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真田十勇士

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巻ノ八十二 川の仕掛けその二

 神川に向けて逃げていた、だが。
 幸村はその彼等の動きを見てだ、彼の軍勢に言った。
「ではな」
「はい、いよいよですな」
「次の手に移る」
「そうしますな」
「そうするとしよう」
 実際にというのだ。
「今よりな」
「はい、わかり申した」
「では今より法螺貝をあげます」
「そうしてあちらに知らせます」
「そうせよ、敵は逃げるのに必死じゃ」
 幸村の目には彼等のその動きがはっきりと見えていた、既に彼の周りには十勇士達が戻って来て揃っている。
「だからな」
「そこが、ですな」
「狙い目ですな」
「そうじゃ、では法螺貝を吹け」
 こう命じてだ、実際に法螺貝を吹かせた。幸村は法螺貝のその声を聞いてまずは一旦瞑目してから言った。
「また多くの者が死ぬ」
「はい、そうですな」
「どうしてもですな」
「避けられぬことですな」
「戦ですから」
「そのことは」
「致し方ない、戦は恐れぬが」
 しかしとだ、幸村は十勇士達にも述べた。
「やはり人が死ぬことを考えるとな」
「心にきますな」
「我等とて同じです」
「うむ、だからつい瞑目をした」
 こう十勇士達に話した。
「弔いの気持ちでな」
「左様ですか」
「それは殿らしいですな」
「敵にもそうしたお心を向けられる
「倒した、倒す相手にも」
「そうじゃ」
 こう言う、そして法螺貝の音が終わるのを聴いたのだった。
 徳川方の軍勢は神川を渡ってそのうえでさらに逃げていた、秀忠はその状況を見つつ周りの者達に問うた。
「後詰はどうじゃ」
「はい、榊原殿も下がられました」
「今こちらに向かっておりまする」
「お怪我はないとのことです」
「ならよい、あ奴には苦労をかけた」 
 秀忠はこのことに自責の念を感じつつ言った。
「全く以てな」
「そう言われますか」
「実にな、しかしあ奴の踏ん張りのお陰でじゃ」
 秀忠は今も軍勢を見ている、そのうえで言うのだった。
「我等もここまで逃げられた」
「そうですな、後はです」
「川を渡るだけです」
「全軍川を渡り安全な場所まで退き」
「そこで、ですな」
「態勢を立て直しもう一度攻める」 
 城をというのだ。
「よいな」
「はい、今日は油断しましたが」
「小さな城ですし」
「あらためて油断せず攻めれば」
「必ず攻め落とせますな」
「そうなる、そして父上の軍勢に合流するぞ」
 秀忠はこう考えていた、そして川を渡る時も用心して具足で身を固め武器を持っている兵達を見ていた。このままいけると思っていた。 
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