、ナメた態度に球磨がキレると、クマではなくベアーというかグリズリーに変貌するので神風のファインプレーだったりするのだが。

「う~ん、でも僕家事とか書類仕事は苦手なんだよなぁ。どうしたら良いだろう?」

「知るか」

 そんな会話を交わしていると、コンコンと部屋がノックされた。

「居るぞ~、入ってこい」

「たっだいまぁ司令官!遠征の報告書持ってきたよ!」

「さ、さっちん!久しぶりだねぇ!」

 俺達の前にやって来たのは、皐月だった。松風とは仲が良く、『さっちん』『まっつん』と呼び合う仲だ……というのは皐月の談。

「あれ、まっつん何してんの?あ、例のチケットかぁ……今年は僕外れちゃったんだよなぁ」

「連チャンで引き当てる奴なんぞ殆ど居ねぇよ。今年は2人居たけど」

「ってか、さっちんも遠征班なの?」

「うん!僕達睦月型は燃費良いからね、殆ど皆遠征班だよ。それに、僕改二になって対空能力上がってから引っ張りだこなんだから!」

 遠征班は護衛の際に求められる物が多い。燃費の良さ、敵に遭遇しない為の索敵能力、万が一遭遇した時の為の戦闘力、そして何より、護衛対象の脅威となる潜水艦と爆撃機を殲滅できる対空・対潜能力。皐月は改二になってから総合的に能力が高まった為、遠征班の中でも忙しくしている。

「まっつんも所属が決まってないなら遠征班においでよ!」

「……うん。そうしよっかな」

「やった、決まり!これからよろしくねまっつん!」

 ニヒヒと笑いながら右手を差し出す皐月。おずおずと、しかし確りと右手を握り返す松風。

「まぁ、松風はまだ改になってねぇから当分は出さねぇけどな?」

「「えぇ~!?」」

 非難するような声を上げる2人だが、ウチの規則は規則。ルールは守ってもらう。松風は当分、演習の日々だ。

「やっぱ鬼だね、キミ」

「うるせぇ、誉め言葉だこの野郎」 
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