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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
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第57話 綴るモノたち

「ふむ、BMIシステム……現段階では特にデメリットを上回るほどの戦果、とは言えんな。」

 演習内容を巨大ディスプレイに映し出しながらフェニックス構想、プロミネンス計画の総責任者ハルトウィックが感想を口にする。

「ええ、再起不能な衛士が戦列に復帰できるという面ではメリットがあるかもしれませんがこの程度でしたら卓越した技量を持つ衛士ならば可能なレベル。手術の成功確率の低さを打ち消せるほどのメリットは無いように思われますわ。」

 そうなのだ、メリットとデメリットの実利が全く伴っていない。ゆえに未完成の技術なのだ―――このブレイン・マン・マシーン・インタフェースは。
 其れならばその経験を活かし後進の育成などに従事してもらうほうがよほど生産的なのだ。


「確かに、リミッターを解除すれば、人の限界を超えた戦闘力を発揮するものの……その人体には過剰な負荷がかかり、衛士を食い潰してしまう。
 実に未成熟な技術だ。しかし、それ故に強い――――しかし、本当に怖いのは彼のほうかもしれんな。」
「どういう事でしょう閣下。あの方は政治に向かない気質のように感じられましたが」

 ハルトウィックの言葉に首を捻る秘書。
 老齢に差し掛かったと言われても仕方がない年齢のハルトウィックと忠亮が戦場で相対することなどない。
 相対することが在るとすればそれはもっと大きな戦略的なものか政治の舞台となる。しかし、そんな場では脳みそまで筋肉で出来てそうな忠亮がハルトウィックの上を行くとは到底思えなかった。


「うむ、確かに政治には向かないだろう。しかし、彼の言葉には力がある。万人の誇りに訴えかけ、刃を取らせる―――そういう将器がある。
 あの手の男が敵になれば実に厄介だ。あとは優れた演出家でも隣にあろうものなら猶更な。」

 親子ほどに年の離れた秘書に告げるハルトウィック。
 比較的、そういった気迫を抑えて―――有体に言えば猫をかぶって相対していた忠亮だったがその本質はすでに見抜かれていた。


「実に、彼とは敵対したくないな。戦えばただでは済まないだろう、必ずな。」

 ハルトウィックは夕焼けに染まる空を窓越しに見つめながら呟くのだった―――まるで、それが回避できぬ運命であるかのように。









「閣下、ユーコンでの合同演習に彼が乱入したようです。」
「さっそくか。」

「瑞鶴を用いて各国の部隊を差し置いての好成績を残したようです――――しかし、よろしいのですか?」


 自室の椅子に背を預け、自らの顎を撫でながら物思いにふける斑鳩崇継に真壁助六郎が問う。

「構わん、例の作戦後の構想に於いて一助と成る可能性が高いからな。それに、見られて困るモノではないからな―――しかし、もう一つの要望のほうとなると些か問題があるな。」
「確かに、あの二つの国外への持ち出しとなると各方面からの反発があると思われます。」

 報告書を手に具申する真壁、それはテロ情報を欧州で手に入れた忠亮が城内省へと送付した意見書だった。
 そこには今回のユーコンへの移動と、来るべき日にテロに介入することで日本の影響力を高めるための計画が記されていた。


「それに99式を実戦で扱うともなれば、事前の実射試験は必須―――それに加え現地での防衛など他国勢力の手に渡れば厄介どころの話ではないですよ。」

「そうだな、だが危ない橋を渡るだけの価値はある。其方は工作を続けていくとしよう、時間はまだあるからな―――例の即応集中団に関してのほうはどうだ?」
「国内に於いて、という事であれば戦術機部隊として一個中隊なら組み入れることが可能とのことです。
 帝国軍に零式(タケミカヅチ)の限定的配備を行うという意見も出たそうですが城内省が首を断として盾には降らなかったそうです。」


 即応集中団、通称CRF。
 防衛大臣直轄の機動運用部隊だ。BETAによる本土蹂躙と明星作戦以降による本土奪還に合わせて作成された防衛大綱によって創設される部隊だ。

 人員は約4500名、三個部隊が予定。
 本拠地を神奈川に起き、新潟・佐賀・長崎・樺太など対BETA防衛線における不測の事態に於いて即時展開、遅滞戦闘と残存部隊の編制、バックアップなどを行うことを主目的とした部隊であると同時に、国内テロに対する即応も兼ねることが予定されている。

 その特性上、機動力と出力に秀でながら稼働時間の長い武御雷を求めるのは理にかなっている。
 しかし一時期、武御雷を帝国軍に配備する話も出たが、生産性の悪さと整備の煩雑さからまともな議論も無しに流れた経緯がある。

 ―――今から、武御雷を配備しそのバックパック人員を含めた部隊の創設を一からするのであれば最低半年は期間を要する。現実的ではない。
 しかも、瓦解した戦線での遅滞戦闘では野戦整備が常となる。ならば其処に存在するアフターパーツを使える機体のほうが都合がいいのは合理であり、その面からも武御雷を使うのは非合理となる。

 また斯衛軍を実質統括している城内省にとって、専用機というアイデンティティを失うのは絶対に避けたい案件でもあった。
 その折り合いとして出されたのが斯衛軍と帝国軍の混成部隊だ。

「……藤原を配するとするか。しかし、今の状態は難しいな―――冬に入る前に佐渡ヶを落としておきたいが、無理な相談か。」
「三つの戦線、その中で国内のハイヴは一つしかありませんから外交的な準備には相応の時間が掛かります――――世界大戦が危惧される現在、諸国との関係悪化は回避すべきでしょう。」


 世界大戦、その不穏な言葉。
 理由は単純明快だ、G弾とG元素という代替えの利かない資源。そしてBETAによる地形改造で真っ平になり、そこに住んでる人間など一人もいない―――つまり、早い者勝ちの椅子が其処にあるのだ。

 そしてG弾とは迎撃不能な戦略兵器……つまり、G元素を所持した報復が可能な国家のみが自らの自立を勝ち取れる。

 元々住んでた人間など知る事か、ただ先に占領した国家のみが相手よりも他国よりも優位に立てる、そして立てなかった国はその存亡を脅かされる。

 ―――実に壮大で、単純なゼロサム・ゲームが待っているのだ。

 対話による解決?そんなもの、軍事力の後ろ盾なくてはただ頷く以外の選択肢など一つとして存在しない。


「彼のこのレポート、どう思う?」
「‥‥有人機と無人機の混成運用。面白い発想ではあると思います……かつて奴が提案した三機運用体形に通じるものがあります。」


 通常、戦術機は二機で一組のエレメントと呼ばれるツーマンセルが基本戦術だ。これは戦術機は動作の入力と実行後に僅かながら操作を受け付けない硬直時間が発生するため、それを互いがカバーし合う必要があるからだ。

 しかし、この硬直時間は射撃に関して言えば、問題成ることは少ない。理由は単純明快で、戦術機の挙動の大小に比例しているだけだ。

 そこで、忠亮は三機……各小隊の指揮官が狙撃と支持を担い、前衛が近接格闘。中衛が前衛のフォローと時折ポジションの入れ替えを行う戦術を考案したことが在った。
 これは、忠亮が意識する視野と生存性を重視する戦術の一つであり、仮に一機が戦闘不能となっても、残り二機のが救助と防衛を行うことで衛士の生存性を上げつつより柔軟な部隊運用を行わせるという趣旨に基づいている。

 実際、彼の率いる部隊では試験的に導入されその生存性の高さは明星作戦にまで四国を完全にBETA支配圏とさせなかったことからも明白なのだ。
 また、戦力の補充が十全ではない前線に於いて奇数での部隊編成など珍しくなくそれを前提に於いた小隊運用は理にかなっていると言える、


「……問題は、この無人機体の調達だな。」
「このレポートに依れば、AIや遠隔操縦の負担を減らすためにモジュール装甲を多用した機動砲撃戦仕様が好ましいと……
 現在の日本帝国にこの要望を満たす戦術機は存在しません。尤も近しいのはF-15陽炎ですが………」

「あの機体は機体規模が大きすぎるだろ。被弾率やレーダー反面積に機体性能の陳腐さも含めてあまり有効とは思えないな。」


 機体に搭載される電子機器がハード、ソフト共に進化し戦術機どうしの戦いに於いては近接戦闘が発生する確率は低下の一途をたどっている。
 詰まるところ、戦術機の装備では搭載アビオニクスによる高精度射撃で大方の方がついてしまう。

 そして、その精度を落とすためにはステルスや機体の小型化といった要因が不可欠となってくる。
 しかし、機体の小型化であれば稼働時間、エンジン出力に対する機体強度などから機体性能が低下し、ステルス性ならば空力特性の悪化という結果をもたらす。


「将来的に国産化するとしても、当面無人機の研究をする必要があるでしょう‥‥この要望に沿う機体と成れば、F-16かF-18が尤も近しいかと。」
「確か、防衛省に退役するF-4をF-18Eで代用するという案があったな。それに便乗するか。」

「ええ、確かにそのような案もありましたね。結局は海外機故のドクトリンの不適合(ミスマッチ)などから見送られたと。」

「しかし、海外派兵も考えねばならぬ昨今の情勢だ。艦載機について研究しておくのも悪くはないだろう―――F-18(レガシーホーネット)を輸入し改修するのならちょうど良いだろうな。」
「なるほど、米国は凡庸な機体性能しか持たないレガシーホーネットの扱いに苦心していますからね。艦載機に関する研究ならばこの機体で事足りる。
 それに後継機種であるF-18E(スーパーホーネット)は再設計に伴う大型化ですでに軽量機のカテゴリーからは逸脱する規模……このレポートの検証用としては不向きなので丁度いい。」


 F-18C/D、現在の米軍海兵隊・海軍で運用されているF-18Eスーパーホーネットの前身となる機体であり、再設計のあまりに同一個所を探すほうが困難という全く別の機体だ。
 元はF-15、F-14の機体がその巨体ゆえに運動性能に劣る事と価格が高騰化したがためにすべてのF-4を置き換えることが出来ないという事情に対し開発された軽量小型戦術機としてF-16と共に開発されたYF-17を艦載機に改造した機体だ。

 そのため、機体重量は増加し推力と重量比率は他の機体に劣るという中途半端な機体となってしまった。
 しかし、その汎用性は高く。それを評価した米国によって強化型のF-18Eが開発、実戦配備が行われたという経緯を持つ。

 現在、オーストラリアや大東亜連合などの諸外国への強化型の開発と実戦配備が行われている機体でありボーニング社のベストセラー機だ。

 ―――そして、XFJ計画の開発協力企業もボーニングだ。渡りはつけやすい。


「そういうわけだ、では頼むぞ。」
「はっ――――ああ、それと例の試作管制ユニットですが、ようやく横浜から届きました。」

「ほう、存外に早いな……流石だな。」

 真壁の次なる報告に感嘆の息を吐く斑鳩崇継。
 横浜という単語、一般的な帝国軍将校ならば其処からは魔女という言葉が連想され眉を顰めるただろう。
 だが、それに反し斑鳩崇継は満足げな表情であった。

「どうやら、類似するシステムを例のユニット用として研究していたようです。問題となるインターフェース周りはそのまま流用して完成させたようです。」
「確か、人型コンピュータの機能拡張デバイスだったか。其方のほうは入手に関してアメリカとの交渉が難航しているのだったな。」

「ええ、しかしアメリカも使い道のないガラクタを後生大事にしまい込んでどうするつもりなのでしょうね。」
「怖がっているのさ―――現在、世界でG元素の獲得に成功したのは日米二か国だけ。彼らが完成させれなかった其れを我が国が完成させることをな。」

「なるほど……」


 主君の推察に納得する真壁、類似する案件は過去幾度となく見られた。
 近年では固体燃料ロケットなどがその代表と言えるだろう。


「香月女史にはせいぜい頑張ってもらおう、世界を救ってくれねば我々も困るからね。―――ではそのユニットをATRXに組み込め。
 ――――彼と、いずれ彼が率いるであろう若人たちには伝説となってもらおう。夜明けの伝説がもうすぐ幕を開けるのだ。」
「他の誰でもない我々の手で……ですね。」



 
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