トップアイドル
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第五章
その甲子園のこともだ。彼等は剛士に笑顔で話した。
「それで応援は外野席か」
「まあ妥当だな」
「一塁側だとあの娘が困るからな」
中日ファンの香奈恵がだというのだ。
「それに三塁側だとな」
「御前が困るよな」
「阪神ファンだからな」
「それで外野席なんだよ」
そこで二人一緒にだ。応援するというのだ。
「そう決めたんだよ」
「まあ妥当だな」
「御前にしちゃ考えてるな」
「結構以上に」
「俺にしては、は余計だよ。けれどな」
だがそれでもだとだ。剛士は言うのだった。
「俺、あの娘とずっと一緒にいたいな」
「言うねえ。のろけるね」
「そこまで夢中なのかよ」
「もう一生ものかよ」
「ああ、好きだよ」
切実な顔にさえなっていた。今の剛士は。
そしてその顔でだ。こうも言うのだった。
「あの娘の為なら何だってするさ」
「本当の意味であの娘はトップアイドルなんだな」
「御前にとっちゃ」
「そうだよ。本当にトップアイドルだよ」
真剣な顔での返事だった。周りは少しジョークを入れていたがこうした返事だった。
「だからな。絶対にな」
「幸せになるか」
「そう言うんだな」
「なるさ。あの娘の為なら何だってして」
そうしてだというのだ。
「ずっと一緒にいるさ」
こう誓うのだった。そしてだ。
剛士は実際に香奈恵といつも一緒にいた。背の高い彼と小柄な香奈恵はまさに好対象だった。身長差は優に三十センチ以上はあった。だが。
それでも二人はいつも一緒にいた。それは高校でも変わらなかった。しかし。
大学に行く時、それはだ。
香奈恵はともかく剛士の成績は悪かった。それもかなり。彼は勉強が苦手だったのだ・
その彼にだ。周囲はこう言った。
「おい、香奈恵ちゃん大学に行くらしいぜ」
「八条大学の文学部な」
「そこに入って学校の先生目指すってさ」
「そうらしいぜ」
「ああ、聞いてるよ」
剛士もだ。その彼等に返す。既に知っているとだ。
「あいつから直接聞いたよ」
「で、御前はどうするんだよ」
「あの娘は大学行くけれどな」
「御前は八条大学入られるのかよ」
「大丈夫なのかよ」
「御前成績悪いだろ」
このことがだ。本人にも言われた。
「いつも追試受けてるしな」
「この前なんかクラスで最下位だっただろ」
「それで八条大学行けるのかよ」
「っていうか大学自体が無理だろ」
「いや、俺は体育ができるからな」
彼は勉強はできないがそちらはできた。それもかなりだ。
だからだ。こう言うのだった。
「体育学部に入るさ」
「ああ、御前バスケ部でセッターだしな」
「そっちで入るんだな」
「ああ、それで俺も先生になるさ」
香奈恵と同じ仕事を選ぶというのだ。
「体育教師になるからな」
「で、そこでも香奈恵ちゃんと一緒か」
「一緒にいるんだな」
「そうさ。そうするからな」
強い声でだ。彼は言った。
「俺はやるぜ。絶対に離れるもんか」
彼のその言葉を聞いてだ。香奈恵自身もだ。
ほっとした様な微笑みになってだ。こう周囲に漏らした。彼女も周りに受け入れられて多くノ友人を持っていた。その彼女達に話したのである。
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