世界をめぐる、銀白の翼
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第二章 Lost Heros
終結→破滅
ドゴォッ!!!
「げフッ・・・・が・・・」
「どうした・・・その程度か!!!」
クラウドが剣を構え、地面に倒れる蒔風を睨みつける。
それに対し蒔風は、「山」を突き立ててそれを杖のようにして立ち上がろうと膝を起こした。
周囲には蒔風の十五天帝の剣が散っており、すでに打ち払われてしまったものであることが分かる。
此処で戦いを始めた時すでに、蒔風にはクラウドと打ち合うだけの力など残ってはいなかった。
ぼたぼたと血を流し、それでもクラウドの攻撃を必死に回避していく蒔風。
もう膝も満足に立たない。
気を緩めれば剣を落としてしまいそうだ。
背中が痛い。
腕が痛い。
腹が痛い。
首が痛い。
頭が痛い。
足が痛い。
筋肉が呻く。
骨が軋む。
拳が震える。
膝が嗤う。
地面がグラつく。
空が歪む。
視界が捻れる。
意識が途切れる。
そして何より、胸が締め付けられたようになり、そこに何かを突き刺したくなる。
「ッ・・・は・・・・・・ハァ・・・・ゥぁ・・・・・」
クラウドの攻撃は大振りだ。
しかし、大振りだからといって簡単に回避できるわけではない。
例えば
クラウドが剣を振って蒔風に斬りかかるとしよう。
無論、それは振りかぶってからの攻撃である。
彼の持つ剣が大剣なのだから、それは仕方のないことだ。
そして、大振りという攻撃は強力だが、あまりにも簡単に見切られるものだという事は、説明するまでもなく理解できよう。
だが、この男の攻撃はそんな簡単な、一定枠に収まるような代物ではない。
そう、例えば―――――
その大振りから降り降ろされるまでの動作が、全快状態の蒔風の拳と同じ速度だったらどうだろうか。
ドゴッ!!!
「おグッ・・・ガッ・・・ぅうォ・・・・ァ・・・・・大振りのくせに速ェんだよ・・・」
そうして、蒔風がその攻撃を紙一重に回避するが、勢いに引っ掛けられてまた剣が弾け飛んだ。
すでにこれで十一本目。
速くてあと四回、長く持っても、あと二十回も攻撃されれば彼は終わるだろう。
と、そこにクラウドが剣を突き出しての突進をかける。
地面を滑るように一直線に突っ込んだ彼を、蒔風が剣の背で受け流し、独楽のように回転しながら回避するが、その衝撃に背中の皮膚が裂けて血液が噴き出した。
そして、また剣が飛んで行った。
しかも、他のももう二本飛んでしまった。
後一回。
それだけで蒔風は終わる。
「ゼッ・・・ゼッ・・・ゼッ・・・ぅプッ・・・ゲホゲホッ!!!・・・・・」
「舜・・・・」
「・・・・・・・・」
もう終わりというところで、クラウドが剣をゆっくりと振って構えながら、蒔風へと声をかけた。
今の蒔風は本当にボロボロで、この声が聞こえているかもわからない。
しかし、それでも訊かないわけにはいかなかった。
これできっと、最後だから。
「なぜ・・・こんなことをしたんだ・・・・・」
「・・・・・」
「お前は・・・!!全てを救うんじゃなかったのか・・・・・!!!」
「・・・・よ・・・・」
「?」
「もう・・・疲れたよ・・・・」
「なに・・・・?」
「速く・・・終わらせようよ・・・・なぁ・・・」
「・・・・・・・・」
「クラウドォ!!!」
そうして、蒔風がクラウドへと疾走した。
いまだこんな力が残っていたのかと驚愕するクラウドだが、蒔風の勢いはどう見ても弱々しい。
こんな状況から動いた、という事に驚いただけで、その勢い自体はたいしたものではないのだ。
「・・・・ハァあっ!!!」
ズッ、ドンッ!!!
その蒔風へと向かって、クラウドが剣に気を込め、地面に叩きつけて剣気を放つ「破晄撃」を放った。
それが一瞬の速度を以って蒔風と衝突し爆発、蒔風を空中に跳ねあげさせる。
「ォ・・・・ぁ・・・」
「フッ!!!」
その蒔風へと飛びあがり、クラウドが合体剣を解除し周囲の宙にばらまく。
しかし、いつもと違う事がある。
クラウドの身体に、魔晄の青白い光が灯った。
それはいつものことだ。それはいい。
だが、クラウドがはじき出した剣は蒔風を360度囲むように展開され、更にはその剣には、まるで分身したかのように魔晄で形作られたクラウドが着いて行っていた。
そして
「ハァァッッッッッ!!!」
各クラウドが己の剣を握って蒔風へと突っ込み、同時にそれそれ十五撃斬り込んだ。
本来の超究武神覇斬と、そのVer.5を合わせたようなその技が、対象を一瞬で切り刻んでいく。
ゴォッ!!と、一連の攻撃を終えてクラウドがその剣撃の中心から抜け出し、空中で振り向くことなく、その中心(おそらくは切られた蒔風がいるのだろう)を背にし、止まる。
彼の手にファースト剣が残され、分身が消え、地面に残りの剣が突き刺さって行く。
確実に斬った
彼の手には確かな手応えがあった。
確かに彼の剣には血液が付着しており、その手には斬ったという確かな感触が残っている。
そうして一瞬目を閉じた後に、自分が切った後を振り返ってみた。
その瞬間
ボフッ!!!ブワァァアァ・・・・・
「!?ブッ・・・これは・・・・!?」
突如、クラウドの視界を一気に深紅が覆い尽くし、彼自身を覆い尽くした。
それは真っ赤な霧だった。
全身をジットリと濡らし、気持ち悪く張り付いて、即座に乾いてくる。
そして、それは存分に鉄の匂いを含んでおり、彼の鼻を衝く。
「まさ・・・・ガッ!?・・」
「ふぉあり(おわり)・・・・だ・・・・ぁ・・・・・」
クラウドの喉を潰したような声と、蒔風のくぐもった声が聞こえてきた。
否、「ような」ではない。
その赤い霧の中、蒔風がクラウドのの喉笛に喰らい付き、ブチブチと引きちぎっていた。
更にはその頭部に右腕を押し当て、噛みつきながら首の骨をも砕く。
確かに、蒔風に対して刃は通っていた。
しかしそれは、彼の「一部分」のみだったが。
そして、肉食獣が獲物をしとめるかのように蒔風はクラウドを仕留めていた。
が、そこで倒れるようなクラウドでもなかった。
翼人はこれでは倒れられない。
しかし、蒔風はクラウドに抱きつき身体を捻った。
即座にクラウドの腰からゴキボキと重い音が鳴り、背骨が砕けた。
その捻りで肋骨が内臓を傷つけ、吐血するクラウド。
二人が地面に落ちる。
が、更に蒔風は有らん限りの力で、まるで全身の血を絞り取るかのようにクラウドを締め上げた。
クラウドは抵抗するものの、血が一気に失われ、意識が薄れ、そして――――――――
ドンッ!!!!
消えた。
・・・・
蒔風が残った唯一の腕で、そのカードを拾い上げる。
「一級の暗殺者・・・ね・・・・」
フゥ・・・・・・
「そんな奴、この世に存在するはずねぇだろ」
彼に、左腕は無かった。
上空の霧はすでに落ち、地面をドス黒く染め上げている。
それは全て、つい一分前までは彼の左腕だったものだ。
「はァ・・・は・・はは・・・まあー・・・終わった・・・終わらせた・・・・・」
左腕の斬り口を布で縛って止血する。
そして蒔風がケタケタと笑いながら、右腕を広げて上空を仰ぎ見、狂ったように声を上げた。
「やった!!やったぞ!!!これでいい・・・これでいいぞ・・・・!!!」
そうして、懐中時計を取り出して、その針を見る。
もうほとんど頂点だ。
あと一度もない角度に迫っている。
「間に合った・・・ハァ・・・ハァ・・・間に合ったぞ・・・・あ・・が・・・・」
その時計を投げ捨て、狂気に取りつかれたように笑う蒔風が、どこともなく足をふらつかせて進む。
しかし、すぐに倒れ込んで木に寄りかかってしまった。
だが、それでも蒔風は嗤っていた。
「さあ・・・・はじまるぜ・・・・こっからだ!!!来いよォ・・・・・この瞬間のために、存分に練って来てやったんだからな・・・・」
蒔風が気から手を放し、自分の足で立つ。
ガクガクと震えながら、メトロノームのように揺れながら、蒔風が上空を仰ぎ見た。
「かかってこいよ――――世界」
直後、地面に捨てられた時計の針が頂点を指した。
そして、蒔風の身体がビクンと揺れ、ガクリと崩れ、そのままの表情で倒れた。
「――――――――――――――――!!!!!!」
言葉にならない悲鳴が上がり、一人の男が誰もいない森をのたうちまわる。
彼の心に、「総て」が圧し掛かっていた。
to be continued
後書き
戦闘が終了しました。
一体ここからどうなるのか。
彼にのしかかってきたモノはなんだったのか。
そのすべてはまた次話に
次回は解説編!!!
これまでの事件の真実。
いったい何があったのか・・・・
ではまた次回
リスト残り
―――――――
Lost Heros....
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