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二本足の大根

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第二章

 その中でだ。彼等は囁き続けるのだった。
「西瓜がいいか?」
「あとトマトもな」
「甘いのに酸っぱいのがいいな」
「後は果物をもらうか」
 つまり盗むというのだ。
「林檎なり何なりな」
「俺キーウィがいいな」
「野菜だけれど苺もな」 
 甘いものが言われる。そうしてその他にもだった。
「人参なり玉葱なりもらってな」
「ズッキーニとかな」
「それで野菜カレーとかオツだぜ」
「じゃあジャガイモも拝借するか」
「そうしようか」
 盗み即ち借りるだった。彼等はそう言っていた。そうした話をしながらだ。
 彼等は畑の中に入り野菜を物色しようとする。まずはレタス畑に入った。
「火を通したレタスもいいよな」
「だよな。中華風にイカとかと組み合わせてさっと火を通してな」
「それもいいよな」
「あとキャべツもあるぜ」
 レタス畑の隣に見えるのはそれだった。野菜の定番はあらかた揃っていた。 
 そのレタス畑を色々と見回してだ。彼等はそのレタスに近寄り手を出そうとする。そのまま畑からかっさらい持ち去ろうとしたその時だった。
 不意に彼等の周りに何かが来た。それは。
 無数の人影だった。だがそれは人ではなかった。
 よく見ればそれはかなり小さい。人間の子供よりもずっと小さい。
 大根だった。二本足の大根が彼等の周りを囲んできたのだ。そうしてだった。
 彼等の周りをテンポを合わせて歩いていた。それはダンスの様だった。そのうえで彼等を囲む輪を少しずつ狭めていき。そこから。
 蹴りを入れてきた。悪ガキの一人の頬を思いきり蹴ってきた。それからさらにだった。
 他の悪ガキ達の頭や背中、そして腰を蹴ってきた。圧倒的な数の大根達の攻撃を受けてだ。悪ガキ達はノックアウトされてしまった。
 翌朝博士とジェトーリオが畑に行くとそのノックアウトされた悪ガキ達が畑に転がっていた。ジェトーリオはその彼等を見て言うのだった。
「これはまさか」
「そうだな。ジェトーリオ君の予想通りだ」
 博士はどうだと言わんばかりの笑みでジェトーリオに告げてきた。
「この悪ガキ達は野菜達にやられたのだ」
「野菜を盗ろうとして野菜にやられたんですか」
「自業自得だな。さて、この連中を懲らしめたのはどの野菜か」
 こう言うとだ。彼等の周りにもだ。
 あの大根達が出て来た。白い二本足の大根達がいる。それぞれの頭のところには緑の葉がある。大根の葉であることは言うまでもない。尚これは中々美味い。
 その大根達は二人の前を楽しげに跳ねている。それもまたダンスの様だ。
 それを見てだ。博士は言うのだった。
「勝利のダンスだな。そして悪人共を懲らしめた喜びのダンスだ」
「それで今踊ってるんですか」
「そうだな。さて」
「さてといいますと」
「とりあえず悪ガキ共は警察送りだ」
 このことは第一だった。博士は白衣から自分の携帯を取り出してそのうえで警察に連絡をした。これで悪ガキ達の運命は決まった。
 このことはあっさりと決めてからだ。ジェトーリオにまた言ったのだ。今度言うことは。
「これで私の生み出した野菜達の素晴しさがわかったな」
「これからは盗人も退治できる野菜ですか」
「当然果物もだ。これもまた農業の革命だぞ」
「確かに。不心得者は何処にもいますからね」
「しかしそうした不心得者はこれからは野菜や果物達が成敗する」 
 例え深夜に盗みに来てもだ。それでもだというのだ。
「畑は平和になるぞ。鴉や猿も怖くないぞ」
 博士はジェトーリオに笑顔で言うのだった。その周りでは今も大根達がダンスを踊っている。二本足で楽しげに踊る彼等に加わってキャベツや胡瓜が飛び牛蒡やジャガイモが畑からニョキニョキと出て来る。実に賑やかな畑だった。
 博士の生み出したこの動く農作物達はそのまま納品に向かいしかも盗人や害獣、害鳥を撃退する素晴しい農作物になった。この農作物により人類の農業はさらに発展した。だがジェトーリオはその農作物達、特に大根を見ながら博士に言うのだった。
「何時見ても不思議な光景ですね。農作物が動くというのは」
「何、慣れればそうでもなくなる」
 博士は笑ってこう返すだけだった。何はともあれ二本足の大根達は農業に革命をもたらした。このことが紛れもない事実である。


二本足の大根   完


                   2012・5・26 
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