ナンパは危険
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第一章
ナンパは危険
小泉聡は女好きだ。それも殆ど病気、不治の病のレベルでだ。
それでだ。時間があるといつもだった。
「ちょっと街に出て来るな」
「おい、待ち合わせかよ」
「それとも風俗かよ」
出会い系で知り合った娘も風俗も何でもだった。それでだ。
友人達は呆れた顔で小泉にこう言うのが常だった。
「どっちにしても女だよな」
「それに行くんだろ」
「ああ。今日はな」
そのことを否定せずにだ。小泉は友人達に返す。
「風俗だよ」
「何だよ、ヘルスかよ」
「それともソープかよ」
「ヘルスなんか面白くないだろ」
軽く笑っての言葉だった。
「それは本番できないだろ」
「本当にストレートだな、おい」
「直球過ぎるだろ」
「女とはやれないと意味ないってか」
「そう言うんだな」
「その通りだよ」
小泉は胸を張ってさえいた。その姿でだ。
本当に悪びれず堂々とだ。こう友人達に言うのだった。
「俺はカサノヴァかドン=ジョヴァンニになるんだよ」
「ったくよ、オペラの主人公かよ」
「それになるのかよ」
「そうだよ。ドン=ジョヴァンニは劇中で実は一人も陥としてないみたいだがな」
これには諸説ある。キルケゴールの頃から議論になっている。
「俺は違うからな。目指せ五千人切りだよ」
「千人じゃなくてか」
「五千人かよ」
「カサノヴァもドン=ジョヴァンニも越えてやるんだよ」
本気の言葉だ。目標であり越える対象であるというのだ。
「だから今からもな。行って来るな」
「病気には気をつけろよ」
「エイズとかにはなるなよ」
「ああ、ゴムはちゃんとしてるからな」
そうしたことを続けるには病気は厳禁だというのだ。そういうことだ。
それでだ。彼は意気揚々と風俗、今日はソープランドに行った。
彼の大学でのキャンバスライフはまさにピンク色だった。背は高く顔はよく性格も確かに女好きだが明るく裏表がない性格なので評判は悪くなかった。
その彼がだ。この日は友人達にこんなことを言った。
「で、今日はな」
「今日は何だよ」
「出会いかよ」
「それともまたソープかよ」
「ナンパだよ」
それだとだ。友人達に笑顔で話す。
「今日はそれな。そうだな、今日はな」
「で、どうするんだよ」
「どんな娘引っ掛けるんだよ」
「大学の講義が終わったら町に出てな」
そうしてだというのだ。
「五人はゲットしてくるぜ」
「そうか、五人か」
「つまり最低五回はするんだな」
「ったくよ。どんだけ女好きなんだよ」
「ホテル代とか大丈夫かよ」
「ああ、金な」
それはどうなっているかもだ。小泉は自分から話す。
「実はな。前から普通にな」
「普通に?どうしたんだよ」
「お金持ちのパトロンでもいるのかよ」
「未亡人。三十過ぎの資産家の凄い美人さんがいてさ」
まるで夢の世界の存在だった。
「その人にお金出してもらってるんだよ」
「おい、それ愛人かよ」
「御前そんな人とも付き合ってるのかよ」
「常に付き合ってるのが一ダースはいるけれどな」
決まった相手でこれだけだ。
「で、その人なりホステスの人なり女医さんなりがな」
「しかも何人もかよ」
「ただれまくってんな、こいつ」
友人達も呆れた。彼のあまりもの乱れた交際に。
だが小泉はあくまであっけらかんとしている。その調子での言葉だった。
「で、だよ。そうした人達にお金出してもらってるからな」
「遊び回れるのかよ」
「そうなんだな」
「ああ。お金の分は働いてるからな」
何時どうして働いているかを聞くのは野暮だった。
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