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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第95話「再会し、繋がった絆」

 
前書き
もうこの章で完結って程綺麗に終わりそうになっていますが、まだまだ続きます。
まぁ、3章はこれで最終回ですけどね。
 

 








       =司side=





「家で待っていてって言われたけど...。」

 私が学校に復帰してから初めての土曜日。
 パーティーの準備が終われば呼びに来ると言われて、私は家で待機している。

「...うーん...もう三日なのにまだ慣れない...。」

 頭に優輝君を思い浮かべるだけで、少し顔が熱くなる。
 ...ホント、アリシアちゃんの言った事意識しすぎだなぁ...。

「未だに面と向かって会話できないし...。」

 神社で一緒に暮らしてた時は普通に会話してたのになぁ...。
 一緒に暮らしてた時....一緒に....。

「一緒.....一緒....。」

 ...ダメ。神社の事考えるだけでも顔がどんどん熱くなっちゃう...。

「....ふぅ....。」

 今、家には誰にもいないため、一人で必死に顔を冷ます。
 誰かがいれば、気を紛らしやすいんだけど...。
 シュラインはいつも通り私の傍にいるけど、リニスや両親は皆翠屋に行っている。

「...暇だなぁ...。」

 さすがに一人で待っているのは退屈だ。
 暇潰しになるものってあまり家に置いてないし。

「...........。」

〈...マスター、少しそわそわしすぎです。〉

「ふえっ!?え、あ、そう!?」

 気づかぬ内に、翠屋に行くのが待ち遠しくなってそわそわしていたようだ。

     ピンポーン

「あ、来たのかな?」

 そこでインターホンが鳴り、私はすぐさま玄関に向かった。
 ...分かりやすい程に待ち遠しかったんだなぁ...。

「よっ、司。迎えに来たぞ。」

「ゆ、優輝君!?」

 玄関を開けると、そこには優輝君がいた。
 まさか優輝君が来るとは...可能性としては思っていたけども、つい驚いてしまう。

「リニスさんとどっちが迎えに行くか決め悩んでいたけど、親友だからって僕になったんだ。皆も待っているし、行こうか。」

「あ、う、うん。」

 軽く迎えに来たのが優輝君だった理由を説明され、私は優輝君に手を引かれて家を出る。
 ...うぅ、やっぱり、手を握られるだけで緊張するなぁ...。







「貸し切り...休日にこれって、なんか罪悪感が...。」

「日曜よりはマシだと思うが...まぁ、そうだな。」

 翠屋に着き、掛けられている札を見てついそう呟く。
 翠屋は人気店だから、なおさらだ。

「まぁ、今回は特別だ。気にしないでおこう。」

「...そうだね。」

 こういう事までいちいち気にしてたら疲れるだけだもんね。
 そう考え、私たちは翠屋へと入った。

「わぁ.....!」

「結構な人数だからな。その分、豪勢になったんだ。」

 テーブルには数々の料理があり、皆はもう既に集まって雑談していた。
 なのはちゃん達だけでなく、那美さんや久遠ちゃん、アースラの皆もいる。

「主役のご到着ですね。」

「リニス...。」

「まぁ、パーティーの形式に沿うのも面倒でしょう。なので、一言何かを言って、すぐにパーティーを始めましょう。」

「...うん。」

 パーティーの主役としての作法なんて知らないので、リニスのその言葉はありがたかった。
 私が来た事で皆の注目が集まる中、聞こえる程度の声量で、私は口を開いた。

「えっと...今日は私のために集まってくれてありがとう。ちょっと...いや、凄く皆に迷惑を掛けてしまったのに、こうしてまた暖かく迎えてくれたのは本当に嬉しいです。」

 気の利いた言葉が一切浮かんでこない。
 ...うぅ、こういう人前で喋るのはやっぱり緊張するなぁ...。

「...あー...えっと...。」

「...それでは堅苦しいのはなしにして、乾杯しましょう。」

「あ、か、乾杯!...と、いう事で...!」

 リニスが助け船を出してくれたけど、それでも締まりの悪い終わり方になっちゃった...。

「随分と緊張しちゃってたわね。」

「まぁ、慣れていないとああいうのはな...。俺も結婚式の時は緊張したもんだ。」

「あ、あはは...。」

 お母さんとお父さんが、私にそう話しかけてくる。

「...えっと、お父さん、お母さん...。」

「ん?どうしたんだ?」

「何か言いたい事があるのかしら?」

 両親は、魔法について闇の書事件が終わった時に伝えられた。
 だから、今回の事件の事情も知っている。
 その事で、色々と言いたい事はあったけど...。

「...どんな事情があったにせよ、司は俺達の娘だ。」

「一度忘れたのは親として悔しいけど、こうして戻ってきてくれただけで嬉しいわ。」

「.........!」

 顔に出ていたのか、私が考えていた事に答えるようにそう言われる。

「前世の経験がある分、独り立ちが早くなるだろうというのが、少し寂しいがな。」

「貴女の居場所はちゃんとあるんだから、帰ってくる時は帰ってくるのよ。」

「....うん...!」

 私が魔法関連とかにかまけている時も、両親は見守るのに留まるだけだった。
 それは、それほどまでに()を信頼していたという事。
 私にとって、その事実はとても嬉しかった。

「ほら、お友達の所へ行ってきなさい。」

「え、でも...。」

「娘を楽しませないでどうするんだ。ほら、とっととボーイフレンドの所へ行ってこい。」

 そういってお父さんは私の背中を押す。

「...って、ぼ、ボーイフレ...!?ゆ、優輝君とは別にそういう関係じゃ...!」

「ん?男友達じゃないのか?」

「っ、ぁ....!」

 態とだ...!お父さん、絶対今態と言った...!
 敢えて“ボーイフレンド”を直訳した意味で言ってる...!

「もうっ!」

「ま、友達は大事になー。」

 これ以上弄られたら嫌なため、さっさと私はお父さんから離れる。
 アリシアちゃんのせいで意識してる時に...まったく...。

「あ、司、こっちこっち!」

「あ.....。」

 まるで狙ったかのように、アリシアちゃんが手招きしてくる。
 傍には優輝君や奏ちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんがいる。

「.....!」

「えっ?どうしたの?」

 アリシアちゃんを視界に入れた瞬間、言いようのない感情が湧き上がってくる。
 ...そう。私はアリシアちゃんに色々と物申したい。

「ア、リ、シ、ア、ちゃん...!」

「え、ちょ、なんで肩掴んで...って痛い!ちょっと痛い!?」

 肩を掴んで逃がさないようにする。
 少し掴む力が強すぎるかもしれないけど、今はそんなの関係ない。

「アリシアちゃんのせいだよ!?アリシアちゃんがあの時色々からかってくれたおかげで、私必要以上に意識しちゃってるんだよ!?ここの所!」

「えっ?えっと....。」

 私の少々理不尽さがある怒りの言葉に、アリシアちゃんは目を泳がせる。
 その視線が、優輝君へと止まるが...。

「...で、何余計な事吹き込んだんだ?」

「あれ!?逃げられない!?」

 優輝君もどうやら気になっていたようで、さらに逃げれないようになる。

「まぁ、何を言ったとか、内容は聞かないでおいてやる。だが、司の様子からしてお前が原因なのは明らかだからな...。」

「ちょっと...“お話”しようか...?」

 別に説教とかそういうのではない。ただ“お話”するだけだ。

「あわわわ....アリサ、すずか...!」

「...諦めなさい。」

「これを助けるのは...ちょっと...。」

「薄情者ー!」

「妥当だと思うけどな。」

 ふふふ...覚悟してねアリシアちゃん?









       =out side=





「燃え...尽きた......ガクッ...。」

「...ふぅ、少し気が楽になったかも。」

 パーティーによる喧騒の中、その一角でアリシアは燃え尽きていた。
 司による、説教のような淡々とした会話によって精神が削られたのだ。
 対して、司は色々愚痴のように言えた事で、意識しすぎていた事に対して、少し気楽になれるようになった。

「...ストレスでも溜まってたのかしら?」

「色々意識しすぎてたみたいだからね...。」

 奏の呟きに対し、すずかが苦笑いしながら答える。

「奏...明らかに辛そうなんだけど、美味いのか?」

「美味しいわ。....食べる?」

「...じゃあ、一口だけ...。」

 とりあえずアリシアは置いておくと言った感じに、優輝は干渉せずに奏が食べている麻婆豆腐に興味を示し、一口貰う。

「っ...!?辛っ!?」

「あ、優輝君、その麻婆豆腐は...!」

 司がそれに気づき何か言おうとするが、後の祭り。
 その異常な辛さに優輝は悶える。

「よ、よくこんな辛いの食えるな...。」

「前世ではこういう刺激物は食べれなかったから...。」

 食べれなかった物だからこそ、好みになった訳である。
 ますます特典の元ネタと似ている奏だった。

「さすが士郎さんと桃子さん...。こんなに辛いのにちゃんと美味い...。」

「.....あ。」

 辛さに悶えながらも麻婆豆腐の美味しさを噛みしめる優輝。
 それを見ながら、奏は残りを食べようとして、ある事に気づく。

「...間接キス...。」

「っ....!?」

「落ち着いて司さん。」

 奏が使っていたレンゲを、優輝も使ったため、必然的に間接キスとなる。
 そんな奏の呟きを聞き、司は思わず立ち上がってしまい、アリサに窘められる。

「.........。」

「あっ....。」

「やっぱり意識しすぎだよね、司さん...。」

 少し照れながらも、食事を再開する奏に、司は残念そうな声をあげる。
 それを見てますますすずかは苦笑いした。

「あははっ、優ちゃーん、楽しんでるー?」

「葵!?...って、酒の匂い!?もしかして酔ってる!?」

 後ろから葵が抱き着くようにやってくる。
 そして、香ってくる酒の匂いに気づいた優輝は、大人組の所にある酒を見つける。

「ちょっと、何やってるのよ葵!優輝が困ってるでしょ!」

「あはは、あははは!」

「なんでこんなに酔ってるんだよ...。」

 椿がすぐに駆け付け、葵を引き剥がす。

「...ユニゾンデバイスになったから、体質が少し変わったのだと思うわ。」

「あー...そういえば、今まで葵は酒を飲んでなかったな...。」

 詰まる所、“酒に慣れていない”状態なため、葵は酔ってしまったのである。
 ちなみに、見た目と年齢は全然違うため、未成年飲酒にはならない。

「...ところで、椿と葵はさっきまでどこにいたんだ?」

「那美と久遠の所よ。事件の時や、神社滞在で世話になったからね。」

「なるほど。」

 その時に酒を飲んだのだろうと、優輝は結論付けた。

「あははー。」

「...とりあえず、酔い覚ましの一発。」

「はぷっ!?」

 優輝が霊力を込めて葵を一発はたく。
 その際に、霊力を体内のアルコールを中和するように循環させる。

「...相変わらず器用ね。」

「使える力が少ない分、精密さを磨くからな。」

「う、うーん...。」

 はたかれた葵は、少しアルコールが残っているものの、酔いが覚めたようだ。

「手慣れてるなぁ...。」

「...優輝さんは色々と器用だから。」

「何か才能があるっていうより...極めるのが上手いんだよね。優輝君は。」

 手慣れた様子な優輝を見て、司と奏はそう呟く。
 前世から優輝を知っている分、改めて優輝の凄さに感心していた。

「あー、酔ってハイテンションになってたよー...。」

「ほら、水でも飲んでスッキリさせろ。」

「ありがとー...。」

 水を飲んで葵も復帰する。
 さすがに序盤で酔いつぶれたらせっかくのパーティーの意味がない。

「...各々で楽しんでる感じね。」

「まぁ、無理に一緒になっても意味がないしな。楽しんだ者勝ちだ。」

 椿が周りを見渡しながらそう呟き、優輝が頷く。
 集まった皆はいくつかのグループに分かれ、それぞれで楽しんでいた。

「...ところで、どうしてアリシアは燃え尽きているのかしら?」

「まぁ...自業自得...かな。司に余計な事を吹き込んだみたいだし。」

「ならいいわ。そっとしておくわ。」

「少しは構って!?」

 あんまりな扱いに、思わずアリシアは起き上がって突っ込む。

「ほら、元気になった。」

「嵌められた!?」

「じゃあ、続きと行こうか?」

「まだあったの!?」

 司も気分が乗ってきたのか、悪ノリを始める。

「っと、そうだ司。少し聞いておきたい事が。」

「え?何かな?」

 ふと思い出したように、優輝は司に声を掛ける。
 司も少しは慣れたのか、必要以上に緊張する事もなくなっていた。

「結局処遇についてはどうなったんだ?クロノ達が頑張ったとは言え、お咎めなしにはならなさそうだけど...。」

「あー...やっぱり気づいちゃうのかぁ...。」

「さすが優輝君...。」

 司本人と、事情を知っているアリシアは感心したように言う。
 つまり、優輝の言った通りなんのお咎めなしという訳ではないという事だ。

「でも、犯罪者扱いにはなっていないよ。ただ、少しの期間は管理局に無償奉仕だって。」

「少しの間か...。...軽いな。」

「もっと重いと私も思ってたよ...。」

 本来なら犯人扱いな所を被害者に変えたとはいえ、司がジュエルシード...つまりロストロギアを無断使用した事には変わりはない。
 それがいくら緊急時且つ必要であっても、罰はあるのだ。
 尤も、それがあまりにも軽いと優輝達は思った。

「ジュエルシードは?」

「以前と同様、本部で管理だよ。ただし、より厳重にね。」

「なんか、勿体ないな。せっかく天巫女としての力が使えるのに。」

 元より、ジュエルシードは天巫女一族の所有物である。
 事件に大きく関わっていたとはいえ、使えないのはもったいない。

「シュライン曰く、私が呼び出そうとすれば呼び出せるみたいだよ?あの時力を使い果たしたけど、今はもうそれなりに回復してるらしいし。」

「管理局涙目だねー。せっかく封印魔法掛けたのに、それを無視されるんだもん。」

「それでいいのか管理局...。」

 ジュエルシードの事は仕方ないとしても、そう思わざるを得ない優輝だった。

「あたし復活!」

「まだ気分が高揚してるわね。久しぶりの宴だからかしら?」

「な、流れるように頭に矢を刺した...。」

 そのすぐ傍で、テンション高めに復活した葵に矢をツッコミ代わりに直接刺す椿と、それを見て少々引くアリサとすずかがいた。
 ちなみに、奏も表情に出していないが驚いてはいた。

「ほら、こんな話は終わって、楽しもうよ!」

「そうだね。」

「ああ。」

 そんな様子を見て、優輝達もパーティーへと意識を戻す。

「前に見た時も思ったんだが、葵はそれされて大丈夫なのか?」

「んー?慣れてるから大丈夫だよ。」

「慣れる程経験があるのか...。」

 見れば、刺している椿もそれが当然だと言わんばかりに葵を放置していた。
 その様子から余程慣れているのだと、その場の全員が思った。

「...こっちもこっちで楽しんでますね。」

「あ、リニス。」

「私もこっちに同席するようにと、プレシアとリンディ提督に言われたので。」

 そこへ、リニスも同席するようになる。

「ところでどうして葵さんは頭に矢を?」

「いつもの事だよー。」

「...そういえば神社でも何度かありましたね。」

 神社でも似たようなやり取りをしていたため、リニスも何度か見た事があったようだ。

「それはそうと優輝さん、シャルラッハロートは大丈夫ですか?」

「あー...その事か...。」

 シャルラッハロートは、アンラ・マンユとの戦いで神の力の代償として優輝の腕と共に、ボロボロになってしまった。
 コアは無事だが、“代償”のため、自己修復では中々直らなくなっている。

「僕の腕と共に少しずつ直っているみたいだ。僕自身も直しに掛かっているけど、やっぱり何らかの力が働いて直しきれない。」

「そうですか...。」

 優輝の腕も治療魔法をかけても回復しない状態になっている。
 治療や修理をしても決して全快はしなくなっているのだ。

「それが神の力を使った代償よ。...むしろ、その程度で済んだのが凄いわ。」

「本来なら腕を消失してるとか...それぐらいだよね?」

「ええ。しかも、あれほどの威力なら腕どころか命を対価にする程よ。本来ならね。」

 椿と葵の言葉に、アリサとすずかは顔を青くする。
 話に少しは聞いていたとはいえ、一歩間違えればそうなっていたと理解したからだ。

「例え神職者でも、腕を対価にするのが限界よ。それを傷を負う程度に済ませたのは...。」

「神降し後だから....じゃないのか?」

「...それが、私にも分からないのよ。その様子だと、優輝も分からないのね。」

 そう、実は“代償”がその程度で済んだ理由が、椿でさえ分からなかったのだ。

「本来、“代償”で失ったものは元に戻らない。でも、優輝の場合は少しずつ治っている...それも異常なんだけど...原因が分からないのなら、仕方ないわね。」

「....“代償”関係なしに回復する可能性は?」

「絶無と言っても過言じゃないわ。....でも、ゼロでもないわ。」

 “代償”というのは、大抵が対価となるモノの“存在”と引き換えとなっている。
 だが、相当軽い“代償”であれば、“傷”で済む場合がある。
 それならば治るので、椿は可能性がゼロではないと言った。

「...とにかく、今後は絶対あんな事しないように。今回と同じ結果とは限らないんだから。」

「分かったよ。僕だってあれを使う機会は来て欲しくないから。...心配性だな椿は。」

「なっ...!?勘違いしないでよね!?ただ私が見てられないだけなんだから!」

「それを心配性というんだけどなぁ、かやちゃん...。」

 ドスリとまたもや葵の頭に矢が刺さる。
 刺した張本人である椿は、顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

「....むぅ...。」

「......。」

 その様子を見て、司が面白くなさそうにし、奏もどこか不満そうになっていた。

「あっれ~?司と奏、もしかして妬いてる?ねぇ、妬いてる?」

「司?...なるほど...。アリシア、からかいすぎはよくありませんよ。」

 さらに、その二人に対しアリシアがからかい、リニスが事情を察する。
 また、リニスは精神リンクから司の感情を読み取り、アリシアに“忠告”をする。
 ...そう、“忠告”だ。

     ガシッ

「....あ....。」

「アリシアちゃん...“お話”の続き、する?」

「...私も、少し“お話”したいわ。」

 挟むように司と奏がそれぞれアリシアの肩を掴み、逃げれないようにする。
 二人の雰囲気に気づいたアリシアだが、時すでに遅し。もう逃げられなかった。

「わ、私はパーティーを楽しみたいなぁ...なんて...。」

「大丈夫。パーティーは結構続くから。」

「ご、ごめんなさーい!」

 琴線に触れてしまったアリシアはそのまま司と奏に“お話”されるのであった。

「...だから言いましたのに...。」

「またか...。」

 溜め息を吐いて呆れるリニスと優輝。

「司ちゃんちょっと変わった?」

「...まぁ、アリシアに余計な事吹き込まれて少し怒っているからな...。そこにあんな煽りが入れられたらそりゃあ...ね。」

「あー....。」

 矢を抜きながら聞いてきた葵に、優輝は達観した目でそう言った。

「卑屈にならなくなったのは、良い変化ですね。」

「ようやく救われたって事さ。優しいからこその心の脆さ...それがあいつの欠点だったからな。一度否定され、そして吹っ切れたのなら、その欠点も克服しただろう。」

「...だといいですね。」

 優輝の言葉のおかげで、司の考え方は少し変わった。
 自分を卑下する事が滅多になくなり、ネガティブな思考にならなくなったのだ。

「あれはあれで問題がありそうですが...。」

「...あれはただの反動だろう。...そうであってほしい。」

 アリシアに対し、“お話”をする司を見てリニスと優輝は苦笑いする。
 実際、恋心をからかわれて少し怒っているだけで、二人の心配は杞憂である。

「あたし達...。」

「やっぱり、どこか蚊帳の外...。」

「まぁまぁ、今の内に料理を楽しめばいいんだよ。」

 二人に置いて行かれるように、アリサとすずかが呟く。
 そんな二人に対して、葵が励ましついでに用意されていた料理を渡す。

「士郎達、本当に色んな料理ができるのね...。さすが店を経営してるだけあるわ。」

「やぁ、皆楽しんでるかい?」

 椿が料理の豊富さに感心していると、そこへ士郎がやってきた。
 どうやら、皆が楽しめているか少し見回っているようだ。

「噂をすれば...ね。」

「...楽しんでいるようだね。それにしても、司ちゃん達はいいのかい?」

「...まぁ、大丈夫でしょう。優輝とリニスが一応見てるもの。」

 少し周りに咲いている花から、椿たちは楽しんでいるのだと士郎は察したようだ。

「詳しい事情はよく知らないけど...大変だったようだね。」

「そうね。まさか半年前の事件が続いていただなんて、予想できないわよ。」

「だけど、解決したおかげで、司ちゃんはああして本当の笑顔になれた。」

 士郎が見つめる先は、今まで心から笑っていなかった司の笑顔。

「...あれはまた別よ。」

「...そうだね。」

 ただし、それは“お話”している際の笑顔なため、思っていた笑顔と違った。

「神社にいた時に見た笑顔は、本当に幸せそうだった...。」

「事実、幸せになれたのよ。司は。」

 まだ優輝達が神社にいた時、士郎も様子を見に来ていた。
 その時に、本当に幸せそうに笑っていた司の笑顔も見ていたのだ。
 だから、士郎も司が“幸せになれた”と思ったのだ。

「...その“幸せ”の要因が要因だから、少し妬くのだけど...。」

「何か言ったかい?」

「...別に。」

 少し頬を膨らませそっぽを向く椿に、士郎は“優輝君も罪だなぁ”などとつい思った。

「(今分かっているのだけでも、椿、葵、今はいないけど緋雪ちゃん。それと、勘だけど司ちゃんと奏ちゃんも。...まだ分からないのはアリサちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃんだな。)」

 勘のいい士郎は、優輝を好いている面子を予想する。
 なお、その予想はほとんど当たっていたりする。

「まぁ、頑張って。僕は他の場所に行くよ。」

「....?え、ええ。」

 “ライバルは多いぞ”などと士郎は椿を心の中で応援しながら他の場所へ向かった。
 椿は一体何の事かは分からなかったため、諦めて食事に戻った。







       =優輝side=





「.......。」

 パーティーが続く喧騒を、僕は眺めるように無言で見る。
 アリシアは既に司や奏から解放され、皆と同じように楽しんでいる。
 司と奏も同じように楽しみ、皆が皆、雑談などで楽しんでいた。

「...どこか、嬉しそうね。」

「...そう見えるか?」

 皆を見ている僕の所に、椿と葵がやってくる。

「ええ。前世があるからか、どこか老成した雰囲気だったわよ。」

「失礼な。未だに老いた事はないっての。」

 前世でも30歳に届いていないのに。
 ...あれ?むしろこれって長生きできてないから悲しいんじゃ...。

「でも、まるで孫たちに恵まれて、それを眺める人みたいだったよ?」

「ひどいな...。」

 葵にまでそう言われて、若干へこむ。

「...それで、何が嬉しかったの?」

「まぁ、あれだよ。...“日常”が戻ってきた感じがあってな...。」

 今まで、戦いの連続だったため、こうして平和になったのがどこか感慨深かったのだ。

「後は...前世での親友と知り合いに再会できたからかな...。お互い、一度死んでしまった事は残念だけど、再会できたのは素直に嬉しい。」

「そうね...。例え転生しても、再会できるとは限らないものね。」

 偶然なのか、必然なのか。僕らは三人共同じ世界に転生していたのだ。
 それこそ、“奇跡”とも呼べる再会だろう。

「...緋雪にも、知ってもらいたかったな。」

「雪ちゃんなら、知ったら知ったでヤキモチ妬きそうだけどね。」

「違いない。」

 きっと、頬を膨らませてそっぽを向いていそうだ。ほら、簡単に思い浮かぶ。

「雪ちゃんの分も、楽しまなきゃね。」

「ああ。そうだな。」

 僕はそう言って皆の所へ向かった。









   ―――生まれ変わり再会し、そして再び繋がった絆。



   ―――きっと、今まで以上に強固で、大事にしていくだろう。











 
 

 
後書き
今までのシリアスを浄化するかのように平和だ...。
まぁ、今までとの雰囲気と落差を付けたって感じです。日常を取り戻した的な。

“お話”はニコニコしながら色々言われる感じ。
明らかに怒っているのに常に笑顔なため、相当怖いです。
される側はその雰囲気に委縮してしまい、申し訳なさそうに相槌を返すしかできなくなります。

実は少し悩んでいた椿と葵に対する士郎の二人称...。
椿がかつて初恋の相手だった事もあり、呼び捨てにしました。 
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