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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第27話 聖処女のマスターは中二病

 
前書き
 酷いサブタイですが、第二章はこれで終わりです。 

 
 那須与一。
 千里の的の扇を射抜いたと言う伝承で有名な武将。
 それが九鬼の武士道プランと言う計画の下、クローン技術により、生前仕えた源義経と家臣の武蔵坊弁慶+αの3人の英雄のクローンと共に現代に蘇ったのだ。
 ただ、蘇ったと言っても人格は別人であるため転生と言う事では無いし、最初から成体では無く、普通の人間と同じように赤子から育ってきている。
 彼ら4人は英雄としての自覚を持ちつつも、伸び伸びと育ってきた。
 否、そう言う教育と環境で育てられたのだ。
 しかし彼らには何の不満は無かった。
 ただ1人、中二病を今もなお患い続けている与一だけは。

 「――――遂にこの日が来やがったか」

 生みの親であるマープルの存在は前から知っていた俺達は、今までも定期的に顔を合わせてきた。
 だが今日この日だけは違った。遂に俺達を世間に大々的に公表する為、数日後に島を出ることが決まったのだ。
 それはつまり、あの“組織”との本格的な抗争が始まる事を意味していた。
 あの組織から義経と言う光を守りきるのは、いざという時の備えを幾つも用意しておかなければならない。
 だから俺は行動に移した。
 以前親父の倉庫から見つけた埃に塗れた魔導書。
 これを使って、強力な使い魔を召喚する為に。

 「素に銀と鉄。礎に契約の大公。我が主は遮那王。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 言葉を紡ぐたびに俺の中から溢れ出る魔術回路(エタニティー・ソウル)が速度を上げる。

 「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。(ひじり)(さかずき)の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 俺の想い(リビドー)がこの空間を包み、呼び出す存在に俺の覚悟を伝える。

 「――――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 俺の覚悟に答えたように空間に風が吹き上がり、魔法陣から光が溢れだす。

 「――――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よっ!」

 光と風が爆発的に膨れ上がり、その場を満たした。
 そして煙が晴れて行くと、俺は我が目を疑った。
 同時にエタニティー・ソウルを多く消費したから、踏ん張りがきかずに尻もちをついてしまった。
 俺の目の前に現れた使い魔は想像していたのとは違い、義経や弁慶や葉桜先輩以上の美貌を持った金髪の女性だった。

 「な、ななな、な・・・・・・」

 そうして現れた金髪の女性が与一に問を投げかける。

 「貴方が――――私のマスターですか?」
 「へ?あっ、いや・・・」

 まさか獣では無く人だとは思いもしなかった与一は口ごもるが、会話は突然打ち切られた。

 「無事か、与一!」

 倉庫の扉が突然開かれ、そこにいたのは義経だった。

 「義経?何でお前が此処に・・・」
 「何でって、いきなり倉庫から光が見えたから何事かと思って気配を探ったら、与一がここに居るのに気づいて慌てて来たんだ!」

 義経の指摘通り、倉庫内とは言え、あれだけ派手に光り輝けば誰かが来ても不思議では無かった。
 そこで与一はある事に気付く。

 「義経これは違う、違うんだ!」
 「?何の事だ・・・・・・?」
 「こっちの奴は決して怪しい奴じゃ」
 「誰の事を言ってるんだ与一?今此処には与一と義経しかいないだろ」
 「何!?」

 咄嗟に魔法陣の上を見ても、先程の見た金髪の女性の姿が何所にも見当たらなかった。

 「寝ぼけてるのか与一?眠いなら一緒に戻ろう。大体何でこんな真夜中に倉庫に居たんだ?」

 与一の無事を確認できた義経は安心したのか、欠伸をしながら本邸にある自室を目指して倉庫に背を向けて行った。
 1人残された与一は呆然と呟く。

 「アレは・・・夢だったのか?」
 「いえ、夢ではありませんよ」
 「うおっ!?」

 尻もちを付いたままの与一の顔を覗き込むように、彼の前に突然現れた女性の存在に大いに驚く。

 「霊体化をして姿を隠していました。状況が把握できない現状で、マスター以外に姿をさらすのは如何かと思いまして」

 此処でもし彼女を呼び出したのが常識性を持つ一般人なら疑問符を浮かべたり、聞きなれない言葉の幾つかに質問するところだが、仮にもこの年まで中二病が維持されている与一からすればむしろ順応しやすい内容だった。

 「そうか。いや、寧ろよく判断してくれた。俺はアンタのマスターである与一だ、宜しく頼むぞサーヴァント」

 此処に奇跡が起きた。魔導書にサーヴァントと言う記述は記載されていなかったので、与一がサーヴァントと言うキーワードを知っている筈も無いのに、彼はフィーリングで彼女をそう呼んだのだ。
 恐るべき中二病。

 「はい、宜しくお願いしますマスター。我がクラスは裁定者のクラス、ルーラー。真名はジャンヌダルク。好きな様にお呼び下さい」

 だから説明も要らずに流れがスムーズに進む。表面上は。

 「ならジャンヌって呼ばせてもらうぞ?あと、義経を巻き込まないでくれたのは良い判断だった。これからの“組織”との暗闘にアイツを巻き込みたくないからな」

 そこでジャンヌは与一の口から告げられた“組織”と言うキーワードに注目した。

 「組織――――ですか?矢張りこの世界で起きている聖杯戦争はただ事では無いのですね」
 「如何いう事だ?」
 「私の様なルーラーと言うクラスは、聖杯戦争に異常が無いかを監視し正すクラスなので、本来であれば聖杯事態に召喚されて、マスター無しでの永続的な単独行動が可能となるのです。ですがこの聖杯戦争には余程の異常でもあるのでしょう。私はこうして今回1人の魔術師に召喚されましたが、マスターの言葉で確信しました」
 「詰まる所その異常に“組織”が絡んでるって奴だな?」
 「はい」

 正直とんでもない事になっている。
 与一の言う組織は、彼の中二病による妄想内の空想であるにも拘らず、真面目なジャンヌは疑いもせずに確信してしまったのだから。
 しかし2人の会話と言う暴走は止まらない。

 「なら協力してくれ、ジャンヌ。俺はアイツを――――親父も御袋もそれ以外を守るために何としても組織を潰したい」
 「寧ろお願いするのは此方の方です。マスター。貴方に我が剣をお預けします。異常を正す為、私と言う剣を存分に振るってください」
 「ああ、頼りにしてる」

 こうして2人は互いの信念のために組織を潰す為に動くと、契約を結んだ。
 だが与一の言う組織など、何度も繰り返すが何所にもないと言うのに。


 -Interlude-


 ほぼ同時刻。
 与一の指摘したモノとは異なる組織、マスターピース
 マスターピースの本部には、何所を見渡そうと玉座も謁見の間を存在しない。
 しかし本部から全く出なくなったトワイスは今、存在する筈のない謁見の間にて玉座に向けて首を垂れていた。

 「此度は拝謁の栄を承りまして、まことに恐縮次第でございます。陛下」
 「よい。貴様の働きは実に見事よ。その労に報いただけだが――――今宵は余に頼みがあると?」

 玉座に腰かける存在は、いかにも実に全く以て、王以外の何物でもない存在感を露わにしていた。

 「陛下に相談など全く持って畏れ多い事とは自覚しておりますが、如何か何卒――――いえ、一時でも聞いてもらう事は叶いますでしょうか?」
 「許す。申せ」
 「ありがとうございます。――――実は新たに召喚したい英霊が居るのですが・・・・・・お力を貸していただけないでしょうか?」
 「つまり召喚の許しと魔力を賜りたいと?余では無く、グランドマスター(“友”)に許しを請えばよいではないか」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 トワイスは王の言葉に押し黙る。
 その態度に王は一瞬で訝しむ顔から笑みに変えた。

 「すまぬ。許せ。少々揶揄った。何せ“友”に相談すれば、要らぬ貸しを作る事になろうからな。貴様としては避けたい事態であろう」
 「我が愚考、察していただき誠に感謝の念耐えません。――――もしや、その為に私目をお試しに慣れれたのでしょうか?」
 「感が良すぎるのも考え物だぞ、ピースマン。だが確かにそうだ。先の貴様の押し黙った顔は、中々どうして楽しめた。故に許しと魔力をくれてやる」

 王は笑いながら膨大で濃度の高い魔力を一瞬で片掌に顕して、それを瞬時に結晶へと変えてトワイスの掌の中に転移させた。

 「ご配慮いただき感謝の念耐えません、陛下」
 「我が労に報いたいのであれば、今まで以上に己が信念に努め励むがいい。それが余の今の楽しみの一つだ」
 「全身全霊を以て」

 再び深く礼をして謁見の間から出るトワイス。
 それを見送った王――――では無く、玉座の裏に続く回廊から現れたとあるサーヴァントが口を開く。

 「宜しかったのですか?(マスター)?霊基盤に反応して新たに召喚されたサーヴァントの事を彼に教えなくて?」
 「貴様が告げてやればよいではないか、キャスター。禁じた覚えはないぞ?」
 「いえいえ、マスターが教える気が無いのであれば私は黙ります」
 「その方が楽しいからか?」
 「そんな楽しいなどと――――口が裂けても言えませんッ!!」

 言葉とは裏腹に、実に楽しそうに笑うキャスターと呼ばれたサーヴァント。

 「貴様は口が裂けても楽しそうだな。その様にどのような愚行も楽しめる気質は羨むべきかな。自称生まれながらにしてのサーヴァント、道化よ」
 「――――羨むなどその様な事、生まれながらにして絶対的強者であるマスターが口にしてはなりますまい?皇帝陛下」
 「そうだな。――――それに教える必要も無かろうよ。あのルーラーは、裁定者としての力の半分も失っているのだから」

 実の楽しそうに、そう、口にした。


 -Interlude-


 数日後、育ての両親との別れを済まし、与一は他の3人と共に本土に向かう定期船の上に居た。

 『それにしてもマスターたちが英雄のクローンだとは驚きました』

 ジャンヌは霊体化のまま、マスターである与一に話しかける。

 「ああ。だがだからこそ“組織”は俺達を狙うんだ。そして奴らとの暗闘はこれから始まる。期待してるぜジャンヌ」
 『はい。この身は聖杯戦争に異常をきたしている“組織”を叩く事に、全身全霊で臨みましょう』

 2人は船の上で改めて固い約束を結ぶのだった。




 「なあ、弁慶。与一がさっきから誰かと喋ってる気がするんだが気のせいか?」
 「あの中二病、遂に白昼堂々と独り言を大声で言うようになったのか。どうしたもんかな」 
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