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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~

作者:DEM
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第八話 運命 ―デスティニー―

 その日、紗那は家の用事で来られないと言っていたので疾風はひとりアズールにいた。コミュエリアで他のデュエリストのデュエルを見つつ、もはや彼のトレードマークとなりつつあるコーヒーをすする。この日は珍しく微糖だったが。彼はひとつのモニターを注視しており、そこでは二人の少女が戦っていた。

 片方は藍色のチャイナドレスのようなバリアジャケットを纏い、身の丈ほどもある青いベースに金の装飾が施された、片刃の大剣を振るう少女。涼しげな目元とセミロングほどの髪、そこに紫陽花のコサージュを着けている。柄の部分には瞬間的な魔力増幅装置、カートリッジシステムが搭載されているようで、多少メカニカルな部分が見て取れる。

 もう片方は水色の髪を両脇でリボンで結わえ、後ろはストレートに下ろしている勝気そうな少女だった。白を基調として水色のラインが入ったレオタードのようなジャケットの上から、所々に青みがかった銀色の籠手や肩当を着けている。翼のように展開される小型の短刀が自在に戦場を翔け、さらに右手の騎士剣で戦っている。

(なぎさ)の奴、相変わらず剣士に挑んでるのか……それにしてもなんだ、あのもう片方の翼みたいなやつ」

「あれは“ソードビット”ですね。ビットの近接タイプで、自分の意志で操作することのできる小刀、といったところでしょうか」

「……あ、花梨さん。ビットってあんな風に近接タイプもあるんですね。てっきり遠隔射撃だけなのかと」

 呟きに後ろから返事が聞こえて疾風が振り向くと、花梨が近づいてきているところだった。会釈した花梨は疾風の向かい側に座り、解説を続ける。

「一般的にはそうですね。自分の周囲に展開される浮遊装備、ビット。その強みは自分の意思で位置取りをして自在に操り、相手を翻弄することができるという自由度にありますから。……とはいえ自分の意志で、とは言いましたがこれが意外と難しいんですよ。なにしろ三次元的に操作して相手と戦うわけですからね」

「えぇ、わかりますよ。平面ならともかく、三次元的に距離感を掴むってのは結構難しいですからね。相当な空間把握能力が必要になると思います。それを六本も同時に使ってんだから……どれだけすごいデュエリストなのかわかるってもんですよ。確か二つ名は“剣舞の乙女”、でしたっけ?」

「そうです。“剣舞の乙女”、名前は霧原(きりはら) 乃愛(のあ)。彼女はロケテスターですからね、だいぶ長いことあのジャケットと武装を使い続けてますから……相当な熟練度だと思いますよ」

 空間把握能力、と大げさに言うが、それは何も超能力のようなものではない。自分からどれくらいの距離と位置に対象があるのか正確にわかる、簡潔に言ってしまえばそれだけのことだ。だが、これが意外と難しい。

 ゲームセンターのクレーンゲームを思い浮かべてみればわかりやすいだろう。縦と横の二軸を合わせてクレーンを景品に近づけ、取る。しかし自分が想像した距離感と実際の距離が一度で一致するのは、極めて稀なことではないだろうか。乃愛はそれを実行しつつさらに高さも加味し、かつ六つ同時に操作しながら自分も攻撃しているのだ。どれだけの離れ業をやってのけているのか、わかるというものだろう。

「とはいえ、それを捌いてる渚も相当なもんですけどね」

「おや疾風さん。“青き氷の剣使い”とお知り合いで?」

「前に何度かやりあったことがあるだけですよ。なんか気に入られたのか再戦はよくしますけど。他にも何人かお気に入りの剣士がいるとかで……なんだっけ、最近話したところだと“雷切”とかいう技を使うデュエリストが良かったとか言ってたような。まぁ、俺も剣縛りの戦いなんてそうそうしないですからね。楽しくはありますが」

 そう、疾風も戦ったことがあるという“青き氷の剣使い”こと(かつら) (なぎさ)は、時折相手に純粋な剣のみでの試合をもちかけることで知られている。その理由を知る者はそう多くはないのだが、疾風は話の流れで聞かせてもらったことがあった。

「なんでも、渚のデバイスには変化形態が一つもないらしいんですよ。でもそれならそれだからこそ、剣技だけでどこまで行けるのかやってみたい、って……魔法がちょっと苦手、っていうのも言ってましたけど」

「なるほど、そうだったんですか。ということは今日は剣での決闘モードってことでしょうか。属性持ちなのに氷を使われていませんし。それに合わせてなのか、乃愛さんの方もスキルを使われていないようですが」

「だと思いますよ。とはいえ、あんまり手数が多いと対応しきれないみたいですけど……っと、言ってるそばから」

 と、二人の見つめるモニターの先では、渚が乃愛のソードビットと剣の同時攻撃を受けて倒されていた。それで決着となり、乃愛の勝利となる。

 対戦が終わった二人はシミュレーターから出て二言三言話すと、別れて歩いていった。乃愛の方をなんとなく見ていると、彼女に向かっていく一人の少女の姿があった。オレンジの髪をふんわりとコンパクトにまとめた、優しそうな雰囲気の女の子だ。

「やりましたね、お姉様! カッコよかったです!」

「あぁ、フィリア。ありがと、結構キツかったけどなんとかなったわ」

「キツかったなんて、そんな風には見えませんでしたよ?」

「ううん、ちょっと危なかった。やっぱりこっちはスピード系で向こうはパワー系だから、向こうの攻撃には当たっちゃダメだわこっちの攻撃は当たってもダメージが少ないわで……」

「さすがですお姉様!相手に勝っても自己分析を怠らないその姿勢……素晴らしいですわ!」

「にょわぁ! ちょっとフィリア! わ、わかったから離れて! 抱きつかないで!」

 きゃいきゃい話している二人を眺め、疾風がどういう関係かと首を傾げていると、花梨による説明が入った。

「お姉様……?」

「彼女は霧原フィリア、乃愛さんの妹さんですよ。お二人はチームを組まれていて“ブレイヴァーズデュオ”っていうんですが、姉妹だけあってコンビネーションバッチリなんですよ」

 そう解説してくれる花梨。ブレイヴァーズデュオはブレイブデュエルにおける上位チームのひとつであり、近接攻撃の姉と魔法攻撃&支援の妹、というバランスのとれたチームなのだそうだ。が、疾風はその中で気になったことがあって少々驚いていた。

「……チーム? え、二人だけで?」

「はい。……そういえば疾風さんは、紗那さんとチームというわけではないんですね。今気付きましたが」

「いや、二人でも組めるなんて知りませんでしたし……というか、二人だけのチームなんてあるものなんですね。チームっつーと言葉の響き的になんとなく大人数のイメージがあって」

「割りとありますよ、先ほどのブレイヴァーズデュオみたいに。他にも双子星、ナックルタッグ……とか。そのあたりですね。同性のペアも異性のペアもありますし」

「あるんですか……」

 コーヒーをすすりつつ、意外だったなと思う疾風。以前紗那に有名なチームを教えてもらった時、フローリアン姉妹はチームとは言っていなかったし、それ以外は全て大人数だった。なので先入観から、大人数でなければいけないのではないかと思ってしまっていたのだ。では不自然ではないのか……とは思いつつ、では組もうか、というような気にもなんとなくならなかった。

「チーム……か」

 だが、その言葉はなんとなく疾風のなかに残った。







「チームかぁ。確かに考えたことなかったね」

「だろ? 二人組でもいいとか知らなかったしさ」

 そんなこんなのある晴れた日。紗那と疾風の二人は、揃ってアズールに向かって歩いていた。駅の近くに用があったので、それを済ませてから向かっているのだが。

「でも確かにチームがあると集団戦とかもできるようになるし、楽しそうではあるよね」

「じゃあ組んでみるか? 話によると5人くらいがバランス良いらしいんだよ。メンバーは俺と紗那は確定として、あとは……」

「わ、私と組んでくれることは確定なんだ……」

「当たり前だろ、お前抜きでどうやってチーム組めってのさ」

「そ、そっか……嬉しいけど……となると、あとは誰が……あっ」

 ドンッ

 と、話に夢中になって注意力が散漫になっていたのだろうか。曲り角に差し掛かった時に突如人が現れ、紗那が誰かとぶつかってしまった。よろめいたところを疾風が支えたので転んだりすることはなかったが、相手方のものが何か落ちてしまったようで落下音が聞こえた。

「紗那、大丈夫か?」

「う、うん……私は、平気」

 特に怪我がないことを確認し、二人は相手が大丈夫だったかと目をそちらにむけた。視線の先にいたのは、年下……おそらく中学生くらいの女の子と同年代の男の子で、女の子を男の子が受け止めていた。茶髪に青い瞳の表情が読みにくい少女と、黒髪の落ち着いた雰囲気の少年だ。怪我はないようだったがどうやら落ちてしまったのはその女の子のブレイブホルダーだったらしく、中身のカードが地面にばらけてしまっていた。

「あの、申し訳ありません」

「いえ……わ、私の方こそご、ごめんなさ、い! あ……カ、カードが……すぐ拾うか、ら!」

 相手の女の子が謝ってくるが、紗那の方は相手のカードを落としてしまった、と慌てていてそれどころではない。すぐにしゃがんでカードを拾い始め、疾風もそれにならう。が、疾風の方は相手について何かが気になっているようだった。

(この女の子……どっかで見たような……?)

「いえお気遣いなく。私の連れと一緒に拾いますので」

「さらりと人を使う奴だな」

「そういうことを言っても拾ってくれるのがあなたでしょう?」

 男の子は女の子の言い草に嘆息するが、それでも腰を落としてカードを拾い始めるあたり仲は良いようだ。そこそこの量はあったものの4人でかかれば速いもので、すぐに残り数枚というところまで来る。落ちただけで擦れたり濡れたりしたわけでもないので、傷や汚れなどもなさそうだ。が、最後のカードを手にした紗那が何故か悲鳴を上げた。

「こ……こここのカ、カード!?」

 なんだぁ!? と突然の大声に驚いた疾風は紗那に近付く。どうやら持っているのは相手の少女のアバターカードらしいが……

「え、え……うううそ。な……何でシュシュシュ、シュテルさんがこここここんなところ、に!?」

 そのシュテル、という単語を聞き、さらに紗那が手にしているカードと目の前の少女を見比べて疾風も目の前の少女が何者なのか、ようやく思い出した。シュテル・ザ・デストラクター。ブレイブデュエルの頂点であり、紗那憧れのデュエリスト。……が、それに気付くも疾風はそれどころではなかった。

「お、おい紗那! とりあえず落ち着け……って、おい紗那!」

 あまりにビックリしたのか、紗那が完全に放心してフリーズしてしまったのだ。こんな状態になった紗那は初めてなので、疾風は若干焦る。……もっとも、こちらが驚いている意味もわかっていないだろう相手の二人の方が、唖然としている度合いは高いだろうが。

「おーい? ……ダメだ、完全に固まってやがる……」

 溜息を吐き、疾風は放心した紗那をお姫様だっこした。ワンピースなのでおんぶするのはよくないかと思ったのだ。その時に、紗那の握っていたカードと自分が拾ったカードを相手に返すのも忘れない。

「……お騒がせしてすまん。カード、これで全部かな?」

「はい、これで全てです。……そちらの方は大丈夫でしょうか?」

「いや、俺もこの状態になるのは初めてなんでどうだか……申し訳ないがこの通りになっちまったもんで、俺らは退散するぜ。本当は色々脅かしちまった詫びをしたいところなんだが……」

「いえ、少し驚いただけですのでお気遣いなく。ぶつかってしまったのも、こちらにも非はありますし……ところで話は変わってしまうのですが、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「いいぜ、なんだい?」

「私たちは“ステーションアズール”というゲームセンターに行きたいのですが、ご存じありませんか?」

「……アズールに行くのか。なら俺らも行き慣れてるし、実は目的地もそこなんだ。案内するよ」

 助かります、とお辞儀してきた少女、シュテルと連れだという少年を伴い、疾風は紗那を抱え直してアズールに向けて歩き出した。





 憧れ続けた人物との出会い。ついに運命は、交差した。 
 

 
後書き
 ということで、ついに紗那たちとシュテルたちが出会いました! ここから数話は、シュテルたちとのお話になっていきます。 
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