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暑いせいで

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第一章

                 暑いせいで
 その町は南方にあった。それも南方においてもとりわけ暑い地域にあった。
 その為民達は暑さにいつも苦しみの声をあげていた。その民達の声を聞いてだ。
 王は考えた。どうすれば愛する民達をこの暑さから解放できるのか。彼自身うだる様な暑さの中で考えていた。 
 その王にだ。大臣の一人がこんなことを言った。
「涼しくなりたければ水か氷ですが」
「水ならある」
 暑い国にあるので雨には事欠かない。とにかく毎日決まった時間に夥しい量の雨が降る。そして海や川もあり水には困っていない。
 だから王は水については何も言わなかった。この暑さの中民達の救いともなっていたこれが国の中の町の救いにもなっていた。
 しかしそれだけでは足りないことも確かだった。それで王はその大臣が言葉に出したもう一つのものについて言ったのだった。
「氷はないな」
「ではその氷を造り出しましょう」
「氷を?どうするのじゃ」
「すぐに魔術師を呼びます」
 大臣が提案するのは人を呼ぶことだった。しかも魔術を使える魔術師を呼ぶというのだ。これはかなりのことだった。 
 しかし王は決断を変えない。すぐに氷の魔法を得意とする魔術師が数人程度王宮に呼ばれた。
 そのうえで彼等にすぐに氷の魔法で町を涼しくする様に命じた。その際多くの報酬を渡すことも忘れなかった。
 報酬を受け取った魔術師達はすぐに仕事に取り掛かった。氷の柱や山をあちこちに出してそのうえ雪も降らし水の温度を下げた。すると。
 町は忽ちのうちに涼しくなった。町の者達は心から喜び王に感謝した、かに見えた。
 しかしすぐに問題は起こった。町に異変が起こったのである。その異変のことはすぐさま王の耳にも届いた。
「何っ、風邪だと」
「はい、町で風邪が流行っています」
「馬鹿な、今は夏だ」
 王は風邪は冬に罹り流行るものだと思っていた。だがそれが夏、しかもこのうえなく暑いあの町にだというのだ。
「それでどうしてなのだ」
「寒くなったからです」
 そのせいだというのだ。報告をする大臣はこうも言った。
「王が魔術師達に氷の魔法を使わせていますが」
「それで涼しくなったではないか」
「はい、確かに」
 大臣もそのことはその通りだと答える。
「紛れもなく」
「ではいいではないか。あまりにも暑く民達が困っているからそうしたのだ」
「そのことはいいのですがしかし
「しかし?」
「それが過ぎました」
 大臣の顔がここで深刻なものになった。
「寒くなり過ぎました」
「なり過ぎたというのか」
「王よ、この部屋もです」
 王と大臣達が今いるのは王宮の王の間だ。その部屋においても氷がありかなり涼しいものになっている。
 その部屋の中において大臣はこう王に言ったのである。
「寒くはありませんか」
「涼しいどころか」
「そうです。寒くはありませぬか」
 大臣は懸念、いや実際に寒さを感じている顔だった。暑い筈なのにその唇には青ささえ見られていた。 
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