世界をめぐる、銀白の翼
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第二章 Lost Heros
この胸には一つの想いを
地面に落ち、キャッチされて地面に倒れる蒔風。
それを、仲間たちが囲んでいる。
その身体は外側から淡く光っており、さらさらと流れていっていた。
「舜君・・・大丈夫?」
「・・・大丈夫だが・・・・・アリス、あんたは何やってんだ?」
地面に仰向けに寝そべりながら、蒔風が顔を横に向けた。
その先には、蒔風に両手をかざして何かを送り込んでいるアリスがいた。
彼女が送り込んでいくもの。
それは"LOND"が消滅し、その力が流れ込んできているものだ。
「・・・・なにやってん?」
「このままではあなたが消えます・・・・・この力さえ送り込めば・・・・!!!」
そう、蒔風の身体は今、消滅へと向かっていた。
無理もない。
あれだけの願いを同時に使い、なおかつ自分の力も使用していたのだ。
その体が今にも、粒子となって消えて行こうとしている。
しかし
「やめとけ」
蒔風がアリスの手を取って止めさせる。
「流しこんでるったって、その力全部流れてんじゃん。その力は、あんたがもらっときなさい」
そう、流しこんでいるはずなのだ。
アリスに流れ込んでくる力を、たしかに蒔風に流している。
しかし、まるでざるに水をためようとしているかのように彼からすべてこぼれ出し、またアリスに流れていってしまっていた。
「まあ・・・・こんなのもあり・・・かな?」
「そんなこと・・・言わないでください!!!わたしは・・・あなたになにもできなかった・・・・・・!!!」
「・・・・・・・・」
その言葉を聞きながら、蒔風がゆっくりと体を起こして、立ち上がった。
身体の上に乗っていた粒子が、ザラリと地面に落ちる。
「もう・・・・十分だったよ」
そう言ってどこかへ歩き出そうとする蒔風。
と、すぐにその体が引きとめられる。
その腕を、なのはが掴んで引き留めていた。
「舜君は!!ずっとずっと私たちのために戦って!!ずっとずっと一人ぼっちで・・・・・それで・・・それで一人で全部・・・」
「なのは・・・・」
そのなのはの頭を、蒔風が撫でてから、優しそうな目をして言った。
「だから言ったろ。こういう事だ。お前は俺じゃ幸せになれん。こういう男だからさー」
そうして、なのはの腕からするりと抜けて、蒔風が先に進む。
「蒔風さん」
「舜・・・・」
「・・・・クラウド」
「せっかく・・・同じ世界になって・・・・・これからたくさん恩返ししようと思っていたのに・・・私たちは何もできない・・・助けられない・・・」
「オレたちは・・・そうだ、ずっと助けられてきた・・・・世界をお前に救われ、俺たち自身を救われ!!恩返しもさせないで・・・勝手にいなくなる気か!!!」
「そうだ、オレは勝手に消えるのさ」
観鈴とクラウドの言葉に、蒔風が皮肉気に笑いながら、二人を過ぎて、背中越しに最後の言葉を交わした。
「・・・とんだ英雄だ・・・・」
「どっちつかずだったからなぁ・・・・」
ははっ、と笑いながらそうして、二人を過ぎて、その先に進む蒔風。
「蒔風」「舜」「舜君」「蒔風」「マイカゼ」
そうして歩いていると、次々と声をかけられる蒔風だが、それでも彼は止まらない。
歩き続け、そして、身体から粒子がこぼれ続けて行った。
「舜!!!」
と、そこに理樹と一刀が駆け寄ってきた。
「そんな・・・・待ってよ!!」
「お前らなら大丈夫だろうからな。厄介者は早々に退散するよ」
「バカ!!」「野郎!!!」
蒔風がそんなことを言うと、二人が蒔風の腹を殴った。
おフッ、と少し身体が折れる蒔風だが、それを笑って受けていた。
「はは・・・良い攻撃」
「厄介なんて思ったことは・・・・まあ前にはあったけど・・・・でもそれでも!!いなくなって欲しいなんて思ったことはない!!」
「また・・・帰ってこいよ」
「絶対はない、と言っておこうかね」
そうして、蒔風がさらに先へと歩を進める。
そして、みんなの輪を抜けたところで、アリスがその中から走ってきてその背中を引きとめようとした。
が、その手は伸ばそうとして伸ばせず、言葉も出そうとしても出なかった。
「・・・なに?」
「ぁ・・・わ・・・私は・・・・・私は・・・なにも・・・あなたに・・・本当に・・・できなかった・・・・・」
アリスが言葉をたどたどしく紡ぐ。
今さら、自分が何を言えるのだろうか。
彼をこの道に連れてきたのは自分だ。
彼のこんな力を覚醒させてしまったのは私だ。
彼がここで消えてしまったのは、私の責任だ。
そんな私が、ここでどんな言葉をかけられるというのか。
そんな物は、私が許されたいだけだ。
今消えゆく彼に、更に自分を許してくれと・・・言われたいだけなのだ・・・・
「私は・・私は・・・・・」
「ありがとう」
が、それでも蒔風の口から出てきたのはこの言葉だった。
「そんな貴女だから、俺は戦ったんだ。俺はあなたの世界で、心からよかったと思う。皆を守れて今、とても感謝している」
「でも・・・でも・・・・」
「なにも出来なかった・・・・ね」
「・・・・はい・・・・」
「近頃そう言う奴がどうにも多いよなぁ・・・・じゃあま、一言だけ言っといてやる」
そうして、蒔風が人差し指を立てながらこちらに振り向き、励ますようにアリスに言った。
「人の価値は、何ができないか、じゃない。何ができるか、だ。成績表にできないこと書いて行く者はない。テストは正解点を数える。出来ないことを嘆かないでくれ。出来ると言う事を誇りに持ってくれ」
「ぁ・・・ぅ・・・・」
「貴女は俺を救ってくれた。皆を救う、力をくれた。こんな歪んだ俺でも、皆を守って、胸を張って生きてこれた。だから・・・十分だ」
そうして、蒔風が踵を返して、歩いて行く。
その歩く先には、今沈もうとしている、綺麗な夕日が、煌々と光りながらそこにあった。
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蒔風が振り返らず、歩きながら右手を軽く上げてから振って、別れを告げる。
最初に左腕が、光の中に溶けるように消えた。
次に、右足が粒子に流れながらなくなる。
しかし蒔風の身体は崩れることなく、そのまま歩みを進めていた。
そして、左足が透けていき、粒子を噴いてパァ・・・と消えた。
身体が順番に、ゆっくりと、うっすらと消えていく。
下半身が消えた。
ゆらゆらと揺れながら、蒔風がそのまま先に進む。
そして、残った上体の左下から、スゥ・・・・・――――――――となくなって行った。
だんだんと向こう側が透けていって、綺麗な夕日の光がこちら側にまで来る。
すでに影など、残っていない。
そうして、光の中に溶けるかのようにして、蒔風の全身がとけるかのように消えた。
蒔風から出た粒子が空を舞い、地面や建物、全員に降り注いで、その怪我が治っていく。
全て元通りになった。
何一つとして、「異常なモノ」はここにはいなくなった。
こうして
世界を一人でめぐった銀白の翼人、蒔風舜は
希望と共に、世界に溶けていなくなった。
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「ぁ・・・・・・・」
「消え・・・ちゃった・・・・・」
「舜君・・・・・」
「アリス・・・あいつは・・・・死ん―――」
「死んだわけではありません」
「え・・・・」
「彼は、「願い」として消えたのです。その体が分解され、世界に溶けた・・・・彼の思念は、どこかに生きているかもしれませんね」
「・・・!!ライフストリーム・・・・・」
「そこかもしれませんし、そこではないかもしれません」
「戻って・・・・来るの?」
「わかりません。でももし・・・・・世界中の人々が彼を必要としたとしたら・・・・ただ会いたいなどではなく、本当に必要としたとき・・・・もしかしたら、本当にもしかしたら、彼の翼が反応してくれるかもしれません・・・・・それに・・・・」
「それに?」
「この世界には・・・なんという皮肉でしょうか・・・・まだ彼はいるのですよ。どちらも・・・身体を失っていますが」
to be continued
後書き
消滅BGM:「Brave Song(Gldemo Ver.)」
これでストーリーは終わりです。
あとは短いエンドロールのみ。
では
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