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真田十勇士

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巻ノ八十一 上田城へその十三

「どうしたのじゃ、急にどうにもならなくなったぞ」
「敵の伏兵です」
「そして城からうって出てきました」
「忍術も使ってきますし」
「それで乱れておるのです」
「そうか、これはまずい」
 秀忠は狼狽したまま言った。
「一旦退き陣を整えよ」
「若殿、それはです」
 榊原は秀忠のその言葉を聞き血相を変えて彼に言った。
「なりませぬ」
「どうしてじゃ」
「ここで退いては陣形が乱れたまま逃げてしまいます」
 だからだとだ、榊原は歴戦の経験から話す。
「そうした状況で逃げては敵の思うままです」
「だからか」
「はい、それはなりませぬ」
「しかしそう言ってもじゃ」
 秀忠は一転して攻め立てられる己の軍勢を見つつ榊原に言う、
「この有様では」
「ここは一旦踏み止まりです」
 そしてというのだ。
「陣形を整え」
「そしてか」
「はい、退くことも攻めることもです」
 そのうえでというのだ。
「致しましょう、ですが」
「今すぐはか」
「なりませぬ」
 こう言って秀忠を止めようとする、しかしここは昌幸が一枚上でだった。彼は忍の者に命じた。
「すぐに敵の中に入りじゃ」
「そして、ですか」
「退きの法螺貝を鳴らせ」
 徳川方のそれをというのだ。
「よいな」
「わかり申した」
 徳川方の動きが乱れたままであるのを見てすぐに手を打った、そしてその退きの法螺貝の音を聴いてだった。徳川の兵達はすぐに動いた。
「退きじゃ!」
「退けとのことじゃ!」
「すぐに退け!」
「城攻めは止めじゃ!」
 攻め立てられながらも逃げ出す、榊原はそれを見て今度は彼が血相を変えた。
「何っ、兵達が逃げておるぞ!」
「今しがた退きの法螺貝が鳴りました!」
「それで兵達が逃げております!」
 伝令の者達がすぐに駆け付けて言ってきた。
「そのせいで」
「我等の軍勢が」
「今度はどうしたのじゃ」
 自身の命を待たずに逃げはじめる軍勢を見てだ、秀忠はまた言った。
「一体」
「わかりませぬ、何者かが退きの法螺貝を吹きました」
「また真田の策か!?」
「わかりませぬ、ですが法螺貝の声は全軍に響きました」
 だからだというのだ。
「これでは」
「もうか」
「はい、こうなってはどうしようもありませぬ」
 こう秀忠に言った。
「ですから」
「そうか、ではな」
 秀忠も頷いた、そしてだった。
 彼は全軍に逃げる様に言った。その際彼は自ら殿軍を務めようとしたが榊原がそれを制した。
「それがそれがしが」
「しかしこうしたことも」
「御大将に何かあってはどうにもなりませぬ」
 だからだというのだ。
「ですからここは」
「御主がか」
「はい、後詰はお任せを」
「済まぬな」
「有り難きお言葉」
 こう秀忠に応えてだ、そのうえで。
 榊原は秀忠と軍勢の殆どを逃がす為に自ら後詰となり戦う。そうして軍勢を逃すことに成功した。しかし戦はこれで終わりではなかった。


巻ノ八十一   完


                         2016・11・10 
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